作戦が発表された。
目的地は遺跡の中枢を司る核識の間。
前核識だったハイネルはそのようにして島を操り、無色の派閥の先達たちを追い出した。
だからこそ、逆にディエルゴはここから島全体を管理し、亡霊たちを従わせているという答えが導き出せた。
亡霊たちの巣窟と化している遺跡の内部をチームで一丸となって突き進み、護人たちの誘導の元、最短経路で目的地へ。
そこで遺跡を支配しているディエルゴを倒し、レックスとアティの剣で封印。
口にするだけなら簡単極まりないが、実際にやるとなればこれほど大変なことはない。
今まで経験してきた戦いの中でも、特に苦労することは間違いないことだというのは、誰もがわかっていることだった。
これらを一言で言うならば、
「真っ向勝負を挑んで直接、封印しちゃおうってワケだね?」
・・・と。ソノラの言うとおり、こんなところだろうか。
間接的に封印を施すよりも、直接乗り込んで直に封印する。
危険は伴うが、今の自分たちにできる最大かつ有効な方法だった。
「・・・全員で遺跡の中枢部まで乗り込むのか?」
しかし、問題があった。
それは、残された住人たちのことだった。
戦えるメンバー・・・というか今まで戦ってきた仲間連中がそろっていなくなるとなれば、島の中で唯一安全な場所であるこの船を、誰が守るのか。
いくらこの場所が、一概に島の中ではないという理由で安全だったとしても、島中を徘徊する亡霊たちに気づかれれば、時間の問題。
戦力的にもそちらに割けないというのが現状で。
「この作戦だけでもシビアなのに、タイムリミットまで付いたら、さすがにつらいものがあるな」
そんなことをつぶやくを筆頭に、一同は顔をしかめていたのだが。
「わっはっはっはっは!!」
1人の救世主が舞い降りた。
・・・いかつい顔した救世主だけど。
サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜
第73話 突入
「どうやら、ワシらの真価を見せる時が来たようじゃのう?」
『へい、船長!』
今いるこの場所――船長室の扉をばぁんっ! と開き、高笑いしつつ入ってきたのは、ほかでもないジャキーニ一家だった。
もっとも、出入り口は人1人が通るのがやっとの広さであるからして。
「おら、野郎ども・・・押すんじゃないわい!」
『へい、船長!!』
全員で一気に入ってこようとするものだから、入り口のところでぎゅうぎゅうづめ。
・・・実にコメディチックな光景だ。
船員たちが一歩下がって、やっとこさ自由になったジャキーニは、身なりを軽く整えると、
「船の守りはワシらに任せるんじゃ! 島のモンには、指一本触れさせんわい!!」
『へい、船長!!』
全員の見ている前で仁王立ち、声も高らかに笑ってみせる。
自信に溢れ、ある意味では凄い存在だとも思えるだろう。
・・・っていうか、どこからその自信が出てくるのか知りたい。
「ジャキーニ、お前・・・」
唖然としていたカイルのつぶやき声をジャキーニは聞き逃すわけもなく、大きく鼻を鳴らす。
「別に、お前らのために働いてやるわけじゃあないわい・・・ワシらの畑を荒らしたあの連中に、このまま好き放題にされるのが腹立たしいんじゃ。それだけじゃい!!」
顔が赤い。
照れているのかどうなのか。
ともあれ、それでも嬉しいと彼の手をぶんぶんと振り回し、アティは満面の笑みでお礼の言葉を口にした。
そんな彼女の笑顔に、彼は顔を引きつらせて後ずさっていたのだが・・・よほど、彼女が苦手なのだろうか。
「ラトリクスの戦力はアルディラさまに代わって、この私が指揮をしましょう。無論、戦いよりも負傷者の治療を、優先させていきますから」
ラトリクスからはクノンが、主に支援を目的に動くことになった。
機械兵士がいるわけではないから、最前線に立っての戦闘は無理。
しかし、支援ようの機械たちが事欠くことはない。
なにせ彼女自身、看護医療用の機械人形なのだから。
「余計な心配はするな。ワシらも、ワシらでふんばってみるわい」
おんぶにだっこで世話をかけるほどまだまだ、もうろくしとらんからな。
そんなことを口走り、かっかっか、とゲンジは笑ってみせる。
まるで決戦に臨む自分たちの背中を押してくれているようにも見え、そして自分たちの心配のタネにならないようにと、配慮しているようにも見えた。
島の住人で戦える存在など数えるほどしかいない。
そのほとんどが決戦のための戦力に数えられているのだから、それこそ心配もひとしおなのだが。
「島のみんなが一緒にがんばれば、きっとだいじょうぶだよ! だから、ボクたちのことは気にしないで悪いヤツをやっつけてきてよ!」
パナシェの声と共に、彼らは笑って見せた。
・・・心強い。今このときほど、そう感じたときはないだろう。
ジャキーニ一家を筆頭に、それぞれがそれぞれの未来を見据え、今このときを戦い抜く。
まさに、島全体の思いが、1つになった瞬間だった。
「これなら、安心して最後の戦いに集中できますね?」
「あとは、俺たちがどこまでふんばれるか・・・だな?」
「私たちなら大丈夫ですよ、絶対に!」
「ああ、俺たちは負けないさ!」
確信に満ちたアティの声。
背中からは住人たちの笑顔が・・・前からはアティの、レックスの・・・頼りになるリーダーたちの思いがひしひしと伝わってくる。
「最後に、1つだけ」
いざ行かん、とばかりに仲間たちが息巻く中、レックスが声を上げた。
決戦に望む前に、言っておきたかった一言があったのだ。
これから先は、まさに死が隣り合わせ。
些細な間違いが仲間の総崩れにすらなりかねない。
それでも、彼が今、この場で望むのはただ1つ。
「みんなで・・・生きて帰ってこよう」
●
「オオオヲヲヲヲォォォォ・・・」
「ウおおをオオをォォォン・・・」
見渡す限りの黒、クロ、くろ。
剣を、槍を、弓をそれぞれ携えた亡霊たちが、円陣を組んで疾走する戦士たちへと襲い掛かる。
「みんな、足を止めるなよ!!」
怒号が飛ぶ。
剣戟が響く。
こんなところで止まっている時間はないのだ。
限りある体力を有効活用するためにも、ここにとどまって戦うことは良策ではない。
作戦では、ここは中央突破を図る。
あくまで目標はディエルゴのみ。亡霊を1体1体相手にしているヒマはない。
だからこそ、前衛で戦うメンバーは振り下ろされる剣をいなし、槍を受け流し、一行が目的地へ向かう道を作り出す。
中衛ではソノラやマルルゥ、ベルフラウといった遠距離からの射撃を得意とする面々が召喚術の発動を威嚇により阻止する。
そして、殿は矢による追い討ちを防ぐためにアルディラを筆頭とした召喚師たちが防御を固める。
一点突破を図るには、まさに最適な布陣だった。
そして、作戦の鍵を握る封印の剣を持つアティ、レックス、イスラの3人は、何もすることなくただひた走る。
体力を可能な限り温存するのだ。
いざというときに体力がない、傷が深くて動けない、では困るのだ。
失敗=死を意味するこの作戦は、まさに命がけだった。
「みんな、もう少しだ!」
「頑張りましょう!!」
レックスとアティの掛け声に返事の声を上げ、目の前に道を作っていく。
剣の林を抜け、槍の山を越え、矢の雨をくぐりぬけて。
「ウヲオオォォ・・・ン」
「ウおおォォォンッ! オオッ、おおオォおぉぉォォォ・・・っ!!」
ようやく、遺跡の入り口までたどり着いた。
剣が共鳴し、扉が開く。
その先は。
「うわ・・・」
「・・・マジかよ」
まさに亡霊たちの巣窟だった。
心の奥に響くような咆哮の大合唱。
ソノラやアリーゼ、ユエルは思わず目をぎゅっと閉じて、耳を塞いでしまう。
・・・つまるところ、彼女たちは多少なりの恐怖を覚えているのだ。
「・・・大丈夫か?」
隣にたたずむユエルに声をかけてみる。
肩に手を置いてみれば、それがだと知っていながら、びくりと震えた。
「え・・・う、うんっ。大丈夫、大丈夫だから」
ぶんぶんと首を左右に振り乱し、感じてしまった恐怖を吹き飛ばす。
実際、だってその恐怖感を肌で感じ取っていた。
それもそのはず、彼は元々、戦いのない平和な世界にいた存在だから。
今まではそれこそがむしゃらに戦ってきたものの、亡霊たちの上げる咆哮を聞くたびに、早くここを離れたい、という思いが噴出してくる。
・・・それを抑えていたのが、島の仲間たちの笑顔だった。
見ているだけで嬉しくなりそうなその笑顔を、永遠のものにするために、今自分は戦っているのだから。
そう言い聞かせながら、自分を奮い立たせている。
それだけだった。
「なんだよ、あの数は・・・いくらなんでも対応できねえぞ・・・」
「しかし、ここを通らねば遺跡の中には入れぬのじゃぞ?」
「早くしないと、ここも見つかっちゃいますよう・・・」
今は、いい感じに崩れかけた壁の影。
軽い休息がてら、中の様子を確認していたわけで、正直、いつ見つかってもおかしくない状況だったりする。
しかも、限られた空間の中にひしめいている亡霊たちの数は、完全に想定外だった。
レックスとアティの表情が変わる。
この状況を打開するために、『力』を行使しようとしているのだ。
「先生、使っちゃダメだ」
「でも・・・」
辺りが蒼と緑に染まる・・・前に、ナップが言葉を放っていた。
この作戦に失敗は許されない。だから、抜剣しちゃいけない。
まだ、するべきではない。
だから。
「先生たちの出番は、まだまだ先ですよ」
「そうですわよ。ここは、抑えてくださいな」
大丈夫だと。
剣の力を使う以外に、この状況を打開する方法だって、きっとあるから。
ウィルもベルフラウも、そう信じていた。
「必ず、成功させないといけないんです。だから・・・」
成功させる、というアリーゼの言葉が重圧となり、一同に降り注ぐ。
口にするのは簡単すぎて、いざ実行すればこの状況。過去と同じ轍を踏まないと、言ったところだろう。
それでも、この重圧に耐え切って、乗り越えなければならない。
居心地のいいこの場所を、なくしたくないから。
「大きな召喚術で道をあけるというのは?」
の問いに、汗を流しているヤードが淡々と答えた。
こんなところで、へばってしまうわけには行かないのだ。
大きな召喚術は、その規模に比例して消費する魔力が大きくなる。
考えて使わねば、最後まで保たない。
だからこそ、この場で使うことはできる限り避けなければならなかった。
「・・・そうなると、やはりこのまま突入するしかなさそうですね・・・」
「亡霊たちは?」
『最低限の攻撃だけして、遺跡に入ることだけを考えましょう』
フォーメーションを変えることなく、敵の渦中へ。
圧倒的なまでの頭数の差をどう埋めていくかが、突破の鍵となっていた。
基本的に、敵を倒す必要はない。
ただ、自分たちを追いかけてこなければそれでいいのだ。
数だけは多い彼らだから、先ほどのようにスムーズには突破できないだろうが、それは仕方がないというものだ。
「いざとなったら、召喚術を使うから」
そんなアルディラの一言で、この無謀な作戦を了承、実行することになった。
「らあぁぁっ!!」
襲い掛かる亡霊たちの攻撃を受け止め、弾く。
背後にも亡霊たちがいるから、吹き飛ばすことができなくなっていた。
つまり、至近距離で防戦しつつ、敵勢の中を突破することになっているわけで。
「っ・・・くっそ・・・!」
誰もが、無数の傷跡を残すようになっていた。
もちろん、致命傷には至っていない。
それだけが不幸中の幸いともいえるだろう。
流れる血の滴を拭う暇もなく、は刀を振るったのだった。
●
「や・・・っと、着いた・・・?」
「・・・ソノラ。残念だけど、まだみたいだぞ」
うなだれるソノラに声をかけ、は再び刀を構える。
敵の渦中はまだ中腹辺り。
目的地に近づくに連れて増えていく敵の数を鑑みれば、今以上に過酷な戦いになることは自明の理。
「みんな、もう少しですよ。頑張っていきましょう!!」
ここが正念場だ。
あれこれ考えている暇もなく、一心不乱に奥を目指す。
もはや話し合っている時間もなく、かといって隠れる時間もない。
ただ前に進む。
襲い掛かる敵を蹴散らしながら、それだけを考えていた。
「ったく、次から次へとよくもまあ、わいてくるもんだぜ・・・」
「ぼやくなよ、カイル。そんだけ、親玉のいるところに近づいてきたワケなんだからよ」
「魔力にものをいわせて倒される端から、再生させて、送りこんでいるのでしょう」
本当の敵に近づけば近づくほど、向こうはあせる。
この場所までこさせまいと、意のままに操れる手駒を送り出す。
だからこそ、いくら倒しても亡霊たちの数は減っていかないし、むしろ増えていると考えても間違いではないだろう。
「シャアッ!!」
スカーレルが亡霊の1体を傷を負いながらも斬り伏せる。
うめき声を上げながら消えていく亡霊を視界に納めながら、スカーレルは血の流れる傷口を止血する。
「ちょっと、スカーレル。だいじょうぶ!?」
「ヘーキ、ヘーキ♪ こんなの、ツバつけておいたら治るわよぉ」
スカーレルはそう言って傷口をぺろりとなめた。
止まらない血が再び流れ出したのを気にもとめず、ナイフを持ち替えつつ亡霊を斬りつける。
「しかし、この数・・・なんとかならないのか!?」
『鎮めの儀式を行えばしばらくの間なら眠らせることも可能ですけど・・・』
「無理はせずともよいぞ。ファリエル? ・・・風刃ッ!!」
ミスミさまが手を掲げ、風を起こす。
発生したかまいたちが数体の亡霊を襲い、消えていった。
「こう数が多くてはいくらなんでもきりがあるまい!!」
「だけど、これじゃあおいらたちのほうが先に、ヘトヘトになっちゃうぜ!」
「そうですよう!」
スバルもマルルゥも、汗を流しながら悪態をついた。
体力も限界に近い。これ以上戦い続けていれば、間違いなく数の差に遅れを取ることになる。
「もう少しだぞ! 気張れ!!」
目的地は目の前なのだ。
刀に気を流し、刃を飛ばす。
・・・一刻も早く、全員を先へ進ませるためにも。
「イスラ。身体のほうは大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ、姉さん。むしろ、軽いくらいなんだ・・・っ!!」
血の混じった汗を流しながらも笑みを浮かべながら、イスラは襲い掛かる亡霊をなぎ倒す。
これもひとえに、の行った癒しのおかげだ。
呪いを受けて、いつ死んでもおかしくない状況だった彼を、その淵から救い出してくれた。
亡霊と刃を合わせながら視界に彼を映して、
「はああぁぁっ!!」
弾き飛ばし、ひるんだ亡霊に無数かつ高速の突きを繰り出した。
「3人は剣を抜いちゃ、ダメだからねッ!!」
「ユエルの言うとおりよ。貴方たちの役目は、封印を確実にすることなんだから」
「だけど・・・」
ユエルが叫ぶ。アルディラが静かに言葉をつむぐ。
声の先で、アティとレックスは表情に焦りの色を見せていた。
明らかに劣勢に陥っている仲間たちを見て、心配が尽きないのだろう。
島を救う以前に、仲間が欠けてしまえば意味はない。
だからこそ、誰も犠牲になることがないように・・・誰一人欠けてしまうことのないように。
いつでも剣を抜けるように、身構えていた。
「アティも! レックスも! イスラもだが、なにがあっても、絶対に抜くなよ!!」
「「・・・」」
「俺たちを信じろ!!」
「そのとおりだ! 必ず、私たちの剣でお前が進むための道は切り開いてやる!!」
裂帛の気合と共に、アズリアとギャレオは自らの武器を振るった。
走る足を止めず、立ちはだかる障害だけを取り除くように。
「見ろ!!」
カイルが指差した先には、ゴールが迫っていた。
次の間へと続く扉が徐々に大きくなり、それに連れて敵の攻撃もより激しくなっていく。
「・・・あれが、核識の間へと続く、最後の扉です!」
「おーっし、一気に突っこむぜえッ!!」
前方に位置していたカイルたちが、核識の間へと続く回廊へと飛び込んでいった。
その先には亡霊たちはおらず、扉を閉じてしまえば追いかけてくることもないだろう。
は次々に回廊へと足を踏み入れていく仲間たちを見やり、そしてその視線を開かれた扉へと移す。
「・・・・・・」
しんがりを走っていたからこそ、状況を見定めることができた、と言ってもいいかもしれない。
前を見る視線を横にいるユエルへと移し、その視線に気づいた彼女と交差する。
・・・互いに大きくうなずいて、走るスピードを少し落とした。
1人、1人と核識の間へと続く回廊へ飛び込んでいく。
すぐ前を走っていたアルディラが扉をくぐったことを確認した瞬間。
バタンっ!!!
手前開きになっていた扉を、は勢いをつけて閉じたのだった。
もちろん、その行動に驚いたのは先に敵の中を突破した仲間たちで。
同時に、彼らの耳を轟音が貫いた。
が天井の瓦礫を扉の前へ落としたのだ。
「ッ! てめえ何してやがるっ!?」
「俺たちのことはいいから、とっとと先行け!!」
閉まりきった扉ヤッファは全力で扉に体当たりを加えるものの、瓦礫によって堅く閉じられた扉はびくともしない。
「この扉、放っておけばすぐに破られる! そうならないように、俺たちで足止めしとくから!!」
「そんな、ダメです! を置いて、先へはいけません!」
剣戟を耳にしながら、アティは声を荒げる。
押しても引いても動かない扉をドンドンと叩きながら、
「俺が選んだ道だ! 君たちは早く事件の解決を!!」
「ユエルもいるから、大丈夫・・・だよっ!!」
ユエルの爪が閃き、亡霊を斬り裂く。
覚えたばかりの居合い斬りを多用し、は敵を武器ごと押し返して斬り伏せる。
もはや汗もほとんど出ることはない。身体中が水分を欲してやまない。
それでも、止まるわけにはいかないのだ。
生き残るためにも・・・仲間たちと再び笑いあうためにも。
「行けって言ったら行くんだ!!」
「イヤです!!」
アティは扉にすがりつきながら、なけなしの涙を流す。
彼女なりに思うところがあっての行動だから、誰もとがめることはしない。
「ヤッファ! そこにいるんだろ!? 早くアティを連れて先に行け!」
しかし、悲しむ時間はあまりに少なかった。
船に残してきた住人たちに危険が及ぶ前に、ディエルゴを倒して遺跡を封印しないといけないのだから。
そのために、過酷な一点集中突破を繰り返してきたのだから。
「急げ・・・!!!」
ヤッファはそんな怒声に、固まっていた身体を動かし始めたのだった。
扉に手をついてうつむくアティを強引に抱えて、暴れる彼女に四苦八苦しながらも地面を蹴りだす。
しかしゆっくりと立ち止まって、
「いいか、・・・俺たちの許可なしに、勝手に死んでくれるんじゃねえぞ」
には聞こえないほどの声量で、振り向くことなくヤッファはつぶやく。
彼だって、納得しているわけじゃないのだ。
こんな危険極まりない場所に亡霊たちの足止めのために、自ら犠牲になった彼とユエルだけを置いて、自分たちは先へ進むのだから。
「ヤッファさん、離してださい・・・っ! 離して!!」
「いい加減にしないか、アティ!」
「っ!!」
暴れる彼女に喝を入れたのは、弟であるレックスだった。
視線を向けた先の彼の表情には怒りが宿り、目尻には涙が溜まっていることが見て取れる。
それでも彼はにではなく、アティに怒りを向けているのだ。
・・・正気か、と聞きたくなるくらいに。
「先へ・・・進むんだ」
「レックス、なんで貴方まで・・・」
「お前は、の思いを無駄にするつもりか!?」
「っ!?」
彼は亡霊たちの足止めをするために・・・自分たちの戦いをできる限り楽にするために、今の行動を取ったのだ。
物事を解決させたいならば、多少の犠牲は我慢しなければ、この先で待つディエルゴには敵わない。
勝つことはおろか、戦うことすらできないかもしれないのだ。
「俺たちは、先へ進む。それが彼の願いだから」
できる限りの最速をもって、事件を解決に導かねばならなくなったのだから。
「アティ」
扉の向こうから、声が聞こえた。
剣戟の中でもはっきりと聞き取れる、不思議な声。
トーンの低いその声は、今も必死になって戦っているはずのの声だった。
「・・・大丈夫。ちゃんと、追いつくから」
「アティせんせい、大丈夫だよ! はユエルがきっと守るから!」
もアティも、彼女にとっては大切な人だから。
だからこそ、彼らに降りかかる火の粉は、払わなければならない。
ユエルは笑顔で武器である金属製の爪を装備しなおして、前方をにらみつけた。
「・・・、ユエルちゃん。私・・・いえ、私たちは、核識の間で待ってます。だから・・・」
「みなまで言わなくてもわかってる・・・」
俺たちを、信じてくれ。
共に戦場を駆けた、大切な仲間だから。
失いたくないという気持ちも、離れたくないというその思いも、その背に受け止めて。
「後で・・・必ず会おう」
は最後に、そう告げた。
いくつもの足音が遠ざかっていく。
彼らがディエルゴを倒しに向かったのだ。
・・・そう、これでいい。
これがきっと、最善なのだ。
あとは、自分にできることをするだけだ。
ひしめく亡霊たちをにらみつける。
殺気ではなく、哀れみを含んだ視線だった。
彼らは決して、戦いたくて戦っているわけじゃない。
遺跡の力に踊らされて、動かされているだけなのだ。
だから・・・俺が彼らを救う。
斬ることが救いになるとは思わない。
でも、自分にはそうすることしかできないから。
「・・・行くぞ、ユエル」
「うんっ!!」
だから、せめて戦わずにいられるように。
「さぁ・・・俺たちが相手だ!!」
2人は、その身を敵の渦中へと投じたのだった。
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