サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜
今日も、いい天気。
風が少し強めで、荒野の砂を巻き上げる。
みんなは、目的地に向けてただただ足を動かしている。
クルセルドの左肩にはイリスがちょこんと座って、こみ上げる笑いをこらえている。
右手からは茶色の縄が伸び、その先には丸太。
「・・・なんで僕はこんな状態になってるんだろう?」
丸太はずるずると引きずられ、さらにそこにアッシュがくくりつけられていた。
「・・・お前たち、いい歳して子供みたいな真似はよせ」
「ソウシもああして欲しかった?」
「いや・・・」
自分が丸太にくくりつけられている光景を想像し、ソウシは首を振った。
ありきたりな寝言をほざいたバツだ。
バルレルは腹を抱えて笑っていた。
第45話 一時の別離 1
縄を解いてくれと懇願するアッシュの丸太を引きずり、目的地にたどり着いた。
天高くそびえる山のふもとは鬱蒼とした深い森に囲まれており、さらに霧がかかっている。
「ここからは何が飛び出すかわからない。心してかかるぞ」
丸太の縄を解きつつ、ソウシは皆に向けて声をかける。全員が武器に手をかける中、メリルは自身の肩を震わせていた。
「どうしたの、メリル?」
「・・・え、ゆ、ユエルちゃん・・・なんでもないんです・・・なんでも・・・」
なんでもない、と言い張ってはいるものの、その姿はとても説得力の無いものだった。
つらいなら、ここで一度休んでもいいのだぞ、と気遣うソウシに彼女は、
「大丈夫ですから・・・」
汗をかきつつ彼女は答えるのだった。
ソウシはあきらめたようにそうか、とつぶやくと、彼女を視界からはずして山を見上げた。
空はいい天気だというのに、山の周りにだけ雲が寄り集まっているためか頂が見えない。
森には木々が茂っており、人が通るような道は見つからない。良くて細い獣道があるくらいだった。
「静かですわね・・・」
「これだけの森なら、鳥の1羽や2羽いてもいいんじゃないの?」
顔をしかめるファミィにシュラは尋ねる。
「この森にはなにか結界・・・みたいなのが張られているみたい。中には入れるみたいだけど、気をつけて進もうね」
「あ、イリスちゃんっ!」
イリスはそう言うと、クルセルドにたきつけて森へ入っていった。
ぐにゃん、とイリスとクルセルドの姿が水の波紋のように歪む。
イリスを止められなかったファミィは頬に手を当ててため息をつく。
「もう、本当にあの子は向こう見ずなんですから・・・」
「ファミィさん・・・」
は彼女の肩をなだめるようにぽんぽんと叩いた。
「僕たちも入ろう。先に行ったイリスも心配だし」
アッシュの提案のもと、全員で森へと足を踏み入れる。入った瞬間に視界が歪み、は何か突き抜けたような感覚を覚えた。
そして全身が森へ入ると後ろも森、右も左も、前方も森になってしまっていた。
「あれ、みんなは・・・?」
おーい、と声を張り上げてみる。しかしそれは虚空へと消え去り、返事が返ってくることはなかった。
「まいったな・・・なんかはぐれちゃったみたいだ・・・っ!?」
方向オンチなのに・・・とうなだれていると、の耳に雄たけびが聞こえてきた。
それほど遠くないみたいだな、と思いつつ耳をすませる。
「・・・っ!!」
さらに聞こえた雄たけびを頼りに、は走り出した。
「ガアァァァッ!!」
「あらあら、困りましたわねぇ・・・」
杖を左手に持ったファミィは・・・困っていた。
すでにお決まりであるかのように頬に手を当てる仕草をして、
「これでは召喚術が使えないわ・・・」
彼女ははぐれ召喚獣に追い込まれていたはずなのだが、はたから見ればまるで危機感を感じていないようにも見て取れる。
まさに、彼女は天下無敵のおっとりさんであった。
「どこだ・・・ッ!?」
草木を掻き分けて進む。木にぶつからないようにしっかりとよけながら、は雄たけびの主を探していた。
「ガアァァァッ!!」
「・・・っ!?」
雄たけびが先ほどよりも近くで聞こえ、足を止める。
きょろきょろとその場で首を回すと、目立つ金色の髪を確認し、その主がはぐれ召喚獣に襲われていた。
そちらへ向けて駆ける。そのまま刀を抜き放ち、
「ファミィさんっ!!」
はぐれ召喚獣の胴へ向けて横に斬りつけた。
「グ、ガ・・・ッ!?!?」
召喚獣の傷口は浅い。血は流れているものの、致命傷になることは無いだろう。
「あらあら、さん。よかったわ〜、こんなところで1人だったものですから・・・」
「そんなことより、逃げますよ!!」
は刀を納めて、のほほんと言うファミィを横に抱き上げて―――言うところの「お姫さまだっこ」をして一目散に走り出した。
彼女を襲っていた召喚獣は、それほど大きなケガではないはずだがうずくまったまま身体を震わせている。
「あらあら・・・」
今の自分と、頭上にあるの顔を見比べてファミィは杖を両手で持ったまま、うつむいて顔を赤らめた。
とにかく召喚獣の追ってこないところまでファミィを抱いたまま走りつづけ、開けた場所に出た。
はそこで速度をゆるめ、止まった。
「ぶはあ、はぁ・・・はぁ・・・」
ゆっくりと息を整える。
「さん、その・・・」
「え?・・・あ、あぁっ!!今、下ろすから!」
慌てて彼女を地面に下ろす。そして、顔を赤くして距離を取った。
居たたまれなくなって、顔をそむける。
「その・・・申し訳ない。急ぎだったから・・・」
「いえいえ、いいんですよ。わたくしも、危ないところを助けていただいて、ありがとうございます」
彼女は律儀にもおじぎをすると、は慌てて取り繕うようにおじぎを返して首を左右に振った。
の反応を見てかくすくすと笑うと、
「しかし、本当によかったですわ。森に入った瞬間、わたくし1人になってしまって・・・」
「・・・俺もです。この森・・・どうなってるかわかります?」
ファミィはうなずいて、今いる森について話をはじめた。
「入る前にも言いましたが、この森には結界が張られています。入った瞬間、全員を別の場所へ瞬間的に移動させるものです」
「ということは、他のみんなも・・・」
「ええ、多分他の場所に飛ばされたのでしょう。わたくしたちは幸いにも比較的近くに飛ばされたようですわね」
よかったですわ、とファミィは微笑んだ。
は同じように笑うと、「そうですね」と返した。
「逃げちゃったか〜・・・しょうがないなぁ」
「「!?」」
声がきこえ、身構える。
「誰だっ!?」
「あたしがやるしかないわけね・・・はぁ」
声的には高め。「あたし」といっていることから女性だろう、とは判断した。
手ごろな石を拾い上げ、声に向かって投げつける。しかし、ぶつかったような鈍い音は聞こえず、代わりに拳を手のひらで受け止めたような乾いた音が響いた。
「ちょっと、いきなり投石は反則でしょ〜っ!」
茂みから姿をあらわす。
姿を見せたその女性は、赤いチェックのスカートに灰色のブレザー―――つまり制服を着込んでいた。
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