「役に立たねえ連中だぜ、まったく・・・」



 砂煙が晴れたその中心で、たたずむ男は深みのある笑みを見せた。
 両手に持つ双剣は、未だに黒光りしている。





 あれは・・・魔力による光なのだろうか。





「・・・ちっ、こんなところで出てきやがって!」

 の隣で、表情を歪めて舌打ちするのはバルレルだった。


「知ってるのか、バルレル?」
「ああ、組織の中で知らないヤツはいねェよ」

 この言葉で、バルレルを除く全員が同じ考えに行き着いた。
 彼が、漆黒の派閥のトップだということに。






「ヤツの名は、コート・バルドヘルド。・・・この派閥のアタマだ」









    サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜

    第29話  彼の正体




「コート・バルドヘルド・・・?」

 声に出したのはだ。全員の視線が彼に集中した。

「なんだ、知っておるのか?」
「ボクたちは、ぜんぜんだけど」
「私もです」
「自分ノでーたべーすニモ、登録サレテイマセン」

 口々に紡がれる言葉は、「知らない」というものばかり。
 そんな中では1人、記憶をめぐらせていた。






「おい、そこのケガ人・・・ほっといていいのかよ?」
「・・・あぁっ!?アッシュさ〜ん!!」

 バルレルの声にバタバタと慌ててメリルがアッシュを見やり、召喚術の詠唱を始めた。






















「おい、いつまでも寝てんじゃねえよ。カリン」

 コートと呼ばれた男の手から、双剣が掻き消える。
 彼はすぐに歩き始め、血を流しているカリンの横で止まる。
 しゃがむと、彼女の頬をペンペンと軽く叩いた。
 仰向けになっていたカリンは、黒い瞳を動かして彼を視界に入れた。
 それと同時に、悲しげな表情を浮かべる。

「・・・申し訳ありません、コート・バルドヘルドさま」
「バルドフェルド、だ。ったく、いいかげん覚えろよ」

 彼女の無事を確認し、彼は立ち上がった。
















「まぁ、今更直す必要はねえけどな」
















 彼はそう言い放つと、彼女に背を向けた。

「それはどういう・・・」
「おい、そこの侵入者」

 カリンの声を遮り放たれたその言葉は、砕かれ開いた出口にいるたちにかけられた。

「・・・なんだ」
「せっかく建てた俺様の城を、こんなにしやがって」

 返事をしたソウシへ向け、苦労したんだぞ、と彼は一言とぼやく。

「だから・・・なんだと聞いている」
「お前ら、生きて帰れると思うんじゃねえぞ」

 そう言うと、彼は目の前に手をかざした。
 次第に、開いた手の間に光が灯っていく。
 つい先ほど見た、黒い光だ。

「なに、これ?こんな感じ、初めてだよ・・・」
「ドウイウコトダ、いりす?」
「大きい魔力が・・・しかもロレイラルだけじゃなくて、他の3世界の力も感じるよ」

 全属性の魔力を彼は持ち合わせている、とイリスが結論づけた。

 四界の魔力を持っている・・・コート・バルドヘルド・・・

「・・・!!」
「なに、なに?どうしたの、?」

 ひらめき、口をあんぐりとあけたに向けてユエルがたずねる。
 しかし、彼はその言葉にまったく反応を起こさない。
 ただ、ぶつぶつと小さな声でつぶやいているだけ。






 そのとき。






 男が視界から消えた。






「・・・ぐあぁっ!?」
「えっ?」

 刃物が肉体を斬る音とソウシの悲鳴が聞こえ、は我に返った。

「「ソウシ(さん)っ!!」」

 ユエルとイリスの声が聞こえる中、ソウシは身体が地面に倒れた。
 首元から、血が流れ出ている。
 傷は、なにか鋭利なものによって切り裂かれたようにパックリと開いていた。

「・・・ちぃっ!」
「大丈夫デスカ!?」
「もう少しで・・・ッ、動脈へいくところだったが、なんとかな」

 首元を抑えたまま、彼はゆらりと立ち上がる。












「久しぶりだ・・・肉を切り裂いたときの感触」

 つぶやいたのは、コートという名であろう男。
 消えたかと思いきや、いつの間にか元の場所へ戻っていた。
 手に持つ刃から、赤い液体を滴らせている。
 それはおそらく、ソウシのものだろう。

「ゾクゾクするぜェ・・・」

 彼は、そうつぶやくと刃についた赤い液体をぺろりとなめとった。














「思い出した」
「・・・?」

 名を呼ぶユエルを見ず、双剣を携える男を視界に入れる。
 汗がひとすじ、彼の顔を流れ落ちた。

 身体が、小刻みに震える。は、彼に恐怖していた。
 流れた汗は、恐怖による冷や汗だろう。

「彼は、俺やアッシュの世界の住人だ。間違いない」
「えっ!?」

 面と向かったことはない。
 ただ、3,4年前の新聞やテレビなどで大々的に放送されていたのを思い出しただけ。
 彼は『虐殺者』と例えられ、恐れられていた・・・



「コート・バルドフェルド。俺がいた世界の、世界的に有名な・・・殺人鬼だ」



「殺人鬼、だと?」

 ソウシの声に、は小さくうなずく。

「彼は俺のいた世界の国の1つ、アメリカで大量の人々を殺しまわった男だ」

 街1つを、1人で壊滅にまで追い込んだこともある。

 挙句の果てに、捕まえに来た警察も軽々と返り討ちにしてしまったという。
 彼から放たれた言葉は、とても人のする行為ではないと、誰もが思っていた。



「おやおや、俺様のことをよくご存知で」

 にやにやと笑みを浮かべて、彼はに向けて声をかけた。

「こんなの、一般的な情報だよ。一向に情報が入ってこないから、どうしたかと思えば・・・リィンバウムに来ていたとはな」
「召喚されたんだ。俺様は命令されるのが嫌いでね。俺様を喚んだヤツは速攻で殺してやったぜ」

 この世界はいいトコロだなぁ・・・いくら殺しても誰も何もいわねえんだから。

 どうやって殺したのかをジェスチャーで表しつつ彼は付け加えるように言葉を紡ぐと、笑みを深めた。
 そのジェスチャーは、首元からザックリ横へ手を移動させていた。

「な、なんでそんなコトしたのっ!?もう・・・還れないんだよ!?」
「結構だ。あんなトコにいても・・・もう意味ねえ」

 イリスの問いに、吐き捨てるように彼は答えた。

 まあ、還っても追われる身だ。どうせなら死ぬまでここにいたいとか考えているのだろう。

「もういいだろ、いい加減行くぞ」
「!!」

 彼の姿が、視界から消える。
 音もなく一瞬で、距離を詰めてきたのだ。

「っ!!」

 が刀を抜き全員の前へ出る。
 振るわれた右手の双剣を受け止めることに成功した。

 休む間もなく、逆側からの2撃目。
 左に持った剣をへ向けて、斬りつける。
 それを、一寸飛び退いて回避した。

 そのまま、彼は一度距離をあけた。

っ!!」
「・・・問題ない。とにかく、今のままじゃ全滅だ。俺が彼をひきつけておくから、今のうちに!」

 は、そう言って自分たちが入ってきた入り口を指差した。

「な・・・ナニ言ってやがる!?死ぬ気かよ!!」
「無理は承知だ。犠牲は少ないほうがいい」
「シカシ・・・」
「イリスは魔力を使い切ってる。アッシュとメリルも戦闘は無理だ。ソウシもケガを負ってる。一番動けるのは俺なんだ。バルレルは、サプレスの召喚獣だろ?メリルに回復のできる召喚獣を誓約してもらって、みんなを癒してやってくれ」

 俺が動けばいい、と彼は自分を見つめる仲間たちを見た。
 心配そうな瞳でを見ている。
 と、ひとりユエルがの眼前に立ち、武器を構えた。

「ユエル・・・」
「ユエルはの護衛獣だもん!ここにいてもいいよね!?」

 なんでもいいからここにいさせろ、と言わんばかりの表情でを見て彼女は笑みを浮かべた。






「やるじぇねえか。オマエ」

 コートの声が聞こえる。
 しかも、心なしかうれしそうな声。

っ!いいか、テメエは俺様と酒盛りするんだ。死ぬんじゃねェぞ!」
「傷が癒えたら、必ず戻ってくる。それまで耐えるのだぞ!」
「無理ハシナイヨウニ」
「私たち、必ず戻ってきますから〜!!」

 バルレル、ソウシ、クルセルド、メリルの順番で彼に声がかかる。
 それを横目で見つつ、笑みを浮かべた。

「ユエルも、気をつけてね・・・」
「うん、大丈夫だよ。イリス」

 ユエルは心配そうに自分を見つめるイリスへ向けて微笑んだ。

 それを確認し、イリスは魔力切れのために意識を飛ばした。
 クルセルドがそれを抱え、部屋を出ていく。
 メリルが召喚術で応急処置をしたアッシュをソウシとバルレルで担ぎ上げ、同じように出て行った。
 それを確認し、とユエルは改めて彼を見据える。




「感動のお別れは済んだみてえだな?」
「そんなものじゃない」
「そうだよっ!」

 にらみつけるユエルの視線を受け流し、彼はまた笑みを見せた。

 戦えることがよほどうれしいのか、人を殺せることがうれしいのか。
 そもそもなぜ、彼はそのような人間になってしまったのだろうか。
 それは彼にしかわからないにしても、は彼に対して表情には出さないものの、怒りを覚えていた。

「さぁ・・・始めようぜ、パーティーをよ!!」
「ぱーてぃー?」
「ユエル。彼の言葉は聞かんでよろしい」

 聞き返すユエルを軽く小突き、武器を構えた。




















「いくぜ!!」
















 彼の声で、戦闘が再開された。










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