「あれ、か・・・?」
「あ、ああ、アレだ」
「おっきいねぇ〜」

 召喚師たちを退け、結局全員で派閥へ向かうことになった。
 イリスは最後まで渋っていたが、なんとか説得させることに成功したのだ。

 荒くなっていた息を整える。
 通常で2,3日かかる距離を、たった数時間で移動してきたのだ。
 息が上がらないわけがない。正直、それだけで済んだこと自体奇跡なのだが。

 少し離れた岩場から、そびえる大きな建物を見据える。

「・・・ゼェ、ゼェ・・・な、中は、迷路みてーに入り組んでやがる。一度足を踏み入れたら、事がすむまでは出られねェと思えよ」
「おにいちゃんやユエルは、はぐれないように気をつけてね〜」

 おちょくるように笑うイリスと、おろおろと右往左往しているメリルはクルセルドの肩に乗っていたため、涼しげな表情をしている。そんな彼女を尻目に、俺はその場に仰向けに寝転んだ。

「大丈夫デスカ?」
「・・・な、なんとか。ゼェ・・・」
「きょ、今日はここで野宿にするぞ。これの状態は、さすがに戦えまい」

 その言葉を聞いて、イリス、メリルとクルセルドを除いた全員はその場に倒れこんだのだった。





 その光景は、まさに・・・死々累々。





「あの・・・大きな召喚獣さんに乗っていけばよかったんですよね」
「め、メリル・・・言うの、遅すぎ・・・」






    サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜


    第24話  月夜の告白




 体力を使い切った身体にムチ打って、火をおこした。
 というか、クルセルドが全部やってくれたので、他の人間は地面に寝転がっているだけでほとんどなにもしなかったのだが。

 今は深夜。大きな月が頭上で寝静まった仲間たちを照らしている。
 は彼らから少し離れた場所に1人、その月を眺めていた。

「・・・どうした、こんなところで」
「あぁ、ちょっと考え事」

 振り向けば、そこには微笑を浮かべたソウシの姿。
 靴音を鳴らしての隣に来たかと思えば、その場にどっかりと座り込んだ。

「なにを・・・考えていたのだ?」
「・・・昼間のこと」

 の答えに、彼は表情をゆがめた。

「そのことはもうよかろう・・・なにが心残りなんだ?」

 彼に向けていた視線を、空に浮かぶ月に戻す。

「もういいとは思っているんだけど・・・ね」
「・・・?」

 自分自身にそう言い聞かせてはいるものの、未だに認めきれていない。
 人間とは生きていた時間が違うだけでこれほど考え方が変わるのかと、そう思った。

「前に、虐殺というものを見たことがある」
「・・・・・・」
「無抵抗の生き物たちを片っ端から剣で斬りつけ、銃で撃ち、召喚術を放って」

 の声に耳を傾けているソウシは、表情を歪めている。
 光景を想像しているのだろうか。しかし、恐怖などで身体が震えたりすることはない。
 そんな彼を横目で見ながら、話しつづける。

「あれを目の当たりにしたときは、心臓が握られたように苦しかった。人が死ぬところなんて、滅多に見るものでもなかったし」
「・・・!?」

 歪んでいた表情が、驚きに変わっていく。

「俺を取り巻く世界は、平和そのものだった」
「どっ、どういうことなんだ!?」

 私とお前は、同じ世界の住人だろう!
 信じられない、といった感情が、彼の声色から手にとるようにわかった。
 彼が描いている自分の世界は、幕末の京都だろう。
 時代が変わる寸前の、戦火にまみえた世界。

「同じだよ」

 同じ、日本という島国に住まう人間。ただ、それだけのことだ。

「でも・・・違う」
「・・・なにを言っているんだ。まったく・・・冗談もほどほどにしろ」
「冗談なんか、言った覚えはないよ」

 彼は、押し黙った。

「俺は・・・沖田 総司を知ってる」
「なんだと・・・」

 ゆっくりと立ち上がって、目を瞑った。

「新撰組一番隊隊長、沖田総司」
「っ!?」

 口には出さないものの、彼は感情が表にはっきりと出ている。
 なぜそれを知っているんだ。そう言いたげな表情。

「俺の世界では、貴方と貴方の仲間たちは・・・歴史上の人物となっています」
「歴史上の・・・」

 呆けている彼に、は彼の仲間の名前を挙げていった。もちろん、隊長クラスの有名どころを。

「俺は、貴方たちがいた時代よりも100年以上後の人間だ」
「そうか・・・歴史上の人物か・・・」

 の声をよそに、なぜか彼は目を輝かせている。
 そして、の肩をつかんで前後にゆすりはじめた。

「おああぁぁ・・・」
「はははははっ!!すごいなぁ、まさか歴史に名を連ねているとは!!」

 が自分よりも100年以上も後の人間だという部分は、抜け落ちているのだろうか。
 彼は、無駄にうれしそうに笑っていた。












「笑いすぎだ」
「・・・いやあ、すまん。つい、な」

 彼はそう言って今までゆすりつづけていたの肩を叩く。

「それで、今の話は信じてもらえるのか?」
「ああ、彼らのことまで知っているということとなると、信じざるをえないだろう」

 ジト目で彼を見つめていると、彼はカラカラと笑い、やはり肩を叩いた。
 以外と、神経が図太いのかもしれないな、この人。

「とはいえ、今ここにいるのは現実だ。別にどうしようとかなどとは思わんよ」
「・・・・・・」
「それに、100年以上後の世界が平和であるなら、お前の考えていることはわからんでもない。だが、ここはリィンバウムだ。日本じゃない。過ごした時間なぞ、些細なことだ」

 無駄によく笑う彼を見ていると、次第にも笑みを作っていた。
 最終的に、しばらくの間俺とソウシは声を上げて笑っていたのだった。











 ひとしきり笑い、はもといた場所に改めて腰を下ろす。
 隣には、ソウシが未だに腹を抑えている。

「俺、そろそろ寝るよ。明日に響くのは困るし」
「くくくっ、そうしろそうしろ」

 笑いの神が降臨したのか、未だに彼は笑っている。
 そんな彼をジト目で見て、ため息。そのままみなの寝ているところへ向かって、歩き始めた。










「しかし、よもや未来人だったとはな・・・」

 がこの場を後にして数分。ソウシの顔からは笑みが消えていた。
 そのようなそぶりは、まったく見せていなかった。

 自分が召喚師たちを殺したとき、と共に反論して見せた彼も、もしかしたらと同じ時代の人間なのかもしれない。

 さらに、の話し振りから察するに、自分が生きていた時代から100年以上経過した日本は、人が1人死ぬと大騒ぎになるほど平和なようだ。

 そんな平和な世界から召喚されて、なぜ自分と同等かそれ以上の力を持っているのか。

「・・・考え込んでも仕方ない、か」

 その場に寝転ぶ。
 もうすぐ派閥内に進入する。今までよりも危険なものとなるだろう。

 人1人殺すことにためらいを持つ彼らでも・・・信じてみよう。
 戦場では情けをかけること自体がおろかなことだが、彼らならきっとその考え方を覆すような結果を作ることができるだろうから。

「信じているぞ、・・・」


























「彼らが、派閥のすぐ目の前まで迫ってきているようです」
「・・・お前の言っていた連中か?」

 派閥内のとある一室。
 そこには、豪勢な椅子に座る男性と、机をはさんだ向かいに立つ女性。
 男性の言葉に、女性が首を縦に振って肯定の意を示す。
 すると、男性は唇の端を吊り上げた。

「ったく・・・せっかくの最終実験を無駄にしやがって・・・」
「お言葉ですが、彼らは強い。うまくすれば、新たなサンプルが手に入るかもしれませんよ」
「くくく・・・面白い。では、久方ぶりに俺も出よう。なかなか楽しめそうだしな」

 男性が椅子から立ち上がり、月光に照らされた窓際へ移動する。手に持ったカップの縁を口元に移動させ、湯気を立てる飲み物を口に含む。

 ごくり、と喉を鳴らしてそれを飲み込むと、含み笑いを始めた。

「とりあえず、俺のことはどうでもいい。召喚師と召喚獣をいくらか、与えてやる。丁重に奴らをお迎えしろ。いいな?」
「は―――了解しました。コート・バルドヘルドさま」

 女性は、コートと呼ばれた男性に一礼をし、部屋を出て行った。
 静寂が部屋を包み、彼を包み込む。

「・・・期待しているぞ、カリンよ」

 そうつぶやくと、彼は笑い声を上げた。











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