「『漆黒の派閥』・・・それが、その組織の名前だ」
組織のことをたずねられたバルレルは、視線を地面に向けたまま話し始めた。
派閥というだけあって、構成員はすべて召喚師。儀式を行って召喚した召喚獣は、
すべて例外なく家畜同然の扱いを受ける。
そして、召喚獣たちは実験台としてのみその存在を許されていた。
彼は、幾度となく脱出を試みたのだが、誓約に縛られた身体ではどうしようもなかったらしい。
「ひ、ひどい・・・」
「トテモ人間ノ行ウ行為トハ思エマセンネ」
話を聞き、イリスやメリルは身体を震わせる。
イリスの隣のクルセルドも、電子的な声質は相変わらずだが、多少なり怒気を帯
びているかのように感じられた。
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜
第18話 漆黒の派閥
「やはり、あやつらか・・・」
「「「「「「!?」」」」」」
その声に、その場にいる全員が目を丸めた。
声の本人は、口元に手を当てて表情をゆがめている。
「テメェ・・・知ってやがったのか!?」
バルレルの声に、ソウシはうなずく。
「私の召喚主殿は、はぐれ召喚獣に殺された」
召喚されてすぐに、彼の召喚主は大量のはぐれ召喚獣に襲われて死亡した。
これは以前、彼自身からユエルと共に聞いた記憶がある。
「ちょうどそのとき、この街に攻め込んだ組織があってな」
「それが、『漆黒の派閥』なんですね・・・」
アッシュの震えがちな声に、ソウシはうなずいた。
「主殿は、そのときの混乱に乗じて街に入り込んできたはぐれによって殺されたのだ」
「「「!?」」」
「街自体は・・・どうなったんだ?」
数秒の沈黙の後、は彼に問い掛けた。
「街自体への損害は、ほとんどなかった」
仮にもこの街は戦士の街。派閥の召喚師の連中はみな街の戦士たちに倒されてすぐに撤退していったのだそうだ。
よって、召喚術等の影響もほとんどなく、街は平和そのものだったのだそうだ。
ただ1人の召喚師以外は。
「実際、私も連中と戦ったのだが彼奴らたいしたことはなかったのだぞ・・・?」
よほど簡単に撃退できたのであろう。
彼は余裕の表情のまま、首をかしげていた。
「組織ヲ名乗ッテイル以上、ナニカ裏ガアルノカモシレマセンネ」
クルセルドの言葉を最後に、沈黙が流れる。
部屋の外であがっている歓声が、聞こえてきた。
「そういやァ・・・」
「どうしたの?」
沈黙を破ったバルレルに、ユエルが問い掛ける。
「派閥の中に1人、召喚師っぽくないオンナがいたんだよ」
「なんだと!?」
ソウシの声。
街を攻めたときはそのような人間は見なかったのだろう。
「背中に、でっけェ剣を背負ってたぜ。なんか先っちょのとこがヘコんでたけどな」
「・・・!?」
その剣に、心当たりがある。
試合前に出会った、緑の髪の女性。たしかカリンという名前だったか。
「・・・気のせいだな、きっと」
「・・・?」
の変化に気づいていたユエルが、彼を見上げる。
は笑顔で「なんでもない」と彼女に告げた。
正直、先がヘコんだ剣なんて使っている人はほぼ皆無に等しいだろう。
そして、バルレルが言うにはその剣の使い手は女性。
それを考えると、その話の女性が彼女であると頭の中で決め付けてしまう。
だが、は彼女であるはずがないと・・・信じたかった。
「バルレル。その派閥の拠点はどこだ?」
「おにいちゃん、まさか・・・」
「・・・行くんだね、派閥を潰しに」
アッシュの声に、は大きくうなずいた。
「な、なに勝手に決めてやがんだよ!」
半ばにらみつけるような視線を無視して、はバルレルの肩を叩く。
「カタイこと言うなって。いち召喚獣として、彼らが許せないだけだから」
「ユエルも、ユエルも〜!!」
「ふむ・・・が行くなら、私も行かぬわけにはいかないな」
「僕も同行させてもらうよ。バルレルくん」
年長者の意地だ、などと言ってソウシはカラカラと笑い、アッシュは右手に拳をつくり、開いた左手にそれを叩きつける。
乾いた音がまわりに響いた。
「向こうは召喚師しかいないんでしょ?だったら、ボクも行かなきゃ!!」
「いりすガ行クナラ、自分モ同行シヨウ」
「怖いですけど、私も行かせてください!」
イリスとメリルが笑顔でそう告げる。
クルセルドは彼女の護衛獣だけあって、イリス至上主義だった。
「テメエら・・・そろいもそろって、お人よしかよ・・・」
「まぁ、いいじゃないか。俺たちも同行させてくれ。な?」
「ちっ、しょうがねェな・・・」
結局、バルレルは笑顔で迫る彼らにしぶしぶ同意したのだった。
ちなみに、イリスとクルセルドの試合が目前に迫っている。
彼女たちの試合の間に準備を整えて出陣、という形をとることにした。
イリスは、俺たちが試合を見ないことに不満のようだが、仕方がない。
2回戦は必ず見るからと告げて控え室を後にした。
ちなみにバルレルは、とユエルに同行している。
「ったくよォ。本当なら今すぐにでもヤツラをブッ潰してやりてェところなんだがな」
「そんなこと言わない言わない。戻ってきたらなにか好きなもの奢ってやるからさ」
「ちょっ、!?お金なんて、持ってるの!?」
そんなユエルの質問に、俺は懐から手に収まるサイズの布袋を取り出した。
それを縦に振ると、じゃらじゃらと音が鳴る。
「この間、盗賊と戦ったときにくすねておいたんだ」
「・・・ドロボウ」
「ケケケケケッ!ちゃっかりしてやがるなァ!!」
「いいんです!盗賊だって元をたどれば泥棒なんだから・・・」
は意味もなくつまらないへ理屈をならべてそのまま話題を元に戻そうと、未だに笑い転げているバルレルに話題を振った。
「・・・で!なんか奢ってやるから。それで今回のことは手を打ってくれ」
「じゃあ、酒だ。有り金全部使って、酒盛りで許してやるぜ!」
はその要求を呑むことにした。ユエルがなにやらぶーぶー言っているが、背に腹はかえられない。彼女を説得して、なんとか事なきを得ることに成功したのだった。
「。しっかり覚えておけよ!帰ってきたらまず、酒だからな!」
「・・・わかったよ」
彼はの方を見て笑みを受かべた。
それとは反対に、はがっくりと肩を落としたのだった。
「せっかくそこそこ貯まってきたのに・・・とほほ」
「・・・自業自得っていうんだよね、こういうの」
ユエルはにジト目を向けて、以前学校で習ったという言葉を口にした。
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