『剣への封印はすでに不可能です。かといって、倒すのも私たちを含めたところで無謀というもの』

 押し黙るにかまわず、ただ言葉を紡ぐのはアマテラス。

『ならば、封印する以外に方法はありません』
「封印って、どうやって・・・」

 封印するための剣は、すでに存在しない。
 それ以前に、封印の方法すらわからない。
 どうすればいいのか、と尋ねるのは当然のことだった。

『かつて、クレスメントと名乗る強大な魔力を有する召喚師たちが、ただの剣に邪竜を封印し聖剣へと姿を変えました。剣は厳重に保管され、人の目に触れることは未来永劫ないだろうとも言われておりました』
「ちょっと待てよ・・・なんで君たちがそんな事知ってるんだ!?」
『簡単なことだぜ、

 放たれた問いへの答えとして、ユグドラースは声を上げる。


 放った言葉は、ただ一言。

 それでもを驚愕させるには十分で。




『俺たちゃあクレスメントの連中に作られた、人工の召喚獣だからだ』




 巨大な力はクレスメントに与えられたものなのだと。
 ユグドラースはそう言葉を紡いだのだった。





    
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜

    第82話  それぞれの道





「つくら、れた・・・?」
『そう。我らがなぜ、サモナイト石に入れられた状態でお前の刀・・・ミカゼにいたのか』

 これで理解ができるだろう?と。
 ファブニールは堅苦しい口調で話した。

 今、の使っている刀であるミカゼは、元々はカリバーン家の人間が鍛えたというだけの名もなき刀。
 クレスメントの一族は邪竜を封印するためだけに何人もの同胞を失い、その犠牲を経てまで作り出されたそれぞれの世界の属する4体の召喚獣が彼らだと。
 作り出された4体の召喚獣によって、邪竜は剣へと封印できたのだと。
 ファブニールは口にして、沈黙した。

『元よりそれだけのために生まれた俺たちだ。扱える人間がいねぇから、用が済めばお払い箱さ。そのままずるずると流れ流れてお前の手に渡った、ってワケなのさ』

 やるせねえよな。

 ユグドラースは、吐き捨てるように口にすると、落ち込んでいるかのように息を吐いた。

「そんなの・・・っ」
『ヒドイ、と思うかい?』

 はアヴァレスの声に押し黙る。
 自分たちの都合だけで自分たちを作り上げて、切り捨てたのだ。

 それじゃあ、ラグナスと同じじゃないか。

 の思考は、その部分だけが巡り巡っていた。
 自然と、表情が歪む。

『でもね、ボクたちはそうは思っていないんだ』
「え・・・」
『目的のために作り出されて、刀に封じられたまま廃棄されて・・・長い時を経て、君の手に来ることができたんだ』

 君と出会うことで、救われたんだよ、と。

 なぜ。
 なぜなんの屈託もなくそこまで言える?
 から考えれば気も遠くなるような時間を刀に押し込まれたままにされておきながら、なぜそんな言葉が出てくる?

『ボクたちはね。ただ一度だけ、もう一度外に出たかっただけなんだ』

 まるでの思考を読み取ったかのように、アヴァレスは言う。

『願いが叶った上に、君はボクたちが必要なんだと、力を貸してくれって・・・君はそう言ってくれたんだ』

 うれしかったんだよ、と。
 姿こそ見えないものの、にはアヴァレスが微笑んだような気がした。



『だからこそ、私たちは作られたこの命を貴方のために使おうと、決めたのですよ』
「っ!?」



 アマテラスから放たれた言葉に、は目を丸めたのだった。





















「ハアァッ!!」
「エェイッ!!」

 襲い掛かる無数の触手を、ソウシは声と共に薙ぎ払う。
 カウンターの要領でカリンは大剣を振るい、切り裂く。

 互いに背を合わせて、肩で呼吸をしていた。
 倒した数は、もはや両手で納まる数ではなく。
 ただただ襲い掛かる敵を斬り伏せていたのだった。

「・・・キリがないな・・・」
「ゼェゼェ・・・ちょっと、2人だけじゃ守りきれないかもねぇ」

 ただ言葉を交わし、それぞれの武器を振るう。


「はぁ、はぁ・・・あたしね。やりたい事ができたんだ」
「ほう・・・何をするのか、聞いてもよいか?」

 聞き返すソウシに目を向けず、大剣をとにかく振り回す。

「ッ・・・、この一件が終わったら、ヴァンドールを復興しようと思うんだよ。にも言われたように、いつまでもウジウジしてらんないから、自分の力で居場所を見つける。今のあたしには、それが必要だから」
「ふむ、では・・・私も手伝わせてもらうぞ。元よりヴァンドールは我が第二の故郷。・・・嫌とは言わせんぞ?」

 ちらりと互いの顔を見やり、笑みをこぼす。

「助かるよ」

 カリンはそれだけ言うと、再び前を見据えたのだった。
































「っ・・・機界の盟友よ、我が声に応え・・・っ!?」
「イリスちゃん!?」

 サモナイト石に魔力を込めようとして、イリスは前方に倒れかかる。
 名もなき世界から帰還しそのまま始まった戦いで、ヴァルハラを1回、さらにアーマーチャンプを1回と、彼女の魔力の9割以上を消費していたため、身体に力が入らないのだ。
 ファミィは彼女の元へ走ろうと力を込めるが、身体に力が入ることはなく。
 代わりに前のめりに倒れこむイリスの身体を、シュラが抱きとめていた。

「ダメだろイリス?お前はもう動けないんだから」
「でも・・・っ、ボク、足手まといはイヤなんだ!!」

 その言葉を聞いて、ファミィは目を閉じた。
 なぜなら、数ヶ月前に彼女が叫んだセリフと同じだったから。









 金の派閥。
 召喚術による利益追求を主とするかの派閥の中で、彼女の存在は異質だった。
 最年少で召喚師となっていながら、個人の利益のために召喚術を使わず、ただ『旅に出たい』と願いつづけていた。
 そんなはかない願いは派閥上層部によりあえなく却下され、彼女は自由という言葉を知らず育ってきた。

 だからこそ、強くなることができなかったのだろう。
 街を襲ったはぐれ召喚獣の群れを掃討するために、とまだ10歳にもなっていないが召喚師であるイリスも駆り出された。
 そんな中で、一体のはぐれ召喚獣に背後から襲われ、一緒に行動していた召喚師をみすみす死なせたことがあったのだ。
 そのときはぐれは、護衛獣として召喚していたクルセルドによって倒されたのだが。

 何もできなかった悔しさからか、クルセルドにしがみついて泣いていた光景は未だ鮮明に残っていた。



(みんなのお荷物はいやなんだよっ!!)



 彼女はこの言葉を何度も何度も繰り返して。
 周囲からもお前はガキだ足手まといだと繰り返し聞かされて。



 彼女が派閥をこっそり抜け出したのはこの後だったのだ。
 部屋が隣のファミィのみ、彼女の脱走に気付いていたのだけど。

 ここにいてはいけないと。
 彼女はココにいるべきではないと。

 ファミィは気付かないフリをしていたのだった。











「私の残りの魔力を貴女に流すわ。皆さんを助けたいのでしょう?」

 もう、誰も彼女を足手まといだと言う人間はいない。
 否、誰にも言わせない。

「貴女の召喚術で、2人を助けてあげてくださいね?」
「・・・、うんっ!!」

 肩に触れ、魔力を流し込む。

「ねえ、ファミィ姉さん」
「なに?」
「ボクこれが終わったら、一度派閥に戻るよ」

 臆病者とか言われるかも知れないけど、と苦笑するイリスを振り向かせ、抱きしめた。

「え、えぇっ!?」
「言わせないわ・・・わたくしが、絶対に」
「・・・・・・ありがとう」

 ファミィの魔力を帯び、イリスは杖を構えた。
 サモナイト石を掲げ、言葉を紡ぐ。

 今なら言える。
 あの子に旅をさせてよかったと。
 このとき、ファミィはその考えに確信を思っていた。































「う、うく・・・っ」
「メリル、大丈夫かい?」

 やっとの思いで身体の異常から開放され、メリルはただ空気を大きく吸い込んだ。
 敵は、ここまできていない。
 前線で仲間たちが頑張ってくれている証拠だ。

「そうだ、ラグナスは!?」

 頭上を見上げ、表情に驚愕を表した。

「・・・大丈夫」
「気休めはよしてください、アッシュさん」
「大丈夫だから。僕を信じて」

 アッシュはただ、1人焦るメリルを見つめていた。
 今、魔力も残り少ない彼女が動くのは無理を通して無謀だと。
 それだけを考えていたからである。

「でも、アレは・・・」
「今、君が出て行ったところで・・・何ができるというんだい?」

 放たれたアッシュの問いに、メリルはただ押し黙る。

「今の自分の立場をわきまえるんだ。・・・大丈夫。きっと、みんながなんとかしてくれるから」

 無責任ではあるが、それも仕方がないことだ。
 今送り出したら、彼女はきっと死んでしまう。
 そうなれば、自分は悔やんでも悔やみきれなくなってしまう。

「・・・なんとかなるって、言えるんですか?」
「なんとかなるまで、僕が君を守るよ。だから・・・」

 これからも僕と、ずっと一緒にいてくれないか?

 アッシュはそう口にしていた。

「・・・・・・っ」

 沈黙の後、みるみるうちにメリルの顔が赤く染まる。
 シュポーッ、と蒸気が噴出した。

「あっ、アッシュさ、さん、っ!ここここんなときにヘンなコト言わないでくださいっ!!」
「いいんだよ。僕が、そうしたかったんだから。さ、君は休んでいるんだ」

 メリルの肩を掴み、ストンと地面に座らせる。
 手にはめたグローブの具合を確かめるように手を動かすと、彼女に背を向けた。
 
「っ!!」

 前線を抜け向かってきた一体の触手を、魔力を通わせた拳で殴りつける。
 頭上から振り下ろした拳は、触手を伴って地面を抉り出す。
 気付けば、アッシュの周囲は数センチ掘り下げられていたのだった。




「気をつけて、くださいね・・・」




 メリルは、そう小さく呟いたのだった。













「ケッ、邪魔だァ・・・っ!!」

 誓約も解かれ、姿を子供から大人のそれへと変えたバルレルは、魔力を込めて作成した身の丈ほどもある槍を振るい、襲う触手を複数まとめてなぎ倒した。
 触手の束は二つに分かたれ、ぼとぼとと地面へ落ちていく。
 紅い目でそれを追いながら、フンッ、と息を吐いた。

 これが、本当の終わりだ。
 今の戦闘が終わりさえすれば、念願の酒盛りの後に念願のサプレスへ帰還だ。
 リィンバウムに召喚されてからというもの、心の休まる時がなかった。
 毎日毎日、身体の隅々を弄られて、なにか妙なモノを埋め込まれて、しまいには自分ではずせない首輪まで付けられて。

 逆らえば、連中は間違いなく首輪の力を使ってくる。
 だからこそ、闘技大会で首輪を壊してくれたには感謝していた。

(帰ったら、酒盛りだからなッ!!)

 なんの気なく言ったその言葉が、やっと現実になろうとしている。
 名もなき世界へ行ったり、邪竜と戦ったりと長いようで短かったこの数日間だったが、の隣にいるのも悪くないと考えている自分がいた。

「・・・ンだよ、何考えてんだ俺・・・っ!!」

 ズバ、と槍を再び薙ぐ。
 強い魔力の風を纏い、槍の穂先は触れることなく触手を切り伏せた。

 我ながら女々しいな、と。
 触手が来ないことを確認して槍を肩に乗せ、頭を掻いたのだった。



















「なんだよそれ・・・」

 ぎゅ、と拳を強く握る。
 表情には怒りの色が見え隠れし、身体を震わせていた。

「なんなんだよ、それは!!」

 怒りに任せ、とにかく叫ぶ。
 目の前にいるのだろう見えない仲間へ向けて、とにかく声を荒げた。

『私たち以外に、アレを封じることはできませんよ』
『ボクたちを必要としてくれた君に、恩返しがしたいんだよ』
『もう決めたことだからな。いくらお前の頼みでも聞いてやることはできねぇぜ』
『・・・右に同じく』

 の目から、涙がこぼれる。
 涙は頬を伝い、足元へ・・・落ちることはなかった。

『泣かないでよ。僕たちは、仲間として君たちを助けるんだからサ!』

 アヴァレスの腕が零れ落ちる涙を受け止め、現れた蒼い龍の姿でニッコリと笑って見せた。
 現れたアヴァレスから目を背け、嗚咽を漏らす。

「・・・納得、するもんかよ」
『聞き分け悪ぃな、オイ』
「当たり前だろ。仲間が死ぬかもしれないって言うのに、すんなり受け入れるほうがどうかしてるんだ」

 ぐしぐしと服の袖で涙を拭い、再び向き直る。
 アヴァレスと同じように姿を現したユグドラースへ目を向け、呟いた。

『我らは、永久と言える程の長い時をこの刀の中で過ごしてきた。もう、生きるには十分すぎる』
「バカ、そんなこと言うなよ・・・」



 は、4体の召喚獣の提案を受け入れることを拒みつづけた。
 それほど、彼の召喚獣たちに対する仲間意識が強いこともあってのことだった。

『貴方のために命を使う、とは言いましたが、命をかけるとは言っていないのですよ?』

 それでも、了承してはもらえませんか?

 まるで頼み込むようにアマテラスは言う。
 それはすでに懇願に近い状態で。

『貴方は、私たちを縛り付けるおつもりですか?』

 答えないに、アマテラスは次にそんな言葉を放っていた。
 うつむいていた顔が上がる。

『私たちは、対等なのでしょう?』

 姿を現したアマテラスを見て、は顔を伏せた。
 大きく息を吐いて、

「そんなコト言われたら、何も言えなくなるじゃないか・・・」

 そんな言葉を紡いでいた。











第82話です。
ずいぶんと長くなってしまいました。
しかし、長かったです。ここまで来るの。
次回で最終話を迎えます。
さらにエピローグと続きますが、最後までどうぞ、お楽しみくださいませ〜




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