※多少グロテスクな描写が含まれていますので、苦手な方はブラウザバック。






























―――迷った・・・」
「えー・・・」

 酒盛り、忘れんじゃねェぞ!
 バルレルはそう言って人ごみにまぎれてしまい、仕方なくとユエルは目的地である商店街を目指していたのだが・・・思い切り迷ってしまった。
 商店街に行くはずが、ここはなぜか住宅地。

 闘技都市なのに住宅地もあるんだな、と感心しつつ地図とにらめっこしていた。

「前から言いたかったんだけど、ってすっっっっっごい方向音痴だよね」
「・・・・・・」

 ユエルはどうなんだ、と聞きたいところだがあえて地図をにらんだまま押し黙る。
 聞いたところで自分にについてきただけだと返ってくるだろうから。

「・・・ここが、住宅地?だから・・・あ、こっちか!」
「大丈夫なの?」

 にかかる声に、自信なさげにうなだれた。
 はぁ〜、という彼女のため息が聞こえる。

「・・・じゃあ、ユエルが先行くから。はついてきて」

 そういうと、ユエルはの前をずんずんと歩いていった。




    
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜

    第19話  遠征準備と1つの話




「ユエルさん・・・」
「・・・あれぇ?」

 目の前の建物を見上げて、頭を掻いた。
 耳に、大きな歓声が入ってくる。

「ここは、闘技場」
「むぅ・・・」
「人のこと言えませんね」
「はうっ!?」

 図星をつかれてユエルはその場にうずくまっている。
 はっはっは、と笑って彼女の肩を叩いてやると、ゆっくりと立ち上がった。

 立ち上がった彼女を見届けて、再度地図を開いた。

くんにユエルちゃんじゃない。なにやってるの?」

 地図から目を離し声の主へ目を向けると、そこには大剣を背負った女性の姿。
 とユエルを見てにっこりと笑っていた。

「・・・カリンさん」
「呼び捨てでいいよ、その方が気楽だし。―――で、なにやってるの?」

 先ほどからの経緯を彼女に話すと案の定、思い切り笑われた。
 2人して方向音痴となると、笑わない者はいないだろう。
 だが、彼女は笑いすぎだ。まわりの目に気づきもせずに笑い転げている。

「・・・笑いすぎだよ、カリン」
「はははっ、ゴメンゴメン。しっかし、面白いねぇ。あなたたち」

 ユエルはじとーっと笑い続けるカリンを見つめている。
 彼女の視線に気づいて、やっと噴出す笑いの波を抑えていた。

「と、とりあえず・・・あたしがそこまでつれてったげるよ」

 ついてきて!
 そう言ってカリンは短い髪をなびかせて歩いていってしまった。
 意気揚揚と歩いていく彼女の後ろをとぼとぼととユエルが歩く。
 ほどなくして、やっと目的地にたどり着くことができたのだった。


 近くの道具屋に立ち寄り、とユエルは物色を始めた。

「ところで、なんで買い物に?」

 試合のための準備?
 唐突なその質問には物色する手を止めて首を横に振る。

「これからちょっと街の外まで出かけるんだ」
「わるいヤツらをやっつけに行くんだよ!」

 ユエルが笑顔で頭上へ手を振り上げる。
 カリンはユエルを見つめ、「ふぅ〜ん」と興味なさそうに息を吐いた。

「さっき試合で助けた、あの悪魔くんのため?」
「・・・それもあるけど、これは自分のためでもあるかもしれないな」

 もユエルも、召喚されてきたから。
 そう付け加えて、道具の物色を再開した。

「・・・あなた、召喚獣だったの?」
「そうだけど」

 見た目人間だし、わからなくてもしょうがないけど。
 道具を見つめる視線を変えずに、質問に答えた。

「俺は、バルレル・・・試合で助けた悪魔の少年が放っておけなかった。人間と召喚獣は共存できるはずだから・・・そんな世界を知ってるから」
「そっか・・・いいことだと思う。あたし、そういうの結構好きだよ」

 物色の手を止め、彼女を見やる。を見て、満面の笑みを浮かべていた。
 数秒の沈黙の後笑みを浮かべて、さらなる道具を求め物色を再開した。






「あたしもあのとき、あなたたちみたいな考え方ができれば・・・今ごろ・・・」






「ん?」
「・・・え、いや、なんでもないない!」

 の声に、カリンは慌てたように顔の前に手を出して横に振る。
 そのことを忘れさせるように彼女はとユエルに背を向けて、出口へ向かって歩き出した。

「それじゃあ、あたしは用事があるから」
「カリン、案内ありがとー!」

 ぶんぶんと手を振るユエルに微笑んで、彼女は店から出て行った。














「まさか、あのバルレルが頼みごとをするなんて・・・」

 街中を歩きながら歯を立てる。
 あの時、試合を見た限りだと・・・自分だけじゃ到底相手にならない。
 自然と歩く速さが上がり、街の出口へ向かって行く。

「あの方に報告をしないと・・・ダメみたいね」

 裏通りに入る。街の出口への近道となるからだ。しかし、そこははみ出し者たちの巣窟。女性が1人で立ち寄るような場所ではなかった。

 通りのところどころに数人ずつゴロツキたちのグループができており、彼らの目は自分に注がれている。
 無理もない。露出の高い服を着た女が1人、裏通りへ歩いてきたからだ。
 好奇なまなざしが突き刺さる。

 彼らに見向きもせずに道の真ん中を歩いていくと、中央よりに立っていた男の1人がふらふらと後ろに下がってくる。その男と思い切りぶつかった。そのせいで後ろに数歩、たじろぐ。

「いてーじゃねェか、キレイなおねーさん?」
「あなたが悪いのよ。急にあたしの進行方向に割り込んでくるから」

 まわりの男たちが、あたしのまわりにやってくる。

「でっけェ剣背負っちゃって・・・」
「そこをどきなさい!」

 女が1人で威嚇しても、当たり前だが彼らにはまったく効果がないようだ。
 隙間なく自分を囲むゴロツキたち。その表情はみな同じ、下心満載といった顔。

「まったく・・・そこをどけって言ってるでしょ!?」
「・・・ずいぶんと態度のでけェねーちゃんだな!」
「こいつにケガさせた責任、とってもらわねェとなァ・・・?」

 久しぶりの女だ!とか、最初はオレだろ!?などとまわりが声をあげる。
 あたしは、ふぅ、とため息をはいて、笑みを浮かべた。

「・・・っ。なにがおかしい!?」

 先ほどぶつかった男が、声を荒げる。ケガなどは微塵にも見当たらない。

「・・・おかしいに決まってるわ。たったこれだけで、あたしとヤろうって言うんだから」
「ンだとォっ!?」

 両手を腰に当てて、

「あたしが欲しければ、力ずくで手に入れてみなさい!」

 そう叫ぶと、まわりで武器を手に取る音が聞こえる。
 自分のまわりを見渡すと、ぼろぼろのナイフや刃こぼれした剣を手にもつ男たちの姿。
 背中の剣を抜き両手で構えると、笑みを浮かべた。





 四方八方から、男たちが押し寄せてくる。
 自分に向けて、一振りのナイフが振り下ろされるのを確認した上で、その場にしゃがみこんでそれを避ける。

「そっちから手を出してきたんだから、正当防衛が成立するわね」
「んなモン、オレたちには関係ねェ!!」

 真上から無数の刃が下ろされる。
 大剣を横に構え、自分に刃が当たる前にそれを横に薙いだ。
 その刃が、ゴロツキたちの足を斬り裂く。

「「「「ぎゃあアあぁッ!?!?」」」」

 数人が、足を抱えてその場に転がる。
 突然のできごとに、彼らは全員目を丸めた。

「先に手を出したのはあなたたち。だから、あなたたちが悪いんだからね?」

 半ば呆然としている男たちの腕を、足を、背中を、そして首元を容赦なく斬り裂く。斬り飛ばされた腕や足、そして首から上が、重力に従って流れ出る血液の上にびちゃりと落ちた。
 ある者はおびただしい血液の量に気絶をし、ある者は激痛に耐えてその場でもがき、ある者はすでに意識を失っている。
 首から上をなくし身体のみとなったものは、地面に倒れて動かない、ただの肉塊となってしまった。







 石造りのその道とそこ一帯の建物の壁は、彼らから流れ出る液体で真っ赤に染まり、広範囲に及ぶ水溜りを作り出した。







 その中に立ち尽くす者は、1人だけ。
 その場で大剣を振り、刃についたものを払い落とすと、妖艶な笑みを浮かべた。




「あなたたちみたいな薄汚い人間は、今のように地面に這いつくばるのがお似合いよ」




 含み笑いを押し殺し、彼女はその場を後にした。
 生き長らえている者たちのうめき声を聞きながら―――








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