ゆっくりと、目を開く。
 見回せば、無限に湧き出る敵と戦っている仲間の姿が見える。

 敵は回りにたくさんいるというのに、自分はよく無事だったよな。

 そんなコトを考えているヒマはなく。
 身体に異常がないかを確かめるように腕を振る。

 異常は・・・ない。

 アヴァレスが治してくれたのだろう。
 疲れはもとより、気を激しく消費する天牙穿衝を使った影響すら感じられない。

「じゃあ、みんな・・・っ、よろしく頼む」

 天に刀を掲げる。
 埋め込まれた5色中4色のサモナイト石が明滅し、放たれた光があふれていく。
 弾き出されるように4つの光が飛び出し、1つへと収束していったのだった。





    
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜

    第83話  邪竜封印





「いっけぇーっ!!」

 身長以上もある杖を振り上げ、イリスは叫んだ。
 ファミィから譲り受けた魔力と、自分の内に残る魔力。
 属性こそ違うものの、魔力は魔力。
 混ぜ合わせ、多少不安定ではあるものの、1つにするにはさほど時間がかかることはなかった。

 彼女の声に応え、具現したのはロレイラルでも最高位の召喚獣、ヴァルハラ。
 巨大な砲をラグナスに向け、極太のレーザーを放った。

 狙いは口元。
 黒い光線さえ無効化すれば、厄介なのは湧き出る敵だけだと踏んだのだ。

【■■■■ーーーっ!?!?】

 レーザーがラグナスを貫き、咆哮があがる。





「やったっ・・・って、ウソでしょ!?」

 放たれたエネルギーをも取り込んで、自分のものとしていたのだ。
 口元の巨大な黒い光が一段と大きくなり、溢れ出すエネルギーがパリパリと爆ぜては消える。

「こんなの・・・ないよぉ・・・」

 地面に膝をつき、イリスは唇をかみしめた。




「大丈夫よ、イリスちゃん」
「え?」

 ほら、と。
 ファミィが指差す先にはの姿があった。

「おにいちゃん・・・」

 もう動けないはずなのに、彼の身体を淡い光が取り巻いていた。




















「膨大ナ魔力量ヲ感知。今マデニ感知シタコトノナイホドノモノダ」
「え、なんだっ・・・てェッ!?」

 クルセルドの声に反応しつつ、シュラは金棒を振り回す。
 数体の敵が宙を舞い、地面へと叩きつけられていた。

「オラアァァァッ!!」

 金棒を振り上げ、今度は思い切り地面へ。
 さらに数体が潰され、身体をひしゃげさせていた。

「あっ・・・クルセルド、あれじゃないのか?」

 周囲を見回し、目に付いた淡い光を指差す。
 その先には、刀を掲げたの姿。

・・・」

 意味もなく、名前を呟いていた。






















「見なよ、あれ」
「む?」

 周囲の敵を片付けたところで、カリンはとある方向を指差した。
 その先を望み、ソウシは声を漏らしていた。

「あいつ、あれほど気張っておいて、まだ動けるみたいだね」

 どんな身体してんだか。

 カリンは呆れたかのように呟いた。

「おそらくは、以前見た蒼き龍の力だろう。病以外なら死にかけていても全快できると、が言っていたからな」

 腕を組み、ソウシは光を纏うその姿を眺めていた。

「ホラ、敵さんが来たよ。そろそろ帰ってきなって」
「・・・どこから帰ってくるんだ、どこから?」

 まったく・・・

 視線をはずし、目を伏せたソウシは再び身体を振るう。








「ッ・・・、なぜだろうな」
「ん?」

 襲い来る敵を斬り伏せ、唐突に言葉を紡ぐ。

「私には、何とかなると思えてならないのだ。こんな状況でも、あの男を見ていると、な」

 ちらりと光を纏うを見やり、戦闘中であるにもかかわらず笑みをこぼした。
 聞いたカリンもただ笑みを見せ、

「偶然。今、あたしも同じコト思った」

 細い紫の光線を避わし腰を落とすと剣先を地面に向け、トリガーを引く。
 踏み出す足の力と共に、発砲の衝撃により突進を敢行。
 光線を放った敵までの間合いを詰めて、刀を横へ振るった。

「私たちの期待を裏切るでないぞ、

 呟きながら、刀を構えて他の敵との距離を詰めていった。


























「やはり、こうするしかないのですね・・・」

 アッシュに守られ、膝をついていたメリルはそう呟いていた。

「倒すのが無理なら封印するしかない。最良の判断だとは思いますが・・・」

 歯がゆいですね、と。

 つぶやきながら、に向けていた視線をアッシュへと動かす。
 彼はただ1人、拳に魔力を纏わせて、一心不乱に敵を殴り飛ばしていた。

”僕と、一緒にいてくれないか?”

 先ほどの言葉が蘇り、頬を軽く染める。

 召喚術は、あと1回か2回が限界。
 でも、使えるなら私も戦える。

 視線の先にはところどころから血を流し、それでも戦うアッシュの姿。
 援護のためにと紫のサモナイト石を手のひらにのせた。



















「うぜェッ!!」

 槍を振り回し、バルレルは声をあげた。
 気色の悪い触手はうねうねと襲ってくる上、減る気配がまったくない。
 流れる汗を乱暴に拭って、槍へ魔力を流した。

「テメェら、まとめて消してやるぜェッ!!」

 魔力を帯びた槍は周囲に紅い光を纏い明滅。
 光は槍全体を覆う巨大な刃のような形を作り出した。

「うらぁぁっ!」

 柄まで届く刃を持つ槍を振りまわし、周囲の敵を薙ぎ払う。
 多量の斬り裂き音と共に、砂塵が舞った。

「チッ、なにかすんなら早くしやがれ。!!」

 コッチは疲れてんだァッ!!

 周囲に敵がいないことを確認したバルレルは、どっかと地面に座り込んで声を荒げたのだった。

























 刀から飛び出した4色の光は収束し、乳白色へと色を変えた。
 淡く明滅すると強い光を放ち、周囲を包み上げる。

「っ!?」

 眩い光に耐え切れず腕で顔を覆い隠すと、その次の瞬間。

『・・・・・・っ!!』

 声なき声が耳へと飛び込んできていた。
 薄目を開けて状況を窺うが、発される光が強すぎて、とてもじゃないが目を開けていられない。

『ありがとう・・・』

 4つの声が、聞こえたような気がした。



















 放たれる強く真白い光。
 それを一身に浴びた敵の軍勢は音もなく動きを止め、粉のように崩れていく。

【これは・・・っ、また・・・貴様らか。ニンゲンに創られし四界の獣よ】

 光の中で、ラグナスはそう呟いた。

『ボクたち以外に、こんなことできるヤツはいないよ』
『また、てめえを封じに来たぜ』
『我らは、我らの成すべきことを・・・』
『今回は、私たちの意思で貴方を封じます。前回のように、剣の中というワケにはいきませんよ』

 収束し、1つとなったはずの白い光の中から、4つの声。
 耳ではなく頭の中に直接話すように、ラグナスの声と同様のそれで、4体の召喚獣たちは話していたのだった。

【貴様らの意思で、か・・・ずいぶんと落ちぶれたものだな】
『落ちぶれたワケじゃないさ。キミを剣に封じた後、廃棄されたボクたちの願いを叶えてくれた彼のためにココにいるんだ』
『彼はニンゲンだが、極めて特殊なニンゲンだ。我らと自分は対等だと、そう言っていた』

 低く太い声が、ラグナスの頭に響く。

 おかしなニンゲンだ、と。

 比較的高めの、どこか砕けた口調の声が続く。

【ふん、戯言を。所詮ニンゲンなど、なにを言っていようが最後には切り捨てるのだ】
『彼は、主のいない召喚獣の気持ちを、よく理解しています。切り捨てることなど、絶対にありえません』

 ありえない、と言い切った女性特有の高い声を聞き、ラグナスは押し黙る。

『貴方も彼と向き合い話をしていれば、このような結果には・・・』
【だまれぇぇっ!!】

 ニンゲンは認めない。

 そんな考えを覆そうと紡がれる言葉を遮り、黒き邪竜は叫び声を上げた。

【話をしようが何をしようが、我がニンゲンを認めることなど有り得るはずはない!】

 彼は人間の都合で切り捨てられた、数多の召喚獣たちの集合体。
 見捨てられ、周囲からも嫌悪の視線を向けられ、結局は邪魔だからと刃を向けられて。
 その気持ちを理解しようなど、無理な話だった。

 だからこそ、なにがあろうと人間を信じることはないのだと。
 彼は半ば叫ぶように声をあげた。

【もう、話すことなどない。貴様らは、我がまとめて取り込んでやろう!!】

 言葉と共に、ラグナスの身体から黒い煙のようなものが噴出し、白を侵食していく。

『残念です。もう、分かり合うことはできないのですね・・・』

 その言葉を最後に、侵食してきていた黒の部分を塗り潰すかのように周囲を支配していく。
 そして、黒の部分と白の部分がぶつかり合い、せめぎあう。
 多少、白が押しているようにも見受けられる。

【この程度か・・・】

 ラグナスはつぶやくように言うと、

【ならば、一気に消して見せよう!】

 黒は、一斉に白を押し出し始めた。








『言ったはずだよ。ボクたちは自分の意思でキミの前に現れたって。前みたいに、強制ってワケじゃないからね〜・・・』
『悪いがよ、お前に俺たちを取り込ませるわけにはいかねえんでな』
『世界を思う彼のためにも、ここで貴様を封じねばならないのだ』


 4つのうち、3つの声がどこか、決意のこもった声を漏らす。


『私たちは、貴方を封じます』


 言ったが最後。
 一瞬のうちに、白が黒を消し去った。

【グッ、グアアァァっ!!!!】

 ラグナスが白に包まれ、苦痛のような声と共に、消えていった。


























 強い風が吹き荒れ、は地面へと身を伏せた。
 あまりの強さに飛ばされてしまうのではないかと、とにかく地面にしがみつく。

 みんなは大丈夫だろうか?

 そんな考えがよぎるが、今は自分のことで精一杯。
 全員に気を配る余裕もなく。
 大丈夫だろうと信じる以外どうしようもなかった。




「うわぁっ!!」




 一段と光が強まり、爆ぜた。










第83話でした。
すいません、執筆の都合で最終話を2つに分けることになってしまいました。
エピローグ含めてあと2話とお伝えしたはずがこのような形になってしまったことをお詫びします。
ゴメンナサイ・・・



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