は未だ碧の光に包まれているアティへと身体を向ける。

「邪魔はさせぬと言ったはず!!」

 キュウマはヤッファの前からこつぜんと姿を消し、彼らのの前に立ちはだかる。

「そこをどくんだッ、キュウマ!!」
「そっちこそ、先生を助けるジャマをしないでくださいっ!!」

 ウィルが叫び、サモナイト石へと魔力を込める。
 緑色の石は明滅し、召喚術を発動させた。虚空に一体の召喚獣が姿を現した。

 ネコのような姿で両手にパンチウローブをはめた召喚獣はキュウマを目標に定め、拳を繰り出す。
 しかし、キュウマはしっかりそれを避け、召喚獣の攻撃は地面へと突き刺さると轟音と共に砂煙を起こしたのだった。

「せっかくの平穏をくだらねえ因縁でぶっ壊されるわけにはいかねえんだ・・・」
「過去の真実を捨てた偽りに満ちた平穏にいかほどの価値もあるものかッ!?」

 護人2人はお互いにそう叫び、自らの武器を振るう。
 キュウマの刀と、ヤッファの爪が激突し、甲高い音と共に火花が散った。




「おりゃあぁぁっ!!」

 警報音が鳴りひびく中、カイルはアティと助けんと猛然と駆け出した。





    サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜


      第26話  死





  
 ―― オー、ト・・・っ、ディフェン、さ、作動。魔障壁、展開・・・


 遺跡は、アティを守るように見えない障壁を作り出す。
 光しか見えない壁であったため、カイルはそのまま止まれずに激突。顔面を手で抑え背後へふらついた。

「アニキっ!?」
「光の壁・・・これじゃ、センセに近づけないわよ!」

「どいてください!!」

 ヤードはあとずさるカイルの肩に手を置き、グイッっと引っぱることでカイルと自分の立ち位置を逆転させ、サモナイト石を持ち魔力を込めた。
 サプレスの召喚術が発動し、大きな音が室内に轟いた。

 しかし、障壁は破壊することはおろか傷ひとつついていない。
 攻撃を仕掛けたヤードは目を丸めた。

「びくとも・・・しやがれねえ・・・」


   ―― 照合確認終了・・・継承行程、読み込みから、書き込みへと移行中・・・


「マズい・・・」

 は1人、表情をゆがめて舌打ちをした。

「なにか・・・なにか、いい方法は・・・」
「このッ!このッ!このおぉぉぉぉっ!!」

 なにかよい方法はないかとキョロキョロと周囲を見回す。
 しかし、まわりの機械はどのようなものなのか、彼にはまったく使い方がわからない。
 悔しさを吐き出すように、地面へと拳を打ちつけた。
 そんな彼の隣で、ソノラが涙を流しながら銃を障壁に向かって乱射しているが、召喚術ですら傷ひとつ与えられなかった壁に、発砲された弾丸が通り抜けるはずもない。


「しっかりしろよッ!アンタ、言ったろ!?オレたちのこと、絶対に守ってくれるって!」
「側にいてくれるってあの時、2人でそう言ってくれたじゃないですか!?」
「貴方たちは、私たちに雇われた使用人なんですから、勝手にいなくなられたら困るんですッ!!」
「約束を・・・ッ、破らないで・・・くださいッ!!」

 生徒たちが涙を流しながら叫び声をあげる。

「「「「先生えぇぇぇぇっ!!」」」」

 4人の声と同時に剣が輝いた。
 ほとばしる魔力の奔流が、風となってその場の全員に吹き付ける。

「アアアァァァッ!!」


   ―― 回線、遮断・・・ッば、バカ、な・・・ッ。シス、テム・・・だ、ダ、ダウ・・・ギ!?ア、アアァァァァ・・・ッ!?!?


 部屋全体を白い光が包み込む。
 は、あまりの眩しさに薄目で腕を顔の前にかざす。

「アティーーッ!!」

 レックスが叫んだ。
 なにかの声は悲鳴をあげたきり、聞こえなくなってしまっている。
 回線遮断、と言っていたことから作業は止まったと考えてもいいだろう。

 光が収まると、抜剣したままふらふらと立つアティの姿が見えた。

「あ、あぁ・・・っ」
「心配かけちゃってゴメンね、みんな」
「ば、バカ野郎・・・っ」
「「「「せんせえっ!?」」」」

 生徒たちが元の姿に戻っていたアティに駆け寄り、抱きついた。
 レックスもゆっくりと近づいた。


 そんな中で、ヤッファと対峙しいていたキュウマは冷や汗を流し、目を丸めていた。
 それとは逆に、ヤッファは唇の端を吊り上げ、笑った。

「あり得ない・・・完全に、意識は支配されていたのに・・・」
「残念だったな。アテが外れてよ?」

 笑みを見せていたヤッファは、そう言ったことでキュウマをにらみつけた。

「なんのつもりでこんな真似をしたかはしらねえが・・・災いの根は、ここで断たせてもらう!!」

 爪を振り上げる。照明に反射してキラリと光った。
 キュウマはなにも言わずその場に立ち尽くし、目を閉じる。

「・・・ッ!!」

 ヤッファは力をこめて腕を振り下ろすが、切り裂いた音は聞こえず、鋼の音が響き渡った。
 彼の振り下ろした爪は横から出された刀に止められていたのである。

「何やってんだよっ!!」
殿・・・」
「マスター!!」

 護人2人は割り込んできた存在に驚きの表情を見せた。
 彼の身をを案じたユエルが声をあげる。

「君ら2人とも、この島を守る護人同士だろ?なんで殺しあおうとするんだよ・・・おかしいじゃないか」
「おかしいのはテメエだろうが!自分の仲間があんな目にあわされてるってのに、なぜこいつをかばったりする!?」

 ヤッファの怒鳴り声が響く。
 はヤッファを無言で見つめると、刀の刃を返す。

「情けなど無用・・・自分のしたことがどれだけのことか覚悟の上で、行動したこと・・・」

 キュウマが後ろから言葉を紡ぎ、

「ひと思いに、とどめをさせばよかろう!」

 地面に座り込み、目を閉じた。
 その声に、は歯を食いしばる。

「自分の知り合った、それも大切な仲間を・・・」

 背後へと振り返り、目の前にキュウマを見据えて言葉を放つ。

「誰も死なせてたまるか・・・生き物の一生は一瞬なんだ!そんな簡単に自分の命を捨てるようなことを言うなッ!!」

 脳裏にあの日の光景が浮かぶ。
 アスファルトの上に横たわる、自分の母親だったモノ。
 雨で流れる赤い液体。

 キュウマの襟元をつかみあげ、殴りつけた。

「・・・ッ!?」

 ドサ・・・とキュウマが後ろに倒れこむ。

・・・」

 誰かが名前をつぶやくのもお構いなしに、拳を強く握る。

「俺は、あの時なにもできなかったんだ。だから・・・」
「マスター・・・」

 涙を流しながらキュウマをにらみつけるにユエルが近づく。
 右手で拭い、無茶してすまん・・・とユエルにささやいた。



 パチパチパチ、と1人の人間の手をたたく音が聞こえてくる。



 この部屋の入り口の方から聞こえてきた音だった。

「あはははははっ!」

 物陰から現れたのは、イスラだった。
 その背後には、数人の帝国兵の姿も見て取れる。
 全員がそれぞれ、自らの武器を手にとっていた。

「この僕に、あれだけ手痛い目にあわされたっていうのに・・・相変わらず、そんな甘いことを言っているのかい?」
「なんだと・・・」
「「イスラ・・・」」

 はイスラをにらみつける。
 ユエルは少し、毛を逆立てていた。

「共倒れになったらいいな、って思って見てたけど・・・そうそう、都合良くはいかないってことか」
「てめえ・・・」

 カイルが拳を強く握りしめた。

「この遺跡を押さえればそれだけで、この島の全てが手に入る・・・こんなオイシイ情報、放っておくわけにはいかないよね?」

 いろいろ勉強させてもらったよ。
 イスラはそう言ってにっこりと笑った。

「そんなこと、絶対にさせない!!」
「そのとおりです!!」

 レックスとアティが剣を構える。

「いい機会だし・・・せっかくだからその剣、この場でもらっていくよ!!」


 イスラは背後の帝国兵に命令を下した。






 部屋の中で、金属音が鳴り響く。
 ここにいる帝国兵は、以前戦った兵士たちよりも明らかに戦闘慣れしているようで、動きからして以前とは別物。
 自身、この世界に来るまで実戦経験なんてなかったのだが、そんな彼から見てもそれは明らかだった。

 中には、銃を持つ人間も混じっていて、外からためらいもなく銃弾が撃ちこまれる。
 銃弾は地面へと突き刺さることもあれば、身体を掠めていくこともあり、ところどころに小さな傷ができてしまっている。


   パァンっ!!


 そんな中、一つの銃声が鳴り響いた。


 左腕に強い痛みが走る。
 腕を見ると、上腕の部分から血が流れており、次第に力が抜けていく。

「・・・ッ!!」

 初めての痛みに思わず刀を落とし、腕を抑えた。



「「「「ッ!!」」」」
「マスター!」

 目の前の兵士が剣を振り上げる。


 は腕にあった視線を移動させ、見上げる。視界に入ってきたのは、剣を振り上げ、今にも自分を斬ろうとしている帝国兵の姿があった。
 帝国兵がにいっと笑みを浮かべる。

「くそ・・・」

 腕に銃弾を打ち込まれただけなのに。
 本当ならまだ動くはずなのに。
 身体が言うことを聞いてくれなかった。

 剣が振り下ろされる。

 ・・・目をつぶった。





 数秒。いつまでたっても、腕の痛みしか感じない。
 ゆっくりと目を開くと、そこには剣を受け止めるナップの姿があった。

「ナップ・・・」
「兄ちゃん、大丈夫か!?」

 の方を向かずにそう尋ねると、答えも聞かずに受け止めた剣をはじき返す。
 そこへすかさずウィルとベルフラウが召喚術を唱え、術を発動。
 それをまともに受けた帝国兵はその場に倒れこんだ。

「ウィル・・・ベルフラウ・・・」
「まったく・・・しっかりしてくださいよ」
「貴方は、私たちの兄さんなんですから!!」

「今、その傷を治しますから!!」

 アリーゼが癒しの召喚術を使う。
 は笑みを浮かべ、

「ありがとう」


 銃弾を受けた傷の癒えた腕で、再び刀を構えた。
 レックスやアティ、カイル一家は休みなしに敵兵と剣を交えている。

「よし、行くぞ!!」

 は気合を入れて戦場へと身を投げ出したのだった。








「ふう・・・」

 戦闘を終え、地面に腰を下ろす。
 いまだに、自分の死を目の前に感じた恐怖に身体が震えていた。
 思い切り、皮膚の色が白くなるまで強く、拳を握りこむ。

「偵察のつもりがとんだ道草になってしまったな・・・」

 イスラは小さく舌打ちをすると、兵士たちに撤退を命じて部屋を出て行った。







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