鬼人の持つ刀がアッシュの背を捉え、斬り裂こうと振り下ろす。まるで背中に目があるかのように、アッシュはその斬撃を回避するために自分の目の前にいる獣人にむけて突進、体当たりした。
獣人は持っていた大剣を取り落とし、背後の鬼人や獣人を巻き込んで木に激突し、消えていった。
「ダァッ!!」
振り返り、右足を踏み込んで隙だらけの鬼人に向けて右の拳を突き出す。その拳は顔面を捉え、めりこませる。
アッシュは伸ばしきった拳に魔力を纏わせ、自分の右周りを薙ぎ払うように腕を振った。
リィンバウムに召喚された召喚獣は、基本的に魔力が高い。それはこの場で交戦しているアッシュにも当てはまる。
彼はその高い魔力を拳に集中させ、強化していたのだ。装備したナックルの上から淡い光が漏れ、纏わりつくように拳から二の腕までを覆っている。
「ふえぇぇ、頭クラクラだぁ〜・・・」
シュラは目をうずまきにしつつ、腰をおろしたまま上半身を右へ左へとふらふら動かしていた。
「ガアァァッ!!」
背後から鬼人が紅い眼をぎらつかせて戦斧を振りかざしている。
アッシュは目の前にいる数体の敵を倒すために拳を振るっているためか、仲間の危機に気付かない。
背後の気配に気付いているのかいないのか。シュラはその場から動くことは無い。
「グアァァっ!!」
シュラに向けて、彼の身体くらいの大きさがある戦斧が振り下ろされた。
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜
第52話 使われること
「っ!?」
「アレだけでっかい声出してりゃ、気付かないほうがおかしいっての」
振り下ろされた戦斧は金棒を盾代わりに受け止められていた。
甲高い金属音とともに、シュラは自分の背後をじろりと見つめ唇を吊り上げた。
戦斧を受け止めた金棒の柄を両手で握り締め左足を踏み込むと、
「ダアァァッ!!」
「グアァッ!?」
右から左へ一閃した。
強風を巻き起こすほどの勢いで金棒を振るい、砂が舞い上がる。
鬼人は宙を舞いながら、淡い光を放ちつつ消えていった。
「・・・ったく、こっちは疲れてんだ。少しくらい休ませてくれよな」
戦闘中に関わらず場違いなため息を吐き、シュラはどっかとその場に再び腰をおろした。
「せいっ!!」
拳に宿った魔力を拡散させ、複数の召喚獣たちに炸裂させる。消えていく召喚獣たちをちらりと視界に入れ、すぐにそらした。
刀を振り下ろす鬼人の腕を自分の腕で受け流し、腰をかがめて胴に拳を入れる。
くずれおちる鬼人を見、振り返ると獣人の爪が襲い、頬をかすめた。
「っ!!」
自分の血液が伝うのを感じながらその獣人を蹴り上げ、落下してきたところへ拳を叩き込んだ。
獣人の身体は再び宙へと投げ出され、地面に叩きつけられた。
「これで・・・最後っ!!」
獣人の顔を殴り飛ばして、背後の木へと叩きつけた。
ずっと握り締めていた拳を解き、その場でほぐすようにぶらぶらとふって見せた。
「・・・っ」
「あとは、アンタで最後だよ。オニイサン?」
ぐるぐるから復活したシュラと、先ほどまで戦っていたアッシュがクライブの前に立ちはだかる。
眉間にしわを寄せ、悔しそうに唇を噛む。しかし、すぐに先ほどと同じ憎しみに満ちた笑みを浮かべると、
「ふん、たったアレだけで僕の魔力が尽きたとでも言い・・・ぐっ!?」
アッシュが一気に間合いを詰め、右足を思い切り踏み込んで拳を下から突き上げる。拳はクライブの顎を正確に捉え、彼は血を吐きつつ宙へと舞い上がった。
さらに、追い討ちをかけるようにアッシュは飛び上がり、身動きの取れないクライブへとさらに数発、拳を突き入れた。
そして、最後にアッシュは自分の足を彼の首にかけ、一直線に地面に叩きつけた。
ぐぎ、と鈍い音が響き、召喚師は動かなくなった。
「・・・死んでるね」
よかったのか、と着地したアッシュに尋ねれば、
「召喚獣たちに戦わせて自分は物陰に隠れてるなんて・・・召喚獣たちを体のいい道具として使われてるのが、許せなかったんだ」
服の乱れを直しつつ、彼は答えた。
「にこのこと話したら、沈むか怒るかするぜ・・・きっと」
「大丈夫だって。彼もきっとわかってくれるよ」
2人とも、が殺し――― 特に殺人を極力避けていることを知っていた。なぜかと尋ねれば、彼の戦い方から見てわかっていたことだと同じ答えが返ってくるだろう。
の過去は、島にいる仲間たちしか知らない。彼自身それを話すつもりは毛頭なく、2人もそれを聞くつもりは無かった。
第三者から見ればそれは好感の持てる行為ではあるが、この世界では時にそれが仇にある事だってある。
「僕が・・・許せなかったんだ。がなんて言おうと、これでいいと僕は思ってる。それに・・・」
言葉を切り、あきらめたかのような笑みを浮かべると、アッシュはシュラへ顔だけ向けて、
「僕も・・・今日初めて・・・人を殺したよ」
「・・・そ。まぁ、別にオレはどうでもいんだけどさ」
シュラは頭の後ろに手を回し、空を見上げた。
「「うわぁっ!?」」
2人がその場を離れようとしたときだった。
地面を大きなゆれが襲い、あれだけ濃かった霧が一気に晴れていく
「霧が・・・」
頭上には澄み切った青空が広がっていた。
2人は顔を見合わせると、
「シュラ君、これなら怖くないよね?」
「だっ・・・誰が怖いなんて言ったーっ!?」
シュラをおちょくるように笑うと、一目散に走り始めた。当面の目的はみんなとの合流かな、と勝手に決めて。
顔を赤くしたシュラは金棒を肩に担いで追いかけてきた。
「あ、ーっ!ファミィさんッ!!」
しばらくの間、2人はすっかり見通しの良くなった森の中を走りつづけ、奇跡のごとく仲間との合流を果たしたのだった。
第52話でした。
彼らは仲間です、多分。
アッシュ君、殺人犯になっちゃった。
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