「・・・誓約を解け、だと?」

 首元に刀の切っ先を当てたまま、は彼の襟首をつかんだ。
 窮地であるにもかかわらず、その召喚師の表情にはあせりすら見受けられない。

「誓約を解けといわれて、解いてしまうようなバカがどこにいるというのだ?」

 彼の言葉は、遠まわしにの呼びかけを否定している。
 笑みを浮かべながら、懐に手を入れた。

 懐に入れた手を取り出そうとしたそのとき。

 ドス、という音と同時に、召喚師は懐の手が地面に向けて力なく投げ出される。
 握っていた指から力が抜け、紫色のサモナイト石が地面に転がった。
 ではない誰かが、腹部に衝撃を加えたのだ。

 襟首を持つその下を見ると、そこには召喚師の護衛獣である悪魔の少年が見える。

「ケッ、もうテメェらの実験台なんざゴメンだぜ!」

 握りこんでいた拳を開いて、なにかを払い落とすようにヒラヒラと手を振りながら、表情をゆがめ吐き捨てるようにつぶやいた。



    サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜

    第17話  その組織



 そこいら中から歓声が上がるなかで、審判の男性が勝者の名を叫ぶ。
 呼ばれた名前はもちろん、の名前。
 護衛獣の造反ということで不戦勝になったようだが。

 会場を後にする時に、召喚師が取り落とした2つのサモナイト石を拾い上げる。
 会場の端でそれらを人差し指と親指で持ち、太陽の輝く空へと掲げた。
 太陽の光に透かすと、石の中心になにか紋様のようなものがうっすらと見て取れる。
 それは、ユエルと誓約したときのそれと似通っていた。

「これは・・・」

 いつか、島の学校で聞いた記憶がある。

 ――――召喚獣が儀式によって召喚されると、使ったサモナイト石に誓約済みの証して、ヘンなマークがでてくるんですよ。ほら、の石にもあるでしょう?――――

 今も島にいるだろう赤髪の先生たちの言葉を思い出す。
 自分の持つ緑色のサモナイト石に刻まれたそれしか見たことのなかったは、それをすぐにでも会場を出て行こうと踵を返した悪魔の少年に渡すべく駆け出した。

「あーっ、待ってよ〜!!」

 の後に続き、ユエルが駆け出した。









「・・・おーい!」
「・・・・・・?」

 2人が入ってきた石作りの通路で、俺は未だに名前も知らない悪魔の少年を呼ぶ。
 その声に、彼は無言でこちらに振り向いた。

「・・・なんだよ?」
「これ。どっちか君の召喚石だろ?」

 石を持った右手を前に出し、握りこんでいた指を開いた。
 手のひらに、紫色の石が2つ。

「・・・ああっ、ソレは俺んだ!よこせ!」

 ひったくるように片方の石を自分の手に握りこむと、それをまじまじと見つめた。

「なんだ。自分の召喚石、見たことなかったのか?」
「う、うるせェな!仕方ねェだろ!ヤツラが持ってたんだからな!」

 なぜか怒りだす彼を見て、苦笑する。

!ユエルもユエルの石、見たことないよ!」

 くいくいとの服をユエルが引っ張り、そう告げた。

「へ?そうだったか?悪い悪い」

 懐から緑色の石を取り出し、彼女に手渡した。
 2人と対面している少年はその光景に目を丸くして、身体を振るわせた。

「てめっ!図りやがったな!?」
「あー・・・と、とりあえず!知り合いに召喚師がいるから、君も一緒にきてくれるか?」

 君を送還できるかもしれないから。
 は彼をなだめながらそう告げると、彼は今しがたのことを忘れたかのように目を輝かせた。

に・・・ユエルだったな?」
「そだよっ!」

 今一度ユエルが俺と自分をを指差しながら、名前を彼に告げた。
 それを確認すると彼は顔を赤らめ、あさっての方向を向いて、

「・・・バルレル」
「「?」」
「俺さまの名前だッ!覚えとけ!!」

 ほんのり赤い顔をなぜかさらに赤くして、バルレルと名乗る少年は怒鳴った。

「わかったよ、バルレルだな」

 が笑顔で手を出すと、顔を赤らめたままでその手をはじいた。

「しっかし、自分の名前を名乗るくらいで赤くなるなんて・・・つっぱってるようでなかなかカワイイとこあるじゃないか〜・・・」

 ズカズカと前を歩くバルレルを見て、はっはっは、と声をあげて笑う。
 すると彼は、「ケッ!」と舌打ちをしながら歩く速度を上げてしまった。





「ずいぶんとお人よしじゃねェかよ。ったくよ・・・」
「なんだよ、いきなり」

 こみ上げる笑いをおさえて答えを返す。

「まぁ、俺もユエルも一応召喚獣だからさ。この世界での立場は君とたいして変わらないからな。ほっとけなかっただけだよ」

 召喚獣は体のいい道具。
 彼が自分の召喚主から道具呼ばわりされているのを聞いて、いてもたってもいられなくなったというのも理由の一つ。

 人間と召喚獣が仲良く共存している世界を、やユエルは知っているから。
 だから放っておきたくなかった。いや、放っておけなかったのだ。

「たしかに、はちょっとお人よしすぎるかもね〜?」
「おいおい、なんてことを・・・ああっ!!」

 の反論も聞かずに、ユエルはなぜかうれしそうに先へ走っていってしまった。
 小さく、ため息を1つ。

「とりあえず、俺についてきてくれるか?バルレル」
「・・・ったく、しょうがねェな」

 とバルレルは、ユエルを追って通路を駆け出した。
 目的地はもちろん、みなの待つ客席。



「ところで・・・このサモナイト石、なにと誓約されてるかわかるか?」
「・・・・・・」

 先ほど拾った片方の石を彼に見せる。
 それを手にとると、じっと見つめた。

「あー、なにかはわからないが・・・たぶんかなり高位の召喚獣だな」

 俺さまほどじゃねェけどな。
 そう付け加えると、彼は俺にサモナイト石を突っ返したのだった。











 客席にたどり着いた俺たちは、とりあえずみんなに事情を話すために出場者用の控え室を陣取った。
 もちろん、自己紹介も忘れずに行っている。





「なるほど。それで、この小童をサプレスに還してやりたいと」
「だァれが小童だァ!?」
「ここ狭いんですから、ケンカはよしてくださいよ」

 ソウシに食ってかかるバルレルをアッシュがなだめる。
 それをよそに、召喚師であるイリスとメリルは難しい顔をして考え込んでいた。

「サモナイト石自体があるのなら送還はできないことはないと思いますが・・・」
「召喚主じゃないから、なにが起こるかはわからないよ?」

 実際、ボクは強い召喚術は使えても所詮は見習いだからね。

 イリスは最後にそう告げる。
 メリルも自分の記憶よりさきに召喚術の知識がでてきてしまうため、ほとんどわからないらしい。

 メリルとアッシュ、バルレル以外の全員は、ここではじめてメリルが記憶喪失であることを聞かされた。
 彼女は記憶を失ってからかなりの年月が経っており、彼女自身、記憶がないことに関してはあまり気にしていないらしい。
 正直驚きはしたが、メリルが妥協してしまっているので、これ以上話を聞こうとは思わなかった。



 なにが起きても保証はしないよ?とイリスがバルレルに問うと、それでもいいという答えが返ってきた。彼はなにがあってもサプレスに還りたいらしい。

「それじゃあ、今からやる?」
「・・・いや、その前に・・・」
「なにか問題でもあるのかい?」

 アッシュの問いに、彼は小さくうなずいた。

「還る前に、この俺さまの身体をさんざんいじくりまわしやがったあの組織の連中を叩き潰してやりてェんだ」


 誓約だけ解くことはできないだろうか?
 そうイリスにたずねているが、彼女と隣にいるメリルは首を横に振るだけだった。


「それで、その組織ってのはどんな組織なの?」

 ユエルの声に、バルレルは彼女を見る。
 そして、ぽつぽつと話し始めた。

「『漆黒の派閥』・・・それがその組織の名前だ―――





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