――やっと・・・ッ!
――やっと、この時が・・・この時がやってきた・・・ッ!
その声に、一同は戦慄した。
――忌まわしき封印は砕け散ったッ!
――我を縛るものは、もう・・・存在しないッ!!!
心の底から“怖い”と感じた。
――ふふふふ・・・っ?
――ぐふふっ! ぎひゃはははははははははははは!!!!
それが島の意思だからじゃない。
――破壊してやるウッ!
――殺して、壊して・・・支配してやるウウウゥゥゥゥッ!!
純粋すぎるほどの破壊衝動の塊だったから。
――我が名はディエルゴ!!
――ハイネルのディエルゴ!!
――怒りと悲しみに猛り狂う、島の意志なりッ!!!
そんな名乗りの声と同時に。
床から続々と湯水のごとく湧き出てくるのは、今まで相手にしてきた亡霊たちだった。
サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜
第70話 龍
「オオオオヲヲヲッ!! ウオォォぉぉぉッ!?」
島の意思に感化されているのか、亡霊たちは雄たけびを上げていた。
イスラが紅の暴君の力で従えていたものとは次元が違う。
「な、なに? なんかいっぱい・・・」
「亡者共が、あちこちの地面から次から次へとあふれてきおるぞ!?」
島中を震撼させるような、いまにでも尻尾巻いて逃げ出したいと思うくらいに恐怖感を煽るその声が、遺跡中に響き渡っていた。
「まるで、サプレスの底に広がる、悪魔たちの領域のようだ・・・」
「島の意思の復活に呼応してるんですよ!」
ここは、島の封印を司る部屋へと通じる回廊。
入った瞬間には広いと感じていたこの場所も、これだけ亡霊たちでひしめき合えば、それこそ狭いと思えるようにもなるだろう。
そこらじゅうから叫び声が聞こえ、むしろ正常に聞き取れる話し声がほとんど聞き取ることができないくらいになっていた。
「イスラとアズリアを中心に、陣を組みましょう!」
「進入を許してはならぬぞ!!」
アティとミスミがそんな提案をした。
時間もなく、敵は増え続けているのだから、背後を取られないように円形に陣を組むのはまさに最適ともいえた。
もっとも、それは時間稼ぎの防衛手段。
時間だけがただ過ぎるだけでは、圧倒的な頭数の違いが襲い掛かってくる。
だからこそ。
「どうする? こんな量の亡霊たち、一度に相手するのは無理だぞ!!」
「冗談もほどほどにしてもらわないと、アタシ困るんだけどッ!」
「ちくしょおッ!! 卑怯だぞぉッ!」
怒声の中に、今後の対策を呼びかける声が響き渡った。
亡霊たちは、四方八方から襲い掛かってくる。しかし、倒しても倒しても、次々に湧き上がってくる。
連戦の上に、長時間の戦闘行動。ただでさえ疲れているのに、その疲れに疲れを上乗せしているのだから、その剣が曇ってしまうのも無理はない。
上げていた腕が力を失ってどんどんと下へ向かい、肺が空気を求めて収縮を繰り返す。
「イスラ・・・ッ!?」
それでも、は亡霊の刃を受け止めながら、声の方を見やった。
小さく呼吸だけを繰り返し、ぴくりとも動くことのないイスラを案じて彼の手を強く握り涙を流すアズリアが、必死になって声をかけていた。
そこには、息だけして動かなくなったイスラと、彼の手を握って涙を流すアズリアの姿。
もう、彼の命もさほど保たないだろう。
なんとかしないと。
気持ちだけが焦りを見せて、悔しさに舌打つ。
何もできないという腹立たしさと共に、行き場のない怒りを目の前の亡霊にぶつける。
「キリが無いよ・・・っ、弾だって、もう残ってないのにぃ・・・っ」
「ソノラ、後ろに下がってるんだ! イスラとアズリアを頼む!」
「うん・・・わかった!」
軽くべそをかいていたソノラを見てか、レックスはそんな指示を出した。
彼女は銃があったからこそ、戦ってこれた。それが連戦によって弾切れを起こし、銃がただの鉄の塊になってしまったのだ。
無論、投具を持って戦うことはできる。
しかし、今は手持ちに装備していなかった。
だからこそレックスの声にうなずき、ソノラは弾の切れた銃を腰に戻して2人に駆け寄った。
「このままじゃあ囲まれて、ぺちゃんこにされるですよぉ!!」
「ちくしょうがァッ!!」
マルルゥは使える矢がなくなり、武器を杖に持ち替えて殴りつけ、カイルは仲間を守るように汗をまき散らして亡霊たちを殴りつける。
身体の小さいマルルゥでは、もはや亡霊をしとめることはできなくなっていた。
「このままじゃ、再封印の儀式を、行うこともできやしねえ・・・ッ」
「せめて、亡者たちの動きだけでも、止めることがかなえば・・・」
「再封印・・・それができればこの状況をなんとかできるのか!?」
「ええ、現識の間まで行くことができれば可能よ。でも・・・」
『これじゃ、そこまで行くことすらできませんよ!!』
レックスとアティは互いにうなずき、抜剣した。
蒼と深緑に輝く剣を携え、たった1つの目的地へと身体を向けた。
2人は、その身1つで現識の間へ行き、再封印してくる、という結論に至ったのだ。
もはや、こちらがやられるのは時間の問題。皆がやられてしまう前に、こちらから打って出るといったところだろう。
「アティ、レックス・・・」
「私たち、ちょっと行ってきますからここをお願いしますね」
「すぐに、封印してくるから」
まるで買い物にでも出かけるかのように、2人は現識の間に向けて走り出す。
向かってくる敵を蹴散らしながら、一直線に目的地を目指して駆け抜けた。
「イスラ・・・イスラッ! しっかりしろ!!」
「ご、ごめんなさい、姉さん。最後まで、迷惑ばかりかけて・・・」
イスラは薄く目を開き、アズリアに微笑みかけた。
ぎゅっと彼の手を握り、涙を流している。
「バカなことを言うなッ! 大丈夫だ、まだ・・・」
「ありがとう・・・たくさん、たくさん想ってくれて・・・」
イスラは、目を閉じた。
掠れて聞き取れないその声は、以前よりも穏やかで。
死ぬことができると喜んでのことなのか、あるいはアズリアに想われて逝くことが嬉しかったのか。
どちらにせよ、弱々しかった彼の鼓動が今、その活動を止めた。
「負け犬にはおあつらえの最期だったな」
「オルドレイク・・・っ!!」
その言葉に、その場にいた全員が怒りに身を震わせた。
イスラは負け犬じゃない。ただ、自分の願いを叶えたかっただけなのだから。
どこまで人を貶めれば気がすむのだろう?
そんな疑問すら吹き飛んで、怒りの孕む視線をオルドレイクへと送る。
しかし、それを無視するかのように、オルドレイクは表情を歪ませた。
「貴重な時を、無駄にしてしまったわ!!」
一言、それだけ言い放ってその場を立ち去っていった。
「待てよ、オルド・・・」
「! よすのじゃ」
オルドレイクの消えた入り口の方へ駆けようとするを、ミスミは亡霊をその槍で貫きながら声を荒げた。
「以前に言うたであろう。そなたは先走りすぎじゃ、と」
「そうですよっ! 今は、この状況と、イスラをなんとかするのが先決です!!」
「む・・・そうだった、そうだった・・・」
必死に戦うミスミとウィルの説得に、踏み出そうとした足を止めて亡霊を相手に刃を交えた。
まだ戦闘中。
・・・にも関わらず、はイスラの身体を前後にゆすり続けていた。
アティとレックスが封印作業を行っているのか、彼らを追いかけていく亡霊が多く、多少なり余裕ができたのだ。
「イスラ! お前、やり直すんじゃなかったのか。幸せを、見つけるんじゃなかったのか!?」
すっかり乾いて固まってしまった血だまりの中に膝をつく。
顔色が蒼白になり、呼吸すらしていない彼の身体は、ゆっくりとその温度を下げていく。
「生きるんじゃ・・・なかったのかよ・・・」
「・・・・・・」
なにも答えないイスラに腹が立ち、肩に手をかけて思い切りゆする。
当たり前だが、反応が返ってくることはない。
「死なせるもんか・・・お前には、生きて・・・やってもらわなきゃいけないことがたくさんあるんだぞ!!」
島のために、これからの未来のために。
まだまだ若い彼が死ぬ理由なんて、どこにもないのだから。
それが運命であるならば、は彼の父を恨むだろう。仕事とはいえ、大事な息子を巻き込んだことを。
しかし、それをしたところで意味はない。
ただ彼は、目の前で目を閉じたイスラを、救いたいだけなのだから――
「死なせるか・・・・ッ!!」
そんな声と共に、刀にはまった紫の石が強烈な光を放ったのだった。
「おい、なんだよ。この光・・・」
「これは・・・召喚の光」
「しかも、サプレスのものですよ!」
自分たちの背後から紫の光がもれてきているのに気づいて、亡霊を殴り飛ばしたカイルとヤードは振り返った。
サプレス出身の天使であるフレイズが真っ先に故郷の魔力を感じ取り、声を荒げたのだ。
彼らの目に映ったのは、青に近い紫色の光を放つ龍の姿だった。
「あれは・・・!?」
「龍、なのか・・・?」
倒れているイスラと、その手を握るアズリア。
そして、膝をついているのまわりにうすく、青がかった紫の光を放つ龍の輪郭が映る。
その光は、1つに収束して動かないイスラに注がれていた。
サプレスの召喚獣に龍はいない。
天使竜として名高いレヴァティーンはともかくとして、あそこまで長い胴体を持った・・・どちらかといえばシルターンの龍神に近い身体の天使龍など、彼は聞いたことすらなかった。
・・・光が消える。
紫光はすべてイスラへと注がれ、龍の輪郭は海の刀へと吸い込まれていく。
そして次の瞬間。
「う・・・うん・・・」
奇跡が起こった。
「イスラ・・・!?」
しょぼしょぼした目で、視界にアズリアを納めて。
まるで子供のような表情で、小さくつぶやく。
そして、自分の置かれた状況に気づくのだ。
「僕は・・・生きてるの?」
「あぁ・・・っ!」
傷も、治っている。
呪いも解かれているから、イスラはこれで召喚呪詛に縛られなくてすむだろう。
も、安心して満面の笑みを浮かべた。
光が消え、戦場に戻った瞬間。
大きな音とともに亡霊たちが消えていった。
「なんだったんだ・・・今のは・・・?」
「私に聞かれたってわからないわよ・・・」
「ですが、我々の敵と言うわけではなかったようですね」
『とりあえず、あの2人も再封印に成功したようですし、一度この遺跡を出ましょう』
ファリエルの提案で、2人が帰ってくるのを待ってから、船へと戻った。
終焉には、徐々に近づいている。
紡がれる未来がどのようなものであれ、自分たちにとって最高のエンディングを。
そんな決意を、胸に宿して。
←Back Home Next→
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||