「どういうことだ?」
頭上にハテナマークを浮かべたのはソウシだった。
聞いたところで、誰もわかるわけがないのだが。
彼女 ――― メリルの記憶が、決戦の手前で止まっているという事実。
それはつまり、彼女が自分たちを裏切り敵側についていたことすら忘れて・・・否、知らないのだ。
「別れ別れになってからのこと、覚えている限りでいいから・・・聞かせてくれないか?」
現在は非常事態。
今この時も、復活した邪龍はリィンバウムで暴れまわっているのだ。
1つの山を躊躇なく吹き飛ばすほどの力をもって暴れまわれば、リィンバウムは確実に滅んでしまう。
それだけは、なんとしても避けないといけない。
そのための情報が、彼女の止まっていた記憶にはあるようなあるような気がしてならないのだ。
の視線を受け止めて、メリルは軽くうなずくと、話し始めた。
「私、気がついたらベッドに寝かされていたんです ――― 」
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜
第72話 響く咆哮
――― 気付いたら、そこは見知らぬ場所だった。
まるで地面を削り取っただけのような壁から、金の燭台が伸びているだけの暗い部屋。
周囲には誰もおらず、杖も消えてしまっている。
今、私は1人だ。
怖い。
怖い。
怖いからこそ、今自分が置かれている立場を理解する必要があった。
ここが自分にとって毒にしかならない場所なら、急いで逃げ出さねばならないのだから。
限られた視界の中で部屋の出入り口を探し当て、外へ出てみればそこは部屋と同じ内装の広い廊下が広がっていた。
足元を確かめるように壁に手をついて、歩く。
壁に灯るろうそくの炎だけが、私を安心させていた。
やがて、廊下の突き当たりに差し掛かっていた。
ここまでは誰にも会うことなく移動ができたが、入った情報はいまだにない。
突き当りには、1つの扉があった。
鉄製の、頑丈そうな扉だった。
この先になら、現状を理解できるなにかがあるかもしれない。
命知らずかもしれないが、そう考えたからこそ、私は力いっぱい扉を押したのだ。
ギギギ、と音を立てて開く扉の先から漏れてくるのは、臭い。
それは今までに嗅いだことのない、吐き気を覚えるそんな臭いだった。
ここには、入りたくない。
心の底から本気で考えていても、もう扉を開けてしまったのだから入らなければ今までの努力が水の泡。
覚悟を決め、扉の中へと身体を滑り込ませたのだ。
「・・・っ!?」
部屋の中は暗く、ほとんど何も見ることができない中、見えたものがあった。
それは、この部屋に蔓延する臭いの元凶。
それは、元々は人間であったモノ。
それは、女子供を含めた、人間たちの死体の山だった。
吐き気が、こみ上げる。
「あら・・・」
聞こえたのは女性の声。
闘技大会では圧倒的な強さを見せつけた召喚師。
「フォルネシア・ヒルベルト・・・」
死臭漂うこの部屋で、彼女は平気な顔をして立っていたのだった。
「目が覚めたのね・・・よかった・・・」
満面の笑みを見せた目の前の女性は、そう言った次の瞬間。自分はその腕の中へと収まっていた。
なぜだろう。
目の前の女性はどういう理由かは知らないが、ただ自分を抱きしめているだけなのに。
どうして、私はこれほどまで彼女に恐怖を覚えているのだろう。
そんなことはわからない。
それでも、自分は彼女を身体全体で拒否していた。
両手を突き出して、女性を突き飛ばす。
しりもちをついていた彼女にも恐怖し、
「いや・・・イヤ・・・イヤあぁァぁぁァぁッ!!!」
ただただ、叫び声をあげていた。
助けて。
たすけて。
タスケテ。
ただ助けを求めた。
相棒の顔が頭をよぎる。
目の前にいる彼女以外に、そばにいて欲しかった。
立ち上がり、こちらへ向けて歩いてくる。
私はその分、後ろへ下がっていた。近づかれたくなかった。
それでも、逃げるには限界があった。
背後が壁になってしまい、左右へ首を振る。
これ以上は逃げられない。
直感的に、そうかんじていた。
「私はね、メリル・・・」
「っ!?」
発された名前は、確かに自分のもので。
なぜ知っているのだろう、と。疑問に思ってもなぜか声が出てこない。
ここで、彼女は部屋に入ってきた男の人と話をした。
内容は侵入者が来たというもの。
もしかしたら、自分の仲間たちかもしれないと、希望が芽生えた。
「貴女も連れて行ってあげるわ。我が『妹』である貴女も」
私が、この人の・・・妹?
知らない。
しらない。
そんなの知らない!
「そういえば、記憶を失っているのだったわね・・・」
こっちに、くるな。
なにも、はなすな。
アレが来たら、ワタシはコワれる。
来るな、といいたい。しかし、声が出ない。
私の心情などお構いなしに、彼女は私の前に立つ。
右腕を伸ばし、身体が硬直して動かない私の額へ、かざした。
「そこからは、私の記憶は曖昧になっています。わかることといえば、額に手をかざされたときに膨大な知識が頭に流れ込んできた、ということだけです」
「そうか・・・」
この話からわかることは、ほとんどない。
わかることは、メリルがフォルネシアに対して、ただならぬ恐怖を感じていたということだけである。
「メリルに流れたという知識が鍵になりそうだな」
もしかしたら、邪龍を止める方法があるかもしれん。
ソウシは腕組みをして、つぶやいた。
「それと、もう1つ」
「?」
アッシュは視線を地面に向けて、呟く。
「メリルは、あの女に操られてたんだよ。きっと、記憶を消したのもあの女だ」
額に手を当てた瞬間に、知識が流れ込んできた。
さらに、彼女はメリルが記憶喪失だと知っていたのだ。
そこから考えるに、彼女らの作戦は、それこそアッシュとメリルが出会う前までさかのぼることになる。
「仮に2人が姉妹だとしても、家族を作戦の道具に使うなんて・・・許される行為じゃない」
一発、ブン殴ってやらないと!!
勢いよく立ち上がり、アッシュは拳を振り上げた。
そのとき。
『っ!?』
轟音。
「どこだっ、どっちからだっ!?」
「なに、これ・・・」
爆音と共に吹き付けるのは風。
爆風かとは思ったのだが、ファミィやイリスの表情を見る限り違うのだということがわかる。
2人は、明らかに怯えていた。
「この風は・・・膨大な、魔力の塊です。私たちでは・・・相手になりませんよ・・・」
そう、ファミィが呟いたときだった。
【■■■■■■■ーーーーーっ!!!!!!】
聞こえたのは叫び声のようだが、それは咆哮。
大地を揺るがすほどの咆哮だった。
第72話です。
メリルさんの過去話で、55話と同じ展開になっているかと思います。
そして、響き渡るのは咆哮。
第4部早々に最終決戦の始まりです。
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