愛刀を腰に、私は予選会場へと足を向ける。
 背後には、この街で出会った仲間たち。
 年齢こそ離れているものの、仲はいい。
 特に、イリスのに対するなつきっぷりに彼女の子供っぽさが見て取れる。
 とても、護衛獣と2人旅をするほど度胸の持ち主には見えなかった。

 会場内に入ると、すでに十数人の戦士たちが壁を背にしてこちらをにらみつけている。
 私はゆっくりと歩を進め会場の真ん中を陣取った。

「ふむ・・・」

 ぐるりと見渡すかぎりでは召喚師は見当たらない。
 だが、護衛獣を連れている者は多いようだ。

「元新撰組一番隊隊長、沖田 総司。いざ・・・参る」

 刀に手をかけ、抜刀する。
 外へと続く扉は閉じられ、今にも予選が開始されようとしていた。


    
サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜

    第08話  闘技大会・予選 3


 どこから鳴っているのか、カーンという甲高い音が場内に響いた。
 それと同時にまわりの戦士たちが近くにいる者と剣を交えている。
 ちなみに、私のいる中心付近には誰一人として来る気配はない。
 刀に手をかけたまま、呆然としていた。

「むぅ・・・」

 まわりは刃を交える者たちばかり。
 一瞬、自分がここにいるのは間違いなのではないか。自分が見えていないのではないか。
 そんな考えが頭をよぎった。

 刀から手を離し、どっかりと地面に座り込む。
 自然と事が過ぎていくのを待つことにした。
 なんとも・・・なんともつまらない予選である。










「そろそろ終わりといったところか・・・」

 ゆっくりと立ち上がり、ぐるりとまわりを見渡す。
 今、この場に立っているのはすでに数人。
 しかも、自分以外はボロボロだ。


「よう、サムライさん」
「?」


 背後から、男の声。
 振り向くと、そこに立っているのは胸当てをして2本の剣を両手に持った戦士。
 何人の戦士たちと戦ってきたのか、体中にかすり傷を負っている。

「・・・やっと私にも相手が現れてくれたようだな」
「あんた、見た感じそれほど強くなさそうだからな。他のヤツらも重要視してなかったんだろうよ」

 なるほど。
 弱そうなヤツは後回しというワケか・・・
 それほど私は弱そうに見えていたのだろうか・・・

「言ってくれる。だが・・・」

 目の前の戦士を軽くにらみつけ、腰の愛刀に手をかける。

「見かけで物事を判断するなど・・・未熟」
「へへっ、言うねえ・・・」

 双剣を十字に構え、ニヤ、と笑う。

「それじゃ。あんたの実力、見せてもらおうじゃないの!!」

 彼はそう言い切ると、構えたままこちらに駆けてきた。









「・・・遅い!」

 振りぬかれた双剣が空をきり、彼は目をまるめる。
 彼の後ろに回りこみ、刀を横に振るった。
 もちろん、予選なんぞで抜き身にするつもりはない。
 刀も鞘に入れたままだった。

 鈍い音とともに、彼は地面に突っ伏している。

「・・・なんだ、もう終わりか?」
「・・・っ」

 さっきの威勢はどうした?
 そう彼に告げると、舌打ちをして多少よろけながら立ち上がった。

 彼が立ち上がるのを見届けると、追い討ちをかけるように言葉を放った。

「お前はやはり、まだまだ未熟。もっと精進するべきだ」
「・・・・・・」

 彼が私を見据えている間に、何人かの戦士たちが私の背後で武器を振り上げている。
 もちろん、そのことはとうの昔に承知している。
 彼らが武器を振り下ろした瞬間、私は彼らの横に回りこんで打撃を加えた。

「残念だったな。私を倒したければ、最初に全員でかかってくるべきだった」

 打ち込まれた戦士たちは、武器を取り落としてその場に崩れるように倒れていった。
 倒れた戦士は全部で4人。
 全員、全身を筋肉で覆われた体格の良い者たちばかりだった。

「どうだ、まだ・・・やるつもりか?」

 鞘に入ったままの刀を肩にかけて、立っているのがやっとの戦士に問いかける。
 しかし、彼は身体を振るわせたまま私を見ているだけだった。

「・・・いや、あんたとはやっても勝てそうにない。やめとくよ」
「そうか」

 私は、答えを聞くと彼に背を向けて出口へ向かった。
 まわりは、立っている彼を除いて全員、地面と仲良しになっている。





「ひとつ、聞いていいか?」
「・・・なんだ?」

 会場を出ようとしたとき、彼が言葉を発する。
 相変わらず身体を震わせてはいるものの、彼の目は真剣そのもの。
 私は、首だけ彼に向けて返事をした。






「あんた、何者なんだ?」







 彼の問いに、私は笑みを作って息を吐いた。








「ただの・・・はぐれ召喚獣だ」






 彼にそう告げて、予選会場を後にした。








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