「フォルネシア・ヒルベルト、と申します」
彼女が顔を上げた時点でわかってしまった。
この街で、もしくはこの街を中心にして。なにかをしようとしている。
青い髪をなびかせて去って行く後姿を、は半ばぼんやりと見つめていた。
「・・・っ、っ!!」
「!?」
突然に声をかけられ、声の主を見る。
目の前にいるのは先刻予選で戦った青年。
「・・・ん。ああ、なに?」
「なに?じゃないよ。何回、声をかけたと思っているんだい?」
彼の言動から、はずいぶんと長い時間立ち尽くしていたのだろう。
きょろきょろとあたりを見回すと、青年の後ろに廃墟となった予選会場が見える。
頭を掻いて、彼に一言。詫びの言葉を放った。
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜
第10話 過去話
「それで、大会は大丈夫なのか?」
「ええ、本戦はここより反対側の会場になりますので〜」
大会の安否を気遣うソウシの言葉に、さきほどまで腰を抜かしていた係員の人がうなずいた。
上のお偉いさんたちも見に来ますので。
彼は理由として付け加えて告げる。
「一体、ここで何があった?」
廃墟の中で、彼女とその付き人であろう男女以外にたっている者は1人も見当たらなかった。
つまり、彼女らのうちの誰かが何かしたのだと推測できる。
係員の人は、流れていた冷や汗を拭いながら、
「私も、実のところよくはわからないのです。フォルネシアさんが、手をかざした瞬間にこうなっていまして・・・」
「ということは、あのおねえさんが召喚術を使ったみたいだね」
魔力の残りを感じ取れるから。
イリスが難しい顔をしてつぶやいた。
彼女曰く、
あんな大質量の魔力を持っている人なんて、見たことないよ。
ということらしい。
イリスは、金の派閥から旅を始めてそれほど経っていないが、派閥内でも大量の魔力を持つ人間はいないらしい。
しいて言うなら、10代で派閥の議長になったという女性くらいらしい。
「彼女たちが、予選の最終組だったので、問題はないと思います」
予選通過者は、このあと本戦会場にて告知いたしますので〜
係員の人は、そうたちに告げると足早に背を向けて走っていった。
「どうやら、我らで上位を独占というのは無理のようだな」
「まだ、そんなこと考えてたんだ・・・」
ソウシのつぶやきにユエルがあきれたような顔をしている。
「とりあえず、食堂に行かないか?さっき店に入る寸前でこっちに来ちゃったからさ。ほら、アッシュ。メリルも、みんなも、行こう?」
「わわわっ、ちょっと押すなって!」
は身体に残る感覚を吹き飛ばすように首を振り、目の前のアッシュの背中を押した。
多少慌てながらも、彼はに押されて歩いていく。
「そうですね。いつまでもここにいてもラチがあかないですし」
「オナカスイタ〜・・・」
「ユエル!こんなところで倒れちゃったりしたらダメよぉ?」
イリスの声に、ユエルは「倒れないよ〜!」と叫びながらぶんぶんと手を振り回している。
たち7人は、気を取り直して食堂へ向かった。
「ううう・・・」
「、どうしたの?」
食事を終えて、談笑モードに突入していた。
建物内にはたちと、数人しか客がいない。
もし混んでいれば、食事が終わった瞬間に追い出されるのだが、客は少ないので
そのままおしゃべりをしていたのだ。
は、身体の調子が悪くて、つい机に突っ伏していた。
そこへ、先ほどのユエルの声が彼にかけられていたのだ。
なんでもない、と彼女に告げて、また机に身体を預ける。
「そんな姿でなんでもないとは、説得力に欠けるぞ。」
「・・・・・・」
話せることなら話してみろ。
そう告げるソウシの声に、はゆっくりと顔をあげた。
俺は、フォルネシアと名乗っていた女性を見た瞬間に全身に悪寒が走ったことや彼女がなにかたくらんでいるだろうということをみなに話して聞かせた。
ユエルは彼と同じ感覚にとらわれていたようで、その話に逐次うなずいていた。
「理由になるかはわからないが、以前にもこういった感覚にとらわれていたことがあった」
「以前って・・・?」
の声に、メリルがたずねる。
とりあえず、島での事を話すことにした。
もちろん、簡単にかいつまんで(3連載を参照)。
「俺が召喚されたのは、帝国領のとある島だったんだ―――」
「―――こんなところかな」
数十分、が1人で話していた。
途中でユエルが介入してくることはあったが、たいていは彼の口から。
その話を聞いたみんなの表情はいつもより暗い。
「そのようなことがあったのか・・・」
「僕は帝国にいなかったから、知らなかったよ。そんな話」
「帝国領内にいても、知っている人は少ないと思う。公になっていたわけじゃないからな」
そのまま、敵であった無色の派閥のことを話し始めた。
島に着てすぐに島の住人や帝国軍人を対象に虐殺まがいの行為をしたこと。
いや、あれはまがいではなく虐殺そのものだろう。
話している間に、彼の手は固く握られていた。
「無色の派閥、話に聞いたことはあったけど・・・」
「本当ニ存在シテイタノデスネ」
話だけは聞いたことがあるというイリスとクルセルド。
口を閉じるイリスの表情は暗い。
実際、事が起きたのは1年前。
今も軍学校で勉強しているだろう兄妹たちよりもこの少女は幼いのだ。
・・・とても、そうは見えないが。
「彼女と面と向かったときの感覚とそのときの感覚が、似ているんだ」
もしかしたら、彼女は派閥の人間なのかもしれない。
そんな考えが頭をよぎった。
「だが、そういったことは本人に聞かねばわかるまい」
今はまだ、それを知るには早すぎる。
ソウシは表情を変えずに、そう述べた。
「なにかあったら、僕たちも手を貸すから。いつでも言ってよ」
「私、多少召喚術が使えますので、足手まといにはなりませんから!でも・・・」
今は、闘技大会に集中してはどうですか?
メリルがそう言葉を紡いで笑みを作った。
「まあ、あくせくしてもしょうがないしな」
は、よっこいしょ、と言わんばかりに立ち上がる。
みんな、1人立ち上がった彼を見つめている。
「みんな、何やってるんだよ。本戦出場者の告知、見に行かないと」
「あーっ!そうだったぁ!」
の声に、イリスはイスを倒しながら立ち上がった。
「そういえば、忘れていたな」
「本戦は明日からのはずだから、今日はそれを見たら解散だね」
どこで知ったのか、そういいながらアッシュが立ち上がった。
「アッシュ、ソレどこで知ったの?」
「本戦のことかい?」
ユエルの問いにアッシュは笑顔で聞き返している。
彼女は何度もうなずいて肯定の意を示していた。
聞けば、本戦会場の入り口に張り紙があったらしい。
結果を見たら、一度目を通しておこうと心に決めて、店を出た。
目的地は、本戦会場。
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