軽やかな足取りで会場に踊り出た。
 まわりは観客でごったがえしていて、隙間すら見当たらない。
 この街の住人はよっぽど暇なのか、それとも街自体に娯楽が少ないのか。

 そしてこのあと、まわりの視線が自分たちに釘付けになるのだろう。

「これじゃあ、まるで見世物だな・・・」

 少し、アッシュの気持ちがわかったような気がした。



「おい、そこのテメェ!」
「?」

 すでに戦闘態勢に入っている召喚師の横で、おそらくサプレスの召喚獣がとユエルを凝視していた。
 彼はユエルと同じくらいの身長で、背中にはもちろん羽が生えている。
 そして自分の身長より長い槍を手に持っていた。

「早くこっちに来やがれ!」

 オレは機嫌が悪いんだぞ!と言いたげな視線を送り、召喚師を尻目に2人に罵声を浴びせた。


    サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜


    第15話  護衛獣で実験台


「うえ〜、感じ悪いなぁ・・・」
「なんだか無駄に機嫌悪そうだな・・・」


 とユエルは一言ずつ言葉を交わして、彼らのいる武舞台に上がった。











「む、あの服は・・・」
「アノ服ガドウカサレタノデスカ?」

 客席で彼の初戦を見ていたソウシが声をあげる。
 しかし、声をかけたクルセルドにやんわりと首を振って試合を見始めた。

「へ〜んなの〜!」
「イリスちゃん、そんなコト言っちゃダメですよ〜・・・」
「2人とも、聞こえてると思うよ」

 イリスとメリルは、アッシュの忠告とソウシの視線に、その場で肩をすくめた。











「いいか、この試合が実験の最終段階だ。ぬかるんじゃないぞ」
「・・・・・・」
「・・・返事はどうした!」











 相手の召喚師がなにやら怒鳴っている。こちらまでは聞こえないが、相当の怒りっぷりだ。

「・・・あのニンゲン、自分の護衛獣になにかしてるみたいだよ」

 聴覚の良いユエルが、彼らの会話を聞き取る。
 断片的に、単語を口に出している。

「・・・試合、・・・実験、・・・さいしゅ・・・かい・・・?」

 声に出された単語を聞いて、あの召喚師と護衛獣は、それだけの関係じゃないだろうことが予測できた。
 こういうときに限って知恵が働く自分の頭脳に心の内で賞賛を浴びせつつ顔をゆがめた。

 そのとき。
 そばにいた審判だろう男性が、声高らかに試合開始を宣言した。
 それとほぼ同時に護衛獣が槍を構えてこちらへ走ってきていた。
 召喚師はすでにサモナイト石に魔力を注いでいるようだ。

「ユエル、召喚師を頼む。俺は、彼と話がしてみたい」
「・・・わかったッ!!」

 ユエルの了解の声と共に、召喚術の詠唱が終わる。
 石を持つ手を虚空に掲げた。

「ユエル、しょうか・・・ん!?」
「テメェがアイツよりこのオレ様を相手に選ぶとはなァ!」
「君が俺を選んでくれて好都合だよ」

 ユエルへの助言が力のある突きによって阻まれた。
 心の中で舌打ちをしながら、向けられた刃を避ける。
 連続して槍を突き出してくる彼に、笑いかけた。





 奥で、地響きが起きる。召喚術が炸裂したのだろう。
 ユエルのことを気にかけつつ、繰り出される攻撃をかわしていった。

「いつまで逃げてるつもりだ、テメェ!?」
「テメェじゃないよ。俺は 。君と同じ召喚獣だ」

 いいかげんシビレを切らしたのか、攻撃を仕掛けていた召喚獣が怒鳴りちらす。

「さっきからヘラヘラしやがって・・・いい度胸じゃねえか。このオレ様に勝てるとでも思ってンのか!?」
「悪いけど、今の君になら何があっても負ける気がしないよ」
「・・・んだと!?」

 額に青筋を浮かべ、攻撃のテンポが上がる。
 連続した突きから、伸ばした腕をそのままに横へ薙いだり。
 薙いだ槍をそのまま振り下ろしたり。
 は、それらの攻撃をすべて避けていた。

「単刀直入に聞く」

 は彼に向かって声をかけながら、槍を捕まえた。

「あの召喚師と君は、何をしている?」
「・・・・・・」

 この一言の質問に、彼は答えることができないでいた。むしろ、答えることに抵抗を感じているような表情が伺えた。
 攻撃の意思をなくしたことを確認すると、槍から手を離す。

「う〜ん、質問を変えようか」

 彼はなにもしゃべらず、ただただ俺の言葉を待っているかのようにその場にたたずんでいた。

「他人には出すぎたマネだと思うけど、これだけ聞きたい・・・君は、なにかの実験台になってるんじゃないか?」
「!?!?」

 彼の顔色に変化が表れた。の言葉が図星であるかのように、目を見開いている。

「テメェは・・・ホントに出すぎたマネをしやがるな」
「同じ召喚獣だからな。放って置けないだけだ」

 なにか問題でも?
 最後にそう口にして、彼の答えを待つことにした。




「テメェの言うとおりだよ。俺は・・・実験台としてサプレスから召喚された」

 ぽつぽつと、彼は話し始めた。
 召喚されてから、彼の身体をいじくりまわすかのように実験を重ねていること。また、それが今も続いていること。
 彼にしてみればかなり酷なものが多く、は息を飲んだ。

「・・・君は、それらから開放されたいか?」
「できることならな。本当なら、アイツらをブッ殺してやるとこだが・・・」
「それじゃあ、自分がサプレスに帰れなくなる、か」

 の声に、彼はうなずいた。

 誓約の儀式によってリィンバウムに召喚された召喚獣は、自らに課せられた誓約によってその身柄を召喚主に拘束される。そして召喚主が死亡すると、残された召喚獣は自分の世界に還ることができず、はぐれとなってしまう。
 自分の世界に還るには、召喚主に誓約を解除させる以外に方法がないことはすでにわかっていた。





 そのころ、召喚師を相手にしていたユエルは詠唱させまいと爪を振るっていた。
 召喚師は、サモナイト石を握り締めて彼女の攻撃を必死で避けつづけている。
 しかし、このままでは召喚術を使うことはおろか実験の結果さえも見出すことができない。

 彼は、任務もこなせない自分の情けなさに舌打ちをし、おもむろに懐から紫色のサモナイト石を取り出した。







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