がファミィをはぐれ召喚獣から助けた時間と、アッシュがシュラと合流した時間のさらに同じ時間。大きな目に涙を溜め込んだユエルは、気だるそうに隣を歩くバルレルの服の裾を掴んでいた。
「・・・だぁーっ、うっとーしーんだよ。テメェッ!!」
立ち止まり、ユエルに向けてバルレルは声を張り上げた。
ギロリと彼女をにらみつけると、今にも泣き出しそうな表情をして目を合わせ、彼の顔を引きつらせる。
ユエルは一瞬躊躇して、裾から手を離した。
それを確認したバルレルは、舌打ちをしてくるりと彼女に背を向け、歩き出した。
「だっ、て・・・っ、ユエル・・・こういうトコロ、キライなんだよぉ・・・もいないし・・・っ」
ユエルは尻尾を丸めて、首を回して何も起こりませんようにと願いつつ、バルレルの後ろに続いた。
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜
第47話 一時の別離 3
「・・・あっ!!」
しばらく無言で足を動かしていると、ユエルは、ぱっと嬉しそうな表情をして、走り始めた。
彼女の視線の先には、彼女の召喚主である青年の姿。
「〜・・・っ!!」
喜色満面、がそのまま当てはまるだろう。
彼女は草木を掻き分け、一緒にいたバルレルを置いて一目散に走っていく。
彼も彼女に気づいたのか、身体を正面に向けて笑みを浮かべた。
「・・・・・・・」
その笑みや、彼のまとう雰囲気がいつもと違うのではないかと、バルレルは立ち止まったまま口元に手を当てる。
しかし、このワケのわからない森の中ではサプレス出身の自分が持つ知識など役には立たない。
彼は小さく舌打つと、ユエルと同じように走り出した。
草や枝で身体が傷つくにも関わらず目的地へたどり着くと、ユエルはらしき人物に向かって飛びついた。
「よかったよぉ〜・・・コワかったよ〜・・・」
「・・・無事でよかったよ」
飛びつくユエルを受け止めて、は笑った。
視線を向けると、バルレルが走ってくる姿を見つけると、表情をゆがめた。
「オイ、テメェなんでこんなトコにいるんだよ?」
バルレルがとユエルの元にたどり着いて最初の一声がこれだった。
彼は、今この場にいるを半ばにらみつけるように見つめ、尋ねる。
「なんでって・・・お前たちも同じだろ?森に入った瞬間、みんないなくなったんだよ。だから・・・」
は淡々と理由を述べる。
それを聞いたバルレルは眉を吊り上げて、笑みを浮かべた。
「そうか・・・そうだったな」
「さて。それじゃ、行こうか」
「え、行くって・・・どこへ?」
ユエルはから離れて尋ねる。
「・・・みんなのいるところさ」
「・・・!」
彼はそう答えると、2人に背を向ける。
そこでバルレルは目を丸め、自分の考えが正しいことを知って唇を吊り上げた。
森の中をとユエル、その後ろをバルレルという順番で歩いていた。
目的地はだけが知っていて、そこにははぐれた仲間たちが全員いるという話だった。
しかし、バルレルだけは彼の話を信じていない。
”ったく・・・あんな無防備に話してやがって・・・コイツはもう少し人を疑うことを覚えるべきだぜ”
前を歩く2人を―――正確にはユエルのみを見ていた。
仮にも、ユエルは自分の恩人である彼の護衛獣だ。今目の前にいるのが自分の主人でないことぐらい、彼はわかっていると思っていた。しかし、今の彼女を見る限りではそんな考えは全くないのだろう。
ケッ、という声と共に1人、眉間にしわを寄せていた。
「どうしたの?」
「っ!?」
じっとではない何かをにらみつけていたバルレルは、ユエルが近づいたことに気づくことなく身体を震わし、数歩後ずさった。
「大丈夫か、バルレル?」
「ケッ、たりめーだろ」
は安心したかのように笑みを見せ、再びバルレルに背を向けた。
ユエルはいつのまにかの隣に移動しており、彼に向けて微笑んでいる。
再び、3人は道なき道を歩き始めた。
「ねぇ、まだ着かないの?」
「あぁ、俺もずいぶん遠くまで来ちゃったなって後悔してたところだ。まぁ、そのおかげでお前たちと会えたわけだけど」
もうかなりの時間、森の中をさまよっている。
ユエルは本当に疲れきったかのように舌を出し、身体を前に傾けて息を荒げていた。
逆に、は汗一つかかかずに涼しい顔で前を見ており、疲れた様子は全くと言っていいほどない。
「・・・いい加減にしろ」
「「?」」
2人の背後でバルレルは低い声を出した。
立ち止まった2人は彼にふりむくと、
「もう少しだから、がんばろうぜ」
「ユエル、がんばるよ〜・・・」
「うるせェ、どうせ目的地なんかねェんだろ?」
わかってんだよ、とバルレルは槍を構え、刃をの喉元へ当てた。
「バルレル、なにやってるの!?」
「テメェもいい加減に気づきやがれ。コイツはあのじゃねぇ」
「え・・・」
何を言ってるの、と言わんばかりの顔をバルレルに向ける。
さらに、とバルレルの顔を見比べた。
「バルレル・・・・言ってる意味がよくわからないんだが、これ・・・どけてくれないか?」
「テメェ・・・何者だ・・・?」
「何者って・・・だよ、 」
ヘェ、とバルレルはを一瞥すると、言い放った。
「じゃあ聞くがな、テメェ・・・大事な刀はどうしたんだよ?」
「「!?」」
ユエルはの腰にあるはずの刀を見るが、そこには何も見当たらない。
も同じように自分の腰を見て、息を吐いた。
「み、みんなの所に置いてきただけだって。そんなに疑うことじゃないだろう?」
「バカなこと言ってンじゃねェよ。こんな森で自分の武器を持ってないなんて、俺を襲えと言ってるようなモンじゃねェか。それに・・・」
紅い瞳をギラつかせて、バルレルはさらにをにらみつけると、唇を吊り上げた。
「本物のならなァ、普段は他のヤツのことを『お前』って言わねェんだよっ!!」
あの野郎になりきるには研究が足りなかったなァ、とバルレルは槍に力を込めて突き抜いた。
眉をひそめ、は背後へと下がりこれを避ける。
刃は彼の首筋をかすめて、赤い線を作り出した。
「チッ・・・」
歯を立ててバルレルは舌打ちをする。
首に手を添えたは、表情をゆがめた。そしてすぐに表情を嬉しそうなそれに変化させると、声を上げて笑い始めた。
「は、ははは・・・あははははははははっ!!」
「え・・・・・・?」
「テメェ、まだわかんねェのかよっ!?・・・アレはじゃねェんだよっ!!」
そんなんでホントに護衛獣かよっ!?
信じられない。
そんな表情をしたユエルに向けて声を荒げる。槍を振りかぶり、突進した。
は懐から短剣を取り出すと、襲い掛かる刃を受ける。
2人の刃は甲高い金属音と赤い火花を散らして交わった。刃の根元と槍の中間に手を添えたバルレルは、刃がわの手に力を入れる。右手に短剣を持つは、押されまいと力を込める。
「だあぁぁっ!!」
強引に槍を振り切る。
甲高い音を立てて互いの刃は離れ、槍は地面に突き刺さり、短剣はの背後へ飛んでいった。
バルレルは槍を引き抜き、に向ける。
は目を閉じて、笑った。
「テメェ、何者だ・・・っ?」
「やはりバレてしまったようだ。彼女だけならうまく騙せたものを・・・」
お前がいるとは誤算だったよ、と言っては立ち上がった。
バルレルはそれと同時に槍の刃を上に移動させる。
「私は・・・ヒルベルトの考えに同調し、協力する者」
ぐにゃりと彼の周りが歪む。
その中には消え、本当の彼の姿が2人の目に入った。
「元、蒼の派閥の隠密・・・」
それは、シルターンのシノビと似た緑色の服をまとい、大剣を背負った男だった。
大剣は今までどこにしまったったのだろう、という疑問がバルレルの頭をよぎるが、そんなものは隅に追いやって、彼をにらみつける。
「・・・グレン」
大剣の柄に手を移動させ、抜き放つ。
自分の前で柄を両手で持ち、
「お前たちにはここで死んでもらわねばならん。悪く思うなよ」
構えた。
「じゃ・・・ない・・・っ!!」
ユエルは姿の変わった彼を見て、歯を立てる。
「ウウウゥゥゥ・・・!」
目元に涙を溜めて、ユエルは殺気を放った。
「大好きなの姿で・・・」
「オマエ・・・」
「・・・・・・」
「許さないぞっ!!!」
怒りに燃えたユエルの咆哮は、森じゅうに響き渡った。
第47話「怒りのユエル・起つ」でした。
ついに・・・ついに彼女の見せ場が!
やってきました!!
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