少し離れた先で、体中から黒い魔力を噴出させるコートを見つつ、は刀を掲げた。

「負けてたまるか・・・」

 刀のサモナイト石に赤い光が灯り、刀を覆う。

「いくぞ・・・」

 目を閉じ、開く。
 黒がかった赤い瞳が真紅に変化している。

 光は刀に充満しているようだ。
 炎が上がったかのように、刀のまわりを赤い光が立ち上る。

「よろしくっ・・・アマテラス」

 彼が名を呼んだ瞬間、刀を包んでいた光が形を変えはじめた。
 赤い光の形は一対の羽を持つ鳥の姿をとり一声鳴くと、光を発した。






    サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜


    第34話  彼女の居場所






「さっきから見てればなんだというのだ・・・あれは?」
「オレに聞くんじゃねねェよ」

 オレだってあんなの見たことねェんだからよ。
 赤い鳥の召喚獣を見つめてバルレルがぶっきらぼうに答えた。
 自分たちのいる空間が赤く染めあがる。その色は、夕暮れの空のようで。

 ソウシは急に今の時間が気になっていた。
 この建物に突入してからかなりの時間が経っているように感じるが、それほど経っていないのかもしれない。















『それでは、行きますよ』

 頭に響くように声が聞こえたかと思うと、赤い鳥はに向けて吸い込まれていった。
 彼の身体が光に包まれ、刀に力が集まる。

 光は刀に収束し、刃のような形を作りだした。
 大きさはもちろん、実際の刀よりも一回りほど大きなもの。



「・・・・・・っ!!」



 全員の視界から、の身体が消える。一瞬でコートとの距離が詰まり、刃が交差した。
 2人はすぐに離れ、同じように姿が消える。
 鋼がぶつかる金属音だけが響き、ソウシやバルレル、ユエルたちには音だけが聞こえていた。

「信じられない・・・尋常ではないぞ、この動きは!?」
「2人とも、見えなくなっちゃったよぅ?」
「アイツら、本当にニンゲンかよ?」

 バルレルは目の前を手で覆い、表情を険しくしたまま指の隙間から片目をのぞかせた。















「ぐ・・・ぁ・・・っ!?」
「ち・・・っ」

 赤い光に包まれたままのは新たに傷をつけて、息を切らして現れた。
 同じようにコートも身体中に傷をつけ、息を切らしている。
 こころなしか、彼のダメージの方が大きいようにも見て取れる。

 は口から流れ出る血を空いた腕で拭い、両手で刀を構えなおし、

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ふぅ〜・・・」

 息を整えた。





「ま、まだまだ・・・まだまだだぜ・・・」

 腰を低くし双剣をきらめかせて、コートは走り始めた。
 疲労のせいか、先ほどのような目に見えないような速度ではない。
 の前までたどり着くと、双剣を振るった。


「・・・っ」


 甲高い音。

 ぎしぎしと身体中の骨という骨が悲鳴をあげるかのように痛みを作り出している。
 極端な身体強化のせいだろうなと内心思いつつ、は刀を振るった。



 腕が、足が。
 身体中が痛い。


 右から、左から。
 繰り出されるのは黒い刃。
 片方受け止めても、反対側から自分に襲い掛かる。


 しっかり立っていられないんじゃないかと思うくらい、今までに味わったことのないような強い痛み。
 胸元を刺されたときよりも、いや・・・そんなのとは比べ物にならないくらい、とにかく痛い。
 この身体は、自分のものではないんじゃないだろうか?


 片方を弾いて、もう片方をよける。

「・・・っ!?」

 続いてやってきたのは、左右からの同時攻撃。
 受け止めることをあきらめ、バックステップで後退。
 着地と同時に刀を上段に構え、突進した。

「うあぁぁぁっ!!」
「ぐ・・ぁっ・・・!?」

 肉を切り裂く感触。
 振りぬいた刀の刃には、赤い液体がこびりついている。

「はぁ・・・はぁ、はぁ・・・」

 の身体から赤い光が消え、ひざをつく。
 手のひらを見れば、汗でじんわりと湿った手はかすかに震えている。

「・・・もう、ダメだ・・・」

 どしゃ、という音。
 つぶやいたのはひざをついていた
 音は大量の血が流したコートがうつぶせに倒れた音だった。
   
 刀を杖代わりにして動くだけで痛みの走る身体にムチ打って立ち上がる。

「・・・お、俺さまは・・・」
「お前の負けだ・・・コート・バルドフェルド」

 流れる自分の血との顔を交互に眺め、コートは笑みを浮かべる。

「なんだ・・・ずいぶんと苦しそうだなァ?」
「あたりまえだ。身体中が痛いんだから」

 答えを聞き、機嫌悪そうに舌打ちをしたコートは、表情険しくをにらみつけ、

「そんなんじゃねえよ。てめえは、《ヒト》をコロしたことなかったんだろ?」
「!?」
「俺様はもう血を流しすぎた。死ぬのももうすぐだろうよ」

 顔色を変えたを見て、笑みを見せる。


「ハジメテだなぁ・・・これでテメエも俺様と同じ、ヒトゴロシだぜ・・・」
「・・・っ!?」
「くくくく・・・はーっはっはっはっは!!!」


 唇をかみ締める彼を見て、嘲るようにコートは笑う。
 まるで、自分の死を受け入れたかのように。

 のどからせりあがる血を吐き出すと、の表情を見やる。

「気持ちいいだろ・・・肉を切り裂く感触・・・絶望に打ちひしがれる表情・・・」
「そんなわけ・・・」
「い、イイねぇ・・・そのカオだよ、そのカオ。俺様にとっちゃ、サイ・・コウだ・・・ぜ・・・」

 笑みを作ったままの顔の半分を流れ出た血液に浸し、
 彼の世界を恐怖に陥れたコート・バルドフェルドは、命の灯火を消した。

 立っているのは、傷を身体中につけたと加勢に来たはずのソウシとバルレル。
 2人と共に戦況を見守っていたユエルの4人。
 そして、唯一の拠りどころを無くしたカリンだった。

「・・・・・・」
「「「っ!?」」」

 倒れ掛かるを支えようと、3人は走る。
 刀を手放し仰向けに倒れると、目を閉じている彼の顔を覗き込んだ。

「しっかりするのだ!」
・・・っ!!」
「おい、こんなトコで死んでンじゃねェよ!!」

 動きを見せない身体をゆすり、3人は叫ぶ。

「痛い・・・今、身体中が痛いから・・・頼むから揺らさないでぇ・・・」

 生きていたことを確認し、安堵。
 張り詰めていた空気も消えた。

 ぼこぼこにくだけた床に、ところどころが欠けた壁。
 吹き抜けになっている天井に広がる空はいつのまにか夕焼けに染まっていた。

「終わったよ・・・」
「・・・帰ったら酒盛りだからな、!!」

 ケケケと笑うバルレルを見やり、はうなずく。
 笑える元気があるのならとソウシは彼を背中におぶった。

「心配かけてごめんな、ユエル」
「うん・・・うんっ!!」

 動かないコートに背を向ける。





「・・・どうすればいいの・・・?」
「「「「!?」」」」




「あたし、これからなにを信じて生きていけばいいの・・・ッ!?」




 叫ぶのは、居場所を失い涙を流す緑髪の女性。
 黒い瞳いっぱいに涙をためて、すでに動かないコートに向けて叫びつづけている。
 ソウシの背中から見る彼女の雰囲気は以前見た元気な彼女のそれとはまったく違う。
 自分の居場所をなくしたのだ。
 泣かないほうが嘘だと思う。

 ソウシの肩を叩いて、おろしてもらう。
 鞘に入れた刀を杖の代わりにして、泣き叫ぶ彼女へ近づいていった。



「人に頼らなきゃ、自分の居場所を探せないのか?」
「・・・アンタは・・・アンタには関係ない!!」
「ここまで深入りしたんだ。関係ないわけないだろう」

 涙を溜め込んだ目を、こちらへ向ける。

「君は俺のせいで居場所を無くしたかもしれない。でも、だからといってここで止まってたら、いつまでたっても進まない。居場所は、人に与えてもらうものじゃない・・・自分で・・・自分自身で、創りだすものなんだ!」


 俺もそうだったんだから・・・


「君には、それができるだろ?」


 彼女にそう告げると、涙を拭ってすっくと立ち上がる。
 大剣を引きずって、ふらふらしながら去っていった。


「さあ、行くか」
、お前・・・身体は大丈夫なのか?」

 振り返り、3人を見る。

「え?」

 ソウシの言葉に、忘れていた痛みが再び・・・

「いっ、いたたたたた!?!?」
「うわーっ、ーーっ!!」
「ケケケケっ・・・バカみてえ」

 痛みにうずくまるに駆け寄るのは護衛獣であるユエルだけ。


 ソウシは・・・あきれ返って顔を抑えていたのだった。









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