「で、あれ以来二人とは会えずじまいってワケね」

 今日も今日とて、船長室にて会議の最中。
 全員が全員、浮かない表情をしている中で、スカーレルは2人へ質問を投げかけていた。

「はい・・・」
「何度か訪ねてみたんだけど、少しも顔を見せてくれないんだ」

 レックスとアティは目を伏せ、深く肩を下げた。

「ずっと秘密にしてたことが、あんな結果を招いちゃったんだもん」

 無理もないと思うな、と言ってソノラは苦笑い。

「俺も一応召喚された者の内の1人だから、こんなこというのもなんなんだけど」

 部屋にいる全員がを視界に入れる。
 集中する視線に一息ついて、頭を掻いた。

「彼らのやったあの行為はなにも知らない俺たちに対する裏切りだろ?」
「ああ、の言う通りだな」

 うなずいたのはカイルだった。
 眉間にしわを寄せ、彼は悔しげに両手の拳を打ち合わせていた。

「過ぎたことをどうこう言うのは、俺の性にはあわねえがよ・・・事情の説明ぐらいはしてもらわねえと気持ちがおさまらねえ」

 そうだろ?
 室内をしばらくの間、沈黙が支配していた。





     サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜

     第28話  島





「あれから、剣の様子はどうなんです?」

 ヤードがアティに投げかけた唐突な質問。
 気になっていたのは彼だけではなく、アティ以外の全員が同じ気持ちであったのだ。

 遺跡に取り込まれそうになってから、アティは一度も剣を抜いていない。
 彼女のことを心配すしているのなら、そう思うのは当然だった。

「あの声が聞こえてくることもないし、喚べば抜けると思います・・・さすがにまだ怖いから、試してないですけど」

 その返答の内容にスカーレルは「それがいいわね」と深くうなずいた。
 ヤードは腕を組むと、

「継承の失敗によって、遺跡の機能は、大きな打撃を受けたとみてよいでしょう」
「そうだな。だいぶあの声の主、苦しがってたし」

 ヤードに同調するようにうなずくと、

「思い出したわっ!!」

 スカーレルは突然を指をさす。
 は眉をひそめ、

「人を指差しちゃダメじゃないか・・・」
「そんなことは今そうでもいいの!」

 の意見をあっさりと切り捨て、スカーレルは彼にずいと顔を寄せた。

「なんで、そんなことがわかるの?」
「・・・は?」

 スカーレルの問いは簡単なもので。
 遺跡での記憶を掘り起こして、剣の所有者であるアティ以外の全員が気が付いたかのように手を叩いた。

「あの時、アナタこう言ったわよね、『魂を遺跡に喰われるぞ』って」
「ああ、言ったな・・・」
「たしか、まだ召喚されたばっかりで遺跡のことなんて知ってるワケないわよね?」
「うん」

 確認を取るようにスカーレルは質問を繰り返し、

「じゃあ、なんでセンセの魂が遺跡に喰われるってわかったの?」

 そんな質問を最後に投げかけていた。
 あのときのことは正直な話、でさえよくわかっていないのだ。
 わかっていることといえば、アティが剣を抜いた瞬間に遺跡の知識が頭に流れてきたということのみ。
 どう説明していいかわからず、頭を掻いた。

「なんていうか・・・こう、俺の頭に流れ込んでくる感じがあったんだよ」

 虚空を指差し自分の頭へと指を移動させると、トントンとそこをつつく。
 それ以外はよくわからない、と続ければなにを聞いても無駄だろう。
 同じことを考えたのか、スカーレルは素直に引き下がっていた。
 実際、それ以外にわかっていることなどないのだが。

 ソノラは場を取り繕うように、「ゴホンッ」っと咳払いをした。
 そしてニッと笑むと、

「とにかく、あせったって仕方ないじゃん。なにをするにしても、この島の護人に協力してもらわないといけないんだしさ。とにかく、待とうよ」

 その言葉でこの場は解散と言う形になった。









「なんかさあ、近頃不穏な空気が流れたりしちゃってなぁい?」
「なんだよ、やぶからぼうに」

 間違ってはいないけど・・・と続けた。
 ここはメイメイの店。
 初対面で自分たちの職業を見破った彼女に買い物を兼ねて助言を賜ろうといことで、やってきていた。

 の返したその言葉にメイメイは苦笑い。

 その後、はメイメイに今まであったことをかいつまんで話をした。
 メイメイは多少頬を赤くしていたものの、いつものようなおちゃらけた顔ではなく、真剣そのもので。
 説明している側としては、驚きだ。

「なるほど・・・そりゃ、一大事だわ・・・ってなに、そんな目を丸くして?」

 聞かれたは、「たいしたことじゃないよ」と一言。

「まぁ、そんなわけでみんな、どうしたらいいもんか迷ってるんだよ」
「その様子だと、貴方もまんざらじゃないんでしょ?」
「む・・・」

 メイメイの言葉に口を閉ざす。
 彼女はにゃははと笑った。

「事態を深刻に受け止めるのは大事なことだけど、深刻さと慎重さは全然、別のものよ」
「・・・」

 物事を深刻に受け止めすぎて、その後で行動がしづらくなってしまっては、本末転倒だ。
 かといって、行動に支障をきたさないようにと慎重に行動をしつづければ、時に最悪の結果を招きかねない。

「気負いすぎて固くなった指先じゃもつれた糸玉を、解くなんて無理だもの。ほどよ〜く力を抜いてみたら、自然に答えも出るんじゃなぁい?」

 だからこそ、力んだ思考を捨てて、少しでも思考にゆとりがもてれば、おのずと最良の結果がついてくる。
 何事も力を入れすぎるなと、彼女はその一言に込めていたのだろう。
 はさっきまでの自分の行動を反省しつつ、メイメイに笑みを向けた。

「そうだな・・・ありがとう」

 メイメイに見送られる中、店を後にしたのだった。




「さて・・・と」

 腕を上げてぐぅーっと身体を伸ばす。
 隣のユエルものマネをしているのかどうかはわからないが、同じように身体を伸ばしていた。

「それで、マスターはこれからどうするの?」
「ああ、とりあえずユクレス村に。みんなには悪いけど、先に話を聞きに行く」

 今回は話を聞かないと、とてもじゃないが行動は不可能だ。
 だからこそ、は単独で話を聞いておこうと思ったのだ。
 ゆとりある思考と、それに対する迅速な行動。

 とにかく情報を得ようと、2人は並んで村へ進路を取ったのだった。








「着いた」
「着いたね・・・」

 とユエルの2人はユクレス村へたどり着いた。
 しかし、村には誰1人として見当たらず、とても静か。

 本当は誰もいないんじゃないか、この集落?

 そんなことをつい考えてしまったのだった。

「誰も・・・いないね」
「そうだな・・・とりあえず、ヤッファんトコ行くぞ、ユエル」

 ヤッファのいる庵に歩を進める。
 ほどなくして、彼の寝床である庵へたどり着いていた。



「おーい、ヤッ・・・」

 入り口で彼の名を呼ぼうと声を上げれば。

「しーっ!ダメですよう、ガクランさん」
「マルルゥ・・・」

 庵の入り口でマルルゥに止められていた。

「マルルゥ。ユエルたち、中に入りたいんだけど・・・」
「シマシマさん。こないだから、ずっと具合が悪くて、寝てるのですよ」
「「!!」」

 あの発作のせいだな・・・
 はすぐにそう確信した。
 それでは、とてもじゃないが話を聞けるような状態ではない。

「そういうわけですからしばらくは、そっとしておいてあげてください。元気になったら、マルルゥが、知らせにいくですから」
「しょうがないな・・・行くぞ、ユエル」
「あ、マスター!」

 結局、そのままユクレス村を後にしていたのだった。

「なんで戻ってきちゃったの?」
「あー、ヤッファにもいろいろるんだよ。考える時間も必要だと思うし。なにより・・・」

 これを聞いていいのは俺たちじゃない。あの2人だと思うから。

 はそう続けた。

「来る前から気づくべきだったな」

 バカみたいだ、と苦笑い。
 ユエルの頭に手を乗せると、

「さあ、船に戻ろう」
「うん・・・」

 ユエルは納得いかないといった表情をしていたが、結局、サクサクと地面を踏みしめ歩くの隣に並んだのだった。





「あれ?みんな、どこいくんだ?」
「あ、!探したよ!?」

 船に戻る途中、カイル一家と生徒たちと鉢合わせ。
 話に聞けば、アティとレックスは話を聞きに行ったらしい。

 みんなは、生徒たちに喝を入れられて今からキュウマのいる風雷の郷に行くという。

「もちろん、行くだろ?」

 それならば、話を聞いても大丈夫だろう。
 カイルの問いには大きくうなずいたのだった。








「無色の派閥の連中は、自分らの力にうぬぼれすぎたんだよ」
「それは?」
「万物全ての意志を受け止め、理解する必要があるんだぜ。界の意志だからこそ、それができるんだよ。強引にやったところでしくじって当然さ」

 ヤッファは自嘲気味にこの島のこと、ひいては目の前の門のことについて話していく。
 今までこの島が召喚術の実験場であることしか知らなかったためか、自分たちは結局なにも知らなかったんだ、悔しい気持ちで話を聞いてた。

「要にあたる「核識」になろうとした連中は耐えきれずに、みんなぶっ壊れていったさ。新しい世界を作るとか、アホくさい題目を唱え、次々とな・・・」
「だから、無色の派閥は廃棄を決めたんですね」
「それなら施設だけを廃棄すればすむ問題なんじゃないのか?」

「それを達成した人間が一人だけ、存在していたからですよ・・・」

 振り向いた先には、キュウマを先頭にカイル一家や生徒たち、それにとユエルがいた。
 アティも少し驚いているのか、目を丸めていた。

「キュウマさん!それに、みんな!?」
「よう」
「俺らなりに、考えて動いてみたんだよ」
「この子たちに、喝を入れられてね」

 スカーレルはそう言うと、生徒たちを前に押し出す。

「先生たちばっかに、全部任せるのも、ずるい気がしてさ・・・」
「僕たちも、この島のことを聞く権利があると思いますので」
「私たちは仲間、なんですから・・・」
「のけものにされては困りますわ!」

 4人はそれぞれの意見を述べて、視線を地面へ向けた。

「みんな・・・」
「ほらレックス、アティ。続きを聞こうぜ」

 キュウマは待っていたかのように話し始めた。

「達成した人間の名はハイネル・コープス。リクトさまの親友であり・・・」
「オレを召喚した野郎さ。忌々しいがな・・・」

 そうか・・・ハイネルは、前のこの島の核識だったのか・・・
 その苦しみを知っているからこそ、

 自分のような者がこれ以上でないように。
 島の犠牲者を出さないように。

 呼びかけていてくれたんだな・・・
 頭に流れてきた知識も、聞こえた声も、ハイネルのものだったのだと、はここで初めて理解していた。

「勝ち目のない戦い、それを覆すためには手段を選ぶことなどできませんでした」
「「まさか・・・」」

 ヤッファとキュウマはうなずく。

「まとめて始末しようとしたんだよ。自分の身の可愛さにな」
「そんな!?」

「そのために、ハイネルはこの島の『核識』になって島を武器に、抵抗したんだな」

 の発言にキュウマがうなずいた。

「全ては、島の召喚獣を守りたい一心だったのでしょう」
「過度の負担によって自分の命が失われてしまいかねないことも覚悟してな・・・」

 絶句。
 そんな言葉が今の彼らに当てはまる言葉だろう。

 沈黙がこの場を包んだ。

「追いつめすぎたんだよ。派閥のバカ共は・・・」

 あとは、前に話したとおりです。
 そう言ってキュウマはレックス、アティ、の順に視界に納める。

「『碧の賢帝』・・・そして『紅の暴君』。二本の剣によって力を封印されたことで我らは敗北しました」
「残されたのはなにも知らない連中と荒れ果てた廃墟ばかりさ・・・」

 ヤッファは自分の額を手で覆った。
 次第に失われていく命を、指をくわえて見ているしかなかった。
 彼は次第に生気を失っていくハイネルを見ているだけで何もできなかった悔しさからか。
 その肩は、小刻みに震えていたのだった。

「召喚獣を元の世界に帰すことができるのは召喚した本人のみ。喚起の門を復活させることで、キュウマは遺言を果たそうとしていたのね?」

 キュウマはうなずく。

「そして、ヤッファはそれを止めたかった。過去を知らずに生きるみんなの暮らしを守るために」

 レックスの声にヤッファもうなずいた。

「で、どうすんの?二人の願いを同時にかなえることなんてこれじゃ、絶対無理よ」

 まったく方向性の違う2つの意見を前に、スカーレルがもっともな言葉を口にした。
 交わることさえない、進む方向すら反対方向。
 解決するならば、どちらかを切り捨てるしか方法はない。

「どのみち、オレらには選択権なんてねえさ」
「そうですね・・・」

 2人は悲しげな笑みを浮かべる。

「解放されつつある力を完全に解き放つのも再び、封印するのも貴方次第です」
「気にくわない時は、たてついてやるだけだ。だからよ・・・アティ、レックス。お前らの好きにしやがれ」

 ヤッファとキュウマはそう言って、戻っていった。

 どっちを選ぶんだろう?

 顔を地面に向けた2人を見て、はそんなことを考えていた。







「うーん・・・」
、どしたの?」

 船に戻った俺たちは思い思いの場所へ向かっていった。
 は甲板で考え事である。
 内容はもちろん、さっきの話についてだった。

 レックス、アティの両名はもう一度護人2人の話を聞きに出かけてしまっていた。

「ソノラ・・・」
「らしくない顔しちゃって。悩み事?」

 相談に乗るよ?と覗き込んだ彼女の表情はと大差ないほどの浮かない顔。
 それでもは、甲板に寝そべって空を見上げた。

「悩みとか、そんなんじゃないんだ。ただ・・・」
「ただ?」

 彼女は隣に腰をおろした。

「キュウマのこと。彼の考えはなんだかおかしいと思うんだよ」
「なんで?」

「ヤッファは今までの暮らしを壊したくなかった。これはわかる。今まで平和に過ごしてきたんだからな。でも、キュウマは亡くなったリクトさんの遺言を果たすために遺跡を復活させようとしてる」

 ソノラは言っているよくわかっていないらしく、首を傾げた。
 そんな彼女を見て、苦笑い。

「つまり、その遺言にあったミスミさまとスバルをシルターンに帰すっていう部分。キュウマは勝手に事を進めてるわけだろ?」
「ふむふむ・・・」

 ソノラは相槌をうった。
 口に出しながら、ソノラはとにかく首を縦に振っている。
 ホントにわかってるのか、と思いつつも、言葉を続けた。

「もしかしたらミスミさまたちがどう考えているか知らずに、キュウマが勝手に行動して2人をシルターンに還そうとしてるんじゃないかってコトだ」
「なるほど・・・!」

 ソノラはポン、と手を叩いて理解を示した。
 理解してもらえてうれしいよ、と乾いた笑いをした。

「よくわかんないけどさ。キュウマの中でそれだけリクトさんへの思いが強いんじゃないかな?」
「そう、かもな・・・。ま、どうするかはあの2人が決めることだからな」




 2人はなにも言わず、雲ひとつない空を見上げていたのだった。







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