壁や床のところどころが砕け、とても部屋とは言えないその場所で、ぶつかり合う金属音が休むことなく鳴りつづけていた。
 その場に立っているのは3人。
 それは逃げる仲間のために、敵をひきつけるとその護衛獣のユエル。
 そして、と刃を合わせるコートの3人だった。



 連続して繰り出される斬撃を自らの武器で防ぎつつ、は反撃の糸口を探していた。



 目の前にいる彼、コート・バルドフェルドは強い。
 自分のいた世界を震撼させた男が今、目の前にいることには恐怖を感じずにはいられなかった。






 はコートの斬撃を回避しつつ距離をとる。
 追いかけようと突進するコートとの間にユエルが入り込み、腕に装備した金属製の爪を振るう。
 コートはそれを左手の剣で受け止め、反対側のそれで彼女の腹部を薙いだ。
 彼女は空をきった爪を戻して剣を受け止めようとするが、間に合わない。


 剣の切っ先が彼女の下腹部を切り裂いた。

「ぐうっ!?」
「ユエル!」

 血が流れる腹部を手で押さえ、ユエルは表情をゆがめる。
 彼女の名を叫んだは彼女に近づき、コートとの間に入るように刀を構えた。

「・・・大丈夫か、ユエル?」
「うん・・・っ、たぶん大丈夫だよ」

 ユエルの足元に血液の雫が落ちつづける。
 顔色も良いとは言えない雰囲気だ。

「やせ我慢はよすんだ。顔色がよくない。少し離れて休んでるんだ」






     サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜

     第30話  迫りくる絶望






「・・・アッシュはっ!?」
「血は止まりました。後は安静にしていれば大丈夫だと思います!!」

 自分たちが通った通路を駆け抜けつつ、ソウシはぐったりとしているアッシュを見やる。
 顔色が心なしかよくなっているところを見ると、どうやら本当に大丈夫のようだ。

 それよりも、敵の前に残してきた2人のことが気にかかる。
 彼だけではない。癒しの召喚術を行使しつづけていたメリルも、倒れたイリスを抱えて走るクルセルドも考えは同じだった。


「おい、オンナ!なんでもいいから召喚獣と誓約しやがれ!」
「ああっ、はいいっ!!」

 バルレルに怒鳴られたメリルは慌てて未誓約のサモナイト石を懐から取り出した。
 石に精神を集中させる。




 ・・・




 ・・・・・・




 ・・・・・・・・・





 足音だけが通路に響く。
 なにかを振り切るように、彼女は両手を振り上げた。







「走ってたら誓約なんてとてもできませんようっ!!」






























「で、でもぉ・・・」
「大丈夫だから」

 心配そうに見つめるユエルを制し、は笑みを作った。
 その後、彼はすぐに敵の方へと視線を向けた。


「いいねぇ・・・いいぜ、お前ら。もっと俺を楽しませてみろォっ!!」

 そう叫ぶと、彼は視界から掻き消えてしまう。

「俺は、お前を楽しませるために戦ってるんじゃないっ!!」

 の背後に、コートが現れる。双剣による2方からの斬撃が彼を襲う。
 背後の気配を察知したは、その場から前へ跳躍。
 双剣は空振り、黒い残像が彼のいた場所に残った。

 着地と同時に、は刀を鞘へ。
 右肩右足を前にし、刀の柄に右手をかけコートを見据える。

 コートは、常人とは思えぬ早さでとの間を詰めていく。
 彼を見つめ、は抜刀するタイミングを図る。


「・・・はあぁぁっ!!」
「・・・!?」


 目の前まで迫ったところで、は抜刀した。
 ふわりと舞う風を感じたコートは前進を止め、前進と同じくらいの速度で後退した。

「・・・!?」
「あぶねえ、あぶねえ。腹から真っ二つになるとこだったぜ・・・」

 の放った居合斬りを後退することで回避したコートは、少し切れた服の部分をさする。


 避けられるとは思わなかった。
 は表情をゆがめ、舌打ち。


 彼が、居合斬りを知っているとは思えない。
 すると、彼は本能的に危険を感じて、見えない刃を避けたのだろうか?
 初めて彼を見たとき、とても1人で街を壊滅させたりできるような人間だとは思いもしなかったが、数年前の情報は
 本当みたいだな―――


 そんなことを考えつつ、相手を見る。
 彼は、を見て笑みを浮かべていた。

「なにを笑ってるっ!?」
「俺はうれしいだけだぜ?お前みてえな強えヤツと戦えるんだからな。そして・・・そんな野郎を俺が殺すんだ。これほどうれしいことはねえ!」

 彼は本気で自分を殺そうとしている、とはこの言葉から感じ取った。

 冗談じゃない!こんなところで死んでたまるか!

 流れる汗を拭って、は刀を構えなおした。

























「メリルとクルセルドはアッシュとイリスについていてやるんだ」
「わかりました」
「無論、ソノツモリデス」
「私とバルレルは、とユエルの加勢に行く。いいな」
「おら、早く行くぞ!!」

 バルレルとソウシは、足早に来た道を引き返していった。
 だんだんと、2人の姿が小さくなっていく。

さんも、ユエルちゃんも大丈夫ですよね?」
殿ニハゆえるガツイテイル。ソウ簡単ニ敗北スルコトハナイト判断」
「・・・・・・」

 あまりに正直すぎるクルセルドの反応に、メリルは苦笑い。
 ここは、自分たちが一晩明かした荒野。冷たい風がまわりに吹いていた。

























「ほらほら、どうしたぁっ!?」

 無数の剣戟に、は疲労で対応しきれなくなっている。
 それゆえに、かろうじて双剣を避けているためかすり傷や切り傷がの身体に刻まれていった。

っ!!」

 ユエルの自分を案ずる声が聞こえる。


「・・・くそぉっ!!」

 繰り出される斬撃により、反撃をしようにもできない状況になっていた。
 ただ、彼の攻撃をかわしているだけ。

 彼はあれだけ動いて疲れはしないのだろうかと迫る刃を受けつつ考えたり。

 額の汗がぽたぽたと地面に落ち、床に染み込んでいく。

「はあぁぁっ!!」

 一瞬の隙を突き、刀を薙ぐ。
 頬に小さな切り傷を負いながら、コートはバックステップしから離れた。

「・・・はあ、はぁ、は・・・く・・・」

 離れたところで、膝をついた。
 体中の傷からは血が流れ、服を汚していく。

・・・」
「はぁ、はぁ・・・大丈夫。まだ、戦える」
「今度は、ユエルも戦うから。ね?」

 笑みを見せるユエルに、も傷の痛みをこらえつつ微笑んだ。












「ば、バルドヘルドさま・・・」
「なんだ、お前か。なんの用だ?」

 声をかけたのは、未だ倒れたままのカリンだった。
 しかし、コートは彼女を冷めた目で見て息を吐いた。

 カリンは、傷がまだふさがっていないにもかかわらず、足を震わせながら立ち上がった。

「わ、私も・・・戦います。あなただけに、戦わせるわけには・・・」
「てめえの助けなんぞ、必要ない。奴らは、俺様だけで十分なんだよ!」
「そんなっ!!」

 よろける彼女を見つつ、コートは白い歯を見せて笑った。
 その笑みは、まるで彼女や未だ意識を取り戻さない派閥の召喚師たちへ向けた嘲笑のよう。

「奴らを殺した後で、てめえらもまとめて殺してやるから、待ってろよ」

 てめえら全員、もう用済みだ。

 コートは、カリンに背を向けて声を上げて笑った。
















「ああああアあアあァぁぁァぁっ!!!!」














 女性特有のトーンの高い叫び声が聞こえ、は伏せていた顔を上げた。
 彼の身体を支えるユエルも、同じように正面を見る。

 その先には魂が抜けてしまったような表情をしたカリンと、高笑いをするコートの姿が見て取れる。
 カリンは床にしりもちをつくと、顔を伏せた。

 双剣を両手にもち、コートはこちらだけを見ている。

「おい、いい加減休憩はいいだろう。再開しようぜぇ!」
「・・・っ、お前・・・なにを考えてるんだ!」
「カリンは・・・仲間じゃなかったの!?」

 ユエルの問いに、コートは吐き捨てるように

「勝手に俺についてきただけだ」

と答えた。
 彼がなにかをすることによって、ここにいる召喚師たちは彼に着いてきたのだろう。

 問いの答えに続いて、

 使えそうだから、今までずっと使ってやっていた。

 と言葉を紡ぎつつ唇の端を吊り上げ、笑った。


「・・・許せない」
「そうだな・・・俺もそう思うぞ、ユエル」

 ユエルから離れ、は刀を抜く。
 から離れたユエル服を血でにじませながら、はずしていた爪を改めて装備し、コートをにらみつけた。

「アイツ、絶対に倒そうねっ!」
「・・・もちろんだ」

「よっしゃ、そろそろ2人まとめて死んでもらうぜ!」




 彼が動いた。
 視界から掻き消え、気配だけが残る。

「・・・くるよっ!」
「わかってるっ!」

 2人背中合わせにまわりを見渡す。武器を構えて、神経を研ぎ澄ませた。
 しかし、いつまでたっても視界に彼を確認することができずにいた。

 そのときだった。
 とユエルのそばで、なにかが着地する音。

「「!?」」

 気配がまったくなかったから、気づくことができなかった。

っ!!!」

 気配を消すこともできるのか、とか考えつつ首を回してコートを視界に捉えるが、すでに遅い。
 彼のもつ漆黒の刃が、ユエルの頭上を通り越しての身体を捉えていた。









 ドス、という音。









「は・・・」

 どくん、どくん、と心臓の鼓動がやけに大きく聞こえ、胸元へ視線を送る。
 視界に入ってきたのは、自分の胸から突き出る黒くとがったモノ。

 ああ、俺は刺されたのか。

 ズル、という音がして、黒く突き出たそれが姿を消す。



「ひゃはっ、ヒゃはハはははハ!!」



 笑い声とともに襲う強烈な痛み。
 自然と手から刀を落とし、胸元へ手を当てる。
 手にまとわりつくのは、自分のものだろう赤い液体だった。
 その液体は着ている服を赤く染め、無残にえぐれた床に流れ落ちていった。



 足の力が抜け、両膝をつく。
 黒みがかった赤い瞳から、光が消えた。











 異様に強い眠気に、は目を閉じてその場にうつぶせに倒れたのだった。




















――――っ!!!」





















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