「どういうつもりだ・・・敵である貴様がなぜここにいて、私たちに加勢する?」
隣に立つ女性に向けて、ソウシは言い放つ。
彼の疑問はもっともで。むしろこの場にいる全員の疑問でもあった。
漆黒の派閥の筆頭の死に様と、そのときに向けられた彼女の言葉を思い出し、バルレルとソウシは顔をしかめた。
女性 ―― カリンは大剣の切っ先を地面に落とし前を見つめたまま、
「アンタたちと一緒にいれば、自分が進むべき道がわかると思うから」
だから、敵対するつもりはないよ。
付け加えるように言うと、大剣の切っ先を宙へと移動させた。
「コートさまが死んで悲しい。でもあたしは・・・の言うとおり、前に進まないといけないと思うから」
そう言い放ったカリンは、確認するかのようにを見て笑みを浮かべた。
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜
第58話 別れ
「じゃあ、改めて・・・行くぞ!!」
は刀を流れる魔力を完全に遮断すると、ファブニールを刀に埋め込まれた黒い石へと吸い込まれていく。
守りを失い、召喚術が襲い掛かる。ファブニールの守りの名残で1つに固まっていたので回避のために散開するが、術の展開速度は速く、回避しきれない。
「こ、これは、マズイですね・・・」
「っ!?」
ファミィとイリスの引きつった声が響くが、再びファブニールを展開する時間もない。
「受けるしか、ないか・・・やだなぁ」
「ダメだよっ!!」
迫り来る召喚術を見据え、言い放つのはユエルだった。
全員の前に立ち両手を左右に広げ、
「ユエルの・・・ユエルの仲間に、手を出すなァッ!!」
叫んだ。
「ユエルーッ!!」
耳を突くような爆音と、閃光。
はただ、自分の家族同然である少女の名を叫んだ。
ようやく召喚術が炸裂し、メリルを含めた2人の召喚師は攻撃の手を休めた。
「ふう・・・」
「まだ、安心なさってはダメですよ、クロノさん。彼らはこれくらいじゃ、たいしたダメージにはなっていないはずです」
「そうなのか・・・ったく、つくづくワケわからん連中だな」
クロノ、と呼ばれた男性は、赤いサモナイト石を両手でもてあそびながらつぶやく。
その隣で、メリルは杖と紫のサモナイト石を構えて、敵に備えて険しい顔をしていた。
閃光が消え、視界が晴れていく。
「っ・・・ユエ、ル・・・?」
光を遮っていた腕をどけ、目を細める。
「は、はぁ・・・はぁ・・・み、みんな・・・だいじょう、ぶ?」
苦しげな表情を見せ、白く淡い光に包まれたユエルはたどたどしく笑みを浮かべた。
は徐々に透けていく彼女を見て表情を歪めて駆け寄ると、そのまま手を伸ばし、抱き寄せた。
「ちょっ、!?」
「ユエル、君・・・消えかけてる」
「え?」
自分が消えかけていることに気付くのは遅く、抱きしめられたまま両手を目の前へと移動させた。
召喚師であるファミィとイリスはその光景を見て目を丸めた。
「これは・・・召喚の光、かしら?」
「わかんないよ、見たことない光・・・」
召喚師2人が、表情を歪めながらに抱きしめられたユエルを見つめる。
そんな彼女らの視線などお構いなしに、ユエルの身体は光とともに霧散していく。
「ユエル・・・消えちゃうの?の隣に、いられないの?」
「・・・っ」
腕にいっそう力を込める。
「そんなコト言うな。ユエルの居場所は、俺の隣だよ」
家族だもんな。
腕の力を緩め、彼女の両肩へと移動する。
「そっか、よかっ、た・・・」
ぎこちなく笑みを浮かべるを見て、ユエルは大粒の涙を流しながら笑顔を見せる。
光はよりいっそう強まり、霧散して消えていった。
「っ・・・ユエルーっ!!」
手から伝わる華奢な肩の感触が消え、込めていた力が空を切る。
は両手を地面に置いて、消えていった少女の名を叫んだ。
召喚術で発生した煙が晴れ、視界がクリアになっていく。
メリルと召喚師風の男性はそれぞれサモナイト石を手に、敵を見据えている。
視界の晴れた死臭漂う空間でアッシュもシュラも、バルレルもファミィも、イリスもソウシもカリンも。
自らの敵をにらみつけ、それぞれの武器を構えた。
もゆっくりと立ち上がり、刀を握り締める。
黒がかった赤い目を深い緑に染め、見開く。刀には供給された魔力が流れはじめ、漏れでいく。
「お前たち、絶対に許さないぞ・・・」
「お、おい・・・・・・?」
ソウシが近づき手を伸ばそうとして、止まる。
立ち上る緑色の魔力を身に纏ったは、そんな彼に見向きもせずに、ただ自身の敵を見据えていた。
「みなさん、術式が完成しました。こちらへ」
フォルネシアの声で、メリルと数人の男女が彼女を中心に集まっていく。
その中には、ハヤテとシオンの姿もある。
「それでは、みなさん。お別れですわ」
怒りに肩を震わせるを中心に一瞥すると、
「私たちの願いは、これで叶います」
「・・・っ、お別れって、どういうことですかっ!?」
「あら、ファミィさまではありませんか。・・・今、言ったとおりですわ。私たちはこの世界に別れを告げ、新たな世界へと進出すること。それが、私たちの願いです」
眉をひそめ声を荒げたファミィを見て、フォルネシアは笑みを見せると、
「リィンバウムを消し去るために」
小さくつぶやいて、ヴァンドールから強奪した聖剣を振り上げた。
剣全体に魔力が流れ、紫で覆われた鋼の刀身が光を帯びる。
「フォルスエインよ、我らを我らの願う世界へ・・・っ!!」
光が、はじけた。
第58話でした。
いよいよ第2部も終わりに近づこうとしています。
・・・というか、あと1話で第2部は終わります。
そして、ユエルさんはこの話を以って、2連載までお休みになります。
・・・たぶん、出てくることはないでしょう。
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