「おかしいなぁ・・・みんな、どこいったんだろう?」
がファミィと合流したのと同時刻。
アッシュは1人、森の中をさまよっていた。彼は生い茂る木々に囲まれ、なかなか前に進むことができない。
しかも、まだ昼間のはずなのに薄暗い。その上、濃い霧が森全体を覆っているため、見にくい事この上なかった。
「そういえば、ファミィさんが気をつけるように言ってたっけ・・・」
どうしよ、と口から息と共にもらす。
数秒の後、今までのようにとりあえず歩いてみようと草木を掻き分け進み始めた。
「・・・ん?」
立ち止まり、先も見えない周囲を見回し、目の前のひときわ大きな茂み一点で止まった。
なにかいるな。
周囲を警戒しつつ、茂みに近づく。
すると、茂みは小さな葉っぱを揺らして彼から遠ざかった。
アッシュが立ち止まると、茂みも動きを止める。
近づく。
遠ざかる。
止まる。
「そこにいるのはわかってるんだ・・・いい加減、出てきてくれないか?」
行動するのもじれったくなり、その場でなにが潜んでいるかもわからない茂みに向けて声を出した。
・・・
・・・・・・
一時の間を置き、ソレは茂みから飛び出した。
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜
第46話 一時の別離 2
「ワァァァァッ!!」
「うわぁっ!?」
茂みから飛び出したソレはあっという間にアッシュに覆い被さり、押し倒した。
左手に人間大ほどの物体を持ち、右手をアッシュの首元へ移動させた。
「ぐ・・・ぁっ!?」
「・・・・・・あれ?」
ソレは標的が誰だったのか理解すると、アッシュから降りる。
「・・・アッシュ、だったよな?」
「君は・・・シュラ君じゃないか」
ゴメンゴメン、とシュラは襲い掛かったことについて素直に謝罪をした。
彼も気づいたら一人だったらしく、今の今まで先ほどの茂みに身を隠していたのだとか。
茂みが異様に大きかったのは、彼の持つ金棒のせいだったのだとアッシュはここで理解できた。
「それで、僕がここに来るまでになにか起こらなかった?」
「うん。オレも同じだけど、はぐれがたくさんうろついてる。アンタがここに来るまでに4体も目の前を通り過ぎたよ」
「へ、へぇ・・・」
よく気づかれなかったな、と内心思いつつ、アッシュは顔を引きつらせた。
「とりあえず、君がいてくれてよかったよ。この森、何が起こるかわからないから・・・心強い」
「オレだってそうさ。アンタが来てくれて、よかった」
互いに笑みを浮かべ、再び行動を始めた。先頭はアッシュ、金棒を引きずるシュラは彼の後ろを歩く。
歩くたびに霧が濃くなり、今となっては自分の手を前に伸ばした先がやっと見えるくらいになっていた。そのため、シュラはアッシュのすぐ後ろを陣取り・・・というか、すでに彼の上着の裾を握り締めていた。
「・・・大丈夫かい?」
「なっ・・・だっ、だだだ大丈夫に決まってるだろっ!?」
シュラは明らかに動揺していた。急に尋ねられてか顔を汗が伝い、声が裏返っていた。
すぐ目の前が全く見えない状態である今の状況が彼を恐怖という足かせにしているのだ。彼はまだ子供。恐怖も人一倍なのだった。
アッシュは彼と目を合わせるようにしゃがみこむと、彼の頭に手を置いて笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ。僕が一緒にいるから、ね?」
「ううううるさいっ、オレは平気だって言ってるだろぉっ!?」
シュラはわたわたと頭の上にある手をどけると、頬を赤らめる。アッシュから顔を背けると、眉間にしわを作った。
「・・・なんか、いるよ」
「え?」
アッシュは立ち上がりきょろきょろと見回すが、視界は狭く先が見えないため気づかない。
金棒を両手で持ち、いつでも振るえるように構えた。青い瞳をしきりに動かし、正体を探る。
ガサリ、と草むらから音が発され反応するかのように2人音源を見た。しかし、なにも襲ってくる気配はない。
ようやくアッシュも表情を引き締まったものに変え、ナックルを装備した。
「どこだ・・・」
沈黙が周囲を包む。互いに背中合わせになり、襲撃に備えた。
ひんやりとした空気が流れ、肌を刺す。
冷や汗が、頬を伝った。
音を立てた草むらの逆側の茂みから、黒い影が勢いよく飛び出す。
葉がこすりあう音を認知し、2人は顔をひねる。鋭く光る爪を目の当たりにした。
「「・・・っ!!」」
襲い掛かる爪を受け止めるには間に合わないと判断し、背中を合わせたまま腰を落とす。
2人の頭上をその黒い影は通過し、茂みに消えた。
「・・・はぐれ召喚獣かな・・・?」
「あの爪はきっとメイトルパの召喚獣のものだと思うよ」
冷や汗を流しつつ、いずれ襲い掛かるであろう黒い影の消えた茂みをにらみつけた。
茂みから出た音が次第に周囲からも聞こえてくる。たくさん潜んでいるのかもしれないが、それは先ほどの黒い影が高速で2人の周囲を動き回っていてそう錯覚させていたのだった。
姿を捉えようと右に左にしきりに瞳を動かす。
数秒か、数分か。
長いのか短いのかわからない時間を索敵に費やし、突然。
影は、シュラの正面の茂みから飛び出した。
「!?・・・このやろぉっ!!」
自分の右側に構えた金棒を左へ振りきる。金棒は黒い影を捉え、吹き飛んだ召喚獣は近くの木に叩きつけられた。
バキィッ、という音と共に、激突した木は真っ二つに折れ曲がり砂煙を立てて倒れ、召喚獣は根元に伏せたまま動かなくなった。
「いよっし!」
グッ、とシュラは拳を突き上げてガッツポーズ。さらに満面の笑みを浮かべた。
アッシュは動かなくなったソレを見るために近づこうと歩み始めると、ソレは光を発して送還されるように消えてしまった。
「なんだったのかな、今の?」
「僕に聞かれたってわかるわけ無いじゃないか・・・」
警戒を解いたアッシュはげんなりとした顔をする。
がしがしと頭を掻くと、息を吐いた。
「やはり、召喚獣1体だけじゃあ勝ち目はない、か・・・」
「「!?」」
音もなく、ローブ姿の男性が姿をあらわした。銀髪に緑を基調としたローブを着て、黒ぶちのメガネをかけていた。
2人は、突然あらわれたその男性に警戒心剥き出しの視線を向ける。彼は視線が突き刺さることに臆することなく、にっこり笑った。
「・・・貴方は?」
「僕の名前はクライブ・アークス。一応、召喚師だよ」
他の人とはちょっと、違うけどね。
彼はそう言うと、微笑んだ表情をそのままに2人へ向けて一礼した。