「初戦突破、おめでとうございます」
「・・・・・・」

 戻ってきたアッシュは、ねぎらいの言葉をかけるメリルに目もくれず、呆けている。
 アガリ性だったことにショックを受けたのだろうか。

「・・・完全に俺たちは視界に入ってないな、これは」
「ソウデスネ」
「でもさ、勝ったんだからいいんじゃないの?」

 相変わらずぼーっとしている彼を見て苦笑すると、イリスが笑みを作ってポンポンと彼の肩を叩いた。

「はぁ」

 ようやく反応したかと思えば、いきなりため息をついていた。


     サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜

     第14話  さすらいの女剣士


 観客の歓声が俺たちのいる部屋まで聞こえてきている。
 よほど白熱しているのだろう。

「ねぇ、行ってみようよぉ」
「ボクも見たい!」

 そうまくし立てるちびっこ2人が、しきりにの服を引っ張る。
 ちびっことはいえ、その力は強い。
 彼はなすすべなく、部屋を後にせざるを得なかった。

「ソウシ、クルセルド。あとは頼む!」

 彼らが見えなくなって数秒。
 中から、声が聞こえた。

「ま、待つのだ!私も行く!」
「自分ハ、いりすノ護衛獣デスノデ」

 は、ずるずると引きずられた状態で、慌てて部屋を出てくる2人を眺めていた。







 耳から耳へ声が突き抜けるような感覚。
 歓声の大きさには耳を抑えた。
 闘技場の中心を見やると、2人の姿が確認できた。

 1人は、戦斧を力任せに振り回す巨漢。
 腕が相手の腰ぐらいの太さ。
 鍛え上げた筋肉に物を言わせて戦斧を振り回していた。

 もう1人は、戦斧を軽やかに避けつづける女性。
 顔立ちは中性的で、明るい緑の髪は短い。
 一見、男と間違えそうだが、露出の高い服装から女と判断できた。

 そして、さらに目を引いたのは背負っている大剣。
 柄の部分が斜めになっており、切っ先が真ん中からへこんでいる。
 色は全体的に、黒一色。唯一違うのは、銀色に光る刃の部分だけだった。


「ふむ・・・」
「あの女の人・・・」

 ぼそりとつぶやくイリスには顔を向けた。
 イリスは、彼女を見たことがあるらしい。
 ただ、ここから距離があるので確証はないとのこと。
 そして、知り合いというわけではないようだ。

「どっかで見たことあると思うんだけどなぁ・・・」

 イリスは空を見ながらしきりに記憶をめぐらせていた。








「あの格好は・・・破廉恥極まりないな」
「・・・は?」

 けしからん!
 ソウシはふん、と鼻を鳴らして頬を膨らませている。
 どうやら彼女の服装が気に入らないようだ。

「この街にもああいう人間、いたと思うけど・・・」

 ユエルのつぶやきは、彼に聞こえずに流れていった。








 試合を見だしてから10分を超えた。
 主役の2人は、まだ攻防を続けている。
 巨漢が斧を振り回し、女性がそれを避ける。

 状況はまったく変わっていなかった。
 ただ、両者とも疲れが見え始めているのは明白だった。


 そのとき。

「っ!!」

 疲れで巨漢が斧に振り回されるようになっていく。
 そこを狙って、彼女は大剣を抜き放った。
 そのまま、剣を両腕で持ったままでよろける巨漢に突進。
 大剣を薙いだ。

 彼女の身体ほどの大きさの斧の柄から上が宙を舞う。
 ドスン、という音と砂煙を起こしてそれは地面と激突した。

 しばらくの沈黙のあと、はじめと同じく大きな歓声。

 第3試合は、彼女の勝利で幕を閉じた。










!次、ユエルたちだよ!」
「わかってるよ。俺たちが勝てば、2回戦は彼女が相手だ」

 試合の相手がどんな人なのかはわからないが、とにかく勝てばいい。
 は腰の刀の確認をして、せかすユエルのあとを追った。

「がんばってくださいね!!」
「まぁ、お前が負けることはないと思うがな」
「おにいちゃん、ユエル!しっかり〜!」
「自分タチハ客席カラ見テイマスノデ」

 みんなに見送られ、とユエルは地図を頼りに試合会場へ向かう。
 ちなみに、アッシュは未だに放心していた。

 は地図を見ながらまわりをきょろきょろと見回し、ユエルは上機嫌で彼に着いていく。
 なんとか試合会場へ続く通路を発見し、地図をしまう。
 通路を進んでいくと、歓声が次第に大きくなってきた。

「行くか。ユエル」
「うんっ!」

「これから、試合?」

 急に話し掛けられ、声の方へ振り向くと先ほどまで試合をしていた女性。
 さっきと変わらない服装で笑みを浮かべて2人を見ていた。

「君は、さっきの・・・」
「カリンよ」

 言葉のとおり彼女はカリンといい、聖王都ゼラムから旅をしてきたのだそうだ。

「俺は だ」
「ユエルだよっ!」

 軽く自己紹介をして、彼女は去っていった。
 また会いましょうね?と言い残して。

「えらく普通の人だったな」
「そうだね〜。しかも近くで見るとキレイな人だったね」

 試合前だというのに他愛ない話をするとユエルだったが、気を取り直して歩を進めた。

 暗がりから出てきたため、光が目に染みる。
 目元に手をかざして、光をさえぎった。


 試合会場は、まわりから眺めているよりずっと広い。
 この広さならどんな人が相手だろうと戦っていけるだろうと確信した。

!もう対戦相手が待ってるよ!」

 ユエルの指差す先に、召喚師風の人間とサプレスの召喚獣で、護衛獣だろう悪魔のような風貌の召喚獣の姿が見えた。

「それじゃあ、行くぞ!」
「了解っ!!」


 2人は光の当たる会場に飛び込んでいった。








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