「ふぅ・・・」

 白い道着の袖口で、額の汗を拭う。
 名もなき世界での最後の1日。明日の夜にはリィンバウムへ、という計画だ。

 手はずとしては、
 23時に家を出発。
 こちらへ飛ばされて目覚めた街道へ。
 バルレルとの2人で、リィンバウムへの扉を開く。

 もし、人がたくさんいるようなら、威嚇またはアマテラスの力を借りて気絶をしてもらうという計画だった。
 に一番負担のかかる計画だが、致し方ない。

 そして、今は朝の日課となっていた稽古を終えたところだった。

・・・」
「・・・何、父さん?」

 キッチンで水をかっ込んだの背後に、リクトは寝起き眼で立っていた。
 はといえば、頭から水をかぶって汗を流している。・・・風呂場でやればいいものを。

「朝メシ食ったら・・・道場来いや」
「は・・・」

 リクトはそう言い放つと、返事を待たずにに背を向けたのだった。





    
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜

    第68話  一騎打ち






「おにいちゃん、今日はどうするの?」

 朝食。
 左手に茶碗を持ち、右手に箸で白飯を口に入れながら、尋ねたイリスの顔を見た。
 彼女は、彼女だけではないが、箸という道具をうまく使うことができず、スプーンを使って白飯をほおばって、上目遣いでを見ている。

「あぁ、今日は父さんに呼ばれててな」
「・・・そういえば、リクトさんは?」

 アッシュの声に、全員が顔を合わせた。
 ・・・が、彼がどこにいるのかなど、彼以外にわかるわけもなく。
 ま、いいか。・・・で片がついていた。

「わたくしたちも、同行していいのでしょうか?」

 なにぶん、ヒマなもので。

 ファミィは苦笑いを浮かべて、へ顔をむける。

「大丈夫だと思うよ」

 彼女に向けて、はそんな答えを向けていた。















「来たな」
「来たよ」

 朝食を終えて道場へ入ると、一言ずつ言葉を交わし、向かい合う。
 は朝稽古に使った白い道着を、リクトは真っ黒な道着を身に纏っている。
 心なしかリクトのそれは、袖口の布がほつれ、ところどころに小さな穴が空いていた。

「・・・変か、これ?」
「いや、なんかボロボロしてるなと思って」

 そうだろうな、とリクトはつぶやいた。

「これは、俺がリィンバウムで使ってた服だからな」
『!?』

 道場にいる全員が、目を丸めた。
 リィンバウムで使われていた品を、リクトが身につけているのだから。
 しかも、この服は彼がリィンバウム出身であることを証明しているのだ。
 初めから疑って警戒していたソウシも、これには肩をすくめるしかない。
 実際、彼は壁に寄りかかって、身を縮めていたのだった。



「おら、これ使え」
「?」

 投げ渡されたのは、一振りの木刀。
 当然、彼も同じものを肩にかけていた。

 の手に木刀が渡ったのを確認すると、両手で木刀を握りこむ。
 ゆっくりと、正眼に構えをとった。

「構えろ、
「!?」

 今まで向けられていた視線とはまるで違う。
 全身を射抜く強い視線。
 少々、殺気も感じられ、は目を見開いた。

「お前の力を・・・見てやる」
「・・・なんで」
「俺に一太刀、浴びせることができれば・・・俺の剣のすべてを教えてやる」

 数秒の間、静寂が続くと、同様に木刀を構えた。

「そうだ、それでいい。いいか、遠慮なんかするんじゃねえぞ・・・俺を殺す気で来い」
「・・・わかった」

 以前から人が目の前で死んでいくことを嫌っていたが、二つ返事で了承していた。
 そんな彼を見てリクトは軽く目を丸めるが、すぐに元の全身を射抜くような、強い視線に戻していた。

 互いに構えを取り、視線を交える。




 静寂が周囲を包みこんだ。




「・・・なぁ、2人はなんで戦うんだ?」
「私にもわからない。だが、私たちは仲間である以前に、他人なのだからな。ここに私たちが介入する資格は無い。だからこの手合い、何があろうと止めてはならんぞ」

 何の気なくシュラが尋ねれば、ソウシは口元に人差し指を当てて静かにするように、と促した。

「リクトさんには、なにか考えがおありなのですわ。きっと」

 だから、しっかりと見ていてあげてくださいね。

 ファミィはにっこりと笑って、シュラの手を取ったのだった。

殿ノ感情ガ、少々高ブッテイルヨウデス」
「どういうこと?」
「人間ノ感情デ言イ表スナラバ、『緊張』シテルノダト」

 クルセルドは目の部分を緑色に灯し、抑揚のない電子的な声を発する。

「ケッ」

 バルレルは1人、道場の壁を背に座り込むと、目を閉じた。











「どうした、来ねえのか?」

 リクトの声だけが、静寂に響き渡り、消える。
 は、木刀を正眼に構えたまま微動だにせず、目を閉じた。

「すぅ、ふぅ・・・」

 大きく深呼吸。





「・・・っ!!」





 目を見開き、渾身の力を込めて、は木造りの床を蹴りだした。







第68話でした。
親父との一騎打ちイベントです。
なぜ彼がリィンバウムの衣装を持っていたのでしょうか?
海が生まれる前からありますから・・・物持ちいいですね。




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