「おい、なんなんだよこれッ!?」
「僕に聞かれたってわかるわけないじゃないか!!」

 シュラとアッシュの2人は、とにかく混乱していた。
 彼らの周囲はおびただしい数の召喚獣に囲まれて、逃げ道はおろか虫の一匹すら通れそうにないほどに視界を支配している。

 獣人と鬼人。

 この場を占めていたのは、大まかに2種類の召喚獣たちなのだった。



 ここに具現している召喚獣たちは驚くなかれ、2人とつい数分前まで対峙していた黒ぶちメガネの男性がどこからか召喚したのである。
 たった1人の人間は今のような状況をいとも簡単に作ってしまったことに、2人は混乱していたのだった。


「はじめに言ったはずだよ。”僕は普通の召喚師とは違うんだよ”ってさ」


 手には緑色と赤色に光を発する2粒の石。

 クライブ、と名乗った一見誠実そうな男性は、石を持っていない空いた手でズレたメガネをかけなおしたのだった。





    
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜

    第51話  異能の召喚師





 周囲に群がる召喚獣の大群を見て、アッシュは表情を歪ませて舌打ちを一つ。
 2人で戦うにしても、数の差は大きいのだ。自分と背後の少年だけでは荷が勝ちすぎる。
 以前にも同じような状況があったものの、あの時は自分たち以外に仲間がいたからなんとかなっていたのであって、この状況は彼らにとって悪い部分ばかりなのだった。


























「僕としては、事は穏便にすませたいんだ。だから、ここは大人しくお引取りしていただきたいんだけどね」
「バカ言うなッ!オレは、おっちゃんとおばちゃんの・・・街のみんなの仇を討つんだッ!!」

 アッシュとシュラが、クライブと対峙した時のことだった。
 彼は元々戦いというものを好まないらしく、笑みをみせつつまるで客と応対をするかのように振舞っていた。もっとも、相手が自分より年下であると判断したら、彼は敬語を使わずにタメ口で話し始めたわけだが。
 引きずるように持っていた金棒を両手で持ち、いつでも戦闘が始められるようにと構えを取る。
 黒い瞳をぎらつかせて、シュラはクライブをにらみつけた。

「・・・仕方がないな。それじゃあ、力ずくでお引取り願うしかないわけね・・・」

 ふう、とため息。
 ぽりぽりと頭を掻いて、

「見てわかるように、僕は君たちみたいに自分の身体を武器に戦うことはできない。だから・・・」

 おもむろに懐へ手を突っ込むと彼は2つの石を取り出し、ぶつぶつと何かをつぶやくことで石が光を放ち始めた。

「彼らに任せようと思う」
「・・・っ!!」

 すでに召喚術を行使するための詠唱は終わり、気が付けば2人は召喚獣の大群に囲まれていた。


「おい、なんなんだよこれッ!?」
「僕に聞かれたってわかるわけないじゃないか!!」


 冒頭のセリフが、ここで叫ばれることとなったのであった。


























 逃れられない、と悟ったアッシュは、眉根を寄せつつも構えをとった。
 しかし、召喚獣たちからは攻撃の気配がない。

「あれ・・・?」
「なんだよ、こないのか?」
「僕の命令を待っているんだよ、彼らは」

 召喚獣の間から、クライブが姿をあらわす。
 彼らは、召喚主であるクライブの指示を待っているのだ。

 1個や2個のサモナイト石で大量の召喚獣たちを従えている上に、それらのすべてを制御しきっている。普通の召喚師ならありえない話だろうな、とアッシュは内心ひとりごちた。

「これで3回目かな。僕が普通の召喚師じゃない、と口に出すのは・・・」

 サモナイト石は彼の手で握り締められたまま、強い光を放っている。
 空いた手を宙に振り上げると、

「アークスの名を聞いて、気付くかと思ったけど・・・気付かなかったみたいだね」

つぶやいた。



 アークス家とは、異能の家系。
 どこの派閥にも属さず、呪われた家として一般の人々はおろか同じ召喚師たちからも嫌悪とともに恐怖されていた家系である。



「アークス家は、異能の家系。今みたいに、1つのサモナイト石で同種の召喚獣を大量に召喚できる家系なんだよ」



 これが彼らアークス家の恐れられる理由。一歩間違えば、たった一人で王家と戦える能力をもつ家系であるからだった。

 先ほどの柔らかな微笑みはどこへいったのか。彼は唇を吊り上げて、憎しみに満ち溢れたかのような笑みをかみ合わせた歯とともに見せると、振り上げていた手を振り下ろした。

 今か今かと命令を待ち構えていた召喚獣は、我先にと四方八方から2人に襲い掛かった。

「・・・くそっ!!」

 アッシュはぎりり、と奥歯を噛み締めて、迫り来る敵を見据えた。



「アッシュ、飛べェッ!!」
「!?」



 叫んだのは背を向けたシュラだった。彼を見やると、腰をひねり金棒を振りかぶっているのが視界に入り、これから起こるであろう出来事に予測を立てる。




「っ!?」
「ウウウアアァァァァッ!!!!」



 シュラの雄叫びを聞き、慌てて頭上へと飛び上がると、風を切る低く鋭い音がアッシュの耳に入ってくる。
 それ同時に、無数の激突音があたりに響き渡った。
 実は彼、ジャンプ力には少々自信があった。飛び上がった高さは、とても名もなき世界の人間とは思えないほどに高い。
 大の大人2人分ほど飛び上がったアッシュが見たのは、面白いように飛んでいく敵召喚獣。眼下では、竜巻のように金棒を振り回すシュラの姿が見て取れる。
 召喚獣の飛び掛る勢いを逆に利用し、彼はその場で回転のみをしていたのだ。そうすれば召喚獣たちは、かってに振り回される金棒に巻き込まれて飛んでいく。

 アッシュが地面に戻ってくるときに、シュラは回転の勢いを止めたのだった。

「シュラ君、すごいじゃないか!」
「へっへ〜、そうっしょそうっしょ?」

 召喚獣はその半分以上が彼の金棒の餌食となり、残っているのは十数体のみとなっている。
 それが予想外だったのか、クライブは目を丸めてその光景を見つめていた。


「オレ、目ぇ回ってっからさ。休んでていい?」
「もちろんさ。後は僕にまかせておいてよ」

 召喚獣たちをぐるりと見回し、にっこりと笑う。
 シュラの肩に置いていた手を放し、ゆっくりと立ち上がる。

 先ほどまでの弱気はどこへやら。



「さぁ、これからは僕が相手だっ!!」



 拳を胸の前で合わせた後、アッシュは構えた。






第51話です。
主人公、一度も出てきませんでした。






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