自分には過去の記憶というものがまったくないはずなのに。目の前にいる青い髪の女性を見ただけで、メリルはカタカタと身体が小刻みに震わせていた。
 彼女に殺されかけたとはいえ、内から押し寄せる恐怖感は耐えがたいものがある。
 彼女と自分は、ヴァンドールで初めて出会ったはずだ。
 それなのに、なぜか自身が彼女自体を拒否している。


「目が覚めたのね・・・よかった・・・」


 女性
――― フォルネシアは満面の笑みを浮かべて、メリルをその腕の中へと抱き寄せていた。




「う・・・うあ・・・っ」

 震えが止まらない。
 彼女の身体はとても温かく、醸し出す雰囲気は本来なら安心感の持てそうなのに。

 身体全体が目の前の女性を強く拒否していた。

「・・・い、いや・・・ぁ・・・っ!!」
「っ!?」

 ドン、と両手を突き出してフォルネシアを突き飛ばす。
 彼女は、目を見開いて背後へしりもちをついていた。

 よろりと立ち上がり、腰をさする姿も。
 どこにも危険がなさそうなそんな姿にも、メリルは怯えきっていた。

「いや・・・イヤ・・・イヤあぁァぁぁァぁッ!!!」

 頭を抱え悶えるように叫ぶメリルを見て、フォルネシアは唇を吊り上げていた。





    
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜

    第55話  姉妹





「みんな、メリルは見ていないのかい?」
「ユエルたちは知らないよ。ね、バルレル?」

 無事に合流を果たし、再会を喜んでいたのもつかの間。
 この場に1人、姿のない少女の相棒であるアッシュが全員に向けて声をかけていた。

 話をふられたバルレルは吐き捨てるように息を吐いて、そっぽを向いていた。

 森の入り口では一緒にいたはずなのに。
 気が付いたらすでに姿は忽然と消えてしまっていた。
 彼女は召喚師だ。肉弾戦が苦手なのは周知の事実。だからそれを補うために自分が間に入って彼女を守っていたはずなのに。
 自分が森に入ってから経験した事柄を鑑みるに、彼女は今も危険にさらされているか、今このときに危険にあっているか。最悪の場合は、すでにこの世の者ではないかもしれない。


「・・・さがしてくる」
「待て、アッシュ。探すって・・・どのように探すつもりだ?」

 くるりと仲間に背を向けたアッシュに向けて、ソウシが声をかけていた。
 首だけを動かして彼を一瞥すると、すぐに正面に向き直り、

「問題ありませんよ。すぐ見つけて戻ってくるから」
「森は広大だ。霧が晴れたとはいえ、1人で探すなど無謀と言うものだぞ」

 迷って、それで終わりだ。

 ソウシは表情を変えずに、視線だけをアッシュに向けた。

「じゃあ、どうすれば・・・っ!?」
「信じてやれよ、アッシュ」
・・・」

 身体ごとソウシに向け、叫ぶようにまくし立てるアッシュをなだめたのは、護衛獣であるユエルと再会を喜んでいただった。
 彼はアッシュへと歩み寄り、「人のことは言えないけど」と言いつつ苦笑いを浮かべた。

「相棒なんだろ?」

 表情を曇らせ、視線を地面に向けたアッシュの肩に手を置いて、

「大丈夫だって。もっとメリルのこと、信じてやれよ」

 仲間、だろ?

 ぽんぽんと肩をたたき、は歯を見せて笑みを浮かべた。


「・・・そうだね。相棒の僕が、信じてあげないと」

 彼女に対して、無責任かもしれないと考える人間も少なくはないだろうが、今アッシュが探しに出かけて、それと入れ替わるようにしてメリルが姿をあらわしては元も子もないのだ。
 アッシュは頭を掻いて、照れくさそうに頬を赤らめつつ謝罪の言葉を口にしていた。




「さて、と。それでは、いかがいたしましょうか?」

 両手を顔の前でぽんと合わせると、ファミィは全員に向けて尋ねていた。
 メリルの姿のみがこの場にはないが、何もしないよりはマシだということだろう。

「あそこが目的なら、突っ込んじゃえばいいんじゃないのかよ?」

 ハイ、と手を挙げてしゃべるのはシュラだった。
 突っ込めばいい、というものの、中には何が潜んでいるかわからない。慎重になるのは当然で。

「・・・入った瞬間にあの世行き、なんてこと・・・ないよね?」
「洞窟内ノ生命反応ハ、確認デキル範囲デ4ツ」
「4つだと?」

 細カイ部分マデハ不明ダガ、とクルセルドは目の部分を緑に光らせた。

「そのうちの1つは、フォルネシアのものだと思っていいかもしれないね」
「2つは、俺とを襲った2人組だぜ。たぶんな」
「問題は残りの1つか・・・」

 罠の類があるのかはまったくの不明だが、内部は案外に広いらしく、クルセルドがしきりにスキャニングをしては報告を続けている。
 ピピピピ・・・という電子音と小さめの話し声が、森の中に響いていた。

























「イヤアアァァァァァッ!!」
『!?!?』


 聞こえたのは悲鳴。しかも、その悲鳴はこの場にいない少女のもので。

「メリル・・・っ!!」

 先頭を切って走り出したアッシュを追って、残りの全員が会議を中断して洞窟へと突入してしまっていた。
 最後に入ったソウシはしかめ顔で、ため息を吐いていた。

























「ごめんなさいね、そんなに怖がらせてしまって・・・」
「い、イヤぁ・・・来ないで・・・」

 カツカツと靴音を鳴らして近づくフォルネシアから少しでも離れようと後ずさる。
 近づいては後ずさるを数回繰り返すと、メリルは死臭漂う個室の壁へとたどり着いてしまっていた。
 壁を背に、しきりに左右を見て、冷や汗を流す。

「困ったわね・・・私は、貴女のそんな顔なんて見たくないのに・・・」
「わっ、私たちを殺そうとしておいて・・・なんですか、それはっ!?」

 震えの止まらない身体に、自分で自分を抱きしめるように腕を回したメリルは、恐怖に抗おうと奮闘を続ける少しの勇気を振り絞り、声を荒げた。
 フォルネシアはメリルとの距離をあけて、近づこうとしていた足を止めてにっこりと微笑んだ。

「私はね、メリル・・・」
「っ!?」



 
――― ナンデワタシノナマエヲシッテルノ?



 目を丸め、そんな言葉が頭をよぎる。
 わけがわからない。彼女は近づきもしていないのに、恐怖感が増したような感じがしていた。






「フォルネシアさま」

 彼女の背後で声が聞こえ、振り向かずに用件を聞こうと声をかけていた。
 呼びかけた声は低い男性のもので。

「侵入者が数名、ここへ向かってきていますが・・・如何様に?」
「そうね・・・放っておいていいですわ。残りのみなさんを連れて、こちらへいらっしゃい」
「・・・御意」

 顎に人差し指を当てて視線を上に向けると、彼へ向き直って笑顔を見せた。
 男性は返事だけすると、扉を閉めてしまった。
 ガチャン、という重量感のある音が部屋に木霊する。



「貴女も連れて行ってあげるわ。我が『妹』である貴女も」
「えっ!?」



 身体ごとメリルに向けたフォルネシアは、そう言って笑みを見せた。



 
――― コノヒトハナニヲイッテルノ?
 
――― イモウトッテ・・・ナンナノ?



「そういえば、記憶を失っているのだったわね・・・」



 ――― ヤメテ。コレイジョウナニモイワナイデ・・・



「すぐに、元に戻してあげるわ・・・」



 メリルの頭は混乱し強い恐怖感に駆られ、出そうとする声も出ない。



 
――― チカヅカナイデ・・・
 
――― アナタガワタシニチカヅイタラ、オカシクナル・・・



 フォルネシアは、硬直してしまったメリルの額に手を当てる。



 ヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテ!!

















「あaアあAぁァぁぁァAぁぁ・・・・っ!!!!」
















と言うわけで、55話でした。
記憶喪失だったメリルさんの過去が、少しだけ判明いたしました。
彼女が妹という設定は、前々から決めていました。






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