「ねぇねぇ、タイクツだよぉ〜」

 家に転がり込んで2日目。
 小鳥のさえずる昼下がりに、居間のちゃぶ台に頭を乗せて、買い物にて購入してきた白いワンピースを着たイリスは大きく息を吐いていた。
 現在、居間にはイリスに加えて彼女の護衛中であるクルセルド、イリス同様に緑のシャツとジーンズを着ているアッシュは居間のそばの縁側に寝転がって和風を堪能している。
 そして、

「そうなコト、あたしに言ったってしょうがないでしょ?」

 リクトに手渡された緑茶の入った湯のみを受け取り、すするのはカリンだった。彼女は先日の宴会で飲んだ緑茶をたいそう気に入り、居間に入り浸ってはリクトと緑茶を飲み比べていた。
 もちろん、彼女も買い物によって手に入れた水色のキャミソールと膝上までの短いズボンを着込んでいる。
 また、ファミィは「この世界の知識が欲しい」と言い出し、シュラを連れて図書館へ行ってしまっている。もちろん、が地図を書いて渡しているため、迷うことはないだろう。
 が心配そうに顔をしかめ、大きな紙にこと細かく書き加えていたのはこの日の朝のことだった。

 そして、この場にいないとソウシは家の道場にて実戦稽古中。
 バルレルは屋根の上でとの約束どおり買い物の土産として与えられた酒をあおって頬を赤く染めていた。

の部屋にはおもちゃの類はなかったハズだしなぁ・・・」
「あ〜あ。ファミィお姉さんについていけばよかったよ〜・・・」

 いまさら言っても、あとの祭りである。
 2回目の大きなため息を吐き、そのまま身体を背後に倒して寝そべったのだった。





    
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜

    第64話  のどかな日々





「・・・・・・」
「・・・・・・」

 ここは、家道場。
 互いに向き合って対峙しているのはとソウシの2人だった。
 2人は白い道着を着ており、すでに軽く運動したせいか微量の汗が頬を伝う。

 そして両者の手に握られているのは、木刀だった。

「・・・っ!」
「せぇっ!」

 先に動いたのはソウシである。右足を踏み込み、一気にまでの間を詰めて左から右へ木刀を一閃。
 しかし、それはの眼前で彼の木刀によって勢いを失い、打ち合う音が道場に響いた。
 受け止めた木刀をはじき返し、右手で柄を握り締めて左手を柄先に添えると、はソウシの胴へと木刀をねじ込む。
 しかしそれをバックステップで回避し、上段に剣を構え、振り下ろした。

「ぇえいっ!!」
「った!?」

 振り下ろしたソウシの木刀は、先ほどの攻撃を空振りし無防備のの肩口に吸い込まれ、鈍い音を鳴らした。

「っつ〜・・・」
「はっはっは。まだまだだな、

 痛そうに肩口をさするを見て、ソウシは左手に持った木刀をそのまま左肩へと乗せ、笑い声を上げた。

「さすがに、本場の人間は違うなぁ・・・」
「何を言ってるか。お前ほどの腕なら、幕末でも生きていけるぞ」

 新撰組に誘ってもいいくらいだ、と彼はさらに笑みを深めた。

「今の俺の力だって、リィンバウム行ってからのものだからな。幕末に行ったとしても、役には立たないよ」
「まぁ、今になって何を言っても意味はないのだがな。・・・さて、もう一戦」

 肩に乗せていた木刀の切っ先をへと向ける。
 もにんまりと笑みを浮かべつつ肩に乗せていた手を放して立ち上がると、両手で木刀を握り正眼に構えた。

「行くぞっ!」
「来いっ!」


 再び、木刀を打ち合う音が道場に響いていた。















「なんで、オレはこんなトコに来てるんだよぉ・・・」
「いいではないですか。貴方とゆっくり話がしたかったのですよ、わたくしv」

 まだ貴方とは言葉を交わしたこと、ほとんどと言っていいほどなかったのですよ?

 そう。
 実は、ファミィとシュラはあまり言葉を交わしたことがなかったのだ。
 交わされたのは一言二言で、それも必要なことだけ。
 彼女にはそれが納得いかなかったのだ。
 無事図書館にたどり着いていた2人は、一本の柱の根元にあるイスにすわり、館内を眺めていたのである。
 その表情はファミィはニコニコと。シュラはげんなりとしていたのだった。

「この世界のこと、調べに来たんじゃないのかよ?」
「そのハズだったのですが、ココへ来てから、こちらの文字が読めないことがわかりまして」
「ダメじゃんか・・・」

 そうですわね、とまるでわかっていないかのようにファミィは笑顔をシュラに向けた。

「シュラくん、ヴァンドールにいたのですよね?」

 ソウシさんにお聞きしましたけど、迷惑でしたか?

 そうたずねるファミィに向けて、シュラは無言で首を横に振った。

「崩壊直前に、街を出たのですか?」
「ちがうよ。崩壊中に必死で逃げたんだ。最初、いきなり召喚獣たちが街中に現れてさ。次々に街のニンゲンたちを殺していくんだよ。オレが世話になったおじちゃんとおばちゃんも、ソイツらにやられた」

 まるでその光景が目に浮かぶようで、ファミィは形のいい眉を寄せ、表情をゆがめた。
 アイツらと会ったのはその後すぐだ、とシュラは付け加えた。アイツらとは、もちろん漆黒の派閥との戦闘を終え、帰還を果たした一行である。

「オレは、まるで昔からそうだったかのように、おじちゃんやおばちゃんによくしてもらったんだ。その2人が目の前で殺されて・・・だから・・・」

 仇を討とうと思ったんだ。

 シュラはそこまで言葉にすると、口をつぐんだ。

「仇討ち、ですか・・・」

 しばらくの沈黙の後、ファミィは彼に向き直ると、

「仇討ちをして、なにか得られるものはあるのですか?」
「・・・っ」
「仇討ちのためにと、人間を殺しても・・・何も得られるものはないのではないですか?」

 的を射ているファミィの言葉に、シュラは口篭もる。

「でも・・・っ!」
「きっと、得られるものなどないのでしょうね。あるとすれば、それは生き物の命を奪ったという罪の意識だけ」
「そんなこと・・・わかってるさ!」

 立ち上がり、思わず声を張り上げる。静かな図書館に、彼の声が大きく響き、その場の全員が視線を向ける。
 キョロキョロと周囲を見つめ、頬を赤らめて再び腰掛けた。

「わかってるさ。でも、今のオレには、死んでいったみんなにできることが、それしかなかったから・・・」
「志半ばで死んでいってしまった方々のために、なにができるか。それを考えることができるのは、とても立派なことです。でも・・・」
「・・・わぷっ」

 ギュッ、と少年の小さな身体を腕の中に抱きしめる。
 抱きしめられた本人は顔を赤くして慌てふためくが、抱きしめている彼女にはまったく影響はない。
 しばらくの後、シュラは動きを止めた。

「貴方にできることは、仇討ちだけではありませんよ?」
「え・・・?」

 うずめていた顔を上げ、ファミィの顔を見つめた。
 彼女は誰もが見惚れるような綺麗な笑みを浮かべ、その目にはシュラが映りこんでいる。
 腕の力をゆるめ、今度はシュラの両肩に手を置く。

「貴方が彼らの気持ちを、すべて背負った上で今をしっかりと生きていくのです。そうすれば、死んでいった方々も浮かばれるはずですわ」
「そんな・・・っ」
「貴方が仇討ちをして、彼らは喜ぶのですか?」

 反論をさえぎられ、先ほどの笑みはどこへ行ったのか、まっすぐ目の前の少年を見つめていた。

「喜ばない・・・んだろうな、きっと。おじちゃんも、おばちゃんも・・・やさしいから」

 行き場のない自分の面倒を見てくれたやさしいニンゲン。そんな彼らが、仇討ちなど喜ぶはずもなかった。むしろ、仇討ちによってシュラが死んでしまいでもすれば、それこそ悲しんでしまうだろう。
 彼の答えに、ファミィは満足気な表情を浮かべ、

「それがわかっていれば、貴方はきっと強くなれますよ」

 そう言って立ち上がった。
 片手を差し出して、

「帰りましょうか?」
「・・・うん」

 シュラは彼女に聞かれないように小さく「ありがとう」と口にしつつ、差し出された手を握ったのだった。















 帰り道。
 2人はの思惑通り道に迷いまくり、家に帰りついたのは日が暮れた後になってしまっていた。












第64話でございます。
2日目です。なにか特別なことがあったりとかといったことはありません。
ただ、のどかなだけです、はい。



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