目が覚めれば、私は『どこか』にいた。
 自分が横になっていたのは自分の2倍以上の大きさがあるベッドで。身体には白く薄めの布団がかけられていて。

 見回せば、それが個室だということがわかる。
 個室とは言っても宿屋などにある部屋とは違って、土が剥き出しの壁にろうそくが2本立った燭台が備え付けられている。もちろん、ろうそくには火がともされていて、部屋を照らしていた。
 ベッドは私が寝ていたもの以外に、もう1つ。しかしそこには誰かが寝ていたわけではないらしく、整頓がなされていた。


「・・・?」


 自分はなぜここにいるのだろう?

 目覚めて5分ほど経過したところで、彼女
――― メリルは上体を起こしたまま首をかしげた。




「ここは、どこですか?」




 発された問いに、答えが返ってこることはなかった。





    
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜

    第54話  合流と邂逅





「とりあえず、他のみなさんを探さなくちゃ」

 ベッドから足を出し、地面に降り立つ。意図的に行ったことなのかはわからないが靴はどこにもなく裸足で行動を余儀なくされたが、ここがどこなのかわからない以上、仕方がない。
 地面からひんやりとした冷たさを感じ取りつつ、部屋唯一の出入り口である扉へと向かった。
 服装は元のまま。杖は靴と同様に部屋の中には存在していないらしい。

「扉・・・開くのかしら?」

 何が起こるかわからない。もしかしたら、鍵がかかっているかもしれない。そんなことを思いつつ、取っ手に手をかけてゆっくりと手前に引いた。
 すると扉は音もなくあっさりと開き、メリルは深く息を吐いた。

 そろりそろりと足を動かし、見張りがいないことを確認して部屋を出た。



















 いち早く目的地である洞窟にたどり着いたイリス、クルセルド、ソウシの3人は、出入り口付近の茂みに潜伏していた。
 3人の視線の先は広場になっており、目立ちやすいため隠れていたほうが懸命だ、というソウシの提案によるものだった。
 腰を下ろしたソウシは、ぽっかりと開け放たれている出入り口を見つめて息を吐いた。

「ふう」
「この中に、ヴァンドールを壊した仲間がいるんだね?」

 イリスは眉を軽く吊り上げて尋ねれば、

「生命反応、洞窟内ニ複数確認。間違イナイカト」

そう答えた。

 彼らはかなり濃度の高かった霧が行動中にすっかり晴れてしまったためか、予定より早く目的地に着いた。
 戦闘後の疲労もほとんどない。味方がいるとはいえ敵地にいるため、ソウシは常に周囲を警戒しつづけていた。

「みんな、大丈夫かなぁ・・・?」
「なに、あやつらは強い。ちょっとやそっとで死んでしまうような者たちではないはずだ」

 最初にたどり着いた我々が、信じてやらねばな。

 彼はイリスに笑みを見せた。

「周囲ニイクツカノ生命反応ヲ複数確認。素性ヲ特定シマス」

 ピピピ・・・という電子音を鳴らしながら、クルセルドの目の部分に光るランプが明滅を繰り返す。
 数秒の後、調査終了の長い音が鳴り、ソウシとイリスの2人は結果報告をただ黙って待ちつづけた。


「特定完了。結果ハ・・・」

















「あぁ、アッシュ〜。しんどいぞ〜」
「ほら、もうすぐだから。がんばれがんばれ」

 とファミィのペアと合流を果たしたアッシュとシュラは、目的地への道をひたすらに歩いている。
 目的地への道は未だ不明で、召喚師であるファミィが魔力の濃いほうへ濃いほうへと進んでいるだけだった。
 かなりの距離を歩いていたためか、大きな金棒を持つシュラは目に見えて疲れ手ており、顔は汗だらけ。
 今にも子供らしく駄々をこねそうな勢いだった。

「しかし、あの2人・・・ずいぶんと仲良くなったみたいだな・・・」
「そりゃあ、そうですよ。たった2人で召喚獣の大群と戦った、という話でしたから」

 2組は合流すると、まず互いの状況を報告していた。
 戦った相手のこと。
 霧が晴れたのは、ファミィの召喚術のおかげだということ。
 『おしおき』は、とても怖いこと。


 そして、アッシュが初めて『人を殺した』こと。


 人殺しを嫌っていたは、最後の項目を聞くと悲しげに笑みを見せて、

「仕方ないよ。いまさらだし、それに・・・俺も、アッシュと同じだから」

そう答えていた。


「これから行き着く先に、みんないるといいけど・・・」
さん。貴方は優しい方です。お仲間のみなさんを心配されるのもわかります。でも、大丈夫ですよ。みなさん、とてもお強いですからv」

 先頭を歩いているファミィはくるりとを見ると、

「それに、他の方のことばかり心配なさってたら、気が滅入ってしまいますから・・・少しは、自分のことも考えてあげてくださいね」

 彼に向けてにっこりと笑いかけた。


「そうか・・・そうだな。君の言うとおりだ。俺らしくもない」

 はガシガシと頭を掻き、表情を緩めた。

「ゴメンな、ファミィ。変なトコ見せて」
「いえいえ、変なんてことありませんよ。この世界に悩みのない人間なんていないんですからv」

















「オラ、しっかりついてこいよ。テメェを置いてったりしたら、に殺されちまうからな」
「・・・うぅ、うん・・・」

 先ほどの無意識による行動と数時間に及ぶ徒歩により、ユエルはかなりの疲れを見せていた。
 うなだれ、口から舌を出し、汗を流しつづけている。
 その一方、先の戦闘では彼女ほど身体を動かしていないバルレルは涼しい顔で目的地へ向けて一直線に歩いていた。
 数分歩いて、ユエルが次第に遅れはじめて、バルレルが立ち止まる。
 それを数十回としつづけていた。この光景を見ていたら、バルレルは世話焼きであると誰もが思うだろう。
 そんな光景だった。

「・・・ったく、なんでこの俺様がこんなコトしなきゃいけねェんだよ・・・」
「ご・・・ゴメンね、バルレルぅ・・・」

 うなだれながら謝罪の言葉を漏らすユエルを一瞥し、

「もうすぐ着くぜ。それまでガマンしてろ」
「わかったよ、ぉ・・・」
「ケッ!!」

 吐き捨てるように息を吐くと、バルレルは歩く速度を速めたのだった。


















「こ、ここは・・・っ」

 メリルがたどり着いたのは、小さな個室だった。
 そこは自分が目覚めた部屋よりも暗く、中の確認がしづらい。


 しかし、それは幸いだったのかもしれない。


「う・・・っ」

 扉を開いた瞬間、漂ってきたその臭いは。

「・・・っ、げほっ、げほっ・・・ひどい・・・っ」

 血の臭いと混ざり合い、発されるおびただしいほどの死臭。
 暗がりに次第に慣れはじめてきた自分の目を、これほど憎らしいと思ったことは今までになかっただろう。

「・・・っ!?」

 メリルは、高く積まれた人間であったソレを、視界に入れてしまっていた。
 思わず口元を抑え、こみ上げる吐き気を紛らわそうと首を振る。





「あら・・・」
「・・・っ!?」

 後方で聞こえる女性の声。
 暗がりのせいでかすかにしか見えないその姿は、

「フォルネシア・ヒルベルト・・・」

 かつて、闘技大会でその圧倒的な力を観客や他の出場選手たちに見せつけた、青い髪を持つ女性だった
―――








第54話でした。
メリルちゃんメインのお話です。彼女だけ、
すでに目的地内部に突入しています・・・




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