「あの時・・・」

 帝国軍との戦闘を終え、船に戻ってきていた。
 全員が全員、表情に影を落としており、味気ない夕食をとったところでそれぞれにあてがわれた部屋へと閉じこもってしまっていた。

 現在は夜も遅く、大きな月は中天にさしかかろうという時刻。
 そんな中、月光に照らされながらは1人、船の甲板に座っていた。



 思考を数時間前へと飛ばす。

 アティが抜剣した、あの時。
 まるで、最初からああなることがわかっていたかのようだった。

「あれは・・・なんだったんだろう・・・?」

 もちろん、あのような記憶など昔から持っていたわけもない。
 川を水が流れていくように、頭に流れ込んでいたのだ。

 刀に刻まれた記憶の一部ではないだろうか?

 持参してきた自らの武器を手に持ち、大きな月にかざす。
 月光をさえぎり、真下の顔に影を作った。

 刀に眠る知識なのか。
 それとも遺跡自体がもたらした知識か。
 それとも、もっと違うことなのか。

「なんなんだろうなぁ・・・」

 ため息をき、刀を下ろしてその場に寝そべると、目を閉じた。





     サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜

     閑話  過去





「そーんなトコで寝てると、カゼひくわよ?」

 不意に、の顔を1つの影が覆った。
 細身の体型に、持ち上げられ上に飛び出ている髪。一種のおしゃれなのか、身体のラインがでるようなぴっちりした服にふわふわしたそれを纏っていた。

「スカーレルか・・・」
「あら、アタシがここにいちゃダメっていうワケじゃないでしょ?」

 靴音をたてての隣に来るとそのまま座り込むと、同様に空を見上げた。

「俺になにか用か?」
「なにか用がないと、アタシはここに来ないとでも思った?」

 質問に質問で返したスカーレルは、眉を寄せるに笑みを向けた。



「ねえ、・・・」
「ん?」

 から視線をはずし、スカーレルは再び空を見上げる。

「ヤッファがキュウマを殺そうとしたとき」
「なぜ殴りつけてまで止めようとしたのか、か?」

 沈黙。
 互いに顔を見ると、苦笑いを浮かべる。
 その後スカーレルは、暗くて見えない水平線を見て、うなずいた。

「・・・・・・・・」
「言いづらいことなら、教えてくれなくてもいいんだけど・・・」

 一度顔を伏せる。
 なぜ、双方を殴りつけてまで衝突を止めたのか?

 それは、贖罪。理由など些細なこと。
 内に溜め込んだりするなよ、という言葉がよみがえり、スカーレルと同じ水平線に顔を向けた。

「償い、だよ」
「償い?」

 償いとは、過去の過ちに対して行う行為である。
 そんな言葉が出てくるとは思いもしなかったのだろう。スカーレルは一瞬目を丸めてから、眉をひそめた。

「何年くらい前だったかな・・・俺がまだ小さいとき、自分の母親に目の前で死なれたんだ」
「は・・・」
「雨の日でさ。車・・・俺の世界にある移動用の機械なんだが、それがたくさん走っている道を2人で歩いていたんだよ」

 車って言うのは、このぐらいの大きさな。
 立ち上がって乗用車の大きさを形作った。
 もちろん、形だけで理解することはできない。だからは、拳を握って顔の高さまで持ち上げ、甲板を思い切り殴りつけた。ドコォ、という鈍い音と共に、スカーレルは目を丸めた。

「たとえば、今みたいに拳を力いっぱいたたきつけると・・・痛いだろ?」

 ぺたん、とその場に座り込みながら、拳を顔前へと移動させる。
 握りこんだままの拳の先は、衝撃で赤に染まっていた。

「殴りつけたとき、拳の速度が早いほど痛みは強い。これを覚えていてくれると、この先の話はわかりやすいと思う」

 それを説明するために、わざわざ痛い思いをしたのだ。
 そんな彼の律儀さに、スカーレルが苦笑い。

「で、車・・・もっと言うと自動車って言うんだけど、これが走り出すと結構スピード出るんだよ。さっきの拳の速さなんかより、もっと、もっと。そこへ・・・」

 人間が入り込むと・・・どうなると思う?

 そう問い掛けると、一度息を吐いた。
 スカーレルはその問いにさも当然のように、

「ぶつかるわねぇ・・・」

 そう答えていた。

「そう、ぶつかるんだ。そのときの衝撃は、さっきの拳どころじゃない。当たり所にもよるけど、たいていは即死だ」
「じゃあ、の母親がその進行方向に入り込んで・・・」

 そこまで言ったところで、は首をゆっくりと横に振った。

「入り込んだのは・・・俺なんだ」
「え・・・っ!?」

 スカーレルの表情が驚きのそれに変わる。

「子供だったから・・・無意識だったんだろうな。ふらふらと走っている自動車が走る道に入り込んだとき、すでに車が近くに来ていてな。母さんはそんな俺を助けるために、自分の身を犠牲にして・・・」

 俺のかわりに自動車と衝突したんだ。

 視線をそのままに、つぶやくように言葉を発した。
 それと同時に、大きい波が音を立てて船にぶつかる。もちろん、そんなことで船が沈むことなどあるわけがないが、その大きな音のせいか、最後に放ったの言葉はスカーレルの耳にのみ聞き取られていた。

「・・・・・・」
「俺が・・・殺したんだ」



 その時の光景が目に浮かぶ。

 衝突し、宙を舞った母の姿。
 徐々に冷たくなっていく身体。
 目の前を流れ出ていく赤く生暖かい液体。

 その時のすべてが鮮明に浮かび上がった。



「その、償いなんだ。あの2人を止めたのは。命の大切さってものを、大きな犠牲の上で学んだから。だから、俺は見たくないんだ。死というものを・・・な」
「そんなことがあったのね・・・ごめんなさい、そんなこととは知らず・・・」
「気にするなって。君に話したことで、少し気分がまぎれたから」

 スカーレルはいたたまれなさそうに首を落とす。
 そんな彼に視線を向けて、立ち上がった。

「悪い。ずいぶんと辛気臭い話をしちゃったな」
「な、なに言ってんのよ。が悪いワケじゃないのに・・・」

 謝ることはない。
 スカーレルはそう言おうとしたが、その言葉は口に出されることはなかった。

「俺、もう部屋に戻るよ。おやすみ」

 スカーレルをさえぎるように、はそう言って彼に背を向けたからである。

 バタン、と船内への扉が閉じる。
 1人になったスカーレルは吹き付ける風を身体で感じながら、空を見上げた。








「俺が殺した・・・か」

 大きな月の光が、彼の顔を照らす。

「だからあんなにも他人の死に敏感に反応してたのね・・・」

 今まで彼のとった行動を思い返す。
 イスラが裏切ったとき。
 今日の核識の間でのこと。



 自分自身も故郷の村を焼かれ、両親を亡くした。
 だから、残されたものの気持ちがよくわかる。

 その後の自分と彼の行動を考えると、自然と笑みがこぼれた。
 その笑みは、嬉しいとか楽しいといった感情ではなく、復讐のために、故郷を焼いた組織へと入った自分への嘲笑だった。


「あのことを知っちゃったら、きっと軽蔑するでしょうね・・・」


 その場に1人、立ち尽くしていた。







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