「・・・・・・」





 が刀を見ているうちに、戦闘は終了した。というより、魔力を使い切って自滅したと言ってもよい。対峙していた召喚師たちは、レヴァティーン召喚を行うことによって、魔力切れを起こしたのだ。
 まさか自分たちのありったけの魔力を防がれるとは思っても見なかったのだろう。
 数人の召喚師はふらふらとおぼつかない足取りで、その場を立ち去ろうと俺たちに背を向けていた。

「あ、逃げる!!」

 彼らの行動にいち早く気づいたユエルの声に反応して、たちは彼らを追って駆け出そうと、足を動かした。



 そのとき。



 背後から風が吹きぬけた。
 隣を誰かが駆け抜けて起きた風だ。すぐに前を向いていた視界の中に1つの背中が現れた。

 すごいスピードで、ソウシが自分たちの前を駆け抜けていったのだ。

「ソウ・・・!?」

 ユエルの声を無視し、刀を抜く。
 数秒で彼らに追いついたソウシは、遠慮なくその背を斬りつけた。

『・・・っ!?』

 その様子を見てイタメンバーは思わず顔を歪ませる。
 それとはお構いなしに、彼はその場で刀を一閃。

 断末魔の叫びを上げているその声が、多少距離の離れたここまで聞こえていた。




    サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜


    第23話  時の流れに




「・・・やりすぎだ」


 我に返ったのは、彼がすべてを終わらせてから。
 召喚師たちが地面に倒れている中で1人、自分の刀にこびりついた血液をふき取り、鞘に収めている姿が見て取れる。

 たちは慌てて彼のもとへ駆けつけた。

「おそかったな。もう終わってしまったぞ」

 その言葉に、は彼に向かって先ほどの台詞を吐いたのだった。

「・・・生命反応、アリマセン」
「・・・ひどすぎるよ、いくらなんでも」

 クルセルドの声に、アッシュが拳を震わせる。

「さ、だいぶ時間をくってしまったな。行くぞ」
「・・・待てよ」

 何事もなかったように先へ進もうと足を動かすソウシに向けて、言葉を放った。

「・・・なんだ?」
「なぜ殺した?」
「・・・戦場とはそういうものだろう。弱肉強食の世界だ」
「ここは・・・お前の知ってる戦場とは違うだろう!」

 は、敵意を向けて彼に向かって叫んだ。

「では、逆に問うが・・・お前は、犠牲を出さずに戦の中を生きていけると思うのか?」
「・・・・・・」

 押し黙る。

「我らは、生きるために戦っている。彼らも同様にだ。そして、戦には多少の犠牲はつきものだというのがわからないか?」

 甘い男だ、彼はそうに告げる。
 彼と自分とは違う。生きた時間が違いすぎるのだ。常に戦場にいた者と、平和な世界をのんびりと生きてきた者。百年以上もの時間が人間の価値観を変えていったのだろう。

「僕も、正直彼らをわざわざ殺す必要はなかったかと思います」

 言葉を放ったのはの後ろにいたアッシュ。
 言葉こそ丁寧なものだが、表情には激情が混じっている。

「とんだ偽善だな。そのような感情を持っていたら・・・死ぬぞ」
「俺は・・・俺は・・・」

 ここは日本とは違うのだ。それはわかっているつもりだが、
 視線を下に向け、拳を握る。

「もし、情けをかけて自分が殺されるなどということもあり得るのだぞ。そのような行為は・・・愚の骨頂だ」
「でも・・・」

 やはり戦場を経験しているものは強い。も以前戦いに身を置いてはいたが、経験の差だろう。彼の言葉に、2人は反論ができなかった。

 実際のところ、アッシュもも、人が死ぬところなど見たくないだけなのだ。

「そんなことでこの先どうするんだ・・・」

 ソウシのあきれたような声が聞こえる。

「これからの戦いは、きっと熾烈を極めるものとなるだろう。今の考え方のままでいるつもりなら、お前たちは街へ戻れ」
「そんな・・・っ!?」
「口で誰も犠牲を出したくないといっても、時には犠牲を出さなければ前に進めないのだぞ!!」
「っ!?」

 突然の怒号。
 対象である2人は身を震わせた。

「・・・もちろん、必要がないなら私とて人殺しはしたくない。だがな、戦場ではそのような考え方は通用せんのだ」
  
 ここで、は気が付いた。
 以前の戦いは、途中から相手が人間じゃなかったから戦えた。
 とはいえ、人間が相手であっても死に至らしめるような行為はしていない。

「でも、は・・・」
「ユエル」
「!?」

 ユエルの声を制し、は彼女に向けて首を振った。
 その言葉を聞き、なにも言わなくなった。彼女は、おそらく『やさしい』と言おうとしたのだろうと思う。そんなもの、戦場では意味を持たない感情だと先ほどソウシが言っていたのを思い出す。

「すまない。この世界では、俺たちが間違っているみたいだ。でも、また戦うことがあれば俺は・・・」
・・・」

 名前を呼ぶアッシュの声に、ここは俺たちの世界とは違う。と彼に告げた。
 彼はそれを聞いても納得がいかないのか、顔をしかめている。

「・・・わかってくれたなら、それでいい」

 ソウシは、2人に笑みを見せてから背を向けた。

 ここはリィンバウムだ。俺たちの住んでいた世界とは違う。武器をとって戦うことを考えれば、きっとソウシのいた時代の日本の方がこの世界と似ているのだろう。

 は自分の中でそう妥協を決め込むことにした。
 そうでもしなければ、この先戦っていくことは出来ないだろうから。






 それでも、俺は敵である人間を前にすれば、きっと情けをかけると思う。
 そうでないと、俺の信念に反する―――









 ―――俺が俺自身の存在を否定してしまうから。












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