――――っ!!!」







 うつぶせに倒れたの身体を、ユエルは床に膝をついて一心にゆすりつづけた。
 流れ出ていくおびただしい血液を見て、涙を流す。

「やめてよ・・・冗談なんだよね?」

 膝をついた冷たい床を、生暖かい血が侵食していく。
 彼女の声にも彼はまったく反応を見せることはなかった。
 ぽたぽたと、頬をつたった涙が床に広がる血液に落ちては混ざりあっていく。

―――お願いだから、目を開けてよぉ・・・」






     サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜

     第31話  絶望の先で






、ユエル!!」

 涙を止めようと目を閉じた彼女にかけられた声は、一度別れたはずの仲間の声。
 聞きなれてしまった、おちついたオトナな声。

っ!?」
「どーなってんだよ、これは!?」

 入り口からひょっこりと顔を出した彼らは今の光景に目を見開き、言葉をなくした。
 表情を険しいものに変え、駆け寄ってくる。

「ソウシ、バルレル・・・のコト、おねがい」
「おい、ユエル・・・」

 ソウシの声を聞き流しすっくと立ち上がった。涙を流したまま、彼を刺した男へ顔を向ける。
 彼女の目は、にらみつけるというより殺意の満ちたまなざしととってもいいかもしれない。

「・・・・・・」
「いいのかよ、大事な大事なご主人様ほっといて?」

 顔を伏せた彼女に向けて、魔力のような光に満ちた黒い双剣を持ったコートが、唇を吊り上げる。

「・・・さない」
「まぁいいや。しかし、ニンゲンってのはもろいもんだよなぁ」
「貴様・・・っ!?」

 怒りの形相を表し、今にも斬りかかろうと刀に手をかけるソウシを右手を横へ上げることで諌めた。

「ユエル・・・」

 なぜ、といわんばかりの表情を彼女に向けるが、彼女は先ほどから前を見据えたまま、

をおねがいって・・・言ったはずだよ?」

 ここは、ユエルにまかせて。
 腕に装備された爪をはずれないように改めて確認しつつ、歩き出した。

「身体を一突きすりゃ、勝手に死んでくれるんだからなァ・・・!」
「許さないぞ・・・!」

 青い瞳が、彼を射抜く。
 強い威圧感に、彼は笑みを深めた。

「楽しいなァ、楽しいぜ・・・」
「絶対に・・・許すもんかぁー!!」


 ユエルの大事な主人を・・・傷つけた。

 ユエルの大切なひとを・・・傷つけた。


 彼女の彼への気持ちが爆発するかのように、ユエルはコートに飛び掛った。

























「バルレル、サモナイト石は!?」
「持ってるに決まってンだろ。ったく、無茶しやがって・・・」

 紫色のサモナイト石を微動だにしないにかざす。
 淡い光が放たれ、彼を包み込んだ。

 血を流しすぎている。
 もしかしたら、手遅れかもしれない。
 そんな考えが、バルレルの頭をよぎっていた。

っ。しっかりしろ!!」
「テメエは、オレ様と酒盛りするんだよ。約束破る気かよ!?」

 彼らの呼びかけもむなしく、が反応を返すことはなかった―――



















「ウアあアァぁぁァ!!」

 金属音がこだまする。
 一心に武器を振るうユエルに対して、コートはそれを軽々受け流す。

 表情もなくただ彼女の攻撃を受け止めていた。

「・・・つまらねぇな」

 一言、彼はつぶやくと、怒りによって単調になっていたユエルの片腕を掴んで双剣で斬りつける。
 歯をかみ締めながら、彼女は背後へたたらを踏む。
 ソウシがユエルに駆け寄り、身体を支えた。


 支えられつつ足に力を入れ、ユエルはコートに視線をぶつけた。


「・・・っ」
「つまらねえな。てめえらまとめて・・・死んできな」


 双剣が更なる光を帯び、吹き抜けになっている天井へ向けて飛び出していく。
   
「なんだ・・・?」

 光を追って空を見上げれば、晴天だった空は黒くにごっていた。
 しかも自分たちのいる建物の部分のみ。


「・・・!?」


 黒い空が、強い光を放つ。
 その光は、無数の矢となって建物に向けられた。

「ヤベェ、おい・・・っ!?」
「おせェよ、ひゃはっ・・・ひャははハははハはは!!」

 必死な形相でソウシに呼びかけるバルレルを尻目に、コートは顔を抑え高笑いをあげた。
 上から降ってくるのだ。とてもかわしきれるものではないのは明白だった。

「くそっ、これまでか・・・っ」
・・・ごめんね・・・」

 2人は思わず目を閉じる。




 無数の矢が、彼らに向けて降り注がれた。


























「さんきゅ、ファブニール」























「あれ?」

 声が聞こえ、ユエルはゆっくりと目をあける。
 目の前に広がるのは、重症を負ったはずのが刀を携えて誰かと話している姿だった。
 微妙に暗がりができていて、あれだけの矢の跡すら見当たらない。

っ、テメエ、なんで起きてンだよ!?」
「先ほどまで、死にかけてただろう!?」
「失礼だな。まぁ、死にかけてたのは確かだけど」









 俺はこんなところで死ぬわけにはいかないんでな。

 そう言って、彼はにっこりと微笑んだ。












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