バルレルを先頭に街を出た。目的地はもちろん、漆黒の派閥。
が島でもらってきた地図を広げてヴァンドールと派閥とを交互に見比べた。
だが、派閥自体の場所はいまいちよくわかっていない。
先頭を歩く悪魔の少年だけが頼りなのだ。
「その派閥の本部ってのは、どのあたりなんだ?」
「・・・知らねェよ。地図なんか見たことねェからな」
あ然。
「じゃあ、派閥からヴァンドールまでどれくらいかかった?」
前方を歩くバルレルにアッシュが問う。
バルレルは、晴れ渡った空を見上げて記憶をめぐらせた。
その場に立ち止まり、数分。
引き返すにしてもかなりの距離を歩いてきてしまったため、時間がかかる。
残りのメンバーは記憶を掘り起こす悪魔の少年の答えを待っていた。
街からあまり離れていませんように・・・内心で、そう願いながら。
「たしか・・・2,3日かかったはずだぜ」
現実は・・・かくも厳しいものだった。
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜
21話 首輪と召喚獣
「どーするの?」
「先に進むのであれば野宿は避けられぬであろうな・・・」
ソウシの声に、メリルとイリスが声を上げた。もちろん、それは否定の声。
「そんなにかかると思わなかったからな・・・」
「明日、ボクの試合あるのにぃ〜!!」
試合自体は、彼女の意思次第だ。どうしても出るというならば、戻らねばならない。
しかし、さらに大きな問題がここには存在した。
それは、食料問題。
1日はかかるだろうと見積もって買い込んできたはいいものの、まさか最低でも2日
かかるとは思わなかった。切り詰めても余裕で足りない。
野宿に関してはまったく問題にはならなかった。どうやら彼女たちにとって、野宿をすることなど些細なことらしい。
「速度を速めてなるべく早く、事を済ますか・・・」
「一度街にひきかえすか、だね」
の言葉を継いで、アッシュは言葉を放った。
1人機械兵士であるクルセルドを除いても、自分たちは大所帯だ。
それを鑑みるに、食料問題は深刻だった。
「一旦、街に戻ったほうがいいんじゃないですか?」
メリルの提案。イリスも彼女の提案に首を縦に振った。
正直な話、戻ったほうが得策だとは思う。自分たちの情報不足も、今この場にいることの結果であるのだから。
しかし、その意見を被害者であるバルレルは強く否定。不本意そうだがソウシも同意見なのだろう。
「戻るヤツは勝手に戻れよ!俺はこのままヤツらの所へ行くからな!」
「私も、この世界に喚ばれた者として・・・そやつらを見過ごしてはおけん」
バルレルはともかく、ソウシはもともと根がお人よしな性格なのだろう。
も人のことは言えないが。
「は、どうするの?」
「・・・決まってる」
答えは、決まっている―――ソウシと同じ意見だ。
リィンバウムに住むいち召喚獣として、彼らの行為は許されるものではない。
たとえ、お人よしだと言われようとも。
「もちろん、行くさ」
「・・・なら、そう言うと思ったよ」
自分の決意を声に出すと、は刀を抜いた。
「・・・街に帰って欲しいと思っている連中もいるみたいだけど」
急に武器を手に取った俺を見て、全員がの視線の先を見つめる。
このとき、の隣のユエルとソウシはすでに気づいており、武器に手をかけていた。
「あれは・・・」
「・・・あの服!」
「どう見ても、派閥の連中だろうな」
視界に入っているのは、同じ服を着た召喚師とその召喚獣が数組。
その人数は明らかに自分たちよりも多い。しかも、彼らは魔力が尽きない限り、いくらでも召喚術を行使できるのだ。
「あん中に多分高位の召喚術を使えるヤツがいる筈だ。せいぜい気をつけるんだな!」
バルレルの声。皮肉のように聞こえるものの、ほかのメンバーを気にかけてくれているようだ。
「じゃあ、バルレルの召喚主の持ってたアレも・・・」
「ああ、ヤツは派閥の中でも数の少ない高位召喚術を使える召喚師だったらしいからな」
そうでもなきゃあ、この俺様を召喚できるハズないからな!
彼は自信たっぷりに胸を張った。
「2人とも、ちょっとは緊張感っていうものを持とうよ・・・」
談笑するとバルレルを見つつ、アッシュが1人ため息を吐いた。
敵はもう目の前。バルレルも自慢の長い槍を構える。
もすでに抜き身の刀を両手に持ち、刃を敵に向けた。
召喚師たちは、その場で詠唱を始めた。
彼らのいる場所からは少々距離が離れている。
さらに近づいてくるのが、護衛獣であろう召喚獣たちだった。
姿かたちはさまざまで、得物も多種多様。
ただ、1つだけ共通することがあった。
召喚獣はみな、目に光がない。そして、首輪。
バルレルの首にも未だについているそれと同じものだ。
彼を見ると、表情をゆがめて舌打ちをしている。
かつての彼と同じように、操られているのだろう。
も、彼と同じように舌打ちをした。
「がああぁぁぁっ!!」
「・・・っ!?」
メイトルパの召喚獣が爪を光らせて腕を横に振るう。
それをしゃがむことで交わし、腕が振り切られたところで腹部を蹴り飛ばす。
と同じくらいの身体の大きさの召喚獣が背後へ飛ばされ、背中から地面に着地。
そのまま動きを止めた。
改めて召喚師たちを見る。全員で1つのサモナイト石に魔力を注いでいるようだ。
その光は、普段見る召喚のそれよりも大きいものとなっていた。
「みんな、召喚術が来る!」
の声に対する返事は、返ってこない。
みな目の前にいる召喚獣を相手に四苦八苦しているのだろう。
気を取り直して目の前を見ると、シルターンやサプレスの召喚獣が今にも攻撃を加えようと、に向けて武器を構えている。
「・・・ちっ!?」
「ウウウゥゥゥ・・・っ!!」
「ケケーーーッ!!」
振り下ろされる2つの武器をなんとか刀で受けきると、次は横からシルターンの召喚獣による早い蹴り攻撃がガラ空き状態だった俺の腹部に直撃した。
「くっ!?!?」
「っ!?」
そのまま吹き飛ばされ、地面に激突。うまく受身が取れたが、攻撃を受けた腹部が痛む。はその場でひざをついてうずくまった。
しかし、休ませてくれる気配はないらしい。すぐさま彼の目の前に先ほどの2体の召喚獣が現れた。
「ちっ、くそぉっ!!」
武器を振り下ろされる前に、刀を横に薙ぐ。よろめいたところを、自分の身体にムチ打って立ち上がり、まとめて体当たりを加えた。
「ふわわぁっ!?」
「いりす!」
クルセルドの護りを抜け、イリスの正面で召喚獣が武器を振り上げる。
術の詠唱どころではなくなり、慌てて長い杖を振るった。
振り回した杖はうまいこと手にあたり、武器を取り落とす。そこを狙って、彼の背後からクルセルドが光を帯びた剣を振るう。その召喚獣は、剣による衝撃でうつぶせに倒れこんだ。
「もっと早く来てよぉ!」
「スマナイ」
一言ずつ言葉を交わし、今度はイリスの目の前で彼女の護衛を始めた。
それをみて、彼女は改めて術の詠唱を再開した。
メリルを背後に右手、右足を前にしてアッシュは構えた。
眼前には、数体の召喚獣。彼は、左手に魔力をこめながら敵が近づいてくるのを待った。 後ろに引かれた左手は、魔力を帯びて淡く蒼く光る。
彼らが武器を振り上げたところで、光を帯びた左手を前に突き出した。
「いっけぇっ!!」
「「ギャアぁあァッ!?」」
突き出された左手は、こめられた魔力を放出しながら拡散。
目の前の召喚獣たちに拡散した魔力が炸裂した。
「はぁ、はぁ・・・初めてにしては、上出来かな・・・」
後は、魔力不足か・・・
彼はそうつぶやいて、こちらへ向かってくる残りの召喚獣に目を向けた。
「・・・おねがいします!!」
メリルのサモナイト石が光を帯びる。召喚術により、1体の雷精が具現した。
雷精は、ケケケと笑ってちいさな手を虚空に振り上げる。すると、アッシュの目の前に稲妻が走り、彼が戦っていた召喚獣が黒こげになりながら悲鳴を上げて倒れた。
突然の強い光に、アッシュは目をくらませている。
「あ、あぶなかったし・・・見づらい・・・」
「ゴメンなさい、アッシュさん!」
メリルが雷精と共に頭を下げると、雷精はスウ、と消えていった。
「せいっ!!」
自慢の愛刀で、襲い掛かる召喚獣を片っ端から斬り倒していく。
召喚獣たちは傷を負い、悲鳴をあげて倒れていく。それでも、自分に与えられた任務を完遂するためか、フラつきながらも立ち上がった。
ふと召喚師たちを見やると、彼らが魔力を注ぐ召喚石が強い光を放たれている。
発動は、近い。
「みなの者、警戒せよ!しょうか・・・っ!!」
ソウシが言い終わる前に、彼らの召喚術が・・・発動した。
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