彼女の試合は、なんともあっけなく勝負がついてしまった。
武舞台には、青く長い髪をなびかせた女性の姿。
彼女の正面には二本の剣を両手に携えた男性と、彼の隣に召喚獣。
開始の合図と同時に、彼女はサモナイト石を持った手を虚空に掲げた。
閃光と轟音が客席の歓声をかき消す。
光が収まり砂煙が晴れると、半分しかない武舞台とその場に立ち尽くす女性。そして、地面に伏す2つの影が見て取れた。
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜
第20話 その巨大なる力
「・・・すご〜い」
「一瞬デ勝負ガ決マッテシマッタ」
試合が目の前のイリスとクルセルドは、客席から試合を覗いていた。
もちろん、準備は済ませてある。
あとは試合に望むだけだった。
「あれ、召喚術だよねぇ?」
「ソノヨウダナ。さぷれすノさもないと石ヲ確認シタ」
イリス自身も彼女のサモナイト石は確認している。しかし、彼女は召喚術の詠唱をまったくせずに、ただ魔力を注いだだけだったのだ。
しかも、その威力は半端なものではない。さらに武舞台の半分をぶち壊しておいて平然としているのだ。
「・・・ど〜すればあんなコトできるんだろ?」
イリスは、手すりに頬杖をしてつぶやいた。
「うわ、すごいな。この有様は」
「あ、おにいちゃん!」
物色を終え、自分の方向音痴を呪いつつ闘技場に戻ってみれば。
視界に入ってきたのはえぐれたように剥き出しになった地面。
武舞台は半分なくなっていた。
「・・・いったい、なにが原因?」
「こないだ会った、フォルネシアって人」
イリスから発せられた名前に、肩を振るわせる。
予選だけでは飽き足らず、会場をめちゃくちゃにしたのだろうか。
「あの人がね、サモナイト石持って手を上げただけで試合終わっちゃった」
イリスが笑って片手を虚空に掲げるしぐさをした。
サモナイト石、という単語で彼女が召喚術を使ったことはわかる。
そして、この惨状。かなり高位の召喚術を使ったに違いない。
あるいは・・・無色の派閥の大幹部が使っていた暴走召喚か。
彼女の戦っている姿を見たわけではないので、そこで思考を止めた。
「それで、ボクの試合はこれが直ったらだって」
「どれくらいで直るんだって?」
「今日一日デハ、徹夜シテモ無理ノヨウデスネ」
これから行く?
そう言ってイリスはを見上げる。
「そうは言ってもな・・・ソウシやアッシュたちやバルレルもいないし・・・」
「じゃーユエルが探してくる?」
ユエルは勢いよく手を上げた。
「ああ、よろしく頼む。一応、30分くらいしたら戻ってきてくれるか?」
彼の要求に、ユエルは「わかったー!!」と大きく返事をして、闘技場を出て行った。この場には3人。イリスと、クルセルドとが残っていた。
「とりあえず、30分はここで待機。それから移動することにしようか」
「うん!」
「・・・了解シマシタ」
試合がしばらくないとわかると、観客はこぞって闘技場からいなくなっているようで、客席にはほとんど人はいない。近くの椅子に座り、時が過ぎるのを待った。
「さっきまで、どこに行ってたの?」
「これからのことを考えて物資調達だよ」
「資金ハドウシタノデスカ?」
商店街でのユエルとの会話を思い出し、押し黙る。
「・・・おにいちゃん?」
「殿?」
2人は、に顔を向ける。
「・・・まあいろいろとありまして」
とりあえずはぐらかしてみた。
すると2人は、納得したかのようにから視線をはずしたのだった。
ほどなくして、ユエルがみなを連れて帰ってきた。
どうやって探したのかと聞けば、
「ニオイをたどって探したの!」
だそうだ。
同じ方向音痴であるにもかかわらず、ニオイだけで全員を短時間で探し当てるユエルに、は惜しみない拍手を送ったのだった。
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