「みなの者、警戒せよ!しょうか・・・っ!!」
ソウシの荒野に響く声が、突然消えた。まわりに広がる、紫色の光。
その強い光を遮るように腕を顔の前へ移動させると、強い風が吹き荒れて砂が舞い上がる。
自分たちの頭上に、大質量のなにかの気配。
空を見上げた。
「・・・やばいな」
それを視界に入れて一言、つぶやいた。
視界の半分ほどを占めている、龍の姿に天使の羽を2組持つサプレスの召喚獣。
かなり高位の召喚獣であることが吹き付けてくる魔力の風から明らかだった。
「あ、あれは・・・」
イリスの恐怖に震える声。
「これまでか・・・っ!」
あきらめの表情をあらわにしたソウシの声。
「レヴァティーン、か・・・」
は、前に本で見たその召喚獣の名を呼んだ。
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜
第22話 鋼の召喚獣?
レヴァティーンと呼ばれた召喚獣は、の声に反応したかのように、ばさ、と2組の翼を翻し、そのままぱっくりと口をあけた。
ほどなくして、口元に白く光る丸い球体が現れ、時間が経つにつれて徐々に大きくなっていく。
「ねえ、あんなのに攻撃されたら、ボクたち死んじゃうよ!!」
「そんなこと言われても・・・」
「いりす、落チ着クノダ」
もうすぐ死ぬかもしれないのに、なぜか冷静なクルセルド。
メリルは冷や汗を流しておろおろしている。
「・・・」
「・・・(なんとかなんとかこの状況をなんとかしないとなんとかなんとか・・・)」
このままではみんなまとめて死んでしまう。なにかこの状況を打開する方法はないだろうか。
このような状況で冷静でいられるほど図太い性格ではないと自分で思っている。実際に今、必死に考えようとしても、頭の中はパニック状態だった。
「これは・・・僕たちこれで終わりかなぁ・・・ははは」
レヴァティーンを見上げてアッシュは乾いた笑みを浮かべた。
「オイ、テメェら!なんとかできねェのかよ!」
「無理だよっ!あんなのが相手じゃ勝ち目ないよぉ!」
「・・・・・・(ふるふる)」
バルレルの声に、召喚師である2人はそろって否定した。
向こうはサプレスでも最高位の召喚獣だ。並みの術ではとても相手にならない。
「方法は、あるのか?」
すでに光球が放たれようとしている中で、ソウシは一言、2人に尋ねた。
「可能性があるとすれば・・・
「レヴァティーンと同等、またはそれ超える召喚術で、相殺するか打ち破るか、どちらかです。でも・・・」
あれに打ち勝つ召喚術を自分たちは誓約していない。
彼女は、震える声でそうつぶやいた。
手詰まりか・・・
誰もがそう思い始めたとき、空に浮かぶ召喚獣から光球が放たれた。
光球の大きさは、それほど大きいものではない。ちょうど人1人分の大きさ。
だが、内包する魔力の量は炸裂すればこのあたり一帯が吹き飛ぶだろうほどに大きなものなのだと本で読んだことがある。
白く、強い光はもう目の前。
「ああああぁぁぁぁぁ!!!」
は、意味もなく力の限り叫んだ。
―――俺はなにも言わずに消えるつもりはないし、死ぬつもりもないから―――
つい1ヶ月前ほどの記憶。島にいる1人の女性に向けた俺の言葉。
それを聞いて、笑顔を俺に向けた女性の顔が浮かび上がる。
次々に、島の仲間たちが浮かび上がり、消える。
元の世界にいるだろう父親や、友達の顔も浮かびあがっていた。
こういうのを走馬灯といっただろうか。
「・・・っ!!」
俺は、まだ死ぬわけにはいかない。
約束も果たしていないし、伝えなければいけないことすら伝えていない。
―――旅に出た目的すら、果たしていない!
すでに目の前に迫る強い光を見据え、名も知らない刀を光球に向けた。
光球をたたっ斬るつもりで。
その瞬間、刀が黒い光を帯び始めた。
「おにいちゃん!?無茶だよ、刀であれを受け止めるなんて!!」
少しでも光球から離れようと走っている中で、イリスが叫ぶ。
「、早く来るんだ!」
「早く、そこを離れてくださ〜い!!」
アッシュとメリルがこちらを見て慌てたようにまくし立てる。
「なにをやってる、死ぬぞ!!」
「・・・膨大ナえねるぎーハ、スデニ殿ノ目前ニセマッテイル・・・モウ、間ニ合ワナイ」
「―――っ!?」
ユエルの叫びは、吹き付ける魔力の風によってに届くことはなかった。
「死んで・・・たまるかぁっ!!」
そう叫んで、光球をにらみつける。そのとき、刀がいくらか震えたような気がした。
刀を見ると、微弱だった黒い光が多少強くなっているように感じる。
「なんだ・・・この光?」
光の正体以前に、この状況をなんとかしなければ。ふっと浮き出た疑問を思考から消し去る。
掲げた刀は、発される黒い光をより強めた。
そして、地鳴りとともに轟音。光球が地面と激突したのだ。味方であるはずの召喚獣たちすらも飲み込んで。
光が爆ぜた。
「つくづく、俺って運がいいのか悪いのか・・・」
砂煙が晴れ、は目の前にある灰色のそれを見上げていた。
ブゥン、という機械的な音が聞こえる。空気が吐き出される音も聞こえる。
レヴァティーンから放たれたはずの光球からの衝撃はまったくない。後ろには、ぱくぱくと口を開け閉めしている仲間の姿。それの影になっていた部分を除いて、地面には大きなクレーターができていた。
と、彼の仲間たちは目の前の大きな物体によって傷1つ負うことなくレヴァティーンの攻撃を防いだのだった。
「な、なんなんだ・・・これ・・・?」
その大きな鋼を観察しようと後ろに下がろうとしたとき、鋼は急に薄れてこの場から音もなく消えていった。
それと同時に影も消え去り、ポカンと口をあけて呆けている召喚師たちの姿が見える。
いつのまにか落としていた刀を拾い上げると、いままで刀身とは違う色だった5つあるサモナイト石らしき物体のうち、柄に近い2つの石が変色し、小さな光を帯びていた。
1つは紫色、もう1つは淡く光を帯びた黒色に―――
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