無数の矢が自分たちへ向けて放たれる。何とか回避しつづけることができているものの、そういつまでもいつまでも体力が持ちそうにないな、と彼は思っていた。
 隣を走る召喚師の女性も、激しく息を切らしながらも必死になって足を前に出していた。



「ちょっと、なんで避けちゃうのよぉっ!!」



 霧のおかげで、今まで放たれた矢はすべて外れている。
 濃い霧のおかげで、ねらいが定まらないのだろう。たまに顔の横を通ることもあれば、あさっての方向に飛んでいくこともあった。




 彼女は異常だとは思う。

 いくら自分が弓道の有段者であるにしたって、いっぺんに数本の矢を一気に放つなんて芸当、そうそうできるものではない。しかも自分たちを走って追いかけながら、だ。
 さらに、矢をかなり消費しているにも関わらず、尽きることなく飛んでくる。

 弓道をたしなむ人間が近くにいるわけではなかったにとって、今の状況はとにかく異質なことばかりであった。





    
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜

    第49話  同じ世界の弓使い






「その格好・・・」
「・・・くん?」

 とファミィが、彼女に出会ったばかりのとき。
 彼は目の前の女性の服装を見て思わず絶句していた。

 赤いチェックのスカートに灰色のブレザー。
 どこをどう見ても彼のいた世界でよく見かける学校の制服と相違なかった。
 今いるこの広場は、比較的霧が薄い。彼女の服装を確認できたのは、それが幸いした。

「このカッコ・・・知ってるのね。ということは・・・」

 あたしと同じ世界のヒトね?

 彼女は2人―――特にを見つめた。
 は肯定の意を示すように、口をつぐむ。満足のいく解答だったのか、彼女は唇を吊り上げて笑みを浮かべた。

「・・・悪いけど、アンタたちをこの先に行かせるわけにはいかないのよ」

 背に掛けてあったソレを手に掴み、身体の前に構える。
 ソレはなんとも頑丈そうな・・・

「弓、か・・・」
くん。どうします?」

 あのコ、同じ世界の住人なんでしょう?

 得物の名前をつぶやくに向け、ファミィは彼女を見たまま声をかける。

「どうするも何も・・・」
「あたし、こう見えて弓には自信があるのよねぇ」

 彼女は弓に数本の矢をつがえ、キリキリと引き絞った。
 これからやってくる光景を予見し、冷や汗を流す。

「ま、マジかよ・・・」
「あらあら、こまったわねぇ」

 緊張感を感じさせないファミィにため息を吐きながら、刀を抜く。
 彼女を自分の背後に回し、前に出た。

「あー・・・そう言えば、名前言ってなかったよね」

 弓を引き絞り、腕を震わせながら女性は笑う。

「あたし、ハルカ。叶 遥っていうの。よろしくねv」

 ハルカ、と名乗ったその女性はねらいを定めて矢を放った。
 はファミィを庇いつつ彼女の弓を逃れるために走り続け、冒頭に至ったのだった。








「ちぃっ・・・!!」

 飛んでくる矢を自分の身体の寸前で叩き落し、さらに走る。
 ファミィも、もう限界だ。

「ファミィさん、こっち・・・!」
「きゃっ!?」

 勝手に判断して、彼女を比較的太めの木の影に連れて行き、は1人彼女と対峙した。
 流れ出る汗を拭い、彼女を睨みつける。

「やっと・・・」
「君は、人を殺すことに躊躇はないのか?」

 ハルカの声を遮り、は問いを彼女に投げかける。
 矢のない弓を地面に向けたハルカはその答えを、淡々と言ってのけた。


「あるに決まってんじゃない。でもあたしは・・・はぐれだったあたしを救ってくれたフォルネシアさまに恩を返すために・・・」

 地面に向けていた弓をに向け、

「あの人の願いが叶うまで・・・あたしは戦う」


 もしかしたら、聞いてはいけない話だったのかもしれない。
 彼女は、事故としてこの世界に呼ばれたのだ。名もなき世界から召喚された人間たちはことごとく事故で喚びだされている。
 しかしそれはとて例外ではない。誓約がかかっていないぶんいくらかマシなのだが、彼女は違う。誓約がかかっている状態で召喚師から見捨てられ、帰ろうにも帰れない。
 きっと、フォルネシアはそんなときに彼女を拾い、戦い方を教えたのだろう。

 彼女の目には、確固たる決意を秘めた光が宿っていた。

 彼女は弓を引き絞ると、弓が光を帯びる。淡い緑の光はそのまま矢を形作り、具現する。
 無数に放たれる矢の秘密が、ここに判明した。

くん、あれから魔力が感じられます。あの弓が、あのコの魔力を魔力を矢に変えているのでしょう」
「にしたって、さっきから撃たれまくりなんだ。魔力なのだとしたら、何で魔力切れをおこさない?・・・って、うわぁっ!?」

 の足元に、魔力の矢が炸裂する。矢は地面に深々と刺さり、霧散した。

「構造はよくわかりませんが・・・1本の矢を創ること自体には、それほど魔力を使う必要はないのでしょう。そうであるとすれば、今までわたくしたちを攻撃してきた矢の数もつじつまが合いますからv」

 頬に人差し指を当て、のほほんと彼女は説明してのけた。
 緊張感の無い声にうなだれつつ、弓を構える彼女を見やる。弓を引くと、矢は現れる。
 彼女の魔力はどのくらいだろうか?
 どのように彼女と戦おうか?
 そんなことばかりが頭を支配する。

「・・・っ」

 ぎり、と歯を噛み、は眉間にしわを寄せた。

「そういうワケだから。悪いけど・・・アンタたちは、ここで終わりっ!!」

 彼女から矢が放たれた瞬間、矢は無数に分裂して、を襲った。
 矢の雨から守ろうと、両腕で顔を隠した。

「・・・ぐ、あっ!?」
くんっ!?」

 無数の矢は雨のように降り注ぎ、の身体に刺さっていく。
 彼の身体に無数の傷が付き、その至るところから血が流れ出た。

 刺さった矢は魔力の補助を失ってか、地面に刺さったときと同様に霧散して消えていった。

「魔力がゼロに近い俺には・・・キツいものがあるな、ったく」

 刀を地面について、よろりと立ち上がる。ファミィは慌ててに駆けより、召喚術の詠唱を始めた。
 は彼女の詠唱を空いた手で止めると、彼女を見た。

「今はやめておいたほうがいいですよ。回復しても、またアレを喰らえば同じだし」
「でも・・・」

 いいから、と彼女に頭から流れる血液で汚した顔で笑みを向ける。
 だったらとファミィは立ち上がると、

「でしたら、わたくしが戦わせていただきます。一応、戦えますからv」

 ファミィはいつもののほほんとした表情ではなく、キリっとした真剣な顔を見せた。

「上等っ!!」

 弓を引き、放とうとハルカはファミィにねらいを定めた。






第49話でした。
ファミィさんの初戦闘です。
敵の武器自体が、何だかものすごい強力なものだと思えるのは
私だけでしょうか・・・?





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