気絶した鬼少年をが背負い、一行はヴァンドールを目指していた。
少年が目覚めるまで待つ、という案も出たのだが、
「事情は歩きながらでも聞けるだろう」
というソウシの意見で却下となり、とりあえず移動を開始したのだった。
「あ、ヴァンドールが見えてきた・・・よ・・・」
「な、なんてことだ・・・」
街の様子を見て、一行は驚きを隠せずにいた。
街が、街の形を成してなかったからだ。
高く積み上がった壁も、ところどころが砕け、崩れている。
廃墟と言っても過言ではないほどに、ヴァンドールという街は崩壊していた。
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜
第37話 崩壊の真相
「う・・・うぅ・・・ん」
「・・・!」
の背中でもそもそと鬼少年が動く。
反応して首を回せば、うっすらと目を開けて首を持ち上げていた。
「・・・大丈夫かい?」
「え・・・う、うん。・・・ここは?」
「ヴァンドールの街の近くだよ」
「っ!?」
ユエルの声を聞いて彼は目を丸めると、の背から飛び降りた。
「アンタたち、オレになにしようとしたんだっ!?」
「・・・え、えーと」
彼の変わりように、アッシュが口篭もる。
「別に何もするつもりはないよ。俺は、 。君は?」
「うっ・・・シュラだよ」
シュラと名乗った少年は、を中心に周りをじいっと見つめる。
「私はソウシ、沖田 総司だ。シュラといったな。お前はここにいたのだろう?だったら、ここで何があったのか、教えてはもらえないか?」
の隣で、ソウシが彼に向けて言葉を放つ。
「その前に、街のほうを見に行ったほうがいいんじゃないですか?」
あ、私はメリルです。それから、こちらがアッシュさんです。
付け加えるように自己紹介をすると、シュラに笑顔を向けた。
アッシュを紹介するように言うと、彼は「よろしくね」といって笑みを見せた。
「今、クルセルドに生きてる人がいないか確認してもらってるよ」
ボクはイリスだよーっ!
メリルと同様にイリスが名前を名乗る。
クルセルドは名前だけ言うと、一礼をした。
「ユエルは、ユエルって言うの。とりあえず、街に行くから、キミも一緒に来てくれないかなぁ?」
「・・・・・・」
「黙ってちゃ、わからねェだろうがっ!?」
「うるさい、うるさい、うるさい、うるさいッ!!」
手を顔の両側にあて、首を振る。
彼を見て、声を荒げるバルレルをいさめつつは、なにかあったな、と思う。
何かあったのは、すでに周知の事実だ。街が崩壊してるんだから、なにかあったと考えざるを得ない。
別に何もなければ、「普通だよ」くらいは言えるはずだ。
バルレルが声を荒げても何も言わないところを見ると、相当ひどい光景が残っているのかもしれない。
「・・・わかったよ。ただし、行くだけだからな!!」
クルセルドから金棒を受け取り、歩き出す。
一行は、彼に慌ててついていった。
街はもう、目の前。
「うわ・・・」
「な、なにこれーっ!?」
街についてみれば、そこは足の踏み場もないほどに瓦礫が地面を埋め尽くしていた。
建物の痕跡など、どこにも見当たらない。
さらに、ところどころから炎が立ち上っており、煙を吐き出していた。
「生命反応・・・アリマセン」
クルセルドの電子的な声が響き渡る。
「生命反応がないということは、この街にいた人間たちはみな・・・」
この下、か・・・
ソウシは自分の立っている瓦礫へ視線を向けた。
「ひどい、ひどいよ。なんでこんなことができるんだよぉっ!?」
「イリスちゃん、落ち着いて・・・」
イリスをなだめるメリルを横目で、ユエルはの服の袖口をぎゅっと握る。
彼女を見れば涙は流していないものの、身体はふるふると小刻みに震えていた。
「大丈夫。大丈夫だから・・・」
はユエルの背中をなでつつ前を見据えた。
「さて、そろそろ話してくれてもいいんじゃないかい?」
「・・・オレは―――」
シュラは、視線を瓦礫に向けて話し始めた。
彼は、自分はもともと聖王国で召喚された。しかし、召喚主の自分に対する扱いに耐え切れずここまで逃げてきたのだと初めに話した。
闘技大会が終盤に差し掛かったころのこと。一行が街を出た後、1つの爆音が街じゅうに鳴り響いたかと思うと、街中に召喚獣が現れて、暴れだした。
出場者であった戦士たちも、召喚獣たちを止めようと応戦はしたもののその召喚獣たちは異常に強く、殺されてしまった。
その後、街の人間たちが悲鳴をあげている中に閃光は走ったら、一瞬で建物という建物は崩壊し、火を噴き始め、召喚獣たちはいなくなっていた。
彼は、ケガを負いつつも、命からがら逃げてきた。
その途中で、漆黒の派閥を倒してきた一行と鉢合わせたということだった。
「街を崩壊させた者は、見ていないのだな?」
「うん。逃げてくるだけで精一杯で・・・」
そう言うと、彼は口を閉じた。
「急に現れた召喚獣っていうのが、なんか引っかかるなぁ・・・」
「それに、召喚獣たちを一瞬で殲滅し、建物を崩壊させた閃光というのも気になるね」
、アッシュの順で気になった言葉を挙げていく。
召喚獣というのは、原則的に召喚師がいなければリィンバウムへ召喚されることはない。なにか特殊な力でも使わない限り不可能だ。
さらに、一瞬で召喚獣を消し去った閃光というのは、なんなのだろうか?
「・・・あれ?」
イリスの声。彼女の目は、一点を見て動かない。
「ねぇ、あそこに誰かいるよ?」
彼女はそう言ってかろうじて建っている建物の壁と壁の間を指差した。
「・・・ねぇ」
「ああ、この感じ・・・」
くいくいと服を引っ張るユエルに、表情を険しいものに変えたが答える。
それは、まだ闘技大会の予選を終えた時のこと。
背筋が凍りつきそうな感覚と、寒気。
否応無く汗が噴出した。
「・・・?」
「・・・・・・・」
隣のユエルも、全身の毛を逆立て、震える。
「おにいちゃんっ!!」
「・・・あ、あぁ・・・何?」
「さんもユエルちゃんも、顔色悪いです・・・大丈夫ですか?」
心配そうな表情のメリルに向けて、は汗を拭わないまま「大丈夫だよ」と答え、イリスが指差した方向を見つめた。
太陽の光に反射して、彼女の持つ深い青色の髪が光る。
「・・・っ!!」
「ああ・・・みんな、早くここを離れろっ!街を出るんだ!!」
止まらない汗を右の袖で拭いながら、叫ぶように言い放つ。
「おい・・・、なに言って・・・」
「いいから、早くしろ!!・・・ここにいたら、全員まとめてあの世行きだぞっ!!」
「「「!?」」」
バルレルの声をさえぎって、さらには叫ぶ。
状況もわからぬまま、全員で街の出口へ向かって走り出した。
「・・・おい、どういうことだよ。説明しろっ!」
「私も聞きたいな。唐突すぎるぞ」
「・・・闘技大会の時に、一度会ったこと・・・あるだろ?」
遠まわしだが、は理由を求めるバルレルとソウシに向けて、走りながら言った。
アッシュやイリス、クルセルドは何も言わないがやはり納得いかないようで、の声に耳を傾けているようだ。
「あそこにいるのは・・・フォルネシア・ヒルベルトだよ」
間違いないよ。
青ざめた顔で、冷や汗を流しながら、の隣でユエルが言った。
「フォルネシア・・・?」
バルレルとシュラの2人は、彼女のことを知らない。
彼女と会ったのは、彼らと会う前のことだったから。彼女の名前をつぶやいて、首を傾けた。
「!?・・・みんな、固まってちゃ、ダメっ!!・・・離れてェーっ!!!」
膨大な魔力を察知したイリスが、声を荒げる。
バルレルも同様に顔をゆがめ、走る方向を変えた。
何かが押し寄せてくる感覚。
は、夢中で刀を抜いた。
「ファブ・・・っ!?」
閃光。
身体中が切り裂かれたような衝撃が、の中を通り抜けていった。
「ぐ・・・ぁ・・・っ!?」
「うあぁっ!?!?」
うめくの隣で、ユエルが悲鳴をあげる。
2人して、その場にうつぶせに倒れこんだ。
閃光が消え、見回す。
周りには、自分の仲間たちが全員倒れていていた。みなかろうじて気絶だけは免れているようで、荒い息遣いをしている。
「あら、貴方たちだったのですね」
「!?」
声が聞こえる。
「・・・くっ」
「貴方たちにはお礼を1つ、言っておかねばならなかったのですよ?」
血からがほとんど入らない腕で上半身だけを起こし、は彼女をにらみつけた。
その先には彼女だけでなく、数人の男女が彼女を囲むように立っている。
「あらあら、そんな目で見ないで下さらないかしら?」
「・・・なんの・・・つもりだ・・・っ!?」
ソウシの声が耳に入ってくる。
彼の声も、やはりつらそうで。言い終われば、大きく酸素を取り込んでいた。
「私たちは、貴方たちに感謝しているのです。貴方たちがしばらくの間この街から出ていたことで、比較的動きやすくなっていましたから・・・」
「ということは・・・っ!?」
ほとんど出ない声を強引に出し、叫ぶように問う。
「そう・・・街のこの惨状は、私たち・・・いえ、私がやったのですよ」
彼女は妖艶に、綺麗な唇を吊り上げて、笑みを浮かべた。