【■■■■■ーーーーーーーっ!!】
身体を斬り裂かれ、その痛みからかラグナスは声をあげる。
傷口からは身体の色と同じ、黒い血液のようななにかが噴出し、周囲を染めていた。
「悪い部分だけを・・・悪い部分だけしか見えなくて、それだけを考えて、ニンゲンを理解した気になって、その腹いせにこの世界で好き勝手して・・・」
主は破壊。
壊滅したヴァンドールを拠点とし、その場から動きはしなかったものの、周囲を黒い光線で焼き払って。
あの光線の軌道上にどれだけの生命がいたのだろう?
どれだけの命がアレに消されたのだろう?
生来より生き物、特に人間の死に敏感なは、ただ巻き込まれただけの生命を思い、目を閉じる。
自分が捨てられた。切り捨てられたという理由で始まったこの『復讐劇』。
向こうにしてみれば、さぞいい気分であっただろう。
自分たちを堕とした憎き『ニンゲン』という存在を屠り、どれほどの高揚感を得たのだろう。
はるか遠くへ消えた光線の残滓でも、他の街もきっと、今のヴァンドールのようになっていることだろう。
自分の考えを推し進め、行ってきた行為にはただ怒りを表面に出して、気を纏い肥大化している不可視の刃を振りかざす。
「なぜニンゲンという存在を・・・」
柄をぎゅ、と握り締め、耳を穿つほどの悲鳴をあげるラグナスへと視線を向けた。
そして、なんのためらいもなく。
「『人』という存在を、最後まで理解しようとしなかったんだっ!!」
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜
第80話 おわりのはじまり
ラグナスの叫びが聞こえているにもかかわらず、の叫びはその場にいる全員の耳へと届いていた。
同じはぐれとしての言葉か、1人のニンゲンとしての言葉か。
彼にそれを尋ねれば、「両方だ」とさらりと答えてのけるだろう。
この世界に住まう1体のはぐれであり、1人のニンゲンである彼だからこその言葉だった。
「今の、なに?」
誰にともなく尋ねたのはアッシュだった。
その問いに対して言葉を発する者は、誰一人としてこの場には存在しない。
なぜなら、その場にいる全員がその質問に対する答えというものを持っていないからだった。
1つだけわかっていることは、自分たちがいくら攻撃してもダメージを与えることができなかった相手に、が致命的な傷を負わせていたことだけ。
「が刀を振るうだけで、アレだけの巨大な身体を斬りつけられるなぞ・・・」
そのような所業、有り得るはずはない・・・はずなのだが。
目の前の光景を凝視し、ソウシは言葉を漏らしたのだった。
「ホラ、アレじゃない?」
なにかに気付いたかのように両手を合わせたのはカリンだった。
顔の前で人差し指を立てると、
「アイツ、リクトさんとの勝負に勝って、稽古してたじゃない」
アレの成果よ、きっと。
そう言った。
『ああっ!!』
彼女の言葉に、全員が理解を示す。
そういえば、何もなかったはずなのに天井が壊れてたよね。
とか、
その穴からいろんなものが飛び出して来てましたっけ・・・
と。
そんな声がちらほらと聞こえていた。
あれは、出発の前日のこと。
急に大きな音がしたかと思えば、庭にばらばらと竹刀や額縁、果てにはよくわからない道具までもが空から降ってきていたのだ。
そんな中、庭で遊んでいたイリスとシュラは物の雨に降られ災難だったと合掌するしかなかったのだが。
天井を突き破り、庭へ被害を及ぼした原因が目の前の光景にあるのなら、と。
全員が納得していた。
「・・・ということは、さんの使う見えないなにかが、この間のアレの原因だったということになるワケですね?」
なんの気なしに、ファミィはそう口にすると、
「そっか、アレはおにいちゃんの仕業なんだ・・・」
「あのとき、オレたちがどれだけ痛い思いをしたか・・・」
そうつぶやく二人の背後には、いつぞやファミィが背負っていた黒いオーラと寸分たがわぬそれが蒸気のように噴出し、並ぶように立ち尽くしていたバルレルが冷や汗と共に背後へと飛びのいた。
「「味あわせてあげないとね・・・」」
エへへへ・・・
ククク・・・
周囲のメンバーは、2人の子供の変貌ぶりに、とにかく後ずさったのだった。
「あああぁぁぁっ!!!」
不可視の刀を振るい、ラグナスへと連続して攻撃を加える。
これみよがしに振り抜かれる刃により、黒い巨体には傷の数が数多に増えていく。
悲鳴のような叫びに表情を歪ませながら、はただただ剣を振るった。
「お前のすべてを、否定する!!」
2度目となるその言葉を口にして、
「これで、終わりだァぁぁァァぁァっ!!」
構え、突進と共に刀を突き出す。
ズン、という音とともに、刃はラグナスの身体を貫いていたのだった。
【■■■■・・・っ】
声をあげ、ラグナスは背後へと頭をもたげる。
その後、動くことはなくなったのだった。
「お。おわっ・・・たぁ」
刃はの内部にある気を吸い尽くし、消え去る。
次に襲い来るのは強い脱力感。
それは稽古のときの比ではなく。
動けるようになるまではしばらく時間が掛かりそうだな、と背後へ倒れかかりながら、そんな考えを頭によぎらせていたのだった。
「や、やった・・・?」
「殿以外ニ生命反応ハホボ消失」
生命反応をスキャニングしたクルセルドが結果をイリスへと報告。
「うおぉぉぉっ!」
「ケッ、ホントにやりやがったぜ、あの野郎」
「アタシらの出る幕、なかったねえ・・・」
出ても満足にダメージを与えることすらできなかったのだから、なにを言っても仕方がないのだが、カリンはそう言わずにいられなかった。
「すごいや・・・」
もはやそれ以外言葉がでず、アッシュは倒れているの下へと駆け出す。
「たいしたものだ・・・」
ソウシも同様にのところへと駆け出した。
「・・・っ」
「?・・・オイ、どうしたんだよ?」
邪竜は倒れ、せっかくの和やかムードの中でメリルは1人、両肩を抱いて身体を小刻みに震わせていた。
それに気付いたのはアッシュでもシュラでもイリスでもなく。
イリスとシュラの黒いオーラによって飛びのいていたバルレルだった。
「ま、まだ・・・っ」
「ンだよ・・・ハッキリしゃべれよ、ハッキリ」
顔を覗き込むことはしなかったが、彼女のこめかみからは大量に汗が噴出していた。
それを見てか、彼女が話していることは自分たちにとってよろしくないことなのでは、と。
そんな予感がバルレルを襲っていた。
力を振り絞り、出した言葉は。
「まだっ、まだ終わりじゃありません!!!」
第80話です。
すごいことになってきちゃいましたね。
次回、復活です。
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