「どこからだっ!?」

 声にならない咆哮は、何度も何度も大地を揺るがせていた。
 仲間内で話すにしても、大声にならなければならないほどにそれのみが耳を侵食していた。
 ただの声であるはずなのに。
 まるで、胸を穿つほどの衝撃を伴っていた。

【■■■■■■■ーーーーーっ!!!!】
「っ!?」

 額に手を添えて、カタカタと身体を小刻みに震わせながら、

「む、向こう・・・です・・・」

 ファミィは腕を伸ばしてある方角を指差した。
 その方向は、ただでさえ暗い空に輪をかけたように暗い闇が広がっている。
 今この場に落ちつづける稲妻よりもおびただしい量の雷鳴とともに蒼い閃光が走っていた。

「僕は召喚師じゃない。そのはずなのに、強く感じるこの力に勝てると思う?」
「さあ、そんなことはやってみないとわからないよ」
「この事態に気付いて、戦える人たちが集まってくれるといいんだけど・・・」

 冷や汗をかきながら、イリスはつぶやいた。
 彼女だって、聞こえる咆哮に恐怖しないわけがない。
 ただ、気丈に振舞っているだけなのだ。

「ファミィ、気をしっかり持って。大丈夫だから」
「は、はい・・・」

 カリンは膝をつくファミィを慰めながらも、聞こえる咆哮に恐怖していた。
 はわからないと言っていたが、無理なのではないか。
 勝つなんて無理なのではないかと、思っていた。





    
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜

    第73話  人間





「で、行くンだろ?」

 沈黙の中、つぶやくように尋ねたのはバルレルだった。
 誓約が解かれ、魔公子として本来の力を出すことのできる彼でさえ、少しばかり汗を流していた。

「行かなきゃ、マズいだろ。このままじゃ、リィンバウムが消える」
「行ったところで、私たちになにができる?」

 答えたにそう尋ねたのはソウシだった。

「そんなことはわからないさ。でも・・・」

 は眉間にしわを寄せて、恐怖に震える身体を押さえ込んで、

「でも、ここで行動しようがしまいが、結局は死ぬことになるだろうさ」

 つぶやくように答えていた。
 さらに、そのままソウシをにらみつけると、

「死ぬのが早いか遅いかの問題だ。臆病風に吹かれて何もしないよりは・・・行動を起こしたほうがマシに決まってる!!」

 は1人、ファミィの指差した方角へと身体を向ける。
 腰の刀に手を添えると振り向きもせずに、

「怖いって言うんなら、ここに残ってればいい。俺だって怖いけど、行くよ」

 挑発するように言い放つと、歩き出した。




「ケッ、怖いだァ?・・・バカなこと抜かしてンじゃねェよ、。俺は行くぜ」

 一言。
 バルレルは歩くに並ぶと、軽く振り向く。

「ここでなにもしねェなら、今までテメェらがしてきたことは無駄になるなァ、ケケケッ!」

 食料と言わんばかりに仲間の負の感情を喰らいながら、槍を肩にかけて歩き始めた。
 舌なめずりをしつつ「うめェな」と嬉しそうに笑っていたのを、は横目で眺めていたのだった。
















「・・・私は、行きます」
「メリルっ!?」

 小さくなった2つの背中に目を眺めながら、メリルは目を閉じ、言った。
 治療して間もない身体にムチ打って、よろりと立ちあがる。

「流れてきた知識の中に、きっと邪竜を打ち倒す術があるはずです」

 だから、行ってさんたちの手伝いをするんです。

 全員に背を向けて。
 相棒であるアッシュの制止の声も聞かず、歩き始めた。




「おいらも男だ。なにもしないで死ぬのなんてゴメンだ!!」
「ボクは、お兄ちゃんに助けられたんだもん」

 それは、ヴァンドールに初めて来た日のこと。
 イリスは、はぐれ召喚獣に襲われていたところを助けてもらったことがあったのだ。
 護衛獣であるクルセルドがいたにもかかわらず、だ。
 まだ、そのときの恩を返してない。

「行くよ、クルセルド!」
「自分ハ、主ノ言葉ノママニ・・・」

 強い相手に打ち勝ってこそ、漢(おとこ)だぁっ!!

 金棒をブンブンと振り上げて、シュラとイリス、クルセルドもメリルに追いつくために走り始めた。
 ちなみに、声を張り上げたのはシュラである。
 すでに恐怖は吹き飛んでいるらしく、行進をするかのように金棒を振り回していた。




「ファミィ、ソウシ、アッシュ。アンタたちは行かないのかい?」

 一歩前へ出て、カリンはつぶやいた。

「もう、身体の震えも止まった。恐怖感は消えないけど、アタシだって何もしないで死ぬのはゴメンだよ」
「僕も行くよ。男のくせに、怖くて縮こまってたんじゃあ、生きるために頑張ってるみんなに申し訳ないしね」
「いいねぇ、アッシュ。男だよv」

 それじゃあね。

 カリンとアッシュは、最後まで残ったソウシとファミィにさよならを告げて、前を行く仲間たちの元へ駆け出したのだった。





「私は、ただの臆病だったのだろうか」
「・・・・・・わたくしは」

 次第に小さくなっていく後姿を眺め、ソウシはつぶやく。
 ファミィは座り込んでいた身体に力を込めて、立ち上がった。

 人間、誰でも臆病な部分はある。
 時には逃げる事だって大事なことなのだ。

 だが、今この状況で逃げるのは最良の策だと言えるのだろうか?


 その答えは、否。





 だって、別に英雄になりたいわけじゃない。

 ただ、みなが心から笑って暮らせる世界を。
 リィンバウムという楽園のために。

 「お前の人生だ。好きに生きろ」という父親の言葉にならい、自分のしたいことに忠実に行動しているのだ。


「私は、愚かな人間だな」

 どこまでも愚か。

 自分のやりたいことを。
 望むことを。

 臆病風に吹かれて、見失っていたのだ。

「私だって、同じですよ。あのように振舞えるくんが羨ましいですわ」

 後に続いたみんなだって、同じなのだ。

 自分の望むことは何か?
 自分は何がしたいのか?
 何をすれば、心から笑顔になれるのだろうか?

 それに気付いたから、というだけのことなのだ。

「ファミィ。お前はどうする?」
「決まってますわ」

 最後までその場に残った2人も、歩き出した。
 迷うことなんかない。
 ただ自分のしたいようにことを成せばいい。

 ただ、それに気付くのが遅くなったというだけのことだ。
 向こうは敵対しようとしている自分たちなどまるで豆粒のように踏み潰していくだろう。
 ・・・それがなんだ。

 踏み潰されたなら、起き上がればいい。
 そう、地面に強く根をはる雑草のように。




【■■■■■■■■■ーーーーー!!!!】





 怖くない、といえば嘘になる。

 でも。

 それでも。

 ここで行動を起こさねば、一生後悔するだろう。

 勝てる気がしなくても。
 勝てる確率がどれだけ低かろうと。

 諦めなければ、きっと願いは叶う。





 人間とは、気持ちの持ち方で無限に強くなれる存在なのだから。







第73話でした。
なんだか、文法がものすごいことになっています。
もぉわけわかりません。
読みにくいことこの上ないかと思いますが、勘弁してくださいませ・・・




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