「っ!?」


 ほとばしる黒と赤の光の奔流。


 鳴り止まぬ轟音を耳に入れながら、歯を食いしばって腰を上げた。
 口元まで流れた血を、ぐい、と乱暴に拭う。

 じっと目の前の女性を見据えつつ、刀を正眼に構えた。










「・・・こりないわねぇ」

 止む気配のない轟音で、彼と言葉を交わすことは不可能。
 彼の行動から、降伏する気配の無いことを悟り、カリンはため息をついた。







「だったら・・・苦しませずに、殺してあげる」







    サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜

    第28話  それぞれの戦い



「・・・っ」

 轟音の中で、イリスは黒いサモナイト石に魔力を注いでいった。
 間違って召喚した機竜の放つ光線が弱まってきているからだ。
 向こうの人数に対し、こちらは自分のみという状況。まったくもって不利、むしろ無謀に近い。
 自分の魔力も残り少なく、気を緩めればたちまち倒れてしまうだろう。
 額を流れる汗を振り払い、集中しようと目を閉じた。



「私も、なにかできることを・・・」

 隣では、集中することに専念し始めたイリスが1人。
 仲間たちのおかげで自分たちを襲っていた召喚獣たちも、周りにはいない。
 杖を横にもち、きょろきょろと見回した。

「・・・!?」

 見回していた視界がある一点で止まる。
 双方の召喚獣たちが放った光の境界。
 えぐられた床全体が、遠目で確認ができるほど紫の光を帯びていた。

「あれは・・・サプレスのっ!?」

 光を放っていたのは、床自体に埋め込まれている大量のサモナイト石。
 2体の召喚獣の魔力に呼応して光っているのようだ。

 サモナイト石は、すでに魔力の限界量を超えているだろう。
 暴走は、すでに目の前。

 ぶつかり合う魔力の光を一身に浴びているのはと、彼が対峙している女性。

さん、今すぐその場を離れてください!!!」

 轟音でかき消されるのを知りつつ、メリルは声を張り上げる。
 魔力の衝突でできた球体の周りを、じわじわと紫が包み始めた。




















「イリス、もう少し耐えるのだぞ・・・」

 今、召喚師たちを一掃してやるから。
 そうつぶやくと、ソウシは刀を振るった。

 敵である召喚師たちは、赤い光を放つ召喚獣を喚ぶことだけに集中していたため繰り出されるソウシの
 攻撃をなすすべなく受け、倒れていった。

「ニンゲンたちが多すぎるよぉ!ユエルたちだけじゃ・・・っ!」
「コノママノぺーすデ倒シテイクト、全員ヲ戦闘不能ニスルノニ最低デモ20分ハカカリマス」
「テメエらぁっ、なに女々しいことぬかしてやがる!?」

 弱気な言葉を紡ぎつつ、ユエルは腕に装備している爪を振るう。
 そんな彼女たちへ向けて乱暴ながらも喝を入れているのは、猛然と槍を振るうバルレルだった。


 自分たちがこの空間に入り込んだときから、どこからこれだけ集めたのかわからないほど大量にいた召喚師たち。
 中には戦闘慣れしていた召喚師もいて、倒すのに苦労したこともあったくらいだ。
 クルセルドのはじき出した所要時間も納得できる。

「でも、20分もかかるんじゃいくらイリスの魔力が高くても・・・」

 もうかれこれ数十分動きっぱなしだ。こちらの体力も限界に近い。




「っ!?」




 攻撃のための踏み込みが弱かったのか、軸足がすべりアッシュはたたらを踏んだ。
 目の前の召喚師が好機をばかりに短剣を繰り出す。






 それは、無防備になっていたアッシュの腹部に深々と刺さったのだった。
























 発砲の音が・・・聞こえない。

 原因は目の前で繰り広げられている魔力の衝突による轟音だ。
 一瞬で目の前に現れる彼女の容赦ない攻撃を、かすり傷を負いながらも避け続けた。
 着ている服の至る部分が裂け、血がにじんでいる。

 仲間たちは・・・召喚術による光線をはさんだ向こう側。
 疲労で棒のようになってしまっている足にムチ打って、彼女との距離をあけた。
 あけてからまわりを見渡せば、背後には巨大な光の塊が視界に飛び込んできのだった。

 巨大な魔力の衝突だ。こころなしか、ぶつかり合う魔力が大きくなっているような気がした。

「はぁ、はあ・・・」
「もう勝ち目、無いんじゃないの?」
「・・・・・・」

 攻撃を続けながらの彼女の問いかけに、は答えない。
 ただ、彼女を見据え避けつづけるのみ。

 銃の反動を使った体当たりを受けたあたりから、激しい動きと傷で疲労が積み重なっている。
 その影響だろうか、身体の節々が悲鳴をあげているように痛んだ。




「キミは、アタシを殺そうとしていない。そんなことじゃ、アタシには勝てないよ。アタシを退けたいなら・・・
 アタシを殺すつもりで剣を振るいなさい」

 これで・・・最後よ。

 そう言って彼女は、今までと同じように大剣を地面に向けた。








「俺は・・・君を殺すつもりはない。ただ、先へ進めれば・・・それでいい」








 自分がどうなろうと、自らの信念を貫く。

 は、深く息を吸って・・・吐いた。

 刀の刃を彼女へ向け、再び正眼の構え。



    ドンッ!!



 大剣に仕込まれた銃が、火を噴いた。












「・・・っ!!」


 彼女の動きは、今までのものも含めてすべて直線的なもの。正面に構えていれば、必ず目の前に現れる。
 そう結論付けたは、彼女が消えた瞬間に飛ぶように横へ移動した。

 一寸おいて、がいた場所にカリンが姿をあらわした。
 大剣を振り下ろすが、もちろんはその場にはいないため、空振り。
 ガキン、と地面にめり込んだ。

「!?」
「・・・っ!!」

 は、彼女の空振りを確認し、突進。低い姿勢であるため、体当たりは不可能。
 左腰、鞘の部分に移動させておいた刀を振りぬく。
 彼女は、慌てて剣を引き抜いてそれを受け止めた。



 金属音と、火花が散る。



 刃を合わせて数秒。
 互いに剣をはじき、距離が開く。
 は刀を左腰へ、カリンは剣先を地面へそれぞれ向けた。

「「はあぁぁぁっ!!!」」

 が刀を振りぬくのと、カリンが地面へ向けて発砲するのは同時。













「あぐっ!?」













 の放った見えない刃が、彼女を斬り裂いた。



 発砲の勢いのまま倒れこむ。
 押し出した身体を引きずったまま、数メートル移動する彼女の身体。

 勢いが収まったところで、剥き出しの肌から血が流れ落ちた。




















 は刀を鞘へ納め、倒れている彼女へ背を向けた。
 彼も全身傷だらけで、満身創痍という言葉がぴったりと当てはまる。




「殺す覚悟なんか、必要ない。絶対に・・・!!」




 背を向けたまま轟音の中を力の限り叫び、は仲間の召喚師たちのもとへ歩き始めた。

























「ズルイよねぇ・・・誰も殺さずに、これだけ強くなるなんて・・・」

 世の中って、平等じゃないわよね・・・。

 うつ伏せからあお向けに寝返って、彼女は笑みを浮かべたのだった。

























「くそ・・・」
「アッシュ!?」

 アッシュは腹部から血を流しているにもかかわらず、なんとか目の前の召喚師を撃退した。
 刺された部分から血が流れ出ないようにと手で抑えるが、一向に止まる気配はない。
 彼はたまらず、その場へ倒れこんだ。







 エネルギー同士がぶつかり合い、出来上がった球体を紫の光が覆っていく。
 バチバチという音も、少なからず聞こえはじめていた。

「なに、この音?」
「・・・!? おいテメエら、早くこっから離れろ!!」

 最初に気づいたのは召喚師の1人を地に沈めたユエル。
 光の球体に充満しているサプレスの魔力に気づいたのはバルレルだった。

「どういうことだ、小童!?」
「小童じゃねェ!・・・ンなことより、アレがもうすぐ爆発する!」
「「爆発ぅっ!?」」

 バルレルの発言に、ソウシとユエルの2人が声を荒げた。

「モトモトノ魔力ニ、外部カラナンラカノチカラガ加ワッテイルヨウデス」



 ダッシュ!



 クルセルドの言葉が切れると同時に、バルレル以外の3人はアッシュを担いで脱兎のごとく走り出した。

「早く逃げねェと、この辺一帯が・・・って、待てよ!!」

 1人取り残されたバルレル自身も、彼らにつづいて走りはじめた。





























「・・・なにがあったんだ?」
「とりあえず、ここから離れるのだ!」
「っていうか、アッシュの傷治して〜っ!」
「きゃー!、アッシュさぁ〜ん!?」
「テメエら、待ちやがれェ!!」
「ちょっと、おにいちゃんたち!うるさいよ!!」
「・・・俺が筆頭なのか?」

 全員が合流したのもつかの間、ここから離れろと声を張り上げるのはソウシ。
 アッシュの傷をなんとかしろとまくし立てるのは彼のまわりをちょろちょろと走り回るユエル。
 メリルは血を流すアッシュを見て混乱している。
 そして、半ギレしつつ顔を赤くして走ってくるのがバルレル。

 召喚術を制御するために1人必死なイリスの声で、彼らは口を閉ざした。
 最後のの問いかけは、普通に聞き流された。

「ご、ゴホン・・・で、なにがあったんだ?」
・・・血だらけだよぉ」

 今ごろ気づいたのか、心配そうに見上げるユエルには問題ない、と笑みを浮かべた。

「アレだ」

 の問いかけに、バルレルは紫色の光を帯びるエネルギーの塊を指差した。

「モトモトろれいらるトしるたーんノチカラノ衝突ニ、外部カラ他ノチカラガ加ワッテイル」
「3つ目の力の介入で暴発を起きそうになっている、と?」

 クルセルドとバルレルが同時にうなずいた。

「これだけでけェ魔力だ。きっとスッゲェ威力だぜ!」

 俺たちまとめて死んじまうかもな。
 なんて言いつつケケケとバルレルは笑う。

「笑っている場合ではなかろう・・・」
「とりあえず、できる限り遠くまで逃げないと・・・」
「ボクはどうなるんだよーっ!?」

 声を上げたのは召喚術を未だ行使しつづけていたイリス。
 向こうの召喚獣は、行使する者がいなくなっているため消えかけている。

「とりあえず、もう大丈夫なんじゃないか?」

 そうつぶやくと、彼女はサモナイト石を握り流れる魔力を止めた。
 光線を放っていた機竜は攻撃を中止すると、音もなく消えていく。

「・・・ありがとうね」

 もともと未誓約の状態で喚びだしてしまっており、大きな負荷かけていたため無残に割れてしまったサモナイト石を見つめ、彼女は微笑んだ。
 ボロボロになってしまっている石造りの空間に残ったのは、膨大な魔力の塊。
 それは白、黒、赤、紫の順番でしきりに変化を続けており、今にも破裂しそうな雰囲気だ。

 ジジジジ・・・という音とともに、光り輝く球体のまわりを稲妻のような光も走っていた。









「・・・・・・!」

 はその光を見ながら、彼女が放った一言を思い出していた。



  ”張り巡らされた罠が、発動するよ!”



「・・・罠だ」
?」

 つぶやいた一言に反応したのは、隣にいたユエル。

「この部屋には、罠が仕掛けてあったんだよ!」

 壊れたら発動するようにな!
 はそう叫ぶと、全員に逃げるようにと全員をうながした。















「ったく・・・数人の侵入者の始末もできんのか、お前たちは」















 部屋を出ようと走っている最中に背後から発される、低い声。

「あ・・・」





 一瞬。

 バシュ、という音とともに、エネルギーの塊は跡形もなく消えていた。

 立ち上る煙が視界を覆っている。



「役にたたねえ連中だ」



「この声・・・!?」

 声の主を知っているのだろうバルレルの確信めいた声が聞こえた。
 煙が晴れ、視界がクリアになっていく。




























「俺の手をわずらわせるんじゃねえよ、クソ野郎ども」




























 完全に晴れた煙の先には、1人の男が黒い光を放つ双剣を持ってたたずんでいた。


































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