「身体はもう大丈夫なのか?」
「うん。一晩寝たらスッキリ」


 昨晩、あれほど痛がっていたの身体は、飛び跳ねても平気なくらいに回復していた。
 彼の回復力がケタはずれなのか、昨晩の痛みは一時的なものだったのか。
 普通に考えれば後者だろうが、そのような現象はこの場にいる全員が聞いたこともないものだった。



「と、とりあえず・・・元気になってよかったよ。ね、メリル?」
「ええ・・・そうですねぇ」
「アッシュの方も大丈夫なのか?」
「メリルが召喚術かけてくれてたから、もう大丈夫だよ」

 胴体に刺し傷を残したまま、担がれて脱出したため、やばかったのではないかとは考えていたが、杞憂だったようで。



「ボクたち、闘技大会すっぽかして来ちゃったから、もう出場することはできないかもしれないけど・・・今日1日で戻れるんだよね?」
「・・・そうなるな」
「戻ったら、オレはサプレスに還らせてもらうからな!!」

 バルレルの声に、イリスが「わかったわかった」と言いながらぽんぽんと彼の肩を叩く。






「・・・あれ、酒盛りは?」
「もっ、戻ってからに決まってるだろっ!!」





 ユエルの声に、バルレルは顔を赤くして声を荒げたのだった。





     
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜

     第36話  街の異変





「しかし、僕もそうだけど・・・やソウシの服は、変えなきゃいけないね・・・」

 改めてアッシュが隣のと、その奥のソウシを見た。
 彼らの今の服装は、街を出る前に比べたら見る影もない。
 に至っては、胴の部分に血がこびり付きどす黒い色になっていて、はたから見ればとても不気味なものだった。

「大切な一張羅だったんだけどなぁ」
「街に戻れば荷物の中にあるでしょ?」

 戻ってから着替えればいいと思うけど・・・

 とソウシの間でユエルがに向けてツッコミを入れる。
 もちろん、死にかけるほどの戦闘をしてきたのだ。ユエルの服にも血がこびり付き、ところどころが破けているのは言うまでもない。
 無事なのは、治療専門で前線で戦っていなかったメリルだけだった。クルセルドも一見無事なように見えるが、実はボディに小さな傷が無数についているのだそうで。

「どうしよう〜っ・・・!」

とイリスが嘆いていたのはついさっきのことだった。




「すいません、私だけ楽してるみたいで・・・」
「ソノヨウナコトハアリマセン。めりる殿ハミナノ治療トイウ役割ヲモッテイタノデスカラ」
「そうだぞ。気に病む必要はない」

 楽をしているように見えていても、彼女も必死だったのだ。
 瀕死の重傷を負っていたアッシュに、一心不乱に召喚術をかけまくっていたのだから、彼女は肉体的には平気でも、精神的にまいっていたのである。

「とりあえず、戻ったら疲れをとらねばならんな。バルレル、戻るのは明日以降でもいいだろう?」
「・・・チッ、しょうがねェな」

 その代わり酒盛りはしっかりするからな!!

 バルレルはを指差し、言った。
 彼の要求を聞き流すようにうなずいた。























「・・・熱せんさーニ膨大ナ熱量ヲ感知」
「えっ!?」

 もう少しで街が見えようかというときだった。
 クルセルドに搭載されているセンサーに反応があったらしく、立ち止まって声を上げた。

「コレハ・・・」

 ピピピ・・・という電子音の後に、クルセルドは街の方角を指差した。






「街ノ方角デスッ!!」






 この温度上昇の度合いからして、火災と判断したようで、全員に向けて言い放つ。

「ねぇっ、あれ!」

 煙じゃない?

 そう言ってイリスの指差した先で、黒く濁った煙が立ち昇っているのが見えた。

「・・・街でなにかあったんだ!!」
「みな、行くぞ!!」

 ソウシの号令でバルレルを除いた全員が疲れた身体にムチ打って、走り始めた。





「サプレスの魔力の残り香がここまで流れてくるなんてな・・・こりゃあ、酒盛りどころじゃねェみてェだぜ・・・」

 はぁ、とバルレルは1人ため息をつくと、走り始め、速度を上げていった。














「ねぇ、誰かいるよっ!!」

 クルセルドの肩に乗っかったイリスが再び指をさす。
 全員が視線を向けると、大きな棒のようなものを杖代わりにして弱々しく歩いてきている。

「もしかしたら、街のこと知ってるのかもしれない!」
「・・・あっ、っ!・・・もぉっ!」
「そんなに怒っちゃダメだよ、ユエル。だって必死なんだし・・・」

 1人どんどんと速度を上げていくを見て、ユエルは引きとめようとした。
 しかし、彼女の思いは届かず、彼はあっという間に目的地の目の前まで到達してしまっていた。アッシュがなだめているものの、意味はほとんどなさそうだった。

 プンプン、だよっ!

 彼女は走りながら腕を組み、口を膨らませていた。







「おいっ、大丈夫か・・・!?」
「う・・・ウウ・・・」

 今にも倒れそうによろよろと歩いていたのは、額から小さなツノを生やした少年だった。
 そのツノの存在によって彼はシルターンからの召喚獣だと、はひと目で気が付くことができた。
 手に持つ大きな棒は、よく見れば金属製で金棒のようだ。


 鬼に金棒とはよくいったものだと、は思う。


「・・・っ」



 ブオッ!!



「・・・へ?」

 ソウシの声が聞こえたかと思えば、の鼻先を金棒がかすめ空を切った。

「ウウゥゥゥ・・・ッ!!」
「や・・・やば・・・」

 慌てて少年との距離をあけた。
 彼は自分の武器である金棒を一度振るうだけで息を荒げ、肩で息をしていた。

「やめるんだ!・・・俺は、俺たちはなにもしないから・・・!!」
「ゥううあアウあウぁッ!!」

 の声は聞こえていないらしく、彼は金棒を両手で持ち、敵意を剥き出しにしている。

。とりあえず、彼を取り押さえよう」
「錯乱しているな・・・よほどのことが街であったようだな」
「メリル、召喚術は使えそう?」
「多分、大丈夫だと思います!」

 イリスの声に、メリルは杖を持たない手でガッツポーズを作ると、イリスは笑みを見せた。

「メリル。君は彼の治療のために魔力を温存しておいてくれるかい?」

 アッシュの声がメリルにかけられ、彼女は片手に持ったサモナイト石を懐におさめた。

「私とで奴の攻撃を防ぐから、アッシュとユエルで奴を気絶させるぞ」
「「わかったっ!」」

 簡単な作戦を立て、とソウシは先陣を切って少年へと向かっていく。
 両手で構えた金棒を2人が飛び込んできたところで横に凪ぐ。それを2人の刀で受け止めたが、予想以上に力が強くその場から数十センチ横へ地面を擦り移動しながら止まった。

「はあっ!!」
「えいっ!」

 アッシュとユエルの声がほぼ同時に聞こえたかと思えば、少年は金棒を落としてその場に倒れた。刀を納めつつ、息を吐く。倒れた少年を抱え、メリルのところへ連れて行くと、メリルは早速召喚術の詠唱を始めた。
 金棒は、アッシュとソウシでやっとこさ持ち上げ、運んでいる。

「メリル、頼む」
「わかりましたっ」

 紫のサモナイト石が光を帯び始め、サプレスの天使が具現した。彼女はにっこりと微笑むと、手を虚空にかざす。
 光が、少年を包み始めた。





「・・・、自分だけ楽をしおって・・・」
「コレ、持つの手伝ってくれよ!・・・って、うわあっ!?」


  ドスンっ!!





「あ・・・悪い」






 ぷるぷると足を震わせながら金棒を持つソウシとアッシュに慌てて駆け寄ろうとしたところで、2人耐え切れず金棒を真下に取り落としてしまった。

「自分ガ持チマショウ」

 クルセルドが金棒の前に立つと、軽々と金棒を持ち上げた。




「・・・な、なんと・・・」
「うわあ・・・」
「さ、さすがというか、なんというか・・・」




 男性陣の情けない声が、クルセルドに届くことはなかった。







第36話でした。
第2部に突入です。
そして、新キャラが登場いたしました!




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