目的地である闘技場の壁に、大きな紙が貼り出されているのが遠目でもわかる。
 かすかに黒っぽい部分が見えるが、おそらく予選通過者の名前だろう。
 しかも、その紙の前にはた大勢の戦士や召喚師たちがたむろしていた。


「混んでる時間に来ちゃったね」


 はぁ、とアッシュがげんなりした表情でため息をついていた。

「仕方なかろう。今回は、従来の大会よりも参加者が多いらしいからな」
「・・・よくそんなこと知ってるね」

 小耳にはさんだのだよ。
 ソウシは満足げにに話してきた。
 情報収集は基本だぞ、などとも言ってきている。
 間違いではないのだが、自分のそういうところにうとい部分には呆れていた。






    サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜

    第11話  闘技大会・開幕






「じゃ、ユエルが見てくるーっ!!」

 たたたーっ!
 ユエルが足早に戦士の巣窟に向かっていった。
 はあれを見て行く気が失せたというのに。

 ここはユエルに任せるということで、その場で彼女の帰還を待っていた。

 しばらくその場で待機していると、ユエルが上機嫌で巣窟を抜けてきた。

「みんなの名前、あったよ!」
「まぁ、当然だな」

 ユエルの声に、ソウシはわかっていたかのようにうなずいていた。
 やソウシ、それにイリスは予選一抜けだったから、当たり前なのだけれども。
 それ以降の者は、本戦に出れる確率が格段に下がるのだとアッシュから聞いていたので、”みんなの名前”があったことから、彼も本戦に駒を進めたことになる。
 彼を見ると、「奇跡だーっ!!」などと言いながら相棒であるメリルと喜び合っていた。

「もちろん、の名前もあったよ!」
「おう、見てきてくれてありがとうな。ユエル」

 抱きついてくるユエルの頭を撫でた。

 ひととおり喜んだあと。

 とユエルは、ソウシの寝床に泊まることになっていたので、商店街を歩いている。
 イリスとクルセルド、それにアッシュとメリルはすでに宿を手配しているらしく、そっちに向かっていった。

 彼の寝床は、もともと自分の召喚主のものだったらしく、人が数人泊まれるほどの大きさだった。
 中はこぎれいに掃除をしてあって、とてもすごしやすい環境だった。

 とユエルは明日に備えて寝ることにして、あてがわれた部屋に入った。もちろん、ソウシも同様に部屋へ戻っていった。
 部屋の中もずっと使われていなかったのか、きれいに整頓してあった。

「・・・ソウシは、マスターがいなかったんだよね」

 備え付けのイスに座って一服していたときのことだった。
 唐突なユエルの一言。
 は彼女の声にうなずき、出会ってからの彼のことを思い出していた。

「少し前にはぐれに襲われたんだってな」

 そう。
 彼の召喚主は、彼がいない間に襲われて殺されたのだそうだ。
 もともと事故まがいの方法で召喚されたソウシは、頼りにしていた主にも死なれてもなお、今この世界を生きている。
 だが、悲しいとか辛いとか。そういったそぶりをまったく見せていなかった。

「さすが、幕末の時代を生きただけのことはあるなぁ・・・」
「ばくまつ、ってなに?」

 ユエルの問いをこっちの話だと言って聞き流す。
 はイスに座ったまま、意識を飛ばしていた。

















「ぬあぁっ!?!?」

 起床。
 きょろきょろとまわりを見渡す。
 見慣れない窓から朝日が差し込んでいる。
 護衛獣であるユエルの姿は見当たらなかった。

「ぬう、もう朝か・・・」

 正直、あまり寝た気がしなかった。
 いつもと違う場所だったからだろうか?
 そんな思考を巡らせているうちに、部屋の扉が音をたてて開いた。

「おはよーっ!!!」
「あ、あぁ・・・相変わらず早いな、ユエル」

 は寝起き悪いからねぇ〜。叫び声、外まで聞こえたよ♪
 ユエルは口元に手を当てて笑みを浮かべていた。
 その笑みは、今までに何度も見たことのある、「なにかを思い出して」いる笑顔。
 なにを思い出しているかというと、もちろんのことだろう。

「わかったからその顔なんとかしなさい」
「むぅ、わかったよ〜」

 彼女はの言葉を残念そうに聞き入れてうなずいた。

 もともと、彼女は朝食の準備ができたことを伝えにきてくれたのだそうで。
 は身支度を整えて部屋を出た。


「遅かったな」

 そう言ってソウシは面白そうに彼を見た。

「朝弱いもんで」

 は一言で理由を告げた。















「さて、今日から本戦だな。どうだ、調子は?」
「まあ、ぼちぼちですよ」

 軽い朝食を食べ終え、たちは会場に向かっている。
 実は、イスで寝てしまったせいか身体のふしぶしが痛んでいる。
 特に、本戦に影響があるわけではないのだが。

「予選は10試合ほどあったようでな、本戦に進出したのは全部で20人だそうだ」

 あとでもう一度貼り紙を見てきたのだぞ。
 ソウシはこんな言葉を付け加えてとユエルを見た。

「あの女性・・・フォルネシア、といったか。彼女も進出しているぞ」
「・・・そっか」

 予選の最終組で、闘技場を廃墟にしてしまった女性。
 はじめて面と向かったとき、ただならぬ悪寒がしたのを今でも覚えている。
 あのときの召喚術で、死者が出ているのではないかと心配していたが、杞憂だったらしい。

「あ奴は要注意だぞ、。なにをしでかすか・・・わからんからな」

 それに、取り巻きの連中も。
 彼は、それだけ言うと難しい表情をして、うつむいた。

「アイツのこと、ちゃんと見ておかないとダメだね!」
「そうなんだが・・・とりあえず初戦に集中しよう。俺たちは選手なんだから」

 の提案に、ソウシもユエルも笑みを作ってうなずいた。
 もうすぐ会うであろうイリスたちに、無駄なことをさせないためにも。
 彼女のことは、頭の中から吹き飛ばしておく必要がある。
 も、無駄なことはしないように。と強く自分自身に念を押した。















「オハヨウゴザイマス」
「おはよーっ!おにいちゃんにユエル、ソウシさん!!」
「「おはよう(ございます)」」

 闘技場の入り口につくと、すでにイリスやアッシュたちが集まっていた。
 彼らは同じ宿で寝泊りしたらしく、同時刻に出てきたのだそうだ。

 挨拶を交わし、入り口から中へ歩を進める。
 何人か予選で見た顔がいたが、名前はわからない。
 なぜか自分たちをにらみつけてきていた。

「ぴりぴりしてるね」
「まあ、本戦だからな」

 ここからが、本番と言えば本番だし。
 服のすそを握っているユエルを撫でながらつぶやく。
 この場において、ピリピリしている彼らよりものほほんとしているたちが変に見えるのだろう。

「私たちは・・・私たちだ。いつもどおりにやればいい」

 横からソウシが割り込んで告げる。
 そのとおりだと思う。
 こういった場所で緊張したせいで本来の力を出せないことはよくあることだからだ。
 実際、も学校の授業なんかで緊張して後悔することがよくあった。

  『そんなときは、手のひらに”人”っていう字を書いて飲み込むといいらしいですよ』

 なんて言ってくる幼馴染もいるのだが。今ごろどうしているだろうか。

 今はそんなことはどうでもいい。別に緊張しているわけでもなし。

「緊張してるなら、深呼吸でもしとき」

 は不安そうな表情をしているユエルにそう告げた。









 係員が声を張り上げ、開幕の合図をする。

 ここに、闘技大会の幕があがった―――











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