「まだ・・・まだ、終わっていません!」

 放たれた悲痛とも取れるその叫びは、周囲の雰囲気とはまるで正反対の言葉で。
 その場の全員を驚愕させたのは無理もないことだった。

「なっ、ななな何言ってるのさ、メリル」
「コイツは嘘なんかついちゃいねェぞ」

 アッシュの言葉をさえぎり、バルレルはそう口にした。

 彼はサプレスの悪魔。
 リィンバウムに住まう生き物の感情に敏感である彼らにとって、嘘か真実かを理解するのはたやすいこと。
 だからこそ、メリルの言葉を真実だと断言できたのだった。

「言っていたでしょう。『私はニンゲンに切り捨てられた、数多の召喚獣の集合体だ』って。どういう意味か・・・わかりますか?」

 その言葉を聞いた途端、全員から歓喜の色が消える。
 眉間にしわをよせ、メリルは顔の前で人差し指を立てると、

「確かにさんの攻撃は効いていたと思います。でも、彼は・・・彼らは・・・っ」

 再び小刻みに身体を震わせるが、唇を強く閉じ、同様にまぶたも閉じると、

「魂というレベルで融合し肉体を持ったんですよ。あの邪竜は!!」

 傷つけるだけではアレは止まりません!!

 そう叫ぶように言ったところで、次に聞こえたのはうめき声のような低く、太い声だった。


【認めぬ・・・】







    
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜

    第81話  数多なる魂







【認めぬぞ・・・っ!!】

 ゆらり、と倒れていたはずの漆黒の巨体が身じろぐ。
 傷口はそのままに、ラグナスは自らの巨大な身体を奮い立たせた。

【ニンゲンという存在なぞ、たかが知れている!!】




 信じられるか、という言葉が、直接頭に響いてきていた。
 これがこの世界のすべてを拒絶した、多くのはぐれ召喚獣の魂の叫びなのだろう。

「・・・う、あぁっ!!」

 突然、メリルは頭を抱えうずくまった。
 頭痛というよりは、なにかに恐怖しているかのような、そんな表情をしていた。
 アッシュは慌てて彼女の元へと駆け寄るが、反応を返すことなくただ小さく悲鳴をあげていた。



「まだ言うか、わからずやめ」

 邪竜を見上げ、はつぶやく。
 肩で息をして、先ほどまで軽々と振るっていた刀を杖代わりにして。
 ふらりと立ち上がった。

 体内の気をすべて使いきり、リクトから教わった技を行使した結果が今の彼の状況。
 とてもじゃないが戦える身体ではない。

 それでも、震える両膝を両手で叩きながら、ただ歩む。

 放っておけば、世界は消える。
 リィンバウムのすべてが消え去ってしまうから。

 のんきに倒れているわけにもいかない。

(でも、どうすればいい?)

 直接攻撃を与えても、相手は生身であり生身でない身体。
 ダメージを与えたところで意味をなすことはないのだ。
 召喚術による攻撃をするにしても、イリスやファミィはすでに限界。
 これ以上の魔力の行使は無茶というものだ。

『・・・っ!』

 そのとき。
 彼の頭の中に、何かが響いてきていた。



















【すべて、消し去ってくれる・・・今すぐにッ!!!】
「っ!?」

 声が聞こえた瞬間。
 がぱ、と口が開き、黒の光が収束していく。

 アレを撃つつもりか、と。

 誰もがそう考えていた。
 同時に地面に広がった黒い部分から、トレイターが消し去ったはずの触手が湧き出てくる。
 数はかなりのもので。
 圧倒的に不利な状況へと陥ってしまっていた。

 ソウシは武器を構え、メリルを抱くアッシュへと声をかけた。


「アッシュ、メリルを守っているのだ、アレの相手はわれわれが負う!!」
「わかったっ!!」
「オレだって・・・っ、まだまだ戦える!!」
「シュラ、アンタはクルセルドと一緒にイリスとファミィを守ってな。無理するんじゃないよ」

 普段、軽々と振るっていたはずの金棒を引きずるシュラを見かね、カリンは彼に指示を下した。
 決して、彼が足手まといというわけではない。
 動けない味方を放っておけなかっただけなのだ。

 大剣を下段に構え、柄のトリガーを引く。
 銃声とともに、カリンは触手までの間合いを一瞬にして詰めたのだった。











「わたくしたちも、戦わないと・・・っ」
「ボク、まだ大丈夫だよ・・・」
「無理ダ、いりす。大人シク休ンデイルノダ。魔力ハ底ヲツキ、満足ニ動ケナイダロウ」
「・・・っ」

 クルセルドに諭され、イリスは悔しげに唇をかんだ。
 同様にファミィは無言でうつむく。

 大切なときに、動けない。

 その悔しさで、大きな両目いっぱいに涙を溜めたのだった。




「動ケナイ主ノカワリニ、自分ガ動ク。貴女方ハ、自分ガ最後マデ護リ抜ク」




 右腕へエネルギーを通し、白く光る剣を具現させると、クルセルドは目の前にいる大量の敵を見据えた。
 左腕の銃はもはや弾切れ。
 右腕のそれと同じ剣を持ち、両腕を広げた。






「カカッテクルガイイ、自分ガ相手ヲツトメテミセヨウ・・・我ガスベテヲカケテ!!!」
































っ!!』

 聞こえる声は、子供のような無邪気な声だった。
 しかも、以前というかつい最近聞いたことのある声。

「アヴァレス・・・」
『おぉ、覚えていてくれたんだね!』

 ボク嬉しいよ!!

 声はその言葉どおり、本当に嬉しそうに声をあげた。

『アヴァレス。はしゃぐのも終わりにしますよ。残された時は少ないのですから』

 続いて聞こえたのは、大人びた女性の声だった。

「今の声はアマテラスか?それじゃあ・・・」

 ファブニールもユグドラースもいるんだな?

 そう尋ねれば。

『我は、ココにいる』
『おい、あいっかわらず堅苦しいな、ファブニール。・・・って、よう。俺もいるぜ』

 そんな答えが返ってきていた。

「で、みんなしてどうしたんだよ?」
『あ、そうだったそうだった』
『忘れてんじゃねえよ。アヴァレス』

 つっこむように聞こえたユグドラースの声は、

『じゃあ、本題に入るからね!!』

 と、思いっきり無視されたのだった。
















。今、大変そうだね?』
「あぁ、死にかけだな」

 アヴァレスの第一声には、そんな答えを返す。

『あのデッの、倒せなくて困ってるよね?』
「そうだな、大ピンチだ」

 そうだろうね、とアヴァレスは呟いた。
 今いるこの場は、以前も彼らと話をしたときと同じ場所なのだろう。
 つまり、外の時間は現在は止まった状態なのだ。
 だからこそ、ゆっくりと話をしていられるのだが。



『そこで、ボクたちにいいアイデアがあるんだ♪』
「えっ!?」

 魂の塊であるアレを倒すことができるのか?
 思い切り斬り倒しても無駄だった邪竜をどうすればいいのかと思案していたところなので都合がいいといえばいいのだが。

「・・・ホントにそんなのあるのか?」

 信じることができず、尋ねてしまっていた。

『あーっ、。君疑ってるでしょ!?そうなんでしょ!?』

 失礼だなぁっ!!

 ぷんぷん、と怒りを言葉に表現するアヴァレス。

「わ、悪い。でも、信じられないんだよ。俺らで束になってかなわなかったアレを、本当に倒すことができるのか」
『そうでしょうね、貴方がそう思うのも無理はありません』
『だからこその、俺たちなんだぜ?』

 機嫌を損ねたアヴァレスのかわりに、アマテラスとユグドラースは言葉を発した。

「・・・どういうことだ?」
『我らを、使うのだ』

 ・・・わからない。

 使う、という言葉に少し腹を立てたが、それ以前に彼らの言っている意味がにはいまいち理解できずにいた。
 首をかしげる彼を見て、

『アイツは、ボクたちで束になってもきっと勝てない。でも・・・封じることぐらいなら、できるんだよ』
「!?」

 倒すのではなく、封印する。
 紡がれたその言葉に、は目を丸めた。

「封、印・・・?」
『そう。私たちであの邪竜を封じるのです。リィンバウムの大地へ』
「そんなこと、できるのか?」
『ええ、できますとも。・・・それなりに代償はありますが』

 邪竜を封印するための代償。
 それがなんなのかは、次に発された言葉で明らかとなる。





 そして、それがにとって辛い選択となることを、彼はまだ知る由もなかったのだった。







第81話です。
四世界の召喚獣たちとの再会&会話イベントでした。
オリジナルも残すところあと2話で完結です。
このまままっしぐらっ!!



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