「フォルスエインよ、我らを我らの願う世界へ・・・っ!!」




 派手な装飾を施した剣が虚空へと振り上げられる。
 両刃の剣が光を帯び、頭上へとほとばしった。

「あ、あぁ・・・っ」

 表情を歪め、ファミィは弱々しく膝をつく。
 彼女の手によって、聖剣は発動した。剣から放たれた一直線に天へとのぼり、上空でいくつかに分離すると、フォルネシアを中心に地面に描かれた魔法陣へと収束していく。




「まだっ・・・まだだぁっ!!」
「ちょっ、!?」




 は右手の刀に緑色の魔力を纏わせたまま正眼に構え、

「あいつらが消える前に、全部吹き飛ばせばいいっ!!」

 叫ぶ。緑の瞳をギラつかせて、収束する魔力の奔流をにらみつける。

「ユグドラースっ!!」





    
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜

    第59話  生まれ故郷へ





 四足の巨大な獣が具現する。
 高密度の魔力を自身の瞳に映し、首を振った。

、ありゃ俺には無理だな』
「はっ・・・無理ってどーいうことだよぉっ!?」
『俺の力で、あれを吹き飛ばそうとしたんだろ?』

 ユグドラースはへと首を向けて尋ねるように首を傾けた。
 はこくこくとうなずくと、

『あんな高密度の魔力、俺の力じゃ吹き飛ばすのは無理だぜ』
「・・・そうか」

 すまんな、と一言謝罪の言葉を残すと、ユグドラースは刀の中へと吸い込まれていった。


「おい、地面が揺れてるって!」
「もしかして、ここ・・・崩れるんじゃないのかい!?」


 天井からパラパラと小さな土が落ちてくる。
 シュラとアッシュがキョロキョロと周囲を見回す。
 ここは山の内部に作られた洞窟。強い衝撃がくれば崩れるのは必至だった。


「くそっ!!」


 は床に拳を打ち付けて悪態を吐き出した。















「・・・へへっ」
「バル・・・?」

 くすくすと笑みをこぼしたバルレルは、心配そうに顔を覗きこむイリスを見ずに一歩前へと踏み出す。
 その表情は本当に心から嬉しそうな表情で。槍を片手にの隣を陣取った。

「アレ、失敗するぜ。きっとな」
「は?」

 シシシ、と歯を見せて笑うと、唇を吊り上げた。

「どういうことだよ?」
「まぁ、見てればわかるぜ。ケケッ」
















「!?」

 掲げた聖剣に異変を感じ、フォルネシアは表情を歪めた。
 柄の部分を見ると、先端についていたはずの赤い石が跡形もなく消え、別の得体の知れない物体に変わっている。
 視線をさらに上に向けると、刀身をどす黒い刃が先端へ向かって侵食していた。

「な、なに・・・?」

 立ち上る魔力も真っ白から灰色へと変色し、最終的には刀身と同じ闇色になっていた。



「バカがっ、ソイツはなぁ・・・ニンゲンなんぞに扱える代物じゃねェんだよっ!」
「っ!?」



 声のした方へと顔を向けると、唇を吊り上げたサプレスの魔公子の姿が見て取れた。


















「聖剣が・・・」
「変化していく・・・」

 放出される魔力の色が変化していく様を眺め、イリスとカリンはつぶやいた。
 先ほどまで輝くほどに白い光を放っていたものが、今ではとても濁った闇の色。

「なんだよ、アレは・・・?」

 距離があり、変化した聖剣を確認するためには目を細めるが、立ち上る黒い魔力に遮られてしまい、確認はできない。
 ただ、全身を圧迫されるような感覚が全身を支配していた。

「もしかしたら、聖剣と対を成す剣に変化してしまったのかもしれませんね・・・」
「どういうことだ、ファミィっ!?」

 巻き起こる風に顔を腕で覆いながら、ソウシはつぶやいたファミィに向けて言い放った。
 彼女も同様に顔を覆って風を遮る腕の隙間から悔しげに表情を歪めると、

「ここに来る前に言いましたが、おそらくあれは、聖剣フォルスエインと対を成す使用者の命を喰らう魔剣・・・レイヴァルドです」
『!?』

 突然出た名前に目を丸める。
 聖剣と対を成す、とは言っても、まさか同一の物だとは思いもしなかったからだ。

「言うなれば聖剣を表、魔剣を裏とでも言いましょうか」

 ファミィがそう解説している間にも、黒い魔力は陣の中でどんどんとその密度を高めていった。

「あそこまで魔力の密度が高まってしまった以上、封じられている邪龍の復活もありえます」
「随分と大事になってしまったな」

 ソウシがそうつぶやいたときだった。







「ねぇ、アレ・・・ヤバくない?」
「膨大ナ魔力ト巨大ナ熱量ヲ感知。計測不能・・・」

 イリスの指差した先で、溜まった魔力が今にも破裂しようと青いヒビが入っていた。
 岩が砕けるときのように、ピシピシといった音がイヤでも耳に届いている。

「ヤベェな・・・あぁなっちまったら、オレにもどうなるかわからねェぜ。やっぱり失敗だったなァ・・・ケケケッ!」
「おいおいおい、なんだよそれーっ!!」
「に、逃げたほうがいいんじゃないのかい・・・?」

 高密度の魔力は、魔法陣の中で破裂寸前だった。


















「ククク・・・素晴らしい、素晴らしい力だっ!」
「・・・フォルネシアさま・・・?」

 シオンが不安げな声で剣を持つ女性の名を呼びかける。
 魔方陣内のフォルネシアを中心とした人間たちは、動揺していた。
 無理もない。これでリィンバウムから出ていくことができると信じていたにも関わらず、聖剣を発動させても変化すらまったく起こらないのだ。
 それどころか聖剣は禍々しい姿へと変貌し、自分たちのいるこの場所に何か悪いものが現れようとしているのが理解できていた。
 外に出ようにも、高密度の魔力により外部と遮断されているため出ることは不可能。
 まさに手詰まりだった。

「姉さま・・・?」

 メリルも心配ですといった表情を露わに、取り付かれたように叫びつづける彼女を見つめた。























「みなさん、アレが破裂しますっ!!伏せてくださいっ!!」

 ファミィの必死な呼びかけに、その場の全員が地面へと身を伏せる。

「ファブニールじゃ、ダメか!?」
「わかりませんっ!あの剣を誰かが使ったところなんて、見たことないのですから!!」

 むしろ見たことのある方が珍しいですよ!

 付け加えるようにの問いに答えると、ファミィは破裂寸前の魔力の塊を見た。
 表面には青い亀裂がところどころに入っており、魔力の限界を越えている。このようなことは今まで経験したことはもちろんなかったので、何をすればいいのかすらわからない。
 ただ彼女に言えることは、この場からはもう逃げることができないということだけだった。

っ!?」
っ、よせ!何をしてるのだ!?」

 は声を上げるシュラやソウシを無視して1人立ち上がり、刀を構えた。

「ファブニールで抑えてみるよ。アレが破裂すれば、ここも崩れる。どっちにしたって俺たちはここで終わりだ。だったら・・・」

 刀から魔剣の魔力とは違う黒いソレが強い光を放つ。
 周囲からは確認できないが、の瞳が深い闇の色へと変化していく。
 刀の纏う魔力は彼の腕へと侵食し、身体全体を包み上げる。今までに供給されたことのないほどに、体内は魔力で満たされていた。

「抵抗してやるさ。あがきつづけてやる・・・最後までなぁっ!!」

 2つの黒い魔力の塊が刀を螺旋状に飛び交い、1つに収束。



「ファブニールっ!!」



 ありったけの魔力を込めて、ファブニールは再び具現した。
 その瞬間。パリン、というガラスが割れたような音が響き、衝撃が襲った。
 魔力の塊が、ついにはじけたのだ。強く吹き付ける衝撃波はファブニールによって大半は抑えられているが、すべてを抑えたわけではない。
 抑えきれていない頭上や左右から漏れ出してきてはその場の全員に激突する。中でも、1人立っているはその波を一身に受けていた。

「く、っそぉっ!!」

 自らの身体を鏡のように映し出していた地面が黒へと侵食されていく。

「穴
―――― っ!?」

 叫んだのは誰だっただろうか。
 黒一色となった地面は床を消し去り、底があるかも疑わしい奈落を作り出した。
 ファブニールの陰も同様で、伏せていた人間も、1人立っていたも、無限の奈落へと落下していく。
 身体に負担がかかってしまったのだろうか。は落下しながら、ゆっくりと意識を飛ばしていた。


























「う、うぅ・・・ん」

 耳を突くような騒音で、は目を覚ました。
 光に慣れない目を慣らすために数回のまばたきを試みる。

「あ、あれ・・・ここ、どこ?」
「むぅ・・・」

 は周囲に目をこらすと、自分を中心にファブニールの陰にいたメンバーが倒れており、気付いたのはイリスとソウシだった。2人はもちろん現状を把握できているはずもない。
 彼らと自分が居るここは、どこだろう?
 地面は灰色。頭上には橋のような何か大きな建造物。
 そして、目の前を走る色とりどりの機械・・・

「!?」



 
パパァ ――― ッ!!



「うわぁっ!?」



 目の前を機械が音を立てて通り過ぎていく。

「自動車・・・?」

 たった今目の前を通り過ぎた機械の名称をつぶやく。










 ここは、とアッシュのいた世界。
 リィンバウムでは『名もなき世界』と呼ばれた世界なのであった。












第59話でした。
これをもって第2部は終わりになります。
一行は名もなき世界に飛ばされました。
第3部は閑話的な話を展開しようかと思います。
・・・というかほのぼのを目指します。





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