「うぅ・・・ん・・・」

 カーテンの隙間から差し込む光のせいだろうか、ゆっくりと目を開けた。
 最初に視界に飛び込んできたのは木造の天井。
 数度まばたきをすると、これまたゆっくりと身を起こした。

「・・・・・・」

 首をまわし、周囲を確認・・・誰もいないし、無残に破壊されたものもない。
 変わったことといえば、机の上に積み上げられたノートの山が今にも崩れ落ちそうにゆれていることだけ。
 障子を隔てた廊下にも、人の姿はない。

 立ち上がり、カーテンを開く。太陽の光が入り、部屋を明るく照らした。

「・・・・・・っし!」

 祝・初自力起床。

 青年 ――― は、その場で軽く飛び上がり、ガッツポーズを決めたのだった。





    
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜

    第66話  マス・コミュニケーション





「誰かに見られているな」
「半径100めーとる以内ニ、生命反応ヲ確認」

 唐突だった。
 声をあげたのは気配の探知に鋭いソウシと索敵機能を常備しているクルセルドだった。

「ニンゲンの感情が流れ込んでくるぜ。こっちのニンゲンはこんな味か・・・」

 自分のコトしか考えてねェみてェだな。こっちもあっちと同じだぜ、ったくよー。

 悪魔の本分である人間の感情を喰らいながら、バルレルはケケケと笑うと、どの世界にいても変わらない人間の感情に眉をひそめていた。
 このときのソウシは、普段のようなおだやかな表情ではなく、戦闘時に常に見せつづけていた殺伐としたものになっている。

「とうとう、この場所をかぎつけられちまったな」
「アレだけ堂々と出入りしていれば、当然だと僕は思うけどね」
「どうするの、?」

 今この状況で、一番頼れる存在がであることは彼自身理解していた。
 なぜなら、自分たちが現在におかれた状況を理解しており、名もなき世界出身であるのは彼とアッシュだけだからである。
 さらに、ここは日本。アッシュは米国人であることから、ここが彼の知っている場所ではないことがわかる。

 そんなこんなで、は全員から頼られていたのだった。

 腕を組み、視線を地面に向けると、カリンの問いかけに対して唸り声を上げることで答えていた。

「・・・マスコミだな。まちがいねえ」

 さすが、情報社会と呼ばれるだけのことはあるなぁ。

 茶化すようにそう口にしたのはリクトだった。

「見つかっちゃったりしたら、マズいよね。やっぱり」
「そうだな。とくにクルセルドなんかは、捕まっちゃえば解体は間違いなしだ」
「え・・・や、ヤダ!ダメだよ、そんなの!!」

 のつぶやきに険しい表情をして声をあげたのはクルセルドの召喚主であるイリスだった。
 目に涙を溜めたイリスの頭に手を置くと、

「わかってるって。そんなことさせやしないさ」

 は歯を見せて笑みを浮かべた。
 今日で4日目。最低でもあと3日はこの家に滞在することになる。

「リィンバウムに戻るときは、ここじゃないほうがいいんだろ?」
「そうですね・・・わたくしたちがはじめに目覚めた場所の方が、より確実に戻れます」

 名もなき世界のことを話でしか聞いた事のなかったファミィだが、普段おっとりしている彼女のものとは思えないような真剣な表情での問いに答えたのだった。

 異世界へ喚ばれた場所で、戻る儀式を行うほうが確実に戻ることができる。

 マンガや小説に出てきそうな言葉だが、この場合も例外ではないらしい。
 断定できませんけど、と苦笑いを見せるが、召喚術の知識では彼女が一番。
 誰も疑うようなことはなかった。






「で、どうすんだよ?」

 このまんまじゃ、ヤバいんだろ?

 脱線してしまっていた話を戻したのはシュラだった。彼は黒い瞳にを映し、動かない。

「幸い、と言っていいものかはわからないがこの世界の人間たちは実戦経験がまったくない。3日後の夜に出て行って見つかったりしたら、強行突破もやむを得ないと思う」
「私がいたところでは剣術の習得は必須だったのだが・・・時代は変わったのだな」

 ソウシは縁側で目を細め、空を見上げてしみじみとつぶやいた。

「とりあえず今日から3日後まで、この家から外へは出ないほうがいいと思う」

 もちろん、俺も。

 この世界でのはもともと、行方不明として届けられている。そんな彼が家の場所までかぎつけられた今、堂々と出て行くのは無謀というものだ。捕まってしまえば、しばらくは戻ってこれないだろう。

「ここも絶対に安全とは言い切れないが、3日間だ。なんとかなるだろうよ」

 なんの根拠もなく笑い声を上げたのはリクトだった。
 家の門は閉じているため、外から中を覗き見ることはほぼ不可能。

 問題ないない!といいつつ、彼は腰に手を添えた。




















「・・・
「ん?」

 4日目もすでに終わろうとしている。
 眠る気も起きず、やることもなかったは縁側に座り込み、空を見上げていた。
 そんな中、声をかけたのはソウシだった。
 彼は青い上着に長ズボンを着用している。初めは着にくい着にくいと連呼していたが、それももう慣れてしまったらしく、普通に着込んでいた。

「星を見ていたのか?」
「まぁ、そんなトコだな」

 一言、言葉を交わすと、の横へと腰を下ろす。

「昼間のことだが・・・本当に大丈夫なんだろうな?」
「さぁ、わからない。俺だって、マスコミのお世話になったことなんかあるワケないし」
「・・・その言動は、少々無責任なのではないか?」

 眉をひそめ、鋭い視線をに向ける。
 は見上げていた視線を下に下ろすと、

「じゃあ、ほかになんて言えばよかったんだよ?」

 つぶやくように尋ねた。

「正直に彼らと話をしろと、リィンバウムのことを話せと俺に言うのか、ソウシは」
・・・」
「俺はそれがイヤだから、無責任かもしれないけどあたりざわりのない答えを口にしたんだ」

 大丈夫だと思わなきゃ、自分が信じられなきゃ、なにもできはしないさ。

 顔をソウシに向け、視線をぶつける。








「私を含む、お前以外の人間は、この世界のことをほとんど理解できていない」

 長い沈黙の後、声を発したのはソウシだった。

「そんな我らが、この世界で唯一信をおけるのはお前だけなのだぞ」
「そうだな」
「お前の父君もリィンバウムの住人だったらしいが、それが本当なのかすら、疑わしい」
「・・・そうだろうな」

 今までおだやかな表情をしていても、彼は警戒を怠ってはいなかった。
 敵を騙すには、まず味方からという言葉もあるように、彼は自分たちを騙しているのではないだろうかと。
 なにか起これば、すぐにでも斬れるようにと常に刀も携帯していたし、周囲にも細心の注意を払ったのだと。
 彼はに言い放った。

「疑わしいかもしれないけど、父さんは俺の父さんだし、リィンバウム出身なのも事実だよ。身をもって体験してるからな」

 それは、もう1年以上も前のこと。
 島で、一度彼と話をしたことを鮮明に覚えていた。夢の中での出来事であったとはいえ、リアリティがありすぎた出来事だったので、強く印象に残っていたのである。

「俺を信頼してくれているのは嬉しいけど、かといって好意を向けてくれている相手も疑ってかかるのはどうかと思うな」

 これだけは信じて欲しい、と。
 はソウシに向けて言葉を紡ぎ、正面に彼を見据えた。
 ソウシは下ろしていた腰をゆっくりと浮かせると、

「・・・向こうへ戻るものを阻む障害が現れたら、容赦なく斬るからな」

 一言つぶやき、背を向けて歩き出した。











 1人になってことを確認すると、大きく空気を吸い込み、吐き出した。

「この世界は、君のいた世界とは違うんだぞ、ソウシ」

 空に視線を戻し、つぶやいた。









第66話でした。
ちょっと雰囲気悪いですが、これはケンカをしているわけではありません。
当人も、そのつもりはないはずです。
ただ、ものの解釈の違いによるもの、ということです。
もしかしたら、3章の最後に一波乱あるかもしれませんね。





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