――貴様の信じる夢物語で本当に、世界が救えるものかどうか・・・
 ――我を倒して、証明してみせるがよいッ!!!


 ぐらり、と床が揺れる。
 そして感じる浮遊感。

「うわわわわわわっ!?」

 全員の乗った床そのものが、まっすぐ上へ浮かび上がっているのだ。
 入り口がゆっくりと眼下へ向かい、見下ろす形になるまで時間もかからず、そんな光景を眺めていたら・・・


「見えたっ!!」
「ちょ、ちょっと!? なんか浮いてるよ!!」
「あ、みんなもあそこに!」


 赤い光が視界に広がった瞬間にとユエルの目に飛び込んできたのが、まさに床そのものが浮かんでいる光景だった。
 っていうか、ぼーっと見上げている暇なんかないのだ。

「・・・ここまで来て遅れてたまるか!!」

 ユエルを促し、一目散に走り出す。
 浮かび底の見える床の縁から仲間たちが口々に何かを叫び、手を伸ばしている。
 しかし、これから跳んだところで届きそうにないのは目に見えていた。





     サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜

     第76話  合流





―――ッ!」

 声を上げたのは、縁から出入り口を眺めていたアティだった。
 見上げ、小さくなりつつある彼がユエルを促して走り出した。
 アティの声に、いっせいに縁に手をついた仲間たちが、彼の名を叫ぶ。

 白いシャツはどす黒い斑点が無数にあって、よく戦ってこれたものだと、特にミスミは思うわけで。
 出会ったばかりの時と比べて、今更ながらにどこか大人びたようにも感じていた。
 必死な表情が、どこか生前の・・・否、異世界で生きる良夫にもかぶるような、そんな気がして思わず笑みを浮かべてしまった。

「兄さん、早く!」
「くそっ、もうちょいゆっくり浮かべないのかよ!?」

 ウィルが必死に手を伸ばし、ナップが床の真ん中辺りで思い切りジャンプしては、地面に足を打ちつけている。
 床の浮上をできる限り遅らせようとしているのだ。
 もちろん、年端もいかぬ子供が1人そんなことしたところで、意味なんかなかったりするけども。

「・・・兄さま、ユエル!!」
「だいぶ高いところまで来てしまいましたわよ!!」

 アリーゼとベルフラウも力の限り手を伸ばす。
 しかし、跳んでも届かない。
 これで最後なのだ。
 最後こそ、全員で戦って・・・みんなの笑顔を勝ち取りたいという思いもあったのだ。
 は悔しげに表情を歪めると、キョロキョロと周囲を見回す。
 それを見つける前に、

! あそこの像、まだ跳び乗れる!!」

 イスラが床に遅れて浮かび始めている、上に尖った石像を指差して声を張り上げた。
 眼下のとユエルは進行方向を変え、彼が指差した像に向けて地面を蹴った。


「ふう・・・っ」
「このまま、追いつければいいね」

 そんなユエルの一言に、は小さくうなずいた。
 見上げれば、石造りの床が迫り、ガクン、と音を立てて止まる。
 2人がしがみついていた石像も遅れて止まり、床に降り立つ。
 そこには傷だらけの仲間たちと、亡霊たちのように地面から湧き出る丸い物体が姿を現していた。

「間に合って、よかった・・・」
「つ、つかれた〜」

 これから最後の戦いだというのに、合流した2人はその場にぺたんと腰を落として、呼吸を整える。
 顔を上げたところで視界に仲間たちを映して

「・・・遅れてごめん」

 そう告げて、苦笑してみせた。

「なに、追いついたんだからいいさ」
「そうそう。ま、足手まといにはならないようにね!」

 カイルとソノラ。
 最後の戦いへの意気込みも強く、両拳を打ち付けて、リボルバーに銃弾を装填する。

「あら、アタシは最初から信じてたわよぉ?」

 来て当然よね。

 スカーレルはナイフを抜いたまま、男らしからぬ綺麗な笑みを浮かべた。
 は視線を動かしてアティへ向ける。
 互いの視線がぶつかり、は笑みをみせる。

「約束、ちゃんと守ったろ?」

 そんな一言に、アティは。

「・・・はいっ!」

 満面の笑みを見せたのだった。

 周囲を見回すと、丸い物体が無数に浮かび、巨大な台座の奥にたたずむモノ。
 それをディエルゴだということに気が付くことに時間はかからなかった。

「これで・・・最後なんだろ?」
「ええ・・・ディエルゴを倒して、島は無事よ」

 アルディラがくるくると杖を回して、構える。
 もはや力を惜しむ必要はないわけだからか、サモナイト石を輝かせて、今にも発動しそうだ。

「自己犠牲なんて、だりぃことすんじゃねえよ・・・」
「ヤッファ・・・」

 大きな手が、の頭を包み込む。
 少し長めの髪をぐしゃぐしゃとかき回して、

「無事でよかったぜ」
「・・・すまない」

 びし、とチョップを食らわせて、

「いいさ。無事だったんだからな」

 さぞめんどくさそうに、そんな一言をのたまった。

殿」
「キュウマ・・・?」

 ヤッファに続いて話しかけてきたのは、キュウマだった。
 真剣な表情で、その視線はまっすぐを射抜いている。

「色々と言っておきたいこともありますが、とりあえず今は辞めておきます」

 時間もないですし、とキュウマはそこで軽く口ごもる。
 ちらりと背後に視線をやると、小さくため息をついて。

「自分よりもまず、ミスミさまがお話があるようなので」

 そんなことを言って、下がってしまった。
 そして、その背後では、険しい表情のミスミがいて。

「お・・・」

 さらに背後に恐怖を感じるほどのオーラを背負って仁王立ちしていた。
 ・・・決戦まで時間もないというのに。
 つかつかと歩み寄って、自分より少しばかり背の高いの顔を見据えて。

「・・・無事でよかった」

 血だらけの彼の身体を抱きしめてきていた。

「ちょっ、ミスミさま!?」

 それに慌てるのは、もちろんで。

「・・・またそなたの顔を見ることができて、ほんによかったぞ」

 まるで我が息子のように、涙すら孕んだ声で、気持ちを伝えてくれた。
 恥ずかしさからか少しばかり頬を赤に染めていたのだが、そんな一言でその色は抜け落ちて。

「ありがとう・・・ございます」

 小さい頃に母親を亡くした彼が、その腕の中に母親を感じてか、穏やかな表情を浮かべたのだった。


 ●


 説教はまた後で、ということらしいのだが。
 スバルいわく、「や、ヤバイよ兄ちゃん! 逃げた方がいいよ!!」なんて滝汗流しながら言ってきたりもしたのだが。
 とりあえず、今は。

「あれを倒していけば・・・いいんだな!」
「ガクランさんも来たですから、百人力ですよう!!」

 目の前の敵を倒すことが先決だ。
 マルルゥが発した一言が、どこか嬉しいな、などと思いつつ、刀を抜きなった。
 湧き出てきた物体は音もなく近づいてきている。
 オレンジ、緑、そして紫の色を持っているのが、その意味はよくわからない。

 球体の大軍は目の前。
 アティとレックスは、もう一度こちらを振り向き、全員を見渡した。

「みんな、がんばりましょう!」
「帰ったら、祝勝会がまってるぞ!」
「わー♪ 楽しみだな〜!」

 非常事態だというのに、ユエルは手を上げて喜ぶ。
 先に楽しみなことがあれば、それこそ生きる活力になる。
 そして今のこの状況で、みんながみんな笑っていられるのが、互いに心強い。

「さ、気を引き締めていこう!」

 レックスの音頭と共に、襲い掛かってくる球体の群れを迎えた。







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