名もなき世界に迷い込んで3日目。
 リクトも立ち会ったソウシとの朝稽古を終え、汗を流すために風呂に入ったは部屋に戻ると、早々にしきっぱなしの布団へとダイブしていた。
 部屋と廊下の間は障子で仕切られているため、外の様子は明るいか暗いかといった大まかなこと以外にまったくわからない。
 くしゃくしゃの掛け布団を蹴り飛ばし、敷布団にうつぶせたまま、ゆっくりと目を閉じた。

「あ゛〜・・・最高ぉ」
「そうですね。運動の後、お風呂に入ってさっぱりした後は、二度寝に限りますv」
「・・・・・・・」
「?・・・」

 うつぶせだった身体をあおむけになるようにゴロリと寝返る。
 自分以外に誰もいなかったはずだった彼の部屋にはいつの間に入ってきたのか、金髪の女性が入りこんでいたのだった。

「さぁ、起きてくださいなv」




    
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜

    第65話  ニンゲンとショウカンジュウ





「なぜに、ここにいらっしゃるのデスカ?」
「そうですねぇ・・・しいて言うのであれば朝御飯のお誘い、でしょうか?」

 しいて言ってねえよ。

 そう言ってツッコミを入れたい衝動を押さえ込み、ゆっくりと上体を起こして両手を頭上に掲げ、ぐぅっ、と身体を伸ばす。
 金髪の女性 ――― ファミィ・マーンは、身体を伸ばしたのじっとりとした視線をものともせずに、にっこりと微笑している。
 しばらくその状態が続くと、漂う雰囲気に耐え切れずゆっくりと立ち上がり、

「・・・行くか。朝メシ」
「そうしましょうv」

 障子を開け、部屋を出たのだった。

「なぜにわざわざ起こしに来たんだ?」
「リクトさんに頼まれまして。『アイツは母親に似て寝起きが最悪なんだよ』って言っていましたけど、たいしたことはなかったようですねv」

 たしかに、リィンバウムに召喚される前は朝が来るたびに部屋がめちゃくちゃになっていたというのに、召喚されてからはそう言ったことがなくなりつつあるのは彼自身理解していた。・・・というか、召喚された瞬間に寝起きが平和になったのだが。

 急激な環境の変化に、体質が変わったのか?

 そんな考えが頭をよぎるが、答えがわかるはずもなく。まぁいいや、とあっさり疑問を放棄していた。













「おはよ、おにいちゃんv」
「オハヨウイゴザイマス」

 居間に入った瞬間。発された挨拶を返し、朝御飯の並ぶ食卓に座った。
 一緒に入ってきたファミィはの向かい側にすとんと座っている。

「遅いぞ、
「まぁ、そう言うなって。部屋がメチャクチャにならなかっただけマシってモンでしょ」

 稽古終わって、非常に眠かったんだから。

 グチるように付け加えると、箸を手に取った。

「いくら眠かったからといっても、限度があるだろう。お前、一度稽古のために起きたのだろうが」
「・・・・・・」

 ソウシの言葉の後、沈黙。
 数秒その場にいる全員の動きが止まると、

「父さんとソウシって、なんか性格似てないか?」

 突然、はそんな疑問を全員に向けて発していた。

「・・・たしかに。外見はゼンゼン違うけど、中身はソックリみたいだね」
「アハハハッ、あたしもアッシュの意見にさんせ〜い!」

 居間が笑い声に包まれた。






「・・・あれ?」
「どうしたんだ?」

 シュラが発したへの問い。
 部屋を見回し、一言。

「バルレルは?」
「あぁ、アイツなら・・・・」

 朝食後、シュラの言っていた場所へとは足を向けたのだった。











「バルレル、いるんだろ?」
「・・・・・・ンだよ?」

 ここは家の屋根の上。
 ハシゴを上って顔をだすと、バルレルは屋根の一角を陣取って空を見上げるように寝そべっていた。

「朝メシ、食べなくてよかったのか?」
「いらねェよ。オレら悪魔は食いモンなんかが主食じゃねェからな」

 はバルレルの隣にどっかと座り込み、空を見上げた。
 視界に蒼天が広がり、その一部には白い雲。
 照りつける太陽は昼寝にはうってつけと言えるほどのぽかぽか陽気となっていた。

「この世界はどうだ?」
「・・・・・・」
「ぽかぽかして気持ちいいと思わないか?」
「・・・・・・」
「昼寝するには・・・」
「ナンなんだよ、いきなり」

 バルレルには、がここに来る理由がわからなかった。
 ニンゲンという種類の生き物を毛嫌いしている彼にとって、この世界・・・名もなき世界で人間にあたるの行動は理解できないもので。

「・・・別に、ここに来る意味なんてないよ」
「ハァ?」

 ワケがわからねェよ・・・

 隣に座るをじとりと見つめて、呆れたかのようにあからさまに息を吐いてみせる。

「俺がどこにいようと、俺の勝手だろ?」
「・・・」

 はそう言い放つと、あおむけに寝そべった。
 風が2人の頬を撫でていくようにそよぐ。

 それを一身に受け止めようと目を閉じた。



「ニンゲンは嫌いだ」
「・・・?」

 バルレルは一言つぶやいた。

「俺たち召喚獣を戦いの道具としてしか見ちゃいねェ」
「・・・そうだな。そうかもしれない。でも・・・」

 寝そべったまま、は首だけバルレルに向けると、

「今、ココにいるニンゲンたちはそうじゃないだろ?」

 シュラを見てみろよ。

 そう言うと、階下を指差す。
 庭で、シュラとイリスが戯れて池に落っこちている光景が視界に入る。
 ばしゃん、と派手な水しぶきがあがり、ずぶ濡れになった2人は顔を見合わせて笑い声を上げていた。

「確かに、君を喚んだあの召喚師は君を実験材料とか、道具として扱っていたかもしれない。でもさ、そういうことをする人間は限られてる。同じリィンバウムの人間でも、さ」

 向こうでなら、俺だって召喚獣なんだし。

 そう付け加え、苦笑いを浮かべた。

「たしかに、テメェは俺の嫌いなニンゲンだ。嫌いなはずなのにな・・・テメェの隣にいてもなぜか悪い気がしねェと思ってる」

 頬をかすかに赤らめて、なんの脈絡もなしにバルレルは再びつぶやくと、は目を丸めた。



「・・・狂嵐の魔公子さまが、ずいぶんとかわいくなっちゃったなv」
「う・・・ウルセェっ、テメェ、ケンカ売ってンのかよ!?」
「やだなぁ、ケンカなんてしたいワケないじゃないかぁ」
「て、テメェッ!!」
「うっ、うわっ・・・よせって、ぶはっ!?」



 バルレルは顔を真っ赤にしてにじりじりと近寄り、思い切り顔を殴りつけたのだった。








第65話でした。
バルレルとの会話が主でした。
彼の口調が、なんとなくおかしい気がしますが、多めに見てやってください〜。



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