「さて、それでは3人のところへ戻るとしようか。・・・貴様らも、死にたくなければさっさとここより立ち去るがいい!!」



 号令をかけたのはをおぶりなおしたソウシだった。
 背中を向け、意識を取り戻した元漆黒の派閥の召喚師に向けて怒鳴る。
 それを聞いた召喚師たちは意識の戻らない仲間たちを担いで一目散に建物を出て行った。

 ソウシの背中におぶさるは、まったくの無言。
 その後ろをついていくのはけだるそうに自分の槍を肩にかけるバルレル。
 ユエルはソウシの隣で自分の召喚主を気遣いつつ歩いていた。



「もう、ここの罠とかはねェみてえだぜ」

 帰りは楽勝だな。
 両腕を首のまわりに回し、バルレルはケケケと笑う。

の身体に響いてしまうやも知れぬ。危険がないのなら、ゆっくり戻ろうか」
「そうだね。ユエルも、もぉへろへろだよぉ〜・・・」

 ユエルも舌を出して、肩を落として、疲れた様子をあらわしていた。







    サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜

    第35話  未知なるもの







「あ、みんな〜!!」

 建物を出ると、気絶から復活したらしいイリスがぴょんぴょんと跳ね回っていた。
 その後ろでクルセルドが控えており、治療がなされたアッシュも苦笑いをしているのが見える。
 ふらつくアッシュをメリルが支えており、笑みを向けていた。




「大丈夫かい?」

 ソウシにおぶさっているを見て、一言。
 それには「身体中が痛くて痛くて・・・」なんて言って笑っていた。


「うわぁ、おにいちゃんの服に血がいっぱいついてるよ〜」
「まぁ、刺されたりしたからなぁ・・・」
「刺されっ!?」
「なぜか復活してたけどな、コイツ」

 ひととおり喜んだあと、ぼろぼろとなっている建物を眺める。
 建物の半分から上がスゴイことになっている。

 穴はもちろん、ところどころにヒビが入っており、今にも崩れ落ちそうだ。


「・・・で、どうすンだ。あれ?」
「どうするもなにも・・・」


「壊す」

 壊す、という一言に、全員が声の主を見る。
 声の主は情けなくも一人おぶられているだった。

「もう、生命を道具みたいに扱う連中がいちゃいけないんだ。だから・・・」
。気持ちはわかるが、あれを壊すには・・・」
「あれは全体が魔力で出来てる。並みの召喚術じゃ、キズひとつ付けられねェだろうな」

 もちろん、武器とかでもダメだぜ。
 そう告げたバルレルがどうすンだよ?といわんばかりの視線をに向ける。
 するとは、ソウシに降ろしてくれと頼む。
 痛みの走る身体にムチ打ちながらは歩き出し、刀を抜いた。

「・・・あー、いたいいたいいたい・・・とりあえず、みんなは少し離れててくれな」

 建物を前にして、は少し首を回して全員にそう告げる。
 大丈夫だから、と笑みを浮かべると、正眼に刀を構えた。

「・・・・・・」

 全員が数歩、後ろへ下がる。

 しばらく沈黙の後、彼の刀にある緑色のサモナイト石が光る。
 その光は2つに分裂し、刀の周りを螺旋を描くようにまわり始めた。

「さあ、いこう・・・ユグドラース」

 彼のつぶやきは、小さなもので。
 誰にも聞こえることはない。

 緑色の光が刀から離れ、2つだった光が再び一つとなり四足の獣が形作られた。







「なに、あれ?」

 指差すイリスに「さあ、なんだろうな」とソウシが彼女に顔を向けずにつぶやくように返す。

 コートとの戦いの時に彼の攻撃を防いだ巨大な鋼の召喚獣や、そのときに彼に宿った赤い鳥。
 そして、今あらわれている召喚獣だろう獣。
 彼らの正体がなんなのか、ソウシにはわからない。というより、本人以外には誰も知らないのだ。

 答えられるはずがない。




 具現した緑の獣、自分たちの何倍もの大きさの獣は口を開く。

「お゛お゛オ゛おオぉォォぉン・・・!!!」
「「「「!?!?!?」」」」

 耳を貫く咆哮。
 とクルセルドを除いた全員は思わず耳をふさいだ。
 空気が振動して、全員の身体に伝わってくる。

 放たれた咆哮は地面を揺るがし、建物にぶつかることでくだけていく。

 地面のゆれが激しくなり、くだけていく速度も早まる。
 建物に入っているヒビが次第に大きくなり、ピシピシと音を立てはじめた。


「崩れていきます・・・」


 つぶやくメリルの声は咆哮でかき消され、建物は下からだんだんと崩れていった。



 崩れるのはすぐだった。
 崩れ始めたら最後、瓦礫と化すまでに時間がかかることはなかった。





『こんなモンでいいか、?』
「ああ、さんきゅ。ユグドラース」

 ユグドラースと呼ばれた召喚獣は光の球体へと変化し、刀に吸い込まれるように消えていった。
 それを確認して、はふう、と息を吐き出す。
 よく見ればうっすらと汗をかいていた。

「い、今の・・・なに?」
「自分ノでーたべーすニモ存在シナイ召喚獣ダ・・・」

 が刀を鞘へ納める。

「今のは刀に宿る召喚獣の1体だ」

 なんでかは知らないけど、昔々にこの刀に封印されたんだって。

 簡単にそう説明した。

「俺の新しい力だよ」
「でも、あれだけ大規模なものなのですから、魔力の消費も多いのではないですか?」
「そういえば、今日だけで4体のうちさっきので3体目ではないか?」
「ああ、召喚術とは違うんだ。これ」

 の発言に、全員が頭上にハテナマークを浮かべる。

「もちろん魔力も必要だけど、力をかりたいときに彼らを”頼む”んだ。”喚ぶ”のとは違う」
「じゃあ、魔力はどうしてるんですか?」

 前に「召喚術は使えない」って言っていたじゃないですか?
 メリルから発せられた問いは、の表情を苦笑いに変えた。
 彼の比較的赤い瞳に大きく関係することだから。

 正直、自身も喜んで使っていたつもりはない。
 この力は、前の戦いで不本意のまま得てしまった力だったのだから。

「・・・俺自身に魔力があるわけじゃない。これは、前の戦いで得た力だ」

 その力とは界の意思・・・エルゴとこの世の全てのモノをつなぐ見えない力―――共界線(クリプス)と呼ばれる力から、魔力を直接補給して4体の召喚獣を行使する。

「もしかして・・・ディエルゴの?」

 ユエルの言葉にはうなずく。
 それきり、彼女は地面に視線をおとして黙り込んでしまった。

「オイ、でぃえるごってのはなんなんだよ?」
「リィンバウムを救うために、共界線を利用してリィンバウムを支配しようとした存在だ」

 俺とユエルと、俺たちの仲間たちで倒したけどな。
 表情を深刻なものに変え、もユエルと同じように地面に目を向ける。
 それ以上たずねる気はないらしく、バルレルは口をつぐんだ。

「う〜ん・・・よくわからないけど、漆黒の派閥はつぶしてきたんでしょう?」
「ああ・・・が派閥の頭だったコート・バルドフェルドを倒したことでな」

 アッシュの言葉にソウシが答えを返す。
 すると彼は手を合わせて、

「だったら、今はそれでいいんじゃないですか?」

 そう言って笑みを見せた。

「アッシュの言うとおりだよ、おにいちゃん。今は全員が生き残れたことを喜ぶほうがいいよ」
「確カニ殿ノソノ力ハ一歩間違エバコノ世界ヲ支配スルコトガデキルカモシレマセン。殿ハ世界ヲ支配シヨウトオ思イデスカ?」

 は、クルセルドの問いに首を振る。

「そんなこと、したって意味ないと俺は思うけど・・・」
「ソウ考エル殿ダカラコソ、自分ヲ責メルコトハナイト判断」

 背を向けるクルセルドに、は「ありがとう」と一言告げた。




「テメェら、早く帰らねェと日が暮れちまうぞ!!」
「バルレル。どっちにしても1度は野宿しなきゃいけないんだから、急がなくてもいいと思うんだけど?」
「俺が早く帰りたいんだよ。早く酒、飲ませろー!!」

 すごい形相だ。
 今までの鬱憤を発散するかのように、ずんずんと先へ進んでいってしまう。
 そんな彼に苦笑しつつ、後に続いた。


























 帰路につき、の身体に負担をかけられないということで野営の準備。
 動くな、と言われた彼はコートが死に際に放った一言について考えていた。


「先ほどのこと、気にしているのか?」
「!?」

 ソウシの一言。
 建物を出てからずっとそのことばかりを考えていたにとって、この一言はつらいものだった。
 自然と表情が固くなり、冷や汗が流れる。

「図星なんだな?」
「・・・・・・・っ」

 静かにうなずく。
 ソウシはため息をひとつ吐くと、

「お前が人殺しなら、私だって同じだ」
「え?」
「私は幕末の日本から召喚されてきた身だ。それまでは新撰組の隊長として何人もの人間をこの手にかけてきた。だから、お前が人殺しなら私だって人殺しだ。余計な世話かもしれぬが、深く考え込む必要はないのだぞ」

 時代がなんだ、とソウシはを見て笑う。
 も、弱々しくも笑みを浮かべてうなずいた。

「ありがとう、ソウシ」
「うむ、ここは日本ではないのだ。人殺しなど・・・本当ならしてはならない行為だが、気に病む必要はないのだぞ」

 愚痴ならいつでも私が聞いてやるから。








 彼はそう言って笑みを深めたのだった。






























「おい、どうなってんだよ!」
「誰か、助けてっ!!」
「ここは戦士の街だろうがっ、なにやってんだよ!!」

 聞こえてくるのは街に住む人間たちの悲鳴と燃え上がる炎により散る火花の音。
 地面に倒れているのは、この街の住人だった人間たちだった。

 炎から生じた大量の煙が月の光る空を覆っていく。











 街を出ていた彼らはまだ知らない。
 数人の人間たちによって壊滅させられた、闘技の街のことを―――




















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