「よっしゃ、行くぞ!」



 本日も晴天なり。

 というわけで、は鬼妖界・シルターンの集落、風雷の郷へ遊びに来ていた。
 もともと、スバル・パナシェ・マルルゥの3人と遊ぶ約束をしていたからである。
 しかし、現在のメンバーはパナシェ・マルルゥ・の3人となっていた。

「そりゃーっ!!」

 勢いよく地面を蹴りだし、宙へ踊りでる。
 真下は水面。
 大蓮の池で、向こう岸までの記録を測っていたのだった。


 水面に映る自分を見ながら、大蓮の上をトーン、トーンとわたっていく。

お兄さん、スゴーイ!!」
「ガクランさん、もう少しです!がんばるですよ〜っ!!」

 声援が飛んだ。

「・・・!」

 最後の蓮をける。
 蓮は大きくゆれて水面に波紋を起こすが、沈むことはない。
 は音を立ててゴールに立った。





     サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜

     第27話  親子





「スゴい、スゴい!新記録!!」
「先生さんのタイム抜いちゃいましたよ〜」
「普通だよ、フツー」

 は照れ隠しに頭を掻くと、視界の隅に見知った存在を確認し、パナシェを見やる。

「パナシェ、スバル来たぞ」
「あっ、ホントだ!おーい、スバルっ!」

 パナシェがぶんぶんと手を振るが、スバルはなにも言わずに踵を返して走っていってしまった。

「あや?」

 背を向けてしまった彼を見て、マルルゥは首を傾げる。
 いつものように駆け寄ってこない彼。なにかあったのだろうな、と感じるのは無理もないことだった。

「ボク、なにか変なことしちゃったのかなあ・・・」

 パナシェが目に見えて落ち込んでいる。

「大丈夫だって。たぶん、屋敷でなにかあったんだよ」

 気にすることはないよ。

 そう言って、パナシェの肩を慰めるように軽く叩く。
 ちょっといってくるから、とは地面を蹴りだし、パナシェとマルルゥを置いてスバルを追いかけた。










「・・・いた」

 ちょうど進行方向の先の岩の上。探し人はそこに座っていた。
 同じように岩に飛び乗ると、

「よっ、スバル」
「・・・!」

 顔の前にシュタッと手を上げた。
 スバルは一瞬驚いた顔はしたものの、すぐにから視線をはずし、うつむく。

「・・・なんでこんなとこにいるの?」
「なんでって、君を探してたんだよ」
「おいらを?」

 うなずくと「どっこいしょっ!」という掛け声と共にスバルの隣に腰掛けた。
 岩の上から周囲を眺めると、目の前には小さな川があることに気が付いた。おそらく、大蓮の池から流れてできたものなのだろう。
 そんなことを考えながら、視線を川からスバルへと移動させ、口を開いた。

「いつもならパナシェの声に笑って駆け寄ってくるのに今日はこなかった」
「・・・・・・」
「なにか、あったのか?」

 スバルは答えないた。
 ただ、目の前の川を見つめるのみで、身体を動かすことはなかった。
 表情は、暗い。

「俺には話せないことか?」

 だったら無理に話さなくてもいいよ、と付け加えた。

「それならそれで、ちゃんとパナシェに・・・」
「おいら、みんなと一緒に戦いたいんだ!」

 謝らないとな、と続けようとしたところで、スバルは叫ぶように声をあげた。

「あのとき、イスラに捕まって郷を荒らされて」
「・・・」

 脳裏にその時の様子が浮かび上がる。
 雨が降る中で、捕まっていた自分達のために、レックスが剣を渡して。アティが戦って。


 みんなが傷ついて。


「おいら、あのときなにもできなかった。悔しかったんだよ。先生にも、無茶をさせて・・・」
「あの2人のことだから、きっと気にしてないと・・・」

 そんなつぶやきにスバルは顔を上げ、怒鳴った。

「先生たちが許してもおいらは、おいらが許せないんだよ!」
「スバル・・・」
「強くなるためには、あきらめないことが大切だって先生に教わったんだ。だから、おいらは今の気持ちをごまかしたくない!戦いたいんだ!母上を、みんなを守るために、戦いたいんだよ!」

 言い切ったところで、涙が一筋、頬を伝う。
 その気持ちは痛いほどよくわかった。

 自分のせいで家族がいなくなった。
 自分ではなにもできなくて、毎日、毎日、学校へも行かずに部屋に引きこもって涙を流した。

 その時の自分の気持ちとよく、似ていた。

「その気持ちはよくわかる。でも・・・」
「結局にいちゃんは相手してくれなかったけどおいら、稽古頑張ったんだ。」
「・・・悪い。なんだか色々あって、さ」

 約束だったのにな、と謝罪するにスバルは首を横に振った。

「そんなことないよ!相手ならまだこれからいくらでもやってもらえるし」

 スバルは首を横に振り、話を戻した。

「稽古のときにキュウマに言われたんだ。これなら、自分の身は守れるって」
「・・・・・・」
「なのに、母上は許してくれない。おいらが子供だって決めつけて、なにもわかっちゃくれない」

 ここでなぜスバルが落ち込んでいるのかがにも理解できた。
 要するに、戦いたいけど戦えないということである。

「つまり、ミスミさまに自分も戦に出たい!と頼んだけど、まったく許してくれそうにないからケンカして飛び出してきた、というわけか」

 思ったことをそのまま口にすれば、スバルは力強くうなずいた。

「・・・じゃあ、聞くけど」
「?」
「スバルは自分のことわかってくれない、って言うけど、スバルはミスミさまの気持ち、わかってたのか?」
「あ・・・」

 やっぱりか、とは頭を掻いた。
 何のための言葉だろう、と内心でつぶやく。
 口に出せば話がこじれることは間違いないので、あえて言わない。

「こういうときは、相手の気持ちもわかってやらないと、いつまでたっても前へ進めないんだ」
「・・・」

 スバルは視線からをはずし、地面に向けた。

「心を落ち着けてよ〜く考えてみな。ミスミさまはスバルのなに?」
「母上は、母上だよ」
「家族で自分の親、だよな?」

 うん、と小さな声だがそう聞こえた。

「こんな言葉が俺の世界にあるかもしれない」

 あえて「かも」の部分を強調して言う。
 スバルは視線をに向けた。

「親が子を思う気持ちは無限大」
「・・・」

 もちろん今自分で考えた言葉である。だから、「かも」を強調したのだ。
 それでも、あながち間違ってはいないだろうとは思っていた。

「クッサいセリフで言ってて恥ずかしいけど、冗談で言ってるわけじゃないんだぞ。きっと、これはミスミさまにだって、きっと当てはまる」
「・・・」

 スバルの顔が何かに気づいたように目を丸めるが、すぐに視線を地面に戻した。

「わかってらい・・・それくらい・・・母上は、いつだっておいらのことを一番に考えてくれてるんだ。でも、でもさ・・・」

 声が震えている。出てくる涙をこらえているのだろう。スバルの身体は小刻みに震えていた。

「それを考えちゃったらおいらのしたいことはどうなるのさ!?母上の言うとおりににいちゃんも、戦いには出るなって言うのかよ!?」
「言わない」

 あっけらかんとした答えにスバルは、きょとんとした顔になる。

「言わないさ。むしろ、俺からすればその年でみんなを守るために戦いたい、って考えるその気持ち、立派だと思う」
「にいちゃん・・・」
「自分で決めたことは最後までやりとおすもの。ゆずりたくないのはわかる」

 そこで言葉を切って息を吸い込む。
 彼の頭に手を置いて、2,3度ぽんぽんと叩いた。

「でも、相手もそれに負けないくらいに真剣だったら、そのゆずれないっていう気持ちがぶつかってそれこそキリがない」
「・・・・・・」
「その場の勢いで頼んで、許してもらうなんて無理な話。相手の話も聞いてお互いにわかり合うことができれば、おのずと答えは出てくる」

 ケンカするより、よっぽどいいだろ?と聞くと、スバルは素直にうなずく。
 歯を見せて笑うと、

「俺の言いたいこと、わかっただろ?」
「・・・うん!」

 は「よしっ!」と言って頭にあった手を肩へ移動させると、立ちあがった。

「じゃあ、ミスミさまのところに戻って自分の気持ち、伝えてやりな」
「うんっ!!」

 スバルは先ほどとは違った、つっかかったものが抜けたような晴れ晴れとした顔つきで去っていった。
 誰もいなくなったその場で、空を見上げる。

「ガンバだぞ、スバル!」

 そうつぶやくと、かなり待たせっぱなしだったパナシェとマルルゥのところへ戻った。











 夕方。パナシェとマルルゥの2人と別れて船に戻り、砂浜に腰を下ろしていた。
 ふと、ユエルがを見上げる。

「マスター、なんだか嬉しそうだけどなにかあったの?」
「いや、そうじゃないんだけどな」

 何があったのか。話そうとしたときだった。

にいちゃん!!」
「スバル・・・」

 名前を呼んだ本人の顔はなんだかとても晴れやかで。『満面の笑み』という言葉がしっくりとくるような表情をしていた。

「これからは、おいらもみんなと一緒に戦うんだ!」
「ってことは、許してもらえたんだな?」
「うんっ!!」

 スバルは大きく首を縦に振った。
 それを見て、はニイッと笑みを浮かべる。

「じゃ、スバル。武器、取ってきな」

 稽古、やろうか。
 そう言うと、スバルはもとからやる気満々だったようで、「もう持ってるよ」と背後から自分の身体くらいもあろう大きな斧を取り出した。

「よし、相手になるぞ」

 とスバルは距離を保ってお互いの正面に立った。
 ユエルは未だに状況がつかめず先ほどからキョロキョロととスバルを交互に見ている。

「ユエル。危ないから後ろに下がっていてくれるか?これから稽古するから」

 そう言うと、ユエルはなにも言わずに後ろへ下がる。
 スバルが「ゴメンな」といったしぐさをユエルにしていた。

 はいつも携帯している刀を。
 スバルは大きな片刃の戦斧を。

 それぞれ構えた。

「じゃあ、にいちゃん・・・行くぞ!!」
「来いッ!!」



 2人はそのまま暗くなるまでまでお互いの刃を合わせていた。







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