「しかし、この街は武器背負ってる人が多くない?」
「さっきの武器街?あそこなんてそんな人ばっかりだったな」

 がつがつと注文した料理を食べながら、ユエルがそう話すと、イリスも同様にうなずいた。
 見回せば、この店の中でも武器を持っている人が何人も見受けられた。

 小ぶりな剣を腰にしている人。
 大剣を机に立てかけて、食事をしている人。
 護衛獣を連れて歩いている召喚師。

 さすが闘技の街といった所だろうか。
 召喚術は闘技じゃないと思うけど。

「それは、きっとこれのせいだよ」
「「?」」

 イリスはスカートのポケットに手を入れて一枚の紙を取り出した。
 きれいに折れたたまれていたそれを広げて机の上に置く。

「闘技大会・・・」
「そ。この街ではもうすぐ闘技大会が開かれるみたいなの」

 街の入り口で貰ってきたんだよっ!
 そう言って胸を張るイリスを尻目に紙を片手に料理をほおばる。
 よくかんで飲み込んでから内容を読み上げた。


    サモンナイト 〜時空を越えた遭遇〜

    第02話  ありえない


「闘技都市ヴァンドール、闘技大会開催のお知らせ・・・」

 人間でも召喚獣でも参加は自由。
 場所は、この街の闘技場。
 基本的には出場者とその護衛獣の2人での試合で、1人でも出場可能。
 試合中のルールはこれといってなく、殺し以外ならなんでもあり。
 勝利条件は相手を気絶させるか、降参させるか、武器の破壊。
 ちなみに、相手とは出場者のことである。

 とても簡単なルールだった。

「へぇ〜・・・」
「試合は、出場者と護衛獣ってことは、護衛獣がいたほうが有利だな」
「そうみたいだね」

 紙の下部に目をやると、「優勝報酬」という項目がある。

「優勝報酬・・・賞金10万バームと、聖剣フォルスエイン・・・」
「そう。なんでもエルゴによってつかわされた最強の剣なんだって」
「「10万バームぅ!?」」

 イリスの説明を無視して、素っ頓狂な声を上げた。
 彼女は、口を膨らませて机を叩いている。

「ちょっとおにいちゃん!話、聞いてる?」
「ああ、ゴメンゴメン。この10万バームっていうのが魅力的で・・・」
「ユエルたち、今お金ぜんぜんないの・・・」

 イリスは、表情を緩めてため息をついた。
 クルセルドは、なにも言わず壁際に立っていた。

「イリスたちは、この大会に出るのか?」
「ボクたちは、出ようかなって思ってる。ボク、これでも召喚術には自信があるんだよ!」

 もう参加登録してきちゃった!
 そう言って彼女はひらりと手を虚空にかざした。
 とユエルは、顔を見合わせてニヤリと笑う。

「じゃあ、俺たちも出てみるか?」
「うんっ!!」
「おにいちゃんたちも出るの?」

 イリスの挑戦的な声に俺たちは彼女を見て笑みを浮かべた。

「失礼デスガ」

 突然、クルセルドが声を出す。
 2人の視線が彼の方に向くと、目の部分を赤く光らせていた。

殿タチデハ、コノ闘技大会ヲ勝チ抜クコトハデキマセン」
「なんでそう思う?」

 勝てない、と言い切るクルセルドを俺たちは静かに見つめる。
 彼は、なにごともなかったかのように話し始めた。

「自分ハ、殿タチガドノヨウニ戦ウノカハ知リマセンガ、身体的ニ考エルト・・・」
「無理かどうかは、やってみないとわからないだろ?」

 クルセルドの言葉を遮り、言葉を発した。
 彼を見て、微笑みながら。

「まぁ、わからないでもないけど。言っておくが・・・俺たちは、強いぞ」
「色々あったからねぇ・・・」

 自意識過剰なのではない。
 あの戦いが彼らを確信させているのだった。

 の声に、ユエルは遠い目をする。
 その先にあるのは自分たちの第2の故郷である島。
 今でも、住人たちは平和に暮らしているのだろう。




















「「はっくしょいっ!!」」
「先生、カゼ?」

 鼻をすすりながら心配そうに見つめる生徒たちに笑みを向ける。
 なんでもないですよ、と自分の生徒たちに言い聞かせた。

「誰かが私たちのうわさでもしてるんでしょうか・・・?」
「意外と、身近な人だったりしてな・・・」

 結局、それを知っているのは本人たちのみ。





















 の言葉を聞いて、声を出さないクルセルドを尻目に彼はユエルをつれて出口へ歩きだした。

「おにいちゃん・・・」
「ちょっと、参加の手続きしてくるから。ここにいてくれれば、戻ってくるけど」

 イリスは、不安そうに2人を見ていたが、小さくうなずく。
 とユエルは、扉を開けて食堂を出た。

















「オラァ!さっさと金出しやがれ!!」
「ん?」

 参加の手続きをしようとユエルと街を歩く。
 するとドアを壊すような音と、ガラの悪い声が聞こえ、声のした方向を見やる。
 そこには、どこにでもいそうなゴロツキたちが10人ほど。
 1つの店の入り口を囲むようにたむろしていた。
 店の奥で店主だろうおじさんが怯えて震えていた。

「おい、お前たち・・・」
「そこの下郎ども!そのような行い、見逃すわけにはいかん!」

 助けに入ろうと声を上げるが、それ以上に大きな声が聞こえてきた。
 声の主は、ずいぶんと場違いなサムライ風の服を着ている。
 そして、より少し年上だろう顔つき。
 腰には一振りの刀を携えていた。

「なんだぁ?テメェ」
「もう一度言う。そのような真似は止めるのだ!やめなければ・・・」

 スラ、と刀を鞘から抜き、構えた。

「全員まとめて成敗いたす」
「んだと?覚悟はできてんだろうなァ?」
「下郎なぞに遅れをとるほど、私は弱くないのでな」
「・・・っ!!」

 ごろつきたちがその言葉に激昂。
 全員、ナイフや剣を取り出した。

「その言葉、後悔させてやるぜ・・・」
「悪いけど、俺も混ぜてくれ」
「!!」

がずい、と前にでる。
サムライさんに向けて笑みを作ると

「大人数対1じゃ、分が悪いってもんだろ?」

 そう言って刀を抜く。
 サムライさんは、を見て息を吐いた。

「その心意気、しかと受け取った。しかし・・・」
「やっちまえェ!!」
「私1人でも、さほど問題ではない!!」

 サムライさんは、向かってくるゴロツキたちを端から倒していった。
 一撃を入れられたゴロツキたちは、全員武器を落としてばたばたと地面に伏していた。

「案ずるな、峰うちだ」
「すごーい!!」

 その鮮やかさに、誰もが彼に拍手を送った。
 ゴロツキの頭であろう男は、「覚えてやがれ!」というありがちな捨て台詞を残して逃げていく。
 サムライさんは刀を収めとユエルの方へさっそうと歩いてきて、の目の前で歩みを止めて彼に向けてニッコリ笑った。

「先ほどはすまなかった。お前のその心意気に、感謝する」
「いや・・・」

 が口篭もっていると、隣でしびれを切らしたユエルがと彼の間に割り込んだ。
 表情は、いつものように明るい。
 突然のできごとに、彼も驚いているようだ。

「スゴかったよ〜!」
「あ、ああ・・・ありがとう」
「そうですね、鮮やかで・・・」

 サムライさんははしゃぐユエルを見て、彼女の頭をなでた。

「お前の召喚獣か?」
「うんっ!ユエルはね、ユエルっていうの!」
「あ、自己紹介が遅れましたね。俺は、 です」

 の名前を聞いて、サムライさんはなにやら興味深そうに彼を眺める。
 あごに手を当て何度かうなずくと、ちらりと隣のユエルを見た。
 の視線に気づいたのか、彼は表情を変えた。

「ああ、すまない。私の名は総司。沖田 総司だ」
「は・・・?」


 耳を疑った。
 その名前は、元の世界で自分ぐらいの年の人なら誰でも知ってる、歴史上の人物の名前だから。

「そんな・・・ありえない・・・」
・・・?」

 ユエルの視線を感じながらも、目の前の人物の顔をうかがう。
 この質問を、聞こうか聞くまいか。
 は、意を決して彼に尋ねた。





「日本を・・・ご存知ですか・・・」









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