風が、彼女の周りを吹き抜け、長い髪をなびかせる。
ここはとある洞窟の深層。しかし、内装は普通の家屋そのもので、窓があれば完璧なそれになるだろう。
壁の隙間から漏れだしている水が床に落ち、濡らす。
薄暗いその部屋で彼女は、手に持つ一振りの剣をその重さのせいか地面に落とし、カランという音が響き渡った。
一筋の赤い血液が彼女の白い手を滑り落ち、地面へと向かっていく。
「・・・・・・」
華奢な肩を震わせ、彼女は声に出さずに笑う。
取り落とされた剣は鞘に納められたままになっており、比較的派手な装飾が施されている。
柄尻には赤い石が取り付けられ、鍔には加工された黒と緑の小さな石が埋め込まれており、鞘からはみ出して見える刀身は鋼。その周囲を透き通った紫色の刃に覆われ、中心には無色透明の物体が埋め込まれていた。
「フフフフ・・・」
明かり代わりの数本の蝋燭から発される淡い光が彼女の周囲に描かれた魔法陣が映し出す。
その場にひざまずき、口元を抑えた。
「さすがだわ。一筋縄ではいかない・・・聖剣の名は伊達ではないようですわね。でも・・・」
ぺろりと手から溢れる血液をぺろりとなめとり、
「私の望みのため・・・かならずや、この剣を従わせてみせます・・・」
彼女の目には、決意の光が宿っていた。
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜
第40話 誓約解除
「それじゃあ、いくよ!」
広い草原に少女の声が響き渡る。
地面には触媒として用いた液体によって陣が描かれている。
風は微風。
天気は快晴。
陣の中心には1人の悪魔――バルレルがあぐらをかき、外では召喚師以外の人間がその光景を見守っていた。
「ホントにこんなんで誓約が解けんのかよ!!」
「そんなのボクたちにわかるわけないでしょーっ!!」
”荒技”なんだからっ!!
少女――イリスは身の丈の2倍以上はある杖をビュンビュンと振り回し、悪魔に叫んだ。
陣の周囲には3人の召喚師が一定間隔で立っている。
まず、長い杖を振り回すイリス。次に「あらあら」と2人の言い合いを眺めるファミィ。それとは対称的に、言い合いを見ておどおどするメリルの3人だ。
「いいかげんに大人しくしてくださいね・・・イリスちゃん、バルレルくん?」
「はっ、はいいぃぃぃっ!!」
「・・・ケッ」
ファミィの一声で3人は声をそろえて詠唱を始めた。
『異世界より出ずる意思よ・・・』
陣を中心に風がやむ。
『我らの願いを聞き届け・・・彼の者を縛る鎖を解き放て』
陣が淡い紫色の光を帯びる。
「うっ、うおおぉぉっ!?」
中心のバルレルの身体が浮き上がる。身動きが取れずもがくが、もちろん効果は無い。
『彼の者を誓約から解き放て!!』
「おっ、おわあぁぁぁっ!?」
紫色の光が視界を覆う。バルレルはなんとも情けない声を出して、それに包まれた。
召喚師でないやユエル、アッシュ、ソウシ、シュラはまぶしさに目を覆う。
イリスの護衛獣たるクルセルドは静止したまま、光をその一身に受け止めていた。
光が、消えていく。
「ぐへっ!?」
ドサリと浮かんでいたバルレルが落下する。
周りの陣は焦げたように黒く濁って煙を上げており、再び吹き始めた柔らかな風がそれを吹き飛ばした。
腰をさすって立ち上がると、彼は自分の身体を見回す。
「おっ」
腕を。
「おおっ!!」
足を。
「おおおっ!!!」
そして、自分の身体を。
「おおおおぉぉぉっ!!!!」
バルレルの歓声が辺りに響き渡った。
視界を覆っていた手をどけて見れば、陣の中心には見たことのない姿が見て取れる。彼は自分の身体の至るところに触れては歓声を上げている。
そして、ひゃっほい!!と飛び上がった。
「いよっしゃあーっ!!」
俺は自由だ!!
すごい喜びようだ。彼の表情は、今までに見たことのないような嬉しそうなもので、彼が心から喜んでいるのがその場の全員に理解できていた。
「バルレル・・・君、そんな姿してたんだな・・・」
「おい、。テメェ!耳の穴かっぽじってよ〜く聞けよ!俺様はなァ!サプレスでも高位の悪魔『狂嵐の魔公子』バルレル様だぜ!!」
彼の姿はすらりとした長身で、額からは目玉がぎょろりと動いている。背中の羽は身体に合わせて大きくなっていた。
は、わかったわかった、と言いつつぽんぽんと彼の肩を叩くと、
「バルレルには変わりないんだろ?」
それでいいじゃないか。
彼は笑った。
バルレルもなにか納まりきらないようだが、舌打ちをして口をつぐんだ。
「それじゃ、これでアイツらを探せるんだねっ!?」
「そういうことになるね」
「むぅ、小童とばかり思っていたが・・・」
アッシュとソウシは興味深そうにバルレルを眺め、つぶやく。
「・・・なんで俺様がテメェらなんかに協力しなきゃなんねェんだよ」
『!?』
バルレルの発言に耳を疑う一行。
「なにを言ってる。お前・・・」
「だから、何でテメェらなんかにこの俺様が協力しなきゃならねェんだと言ってるんだ」
「それは、君が僕たちに協力するつもりはない、ということかな?」
アッシュは表情を険しいものに変え、にらみつける。対するバルレルは嘲るようにアッシュをみると、
「たりめェだろうが。俺はな、誓約を解いてもらうためにお前らを利用したのさ!」
両唇を吊り上げ、彼は声を上げて笑う。
彼は悪魔。誓約さえ消えてしまえば、サプレスに還ろうがどこへ行こうがお構いなしだ。誓約が解かれて元の姿に戻った彼にはヘタな召喚術は通用しない上に、召喚師である3人は魔力を消費して召喚術はほとんど使えない。
自分で高位の悪魔だと言っていたから、攻撃力でも勝ち目はない。
「貴っ様ぁっ!!」
ソウシが刀を抜く。彼の顔は般若の形相そのものだ。なにか黒いオーラを放ちつつ、バルレルをにらみつけている。
さらに、じりじりと彼に近づいていく。
「あらあら、まあまあ。バルレルくん、おイタはダメですよ」
「・・・!?」
緊迫した状況の中、おっとりとした声が聞こえる。
その声は、金の派閥の議長からのもので。彼女は笑ってはいるものの、醸し出す雰囲気は笑っていない。
「あなたの誓約を解いたのは誰ですか?・・・わたくしたちですよね?わたくしたちがほとんどの魔力を消費して誓約を解除してあげたのですよ。他の誰でもない、あなたのために」
「だ・・・だったら、何だってんだよ!」
「あなたはわたくしたちに相応の代価を払っていただかなければならないと。さんもソウシさんもアッシュさんもユエルちゃんも、思いますよね?」
漆黒のそれを周囲に振りまきながら、ファミィは陣の外にいた4人へ顔を向ける。ただならぬ彼女のオーラに気圧されながら、コクコクコクと一心不乱に首を縦に振った。
彼女は、ぱっ、と満面の笑顔を見せると、両手をぽんとあわせて
「ほら、彼らもそう言っているじゃありませんか」
「いやいや、言ってねえよ。今のは・・・」
「バ・ル・レ・ル・く・ん?」
「・・・・・・・・・・・・」
言わせてるんじゃねェか、と言おうとしてやめる。
満面の笑顔が消え、黒い笑顔になることで放たれたオーラが、彼の言動を止めたのだ。バルレルの額に、汗がにじむ。
「・・・・すいません、ゴメンナサイ。俺が悪うございました」
狂嵐の魔公子は彼女の発する黒いオーラの前に、完膚なきまでに叩きのめされたのだった。
オリジナル小説もついに第40話を突破しました。
バルやファミィといった2キャラが出張っております。
さらに、途中から日本語がおかしい部分があるやも知れません。
が、ここは大目に見てやってくださいませ〜・・・
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